従軍慰安婦問題で、太平洋戦争中にインドネシアのバリ島に駐屯していた海軍兵士が、1962年の法務省の調査に「終戦後軍から資金をもらい、住民の懐柔工作をした」と供述していたことが分かりました。
元兵士は、「慰安婦として現地人など約70人を連れてきた」「他にも約200人を部隊の命令で連れ込んだ」などと連行の実態と、「終戦直後に、軍需部などに強硬談判して約70万円をもらい、慰安所を戦争犯罪の対象に問われないよう、各村長を通じて住民の懐柔工作に使った」、「そのため慰安婦関連では現地住民からは、一件も訴えが出なかった」と、軍による組織的な隠蔽について述べていました。
安倍政権は、石原元内閣官房副長官が国会で「河野談話の作成時に、旧日本軍が従軍慰安婦の連行等に関与したという文書は見つかっていなかった」と証言したのを契機に、旧日本軍の関与と強制性を認定した河野談話の作成経緯を検証するとしていますが、この元兵士の証言は、河野洋平官房長官談話が認めた軍の関与を裏付けるものです。
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「慰安所隠蔽 軍が資金」元日本兵供述の資料 専門家「河野談話裏付け」
東京新聞 2014年3月23日
旧日本軍の従軍慰安婦問題で、太平洋戦争中にインドネシアのバリ島に海軍兵曹長として駐屯していた男性が、一九六二年の法務省の調査に「終戦後(慰安所を戦争犯罪の対象に問われないよう)軍から資金をもらい、住民の懐柔工作をした」と供述していたことが分かった。
元兵曹長は「(慰安婦として)現地人など約七十人を連れてきた」「他にも約二百人を部隊の命で連れ込んだ」などと連行の実態も説明していた。
関東学院大の林博史教授(日本近現代史)の研究室が国立公文書館(東京)保管の資料で見つけた。林教授は「河野洋平官房長官談話が認めた軍の関与を裏付けるもので重要だ」と評価している。
安倍政権は、旧日本軍の関与と強制性を認定した河野談話の作成経緯を検証する方針を示している。
法務省の担当者は、男性の供述について「既に公文書館に資料を移管していて確認できず、責任を持って答えられない」と回答した。
法務省の資料によると、元兵曹長は四七年八月、オランダ軍がBC級戦犯を裁いたインドネシア・バタビア(現在のジャカルタ)の軍法会議で、住民への暴行などに問われ、懲役十二年(求刑懲役十五年)の判決を受けた。
元兵曹長は六二年八月の調査に、罪に問われた十件余りは「殴った蹴った程度の事件ばかり」と振り返り「(発覚を)一番恐れたのは慰安所事件だった」と告白した。
強制売春は戦犯行為に問われる。元兵曹長は「軍需部などに強硬談判して約七十万円をもらい、各村長を通じて住民の懐柔工作に使った」と述べ、組織的な隠蔽(いんぺい)を示唆した。「これが完全に功を奏したと見え(慰安婦関連では)一件も訴えが出なかった」と話した。
<河野官房長官談話> 宮沢内閣の河野洋平官房長官が1993年に従軍慰安婦問題の政府認識について発表した談話。「甘言、強圧により本人たちの意思に反して集められた事例が数多くある。官憲などが直接加担したこともあった」と旧日本軍の関与と強制性を認め、慰安婦に謝罪した。歴代内閣は談話を継承してきたが、菅義偉官房長官は談話作成の経緯を検証する方針を表明。安倍晋三首相は3月「安倍内閣で見直すことは考えていない」と述べた。