憲法9条に違反する「集団的自衛権の行使」の容認を目指している安倍内閣ですが、しんぶん赤旗は14日、「国民欺く虚構の議論をやめよ」と題する主張を掲げました。
安倍首相はよく「米領グアムや米本土に向かう弾道ミサイルを日本が撃ち落とさなくていいのか。撃ち落さないようでは日米同盟はその段階において大変な危機に陥る」という議論を展開しますが、グアムに向かう弾道ミサイルは高高度を高速で飛ぶため、日本のミサイル防衛システムで撃ち落とすことが技術的に不可能であり、政府自身も以前から認めていると述べています。
もう一つは、「公海上で日本に対する弾道ミサイル攻撃の警戒に当たっている米国のイージス艦が攻撃を受けた際、近くにいる日本のイージス艦がこれを防がなくていいのか」という議論です。
これについても専門家は、「日米のイージス艦が近くで一体的に活動していれば日本側への攻撃とみなして反撃できる」と指摘しています。
また両艦が水平線を越えてお互い見えないほど離れていることがあると反論していますが、それほど離れている場合には、米艦への攻撃を防ぐのは技術的に不可能だといわれています。
これらはいずれも国民を欺瞞する議論であり、一国の首相としてとても許されないことです。
信濃毎日新聞も14日、「法制局長官 職務を任せられるのか」とする社説を掲げました。
小松長官が参院予算委で、「首相は自民党が野党時代に決定した国家安全保障基本法を提出する考えはないと思う」と、首相の考えを代弁したり、「政権交代した場合、次の内閣が憲法解釈を変更する可能性がある」との認識を示したかと思えば、直後にそれを否定したり、野党議員と会議場外で口論したりして言動が定まらないことを挙げて、その一方で、肝心な点である「集団的自衛権の行使容認問題が9条と整合性が取れるか」についての、専門家としてしっかりした答弁が聞かれないと指摘しています。
そして、適格性を疑われるようなNHK経営委員の言動をめぐって、首相の任命責任が厳しく問われているとして、自身の信条に近い人を周囲に集めて行う安倍政治の危うさがあらためて浮き彫りになったと結んでいます。
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(主張) 集団的自衛権問題 国民欺く虚構の議論をやめよ
しんぶん赤旗 2014年3月14日
安倍晋三首相は、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認のため、さまざまな口実を使って合理化を図ろうとしています。その一つが、具体的な事例を挙げ、「集団的自衛権が行使できなければ対応できない」といって、国民の不安をあおりたてる手法です。それらの事例はどれも、技術的に不可能だとか、現実にはあり得ない事態だと専門家からも批判が相次いでおり、通用するものではありません。意図的なつくり話で世論誘導することはやめるべきです。
技術的にあり得ない
集団的自衛権の行使を合理化するための事例の一つに、米領グアムや米本土に向かう弾道ミサイルを日本が撃ち落とさなくていいのかという議論があります。
首相は、「ミサイル防衛において、日本に飛んでくるものは(撃ち)落とすけれども、グアムに飛んでいくものは(撃ち)落とすことができてもパスをしてしまう。これでもう相当たくさんの死者が出る。日米同盟はその段階において大変な危機を、終わるかもしれないという危機を迎える」(2013年2月27日、参院予算委員会)と述べていました。
ところが、グアムに向かう弾道ミサイルは高高度を高速で飛ぶため、日本のミサイル防衛システムで撃ち落とすことが技術的に不可能なのは、政府自身も以前から認めていたことです。もともと無理なことを集団的自衛権行使容認の口実にするのはおかしいとの批判を受け、首相は、「もし将来、技術的にそれが可能となった場合、グアムあるいはハワイに向かっていくミサイルについて撃ち落とす能力があるのに撃ち落とすことはできないのか」(今年2月10日、衆院予算委)と答弁を修正し、日本に迎撃能力がないことを認めました。集団的自衛権の行使容認ありきで、都合のいい事例を考え出したものの、破たんしたのが実態です。
グアムに飛んでいく弾道ミサイルを撃ち落とす例を挙げられなくなったためか、最近、首相がよく持ち出すのは、“公海上で日本に対する弾道ミサイル攻撃の警戒に当たっている米国のイージス艦が攻撃を受けた際、近くにいる日本のイージス艦がこれを防がなくていいのか”という議論です。
これも、専門家は、日米のイージス艦が近くで一体的に活動していれば日本側への攻撃とみなして反撃できると指摘しています。首相は、両艦が水平線を越えてお互い見えないほど離れていることがあると反論していますが、それほど離れている場合には、逆に、米艦への攻撃を防ぐのは技術的に不可能だといわれています。
首相は、“朝鮮半島有事で米軍を攻撃している北朝鮮に武器弾薬を運んでいる船舶が日本の目の前を通過しているのにこれを阻止しなくていいのか”という例もしきりに挙げます。これも、朝鮮半島が戦闘状態になれば日本海は船舶が武器を運べるような状況ではないと、非現実性が指摘されています。
海外の武力行使狙い
安倍首相が解釈改憲によって可能にしようとしている集団的自衛権行使の本質は、日本を「海外で戦争できる国」に変えてしまうことです。首相などが持ち出す事例は、それをごまかすための口実にすぎません。国民を欺く虚構の議論はやめるべきです。
法制局長官 職務を任せられるのか
信濃毎日新聞 2014年3月14日
政府の「法律顧問」としての重要な職務を任せておいていいのか。そんな懸念を抱かざるを得ない。
内閣法制局の小松一郎長官である。言動が危なっかしい。
小松氏は先日の参院予算委で、集団的自衛権行使の理念を盛り込む「国家安全保障基本法案」について、「首相は自民党が野党時代に決定した基本法を提出する考えはないと思う」と述べた。
安倍晋三首相は集団的自衛権行使の根拠となる法整備が必要との認識を示したことはあるが、基本法の提出に関し、国会の場で詳しい方針を語っていない。
政府の補佐機関の長が首相の考えを代弁したのも同然である。参院できのう「言葉足らずだった」と陳謝したけれど、越権行為との批判が出るのは当然だ。
小松氏が法制局長官に適任なのかどうか、国会は厳しく追及しなくてはならない。
首相は、自衛隊に課せられた「専守防衛」の国是を大転換させることになる集団的自衛権の行使容認に突き進んでいる。
法制局はこれまで憲法9条に照らし、「権利はあるが、行使はできない」との解釈を示し、政府もこれを踏襲してきた。
首相は改憲を国民に問わず、解釈を変えて行使容認に踏み切る構えでいる。容認に前向きな小松氏を昨年夏、長官に起用したのは法制局の壁を突き崩し、解釈変更を急ぐためだった。
小松氏は今年に入って約1カ月入院した。腫瘍が見つかったためで、今も通院で抗がん剤治療を続けているとみられる。
職務復帰後は、行使容認へ向けた作業を急ごうとの焦りすら感じられる。集団的自衛権をめぐる質疑で、仮に政権交代した場合、次の内閣が憲法解釈を変更する可能性がある、との認識を示したかと思えば、直後にそれを否定するようなことを言っている。
そもそも行使容認問題は9条と整合性が取れるかどうかが最大の論点なのに、専門家としてしっかりした答弁が聞かれない。
安保基本法をめぐる先走り発言だけでなく、共産党議員と議場の外で激しい口論を繰り広げたことも波紋を広げている。
適格性を疑われるようなNHK経営委員の言動をめぐって首相の任命責任が厳しく問われている折である。小松氏の問題も同根ではないか、との思いが消えない。
自身の信条に近い人を周囲に集めて行う安倍政治の危うさがあらためて浮き彫りになった。