2014年3月28日金曜日

袴田事件再審決定 ズサンな判決が明らかに

 1966年静岡県清水市みそ製造会社の専務一家四人が殺害された袴田事件の第二次再審請求で、静岡地裁は27日、死刑判決が確定した袴田巌元被告(78)の再審開始と刑の執行、拘置の停止を決定しました。
 
 拘置の執行停止(=釈放)は異例ですが、裁判長は要旨 次のように述べました。
 「再審を開始する以上,死刑の執行を停止するのは当然である。さらに,当裁判所は,刑事訴訟法448条2項に基づき,裁量により,死刑(絞首)のみならず,拘置の執行をも停止するのが相当であると判断した。
      再審開始の決定をしたときは、決定で刑の執行を停止することができる
 袴田は,捜査機関によりねつ造された疑いのある重要な証拠によって有罪とされ,極めて長期間死刑の恐怖の下で身柄を拘束されてきた。 無罪の蓋然性が相当程度あることが明らかになった現在,これ以上,袴田に対する拘置を続けるのは耐え難いほど正義に反する状況にある。
 
 村山浩昭裁判長は、犯行時の着衣と認定された「五点の衣類」について「後日捏造された疑いがある」と結論付けました。 
 その根拠は明白で、一つは1年2か月間みそタンクに漬かっていたにしては、下着の着色は薄く血痕も黒変せずに赤みのままであったことと、もう一つは、ズボンが元被告が履けないほど小さかったことに対して、検察は原寸はウエスト84センチであったと主張しましたが、それはズボンに着いていたBマークの意味を取り違えたもので、実際はウエスト76センチであったということです。
 警察・検察の証拠捏造の不正と非道はもとより論を俟ちませんが、メディアが単にDNAの分析技術の向上を第二次請求審開始⇒再審決定判決の有力な要因に挙げて、それで済まそうとするのでは不十分のそしりを免れません。実にズサンな裁判であったからです。
 
 一審で自らは無罪と判断したものの、二人の先輩判事の判断に押されて不本意ながら死刑判決を書いた熊本典道判事は、その数ヵ月後に裁判官を辞めました。DNAという決め手がなくても、裁判官に真実を見る目があれば、袴田元被告は別の人生を歩むことが出来たのでした。
 熊本氏は27日の判決の直前まで、再審開始の判決が出ると信じていませんでした。これまでの裁判所のやり方を熟知していたからです。再審開始を知って驚き喜ぶ同氏の様子がTVで報じられました。
 
 この再審決定は、死刑確定から34事件発生から48)後のことで、この間、元被告はいつ死刑が執行されるか分からない恐怖に耐えながら、拘置されていました。
 起訴されてから13年後の1980年死刑判決が確定し、その翌年に第一次再審請求が出されましたが、最高裁が袴田氏の特別抗告を棄却して終了したのは、その実の28年後の2008年でした不正な決定は遅い方がよいというような問題ではありません。
 その年(2008)の4月に第二次再審請求を申し立てた結果がようやく昨日の再審開始の判決につながりました。
 
 それにしても驚くべき裁判の遅延ぶりです。加えてその内容も、長時間はたっぷりと掛けるものの、相変わらず検察の調書を鵜呑みにするズサンさで、再審の門はあくまで狭く、あたかも裁判の瑕疵が表面化するのを恐れるかのようです。
 再審は先輩判事たちの面目を失わせるから極力開かせないというのは、それこそ身内の利益を被告の人権に優先させることで、人権を守るべき法門で絶対に行われてはならないことです。
 
 証拠を検察だけが握り、検察の恣意に基いて被告に不利なものは開示するものの、被告に有利な証拠は開示しなくても良いという、現行の裁判制度も決して容認できません。早くから改善が要求されているのになぜ法曹はこの改革に取り組まないのでしょうか。
 
 最高裁判決が下った中で冤罪の蓋然性が極めて高い事件は、「高知白バイ事件」など、他にもまだいろいろとあります。
 裁判所は検察との不可解な癒着を断ち切って、国民から信頼されるあり方に立ち戻って欲しいものです。
 
    追記  静岡地検は即時抗告の方針だということです(毎日新聞)
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【袴田事件】 一審死刑判決、今も悔やむ 「謝りたい」と元裁判官
共同通信 2014年3月27日
 静岡地裁の元裁判官、熊本典道さん(76)は、袴田巌死刑囚(78)を死刑とする判決文を書いたことを今も悔やんでいる。「こんな証拠で死刑にするのはむちゃ」と訴えたが、先輩の裁判官2人を説得できなかった。「袴田君に謝りたい。申し訳なかった」。その目は止めどない涙であふれる。判決から46年、この思いが晴れたことはない。
 
▽多数決
 一審を担当した3人の裁判官で最も若かった熊本さんは公判の途中から裁判に加わった。審理が進めば進むほど、自白や証拠への疑問が湧き上がった。しかし、有罪の心証を持っていた先輩裁判官2人と多数決になり、死刑判決を書くことを命じられた。書きかけていた無罪の判決文を破り捨てたという。
 死刑判決の付言で「長時間にわたり被告人を取り調べ、自白の獲得にきゅうきゅうとし、物的証拠の捜査を怠った」と捜査批判を繰り広げたのは、控訴審で捜査のおかしさに気付いてもらい、判決を破棄してほしかったから。だが、控訴審や上告審、第1次請求審で、死刑判決が覆ることはなかった。
 
