NHKの報道によれば、プリツカー米商務長官は21日都内で日本の経済界の代表らを招いて講演し、米国が主導するTPP=環太平洋パートナーシップ協定について、「もし日米が合意できなかったら、競合するほかの国々が貿易のルールを作ることになる。黙って見ているわけにはいかない」、「TPPは日本にばく大な利益をもたらす」し「TPPの交渉が妥結すれば日米が共有する価値観や基準が世界のほかの地域でも見本となる」と、日本に歩み寄りを促したということです。
しかし、これほど空虚で子供だましの演説も珍しく、他のアジア諸国の合意を促すために、日本を手駒として利用しようとする意図も隠していません。
TPPは米国の利益のために考え出された協定であり、米国には莫大な利益をもたらすかもしれませんが、日本には利益などはもたらしません。
米国としては、自らに従属している日本との間で米優先の独善的なルールを決めたいのでしょうが、そんないびつなルールではなくて、フリーハンドを持っている他の国々でルール作りを進めてもらった方が遥かに健全なものになるでしょう。
河北新報が22日の社説で、「TPP交渉は大筋合意を急ぐ必要はない」と述べました。
日本は交渉の入口で、自動車の関税問題や農業問題でこれ以上はできないほどの譲歩を行っているのにもかかわらず、更に牛肉・豚肉といった農産物や自動車部品の貿易をめぐって米国が強硬な姿勢を崩さないので、大きな隔たりが埋まらないのだとしています。
そして「“TPP妥結という通商面での成果を挙げて、中間選挙(11月4日)に臨む”というオバマ大統領の作戦に協力する必要はない。そもそも米議会は大統領に通商交渉を一任しておらず、TPPが妥結しても議会が承認しない恐れがある」とも述べています。
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(社説) TPP交渉/大筋合意を急ぐ必要はない
河北新報 2014年10月22日
米国との協議は「終わりというにはほど遠い」(日本政府交渉筋)現状にあるという。米国が強硬姿勢を改めないからだ。
そんな状況下で妥結することになれば、日本は大幅譲歩を強いられかねない。交渉全体の大筋合意を急ぐあまり、そうした米国との妥協は将来に禍根を残しかねず、絶対に許されない。
ヤマ場を迎える環太平洋連携協定(TPP)交渉のことだ。
25日から参加12カ国による閣僚会合がオーストラリアで開かれ、中国で来月10、11日にあるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議時には、首脳会合の開催が見込まれている。
この首脳会合を念頭に、日米両政府は早期の大筋合意を目指すことで一致している。
だが、交渉全体の行方を左右する肝心の日米協議は、牛肉・豚肉といった農産物や自動車部品の貿易をめぐって、大きな隔たりを抱えたままだ。
首脳会合開催に向け今後、日米2国間の閣僚会合、頻繁な事務レベル協議が行われよう。だが早期大筋合意にこだわり、日米協議で守るべき国益を損ねるようなことがあってはならない。急ぐ必要はないと言いたい。
慌てる必要がないのは、オバマ民主党政権が置かれている政治状況からも言えることだ。
大統領が11月までの交渉合意という目標を打ち出したのは、6月のことだ。TPP妥結という通商面での成果を挙げて、中間選挙(11月4日)に臨むためだったとされる。
一時は柔軟姿勢を見せたものの、交渉の進展がない中、この中間選挙をめぐる共和党優勢の情勢が、交渉姿勢を再びかたくなにした観がある。
各業界団体の利益に配慮せざるを得なくなり、9月の日米閣僚協議で米国は、即時撤廃の方向で調整してきた日本製自動車部品の輸入関税を当面維持したいと表明。今月の事務レベル協議では一部乳製品の関税撤廃を求める姿勢に転じたという。
これらを日本が受け入れれば、国内自動車業界が望む利益を失い、乳製品を含む重要5農産物を「聖域」とする国会決議にも反する。拒否して当然だ。
下馬評通り、中間選挙で共和党が勝利し上下両院で多数派になれば、オバマ政権の求心力は一気に低下する。そもそも米議会は大統領に通商交渉を一任しておらず、TPPが妥結しても議会が承認しない恐れがある。
交渉を急がず、中間選挙の結果とその後の政治状況をじっくりと見極める必要がある。
もっとも、日本は牛・豚肉について段階的な関税の引き下げを含む譲歩案を提示したとされる。このことは現行関税維持を求めた国会決議に反しよう。
だが、その内容について生産者は蚊帳の外だ。農業だけではない。交渉は医療や労働といった国民生活全般に関わるにもかかわらず、利害関係者さえ中身を知らされていない。国民軽視以外の何物でもない。
政府は交渉進展に傾ける努力と同程度の姿勢で、交渉に国民が抱く疑問に答えるべきだ。