2014年10月25日土曜日

増税に踏み切れば「アベノミクスは殺される」

 消費税増税に慎重な自民党議連「アベノミクスを成功させる会」が22日、党本部で会合を開き、42人が出席しました。講師を務めた本田悦朗内閣官房参与は、来年10月予定の増税時期を年半延期するよう主張し出席者の大半は先送りを支持しました。
 
 201212月の第二次安倍政権発足後、重要政策をめぐりこれだけまとまって党内の反対の動きが表面化したのは初めてです。“自民党内に亀裂”の観測も流れましたが、この会合は菅官房長官が開かせたもので、日刊ゲンダイは再増税反対の意見にも十分に耳を傾けたということをアピールするためのパフォーマンスであると見ています。
 
 11は有識者を大勢集めて意見聴取会を開くようです。この意見聴取は8%への増税の時も行われましたが、増税賛成者が大勢を占める人選になっているので、政府の方針がただ追認されただけでした
 従ってそれをまた行うということであれば10%への増税は確定も同然です。
 
 しかし景気の停滞を見ればとてもそんなことが出来る状況ではありません。そんなことをすれば回復不能な事態になります。
 
 24日の日刊ゲンダイは、増税に慎重な自民党議連を作動させたのは、「賛成」「反対」の議論百出を国民に演じて見せて「再増税をするか、しないか、どちらに落ちてもいいように今から環境づくりをしたもの」と見ており、「再増税の実施時期1年半延期する」のを落としどころにするのではないかと予想しています。
 
 同じく夕刊フジは、日本株式指数のドル建て数値は低下する一方であることを指摘して、「増税に踏み切ればアベノミクスは殺される、消費税を5%に戻すか、それが出来ないなら中間層以下への所得税減税も検討すべとする田村秀男氏の記事を掲げました。
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党内分裂は演出…安倍首相「消費税10%」強行の裏シナリオ 
日刊ゲンダイ 2014年10月24日
 来年10月を予定している消費税10%の再増税をめぐって、自民党内が騒がしくなってきた。
 
  22日は再増税慎重派の議連が、本田悦朗内閣官房参与を招いて会合。本田は持論の「17年4月への1年半の延期」を訴え、40人以上集まった参加者の大半が賛同した。一方、これに対抗するように再増税積極派の党税制調査会もきのう勉強会を開き、100人以上が参加。「目先の風潮に流されることは慎みたい」と野田毅会長が牽制した。
 まさに党内真っ二つ――。だが、これは官邸主導のわざとらしい演出だ。党内の侃々諤々に始まって、来月は有識者を大勢集めて意見聴取会を開く。これから12月まで「賛成」「反対」の議論百出を国民に見せ、盛り上げることが目的なのだ。
 「予定通り再増税をするか、しないか、どちらに落ちてもいいように今から環境づくりをしているのでしょう。多様な意見が出て、大いに議論しているように見えるので、国民は『十分に検討してくれた』と思い込む。そういう空気をつくって、最後は安倍首相が苦渋の決断をする。世論は『ここまで議論してくれたのだから、仕方ない』となるわけです」(政治ジャーナリスト・鈴木哲夫氏)
 菅官房長官は会見で「(自民党は)国民からさまざまな声を聞いて党内で大激論する政党だ」と言っていたが、まさに官邸の“演出”を裏付けるようなものだ。
 
  最終的に安倍首相は消費税率を10%にするのか、しないのか。
  どうやら、安倍首相は姑息な言い回しで乗り切るつもりらしい。
 「安倍首相は予算委員会で民主党の前原誠司から『もし消費税を上げないということになったら、アベノミクスはうまくいってなかったと自ら証明することになりませんか』と皮肉られたことをすごく気にしている。確かに、増税断念=アベノミクス失敗を認めることになりますからね。そこでアベノミクスの失敗を絶対に認めたくない安倍首相は、『私は財政再建の約束は守る』『消費税率は10%にする』と言って、増税の実施を確約する一方で、『アベノミクスをより確実なものにするため、実施時期は1年半延期します』と宣言する。そんなシナリオが練られているようです」(官邸事情通)
 
  すでに落としどころは決まっている。自民党が二分されているなんて、信じない方がいい。 
 
 
円安でも株価は上がらなくなった
 増税に踏み切れば「アベノミクスは殺される」
田村秀男 夕刊フジ 2014年10月24日
 9月26日付の本欄で、日本の株価は変調をきたしていると指摘した。消費税増税後の景気動向を示す4~6月期の国内総生産(GDP)第1次速報値が発表された8月13日が転換点である。以来、発表される景気指標は市場に重くのしかかる。案の定、株価円建て、ドル建てとも下落局面に突入し、10月21日時点で日経平均は1万5000円を割っている。円安=株高という方程式が壊れたのだ。

 
 グラフは主要国・地域の株価をドル建てと現地通貨建ての2つの指数で表示する「MSCI」株価指数の日本編と円の対ドル相場の推移である。円建て株価指数は円安基調と並行してじりじりと上昇し、7月初めに比べたピーク(9月25日時点)の株価は5・5%上昇したが、ドル建てでみると逆に1・5%下回った。
 
 円安の度合いに比べ、円建て株価の上昇幅が少ないからだが、円建て指数とドル建て指数は日銀による異次元緩和が2013年4月4日に打ち出されて以来、ほぼ重なるようにして変動してきた。それが、今年8月中旬あたりから、かい離し始めた。そして9月末からは円建て、ドル建てとも下落基調に転じ、その後を追うように円安傾向が止まった。円高への局面変化は株を押し下げる。
 
 異次元金融緩和は円安誘導し、株高につなげて、消費者心理を好転させる狙いがある。物価は上昇し、名目ゼロ金利からインフレ率を差し引いた実質金利がマイナスになる。すると、消費者や企業はカネを貯めずに消費したり、設備や株式などに投資するので、実体景気は好転、株価も上昇を続けるというシナリオを日銀や安倍首相周辺の「リフレ派」は描いていた。
 筆者もその筋書きそのものは支持してきたが、金融緩和による円安の景気押し上げには限度があると、みなしていた。2001年3月から06年3月までの日銀による量的緩和期では円安で輸出を増やし、株価も上がったが、デフレ基調は続き、物価の下落以上に賃金が下がる。つまり実質賃金は下落し続けていた。民間設備投資の回復もほんの一時期に終わった。金融緩和策は有効に違いないが、それだけでは慢性デフレからの脱出は不可能だ。
 
 慢性デフレのきっかけは、1997年4月からの消費税増税だった。今回、消費税増税に踏み切れば「アベノミクスは殺される」と筆者は拙著などで警告したが、安倍晋三首相が信頼を寄せる黒田東彦日銀総裁は「異次元緩和があるので、増税しても景気は回復基調を続ける」と進言した。首相はそこで今年4月から消費税率を8%に引き上げたが、結果は無残である。
 
 円安は株価を浮揚させられず、実質賃金を押し下げ、それに消費税増税が追い打ちをかける。安倍首相が12月に、来年10月からの再増税を見送ったとしても、アベノミクスは効能を取り戻せるか疑問である消費税率を5%に戻せないなら、中間層以下への所得税減税も検討すべだ。何よりも必要なのは政治の危機感だ。 (産経新聞特別記者・田村秀男)