国際人権NGOヒューマンライツ・ナウが、27日、現在大詰めを迎えているといわれるTPP交渉について、TPP協定で「参加国における人権保障を大幅に後退させることは許されない」とする声明を発表しました。
ヒューマンライツ・ナウは、ISD条項を持ち 秘密交渉で進めているTPP協定の人権面からの危険性を指摘して、「ISD条項を削除し、TPP協定に、自国民の基本的人権の保護を後退させないセーフガードとなる人権保護条項を設けること」などを要求しています。
なお、たまたま28日付の孫崎享氏のブログ:「TPP閣僚会議開始 日本の主権を侵害するISDS条項を積極的に仲介しろ、と社説で主張する日本経済新聞」
が、ISD条項の危険性を分かりやすく説明していますので、興味のある方はアクセスして下さい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ヒューマンライツ・ナウは、本日「秘密裡に行われるTPP交渉- 参加国における人権保障を大幅に後退させることは許されない」声明を発表しました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
秘密裡に行われるTPP交渉
参加国における人権保障を大幅に後退させることは許されない。
2015年7月27日
国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ
1 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉に参加する日米を含む交渉当事国12カ国は2015年7月24日、米ハワイ州マウイ島で首席交渉官会合を開催、同月28日からは閣僚会合が開催される。
東京を本拠とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が交渉国における人々の人権に甚大な影響があるにもかかわらず、交渉内容が影響を受ける人々に対する一切の情報開示をしないまま秘密裡に行われていることに深刻な懸念を表明する。
2015年6月2日、国連の人権専門家は連名で、「TPPの人権への悪影響を懸念する」との異例の声明を発表し、TPP合意が交渉国の人びとの生命、食糧、水、衛生、健康、住居、教育、科学、労働基準、環境等の人権保障に多面的かつ深刻な悪影響をもたらしかねないことを警告し、貿易・投資協定の交渉に利害関係者の参加を認め透明性を図ること、協定草案のテキストを公開すること、人権に対する影響を適切に評価し人権保護規定を盛りこむことを勧告した。同月、交渉参加国の人権専門家もそれぞれ深刻な懸念を表明している。
交渉国がこうした声を握り潰し、人権を危機に晒す合意を秘密裡に締結することは許されない。
2 TPPは関税の撤廃・削減のみならず、非関税障壁の撤廃をも目的として、21もの広範囲にわたる分野を対象とし、現在も交渉が行われている。
交渉は秘密裡に行われ、日本においては、国民はもちろん、国会議員にすらその内容は明らかにされていない。しかも、交渉草案・各国提案・添付説明資料・交渉の内容に関するEメール及び交渉の中で交換されたその他の情報は、全てTPPが効力を生じた後4年間もしくは交渉の最終ラウンドの後4年間は秘密にすることとなっているとされる。
これまでリークされたTPP協定草案等の断片的な情報によれば、同協定では、自由貿易推進のためその障壁となる各国の規制を撤廃する一方で、自由貿易の建前とは本来無関係なはずの、企業の知的財産権の過度の保護が打ち出された結果、交渉国における人々の生命や身体、健康にかかる基本的人権に現実的に多大な影響を及ぼす条項が数多く盛り込まれていることが明らかになりつつある。
その例としては、
・SPS(衛生植物検疫)に関する各国の権利行使が制約を受けるほか、例えば日本の原産地規制、遺伝子組換え作物の表示規制措置が制約を受け、食の安全・健康保護・消費者保護が危機に晒される危険性
・知的財産権の保護規定による、製薬企業の特許とデータ保護の権利の強化による、安価な医薬品へのアクセスの権利の侵害と医薬品の高騰の危険性
・公的医療保険に対する民間保険の参入、営利企業の病院経営参入、混合診療の解禁による日本の国民皆保険制度の形骸化の危険性
・消費者保護の後退の危険性
・著作権保護期間の延長や著作権侵害の非親告罪化,更には法定賠償金の導入により,二次創作活動等の表現の自由,報道の自由に重大な萎縮効果をもたらす危険性
など多くの分野に及ぶ。
国連人権専門家らは、健康保護や食の安全の基準引き下げ、労働基準の引き下げや貧困の深刻化により、先住民、障害者、高齢者等社会的弱者の人権に深刻な影響が及ぶことに強い懸念を表明している。
また、TPP交渉に盛り込まれる、投資家対国家紛争解決制度(ISDS,Investor-State Dispute Settlement)の条項は、外国投資家が、貿易協定の投資に関する規定に反すると考える協定参加国政府の措置によって損害を被ったとして、投資国先政府を国際仲裁手続等に訴える制度であり、既に北米自由貿易協定(NAFTA)等の同様の規定に基づきいくつもの巨額賠償請求がされている。
そのためISDS条項は、投資家の利益のために、国家が自国民の人権保護政策(経済活動に対する規制措置)をとることを萎縮させるという看過できない結果をもたらしている。
3 このように、TPP交渉は深刻な人権への影響もたらすことが懸念されているにもかかわらず、秘密裡に進められているのである。影響を受ける可能性のあるステークホルダーや市民は、交渉過程から完全に排除され、彼らの人権に多大な影響を与える可能性のある情報にアクセスする権利も認められず、コンサルテーションの機会も保障されていないことに深刻な懸念を表明する。
2011年に採択された、国連ビジネスと人権指導原則は、原則9において、貿易協定締結等の際にも人権保障の義務を維持しなければならないと明記している。交渉は、TPP協定を理由に交渉当事国の人権保障の引き下げを強要するようなものであってはならない。
4 ヒューマンライツ・ナウは、TPPの交渉状況及び協定内容とこれらがもたらす人権侵害の危険に対し強い懸念を表明し、日本政府を含む各国政府に対し、以下の行動を求めるものである。
・TPP協定草案の開示、及び交渉過程にかかる関係文書の国民への開示を行うこと
・各分野の協定条項による影響に関する適切な評価を先行的に行うこと
・各分野の協定条項によって影響を受ける利害関係者・団体の参加と協議を行うこと
・交渉各国の国内的な人権保障のセーフガードを後退させるいかなる合意も行なわず、そのような合意のための推奨・説得も行なわないこと
・ISDS条項を削除すること
・TPP協定に、自国民の基本的人権の保護を後退させないセーフガードとなる人権保護条項を設けること
・以上のプロセスを欠いたいかなる交渉妥結をしないこと
以上