政権の有力メンバーや政権の意を呈した評論家・学者たちは、消費税率10%への増税は法律で決まっていることだから、そのとおり実行しなければ大変なことになる、国債も暴落する(長期金利が上がる)といいます。一体どんなことが起きるというのでしょうか。彼らは今回増税のチャンスを逸すると、次の増税の機会がますます遠のいてしまうことを心配しているのです。
ルー米財務長官も先のG20で、消費増税後の日本経済は「期待外れ」だとして、日本経済を建て直すようにと述べました。消費税率アップが国際公約というのは、財務省の意向を汲んだ増税派の作りごとで、財政再建の意志を示さないまま消費税率を上げることの方が、よほど国際的な信用を失うでしょう。
アベノミクスは、言わば消費税率を10%に上げるための見せ掛けの好況を作ろうとしたものですが、既に所信表明演説でも口にできないほどに、その破綻は明らかになっています。
経済評論家の田村秀男氏は、金融の異次元緩和=アベノミクス を効かなくした元凶は4月に実施した8%への消費増税であると述べました。増税自体が増税の条件を阻害する原因になっているという皮肉さです。
確かに添付のグラフを見ると、消費水準指数(黒線)は4月の消費税増税以降、82~3のレベルに貼り付いています(安倍政権発足時を100)。
確かに添付のグラフを見ると、消費水準指数(黒線)は4月の消費税増税以降、82~3のレベルに貼り付いています(安倍政権発足時を100)。
財務官僚に言われて、麻生財務相が補正予算でしのげるなどと考えているのは、浅はかというものです。そんなことでしのげるものなら誰も苦労しませんし、この10数年間続いている経済の落ち込みは一体何だったのかということになります。
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元凶は消費税増税 効かなくなった異次元緩和
田村秀男 2014年10月5日
(産経新聞 特別記者)
甘利明経済再生担当相は5日、来年10月の消費税率10%への引き上げについて、「(再増税を)する場合としない場合でどういったメリットとデメリットが生じるか、事務方にシミュレーションさせている」と言ったそうだが、まずは8%への引き上げでどうなったかを、財務官僚抜きで検証すべきだろう。
■消費税増税が最大の障害
(前 略)人民元は円に対して昨年初め以来約25%高くなった。
円安が中国など外国人観光客の数を増やし、高級デパートの売り上げ増に貢献しているには違いない。が、われわれにはおよそ別の世界の生業のようだ。日本人ときたら、預金金利はゼロ、増える税負担と物価上昇のために使えるおカネは減っている。
いったい何が起きているのか、まず結論を言おう。
今年4月の消費税増税を機にアベノミクスの主柱である「異次元金融緩和」の効能が失(う)せたのだ。ほぼ1年前、金融緩和で増税による副作用を打ち消せるとみて、安倍晋三首相に増税実施を決断させた黒田東彦(はるひこ)日銀総裁はオウンゴールを演じたと、筆者は断じる。
アベノミクスは異次元緩和に加え、「機動的財政出動」「成長戦略」の「三本の矢」で構成されるが、成長戦略には即効性がない。財政出動の柱は公共事業だが、建設関連の職人不足や資材価格高騰などで消化難に陥るなどの弊害が目立つし、持続的な成長にはつながっていない。
日銀が年間六十数兆円もの資金を発行して、金融機関から国債などを買い上げる異次元緩和策は、市場金利を押し下げてきた。金利を生まない円の価値は金利が高いドルに対して下がると市場が予想するので円安となる。円安は輸入コストを上昇させる結果、消費者物価を押し上げる。
その結果、名目金利から物価上昇分を差し引いた実質金利は全般的にマイナスに転じる。円建ての金融資産は目減りすることになるので、ますます円安が進む。円安で輸出企業の収益が増えて株価が上がるし、輸出が有利になるので、国内での生産や投資が増え、雇用や所得の増加につながるという筋書きだ。金融緩和の最大の狙いは円安であり、円安基調が続けば、物価も賃金も上がるので、15年以上も続いてきた慢性デフレから脱出できると黒田総裁ら日銀幹部は踏んだに違いない。
ここでグラフを見よう。円の対ドル相場を含め、アベノミクスが始まった平成24年12月時点を100に置き換えて経済指標を月ごとに追った。上記のシナリオ通り、円安軌道が生まれ、輸入物価上昇に引き上げられるようにして消費者物価もすこしずつ上がり始めた。鉱工業生産も上向いた。ところが家計の消費水準の回復の足取りは重い。日本のデフレ病とは、物価が下がり続けるばかりではない。物価下落以上の度合で賃金が下がる、つまり、実質所得が下がる。収入が目減りするのだから、家計の消費は増えようがない。
そこに追い打ちをかけたのが4月からの消費税増税である。消費者物価上昇率は昨年9月から1%台に乗ったが、今年4月以降は一挙に3%台半ばにジャンプした。春闘によるベアも物価上昇に追いつかず、実質賃金は押し下げられた。家計消費は4~6月に戦後最大級の落ち込みをみせた後、7、8月も低水準が続く。企業のほうは在庫の急増にあわてて、減産に転じている。消費税増税前の駆け込み需要後の急減から7月にはV字形に反転するという楽観論は、実質的な家計収入の減少という日本病を甘くみた。
今、産業界では円安について見方が二極に分かれている。輸出業種を中心とする大企業は円安を歓迎するが、輸入コスト上昇に悩む中小企業や地方の住民からの反発が高まっている。
黒田総裁は9月16日時点で円安について「自然な形」と述べた。筆者は円安容認に異論はないが、黒田さんは大事なポイントを外している。消費税増税の回避である。
焦点は今や、来年10月予定の消費税率再引き上げをめぐる是非論議だ。4月の8%への税率アップが、金融緩和・円安・脱デフレの道を破壊した現実を無視するようだと、金融緩和と補正予算の組み合わせで増税ショックをかわせるという、破綻したはずの増税論理に押し切られかねない。その結末は円安下でのインフレと不況、いわゆる「スタグフレーション」の局面だ。 (後 略)