2014年10月16日木曜日

秘密保護法運用基準等の閣議決定に日弁連他が抗議声明

 14日、特定秘密保護法の運用基準(案)施行令(案)が閣議決定されたことに対して、日本弁護士連合会会長声明を出しました。
 声明は、同法には要旨下記の重大な問題点があるとともに、独立公文書管理監職とそれを補佐する情報保全監察室の独立性がら担保されていないことを、強く批判しています。
 
①恣意的な特定秘密指定の危険性が解消されていない。
②政府の腐敗行為環境汚染の事実等を秘密指定してはならないこと明記されていない。
③特定秘密を最終的に公開するための確実な法制度がない。
④独立公文書管理監等が、すべての特定秘密にアクセスすることができ、秘密指定行政機関から完全に独立した公正な第三者機関になっていない。
⑤通報制度行政組織内での通報を最優先するのは通報者を萎縮させるものであるなど、実効性のある公益通報制度とは評価できない。
⑥適性評価制度は、評価対象者やその家族等のプライバシーを侵害する可能性がある。
⑦刑事裁判において、証拠開示命令がなされれば秘密指定は解除されるが、それは裁判所の判断に委ねられており、被告人、弁護人が秘密を知ることなく公判手続が強行される可能性が大きい。
⑧ジャーナリストや市民を刑事罰の対象としてはならないことが明記されていない。
 
 14日に発表された日本雑誌協会日本書籍出版協会連名の反対声明と日本ペンクラブ会長らの「閣議決定に対する談話」を併せて紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
秘密保護法施行令(案)等の閣議決定に対する会長声明
2014年(平成26年)10月14日
日本弁護士連合会 会長 村越 
本日、特定秘密の保護に関する法律(以下「秘密保護法」という。)の施行令(案)及び運用基準(案)等が閣議決定された。
 
情報保全諮問会議が本年7月に作成した同施行令(素案)及び運用基準(素案)等については、7月24日からパブリックコメントが実施され、難解な内容にもかかわらず、2万3820件の意見が提出された。情報保全諮問会議ではこれを検討し、施行令(案)及び運用基準(案)等を作成し、9月10日に内閣総理大臣に提出した。その内容は、前記の各素案とほとんど変わらないものであった。
 
他方、国連人権(自由権)規約委員会は7月31日、日本政府に対して、秘密指定には厳格な定義が必要であること、ジャーナリストや人権活動家の公益のための活動が処罰の対象から除外されるべきことなどを勧告した。
 
当連合会は、9月19日付けで「特定秘密保護法の廃止を求める意見書」を公表し、この法律の廃止を改めて求めたところであるが、市民の強い反対の声を押し切って成立した秘密保護法には、依然として、以下のとおり、重大な問題がある。
 
①秘密保護法の別表及び運用基準を総合しても、秘密指定できる情報は極めて広範であり、恣意的な特定秘密指定の危険性が解消されていない。
②秘密保護法には、違法・不当な秘密指定や政府の腐敗行為、大規模な環境汚染の事実等を秘密指定してはならないことを明記すべきであるのに、このような規定がない。
③特定秘密を最終的に公開するための確実な法制度がなく、多くの特定秘密が市民の目に触れることなく廃棄されることとなる可能性がある。
④政府の恣意的な秘密指定を防ぐためには、すべての特定秘密にアクセスすることができ、人事、権限、財政の面で秘密指定行政機関から完全に独立した公正な第三者機関が必要であることは国際的な常識であるが、同法が規定している独立公文書管理監等の制度にはこのような権限と独立性が欠けている。
⑤運用基準において通報制度が設けられたが、行政組織内での通報を最優先にしており、通報しようとする者を萎縮させる。通報の方法も要約によることを義務づけることによって特定秘密の漏えいを防ぐ構造にしてあるため、要約に失敗した場合、過失漏えい罪で処罰される危険に晒されている。その上、違法行為の秘密指定の禁止は、運用基準に記されているのみであり、法律上は規定されていないので、実効性のある公益通報制度とは到底、評価できない。
⑥適性評価制度は、情報保全のために必要やむを得ないものとしての検討が十分になされておらず、評価対象者やその家族等のプライバシーを侵害する可能性があり、また、評価対象者の事前同意が一般的抽象的であるために、実際の制度運用では、医療従事者等に守秘義務を侵させ、評価対象者との信頼関係を著しく損なうおそれがある。
⑦刑事裁判において、証拠開示命令がなされれば秘密指定は解除されることが、内閣官房特定秘密保護法施行準備室が作成した逐条解説によって明らかにされたものの、証拠開示が命じられるかどうかは、裁判所の判断に委ねられており、特定秘密を被告人、弁護人に確実に提供する仕組みとなっていない。そもそも秘密保護法違反事件は必要的に公判前整理手続に付されるわけではなく、付されなかった場合には、被告人、弁護人が秘密を知ることなく公判手続が強行される可能性が大きく、適正手続の保障は危殆に瀕する。
⑧ジャーナリストや市民を刑事罰の対象としてはならないことは、国家安全保障と情報への権利に関する国際原則であるツワネ原則にも明記されており、アメリカやヨーロッパの実務においても、このような保障は実現されているが、国際人権(自由権)規約委員会からも同様の指摘を受けたことは前述したとおりである。
 