▽告白
 「心にもない判決を書いた」と良心の呵責に耐えきれず、判決の翌年に裁判官を辞めた。弁護士になったものの、法廷で「私はやっていません」と訴えた袴田死刑囚のまなざしが忘れられない。酒浸りの生活を送り、一時期は自殺を考えたこともあった。弁護士も辞めてしまった。
 第1次再審請求の特別抗告審が大詰めを迎えた2007年に、無罪の心証を持っていたことを初めて明らかにした。「勇気ある告白」と称賛する声も多く寄せられたが、自分の中では「もっと早く言わないといけなかった」との思いの方が強かった。最高裁は特別抗告を棄却し、告白は実を結ばなかった。
 
▽洗礼
 「袴田君の気持ちを少しでも理解したい」。東京拘置所で84年にキリスト教の洗礼を受けた袴田死刑囚の心に近づこうと、自身も今年2月22日、カトリックの洗礼を受けた。
 脳梗塞で足や言葉が不自由となっているため、神父に福岡市の自宅に来てもらった。聖水を頭にかけられると、感激のあまり、おえつが漏れた。「袴田さんの心に近づけましたか」と問われると、すっきりした表情で深くうなずいた。
 袴田死刑囚の第2次再審請求で、静岡地裁は27日に再審可否の判断を示す。「再審は開始されるのか」と問い掛けると、熊本さんは即座に「開始は考えられない」と言い切った。「司法はあの時と何も変わっていないから」 (共同通信)
 
 
48年前の袴田事件 死刑囚の再審認める
NHK NEWS WEB 2014年3月27日 
昭和41年に静岡県で一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」で、静岡地方裁判所は死刑が確定していた袴田巌元被告について「犯行に使われたとされた衣類はねつ造の疑いがある」と指摘して再審=裁判のやり直しを認めました。
裁判所はあわせて元被告の釈放を認める決定も出しました。
 
昭和41年、今の静岡市清水区でみそ製造会社の専務の一家4人が殺害された事件では、当時、会社の従業員で強盗殺人などの罪で死刑が確定した袴田巌元被告(78)が無実を訴え、弁護団が再審=裁判のやり直しを求めてきました。
この中では犯行の際に元被告が着ていたと判決で認定された「5点の衣類」が本人のものだったかどうかが最大の争点となりました。
27日の決定で静岡地方裁判所の村山浩昭裁判長は「DNA鑑定の結果から5点の衣類は犯人が着ていたものではなく、捜査機関によって後日ねつ造された疑いがある」と指摘して再審を認めました。
また、裁判長は「極めて長期間、死刑の恐怖のもとで身柄を拘束され続けてきた。これ以上勾留を続けることは正義に反する」と指摘して、袴田元被告の死刑の執行と勾留を停止し、釈放を認める決定も出しました。
死刑囚の再審を認める決定は9年前・平成17年の、いわゆる「名張毒ぶどう酒事件」以来、6件目です。
これまでの5件のうち、名張事件は後に決定が取り消されましたが、ほかの4件はその後、いずれも再審が開始され、無罪となっています。   (後 略)
 
 
袴田事件最大の争点 衣類の鑑定結果は
NHK NEWS WEB 2014年3月27日
昭和41年に静岡県で一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」で、死刑が確定していた袴田巌元被告の再審=裁判のやり直しを求めた再審請求では、新たに行われたDNA鑑定や、弁護団の求めに応じて検察から開示された600点の証拠を基に、事件の時に袴田元被告が着ていたと判決で認定されていた「5点の衣類」が本人のものだったかどうかが争われました。
 
DNA袴田元被告と一致せず
焦点となったシャツやズボンなどの「5点の衣類」は、事件当時、袴田元被告が着ていたと判決で認定され、有罪の大きな決め手となりました。
シャツの右肩には袴田元被告の血液が、衣類には被害者4人の血液が付いていると判断され、今回、これらについて弁護団と検察のそれぞれが推薦する専門家2人がDNA鑑定を行いました。
その結果、DNAは袴田元被告のものと一致しないという結果が出ました。
検察は衣類は古く、保管状況も悪かったので鑑定の結果は信用できないと反論しました。
一方で、被害者のDNAについては弁護側の専門家が「検出されなかった」とし、検察側の専門家は「被害者と同じだという可能性を否定できない」と評価していました。
 
弁護団「衣類の色が不自然」
「5点の衣類」は事件から1年2か月がたって裁判が始まったあと、現場近くのみそタンクの中から見つかったとして、裁判所に提出されました。
今回の再審請求では弁護団の求めに応じて衣類のカラー写真が検察から新たに開示され、弁護団はよく似た衣類を使って再現実験をして結果を比べました。
弁護団の実験では長くみそに漬かって本来の色が分からない暗い色になったほか、血痕も赤みを失って黒褐色になったのに対し、開示された写真の下着は色が薄く着色されただけで、血痕も赤みが強すぎて不自然だと判断されました。そのうえで弁護団は、5点の衣類は短時間、みそタンクに入れられただけで、そもそも犯行に使われたものではないと主張してきました。
 
検察主張の根拠覆す記号の意味
ズボンについて弁護団は、裁判の時から小さすぎてはけず、本人のものではないと主張してきました。
しかし、検察は事件当時、はくことができたと反論し、判決でも袴田元被告のものと認定されていました。
根拠の一つはズボンのタグにあった「B」という記号で、「B」はウエスト84センチというサイズを示すものと考えられていました。しかし、今回、新たに開示されたズボンの製造業者の調書には「B」はサイズではなく、色を意味していると記されていました。
調書には、さらにズボンは「ウエスト76センチ」と書かれていて、判決が認定したよりも小さいサイズだったことが明らかになったのです。
弁護団はDNA鑑定や新たに開示された証拠を基に、ズボンを含む「5点の衣類」はいずれも袴田元被告のものではないと訴えてきました。