2014年10月12日日曜日

北星学園大脅迫事件で 新聞労連などが糾弾の声明

 かつて従軍慰安婦問題を報道した元朝日新聞記者が非常勤講師を務める北星学園大(札幌市)に、「辞めさせなければ学生に危害を加える」などの脅迫文が届いたのみならず、インターネット上に元記者とその家族の氏名や顔写真が掲載され、脅迫文言が書き込まれるという深刻な事態になっています。
 実に卑劣な犯罪行為です。
 
 この問題で山口二郎・法政大教授らから、6日、作家の池澤夏樹さんら43人が呼びかけ人となり札幌市長ら400人以上が賛同人になって、「負けるな北星!の会」が設立されたことが報告されました。
 
 新聞労連は9日、「脅迫や個人攻撃による言論封殺を許さない」とする声明を出しました。
 札幌弁護士会は10日、「こうした卑劣な脅迫行為は、学問の自由・大学の自治に対する重大な侵害行為であって、到底許されるものではない」とする会長声明を出しました。
 
 毎日新聞の記事と2つの声明を紹介します。
 
(追記) なお帝塚山学院大(大阪府、元朝日新聞記者の男性教授(67)を辞めさせないと大学を爆破するとした脅迫文書が複数届き、元記者は文書が届いた日に教授を辞職しています
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慰安婦問題脅迫:大学励ます会を設立 400人以上が賛同
毎日新聞 2014年10月
 従軍慰安婦問題を報道した元朝日新聞記者(56)が非常勤講師を務める北星学園大(札幌市厚別区)に、「辞めさせなければ学生に危害を加える」との脅迫文が届いた問題で、作家の池澤夏樹さんらが6日、脅しに屈しないよう大学を励ます市民団体「負けるな北星!の会」を設立した。
 
 43人の呼びかけ人と、野中広務・元自民党幹事長や札幌市の上田文雄市長ら400人以上の賛同者が集まった。東京都内で記者会見した山口二郎・法政大教授は「不当な脅迫に対して、大学の自治と学問の自由を守るため、外部から応援したい」、札幌市で記者会見した小野有五・北星学園大教授は「自由に発言できる社会の実現のために市民が声を上げる必要がある」と話した。
 
 元記者は1991年8月に慰安婦問題を報道した。同大によると、大学には5月と7月に脅迫文が届いたほか「大学を爆破する」と脅す電話もあった。【青島顕、山下智恵】
 
 
脅迫や個人攻撃による言論封殺を許さない 
2014年10月9日
 日本新聞労働組合連合(新聞労連)
 中央執行委員長 新崎 盛吾
 かつて慰安婦報道に関わった元朝日新聞記者の勤務先の大学に退職を要求する脅迫文が送りつけられ、インターネット上で家族を含めた個人攻撃が続いていることに、新聞労連は学問や思想信条の自由を守る立場から強い怒りを表明する。
 
 朝日新聞は8月、慰安婦報道の検証記事を掲載し、朝鮮人女性を強制連行したといういわゆる「吉田証言」が虚偽だったとして、過去の関連記事を取り消した。脅迫の対象となった元記者は、元慰安婦の裁判を支援する団体の幹部が身内にいたことなどを理由に、過去の記事で意図的なねつ造があったのではないかなどの批判を受け、検証記事の中で誤用があったことは認めている。ただ、記事の内容や経緯の如何を問わず、意に沿わない記事を書いた取材者を社会から排除しようとする行為は、言論の封殺につながり、絶対に看過できるものではない。
 
 1987年5月、朝日新聞阪神支局に散弾銃を持った男が押し入り、当時29歳の記者が殺害され、別の記者が重傷を負う事件が起きた。「赤報隊」を名乗る犯行声明は、朝日新聞の報道姿勢を批判する内容だった。民主主義社会において、威力や暴力で言論の自由を屈服させる行為を二度と許してはならない。
 
 元記者が非常勤講師として勤務する北星学園大(札幌市)は、3月中旬以降に抗議や脅迫が相次いだため警察に被害届を出したことを明らかにし、「大学の自治を侵害する卑劣な行為に、毅然として対処する」との立場を表明している。学者や弁護士らが大学を支援する会を結成するなどの動きも広がっている。
 
 新聞労連は、脅迫に屈しない大学の姿勢を支持するとともに、元記者への個人攻撃を許さず、言論の自由を守るための取り組みを続けていく。
 
 
北星学園大学及びその教員等に対する脅迫行為に関する会長声明
2014(平成26)年10月10日
 札幌弁護士会   
 会長 田村 智幸
 2014年5月及び同年7月、札幌市厚別区に所在の北星学園大学に対して、同大学の非常勤講師の退職を要求し応じなければ学生に危害を加える等の脅迫文書等が届き、警察が捜査中との報道がなされた。同大学のホームページ上の記載からは、元記者がいわゆる従軍慰安婦に関する記事を過去に書いたことに起因すると認められる。
 
 このような脅迫行為は極めて卑劣な犯罪である。とりわけ、学問の自由・大学の自治に対する重大な侵害行為であって、到底許されるものではない。
 さらに、インターネット上に元記者とその家族の氏名や顔写真が掲載され、脅迫文言が書き込まれるという事態に至っている。
 大学に対する脅迫行為、元記者個人と家族に対する脅迫行為等は、その大学や個人の問題にとどまらず、ひいては、学問の自由・大学の自治、言論・報道の自由を侵害し、民主主義の基盤を根底から覆しかねない。
 
 当会はこれまでも、様々な人権課題について会長声明や意見書等を通じて対外的な意見表明を行ってきた。今回の問題はとりわけ、民主主義社会の根幹をなす憲法上の権利に係る重大な侵害行為であり、緊急性のある憂慮すべき問題である。当会は、事態を一刻も早く終息すべく捜査が遂げられることを求める。併せて大学に対して、自治を守るため毅然と対応されていることに敬意を表する。
 当会は、このような人権侵害行為、ひいては憲法秩序への挑戦に対して、これを抑止・根絶するための取組みを推し進めていく所存である。