当連合会は、本年8月22日付けで運用基準(案)に対するパブリックコメントを提出し、法令違反の隠蔽を目的として秘密指定してはならないとしている点について、「目的」を要件にすることは不当であり、違法行為そのものの秘密指定を禁じるべきと主張した。これに対して、政府は、運用基準(素案)を修正し、行政機関による違法行為は特定秘密に指定してはならないことを明記した。これは、今後ジャーナリストや市民が違法秘密を暴いて摘発されたときには、無罪を主張する法的根拠となりうるものとして評価できるが、本来、法や政令において定めるべきことである。
 
また、独立公文書管理監職は一名しかおらず、特定秘密の閲覧や秘密指定解除の是正勧告等の権限を有する者であるから、その独立性及び権限行使の的確さが強く求められるところ、どのような者が担当となるかについて政府は全く明らかにしていない。加えて、①独立公文書管理監を補佐する情報保全監察室のスタッフの秘密指定機関へのリターンを認めないこと、②すべての秘密開示のための権限を認めること、③内部通報を直接受けられるようにすることなど、運用基準(素案)の修正により容易に対応できたが、これらの意見は修正案に採用されなかった。政府は恣意的な秘密指定がなされないような仕組みを真剣に構築しようとしているのか、極めて疑問である。
 
市民の不安に応え、市民の知る権利と民主主義を危機に陥れかねない特定秘密保護法をまずは廃止し、国際的な水準に沿った情報公開と秘密保全のためのバランスの取れた制度構築のための国民的議論を進めるべきである。
 
 
特定秘密保護法施行への反対声明
2014年10月14日
         一般社団法人日本雑誌協会    人権・言論特別委員会
一般社団法人日本書籍出版協会 出版の自由と責任に関する委員会
 
10月14日、政府は特定秘密保護法についての「政令および運用基準」を閣議決定した。同法は、12月10日より施行される予定だ。
日本雑誌協会と日本書籍出版協会は、民主党が2011年に策定した「秘密保全法案」から一貫して、同趣旨の法案に反対してきた。国家による秘密保持の強化を図るあまり、「国民の知る権利」「報道・出版の自由」を脅かすものであるからだ。
 
政府は「政令および運用基準」について、本年7月24日から8月24日までの1か月間、パブリックコメントを募集し、それを受けて27か所の修正を施したという。国民から寄せられた意見は、2万3820通にもおよび、同法に対する関心の高さを示した。今回のパブリックコメントは、法自体の賛否を問うものではなく、「政令および運用基準」の内容に対する意見募集であり、膨大な資料を読み込まずには提出しにくいものだった。そこには、欠陥の多い同法が少しでも適正に運用され、国民の生活や人権が脅かされないようにとの国民の願いがこもっていたはずだ。
ところが、国民の声を受けて修正したはずの「政令および運用基準」は、懸念を表明する多くの重要な指摘にも拘わらず、それらの意見はほとんど採用されておらず、期待はずれのものだった。内閣府が示した『意見募集に対し寄せられた御意見の概要及び御意見に対する考え方』も、政令や運用基準の表現をそのまま繰り返すものがほとんどで、国民の指摘に対する答えにはなっていない。
 
「国民の知る権利」については「十分尊重されるべき」と明記し、出版・報道のための「夜討ち・朝駆けや複数回にわたる接触等」も「取締りの対象」とならないよう配慮したという。だが、取材方法の可否にまで政府が言及することは、逆に、憲法で保障された「知る権利」や出版・報道のあり方を限定する結果となりかねず、雑誌や書籍の取材現場にとってとうてい受け入れがたい。
 
我々は、国民の指摘を無視し、「国民の知る権利」「出版・報道の自由」を脅かす危険性がある特定秘密保護法の施行にあくまでも反対する。また、同法が濫用され、国民の知るべき情報が隠匿されないよう、運用の実態をはじめ政府の動向を今後も注視していく。
 
 
特定秘密保護法施行の閣議決定に対する談話
                              2014年10月14日
                                  一般社団法人日本ペンクラブ
会長           浅田次郎
言論表現委員長  山田健太
 いつ、どこであれ、言論・表現の活動は多かれ少なかれ国家や権力との緊張関係のもとで行われる。こうした活動に携わる私たちはいかなる事実、いかなる情報であれ、さまざまに工夫を凝らして探り当て、それを公表し、論評する自由を確保してきた。この自由は、特定秘密保護法なるものが施行されたところで、いささかも揺らぐものではない。
 もし万が一、この法律を根拠に、こうした自由を少しでも制約しようとする動きがあれば、私たち日本ペンクラブはけっして見逃さず、毅然としてたたかう覚悟であることを、ここに表明しておくものである。