1日、安全保障関連法案を審議する衆議院の特別委員会で参考人質疑が行われました。与野党から推薦された学識経験者の発言要旨は下記の通りで、野党推薦の参考人はそれぞれ問題点を指摘しました。
与党側の参考人の1人は軍事アナリスト、もう1人は元自衛隊幹部で、2人とも安保法案を支持しました。
伊勢崎賢治 東京外国語大大学院教授(野党推薦)
現在のPKO活動は住民保護が最重要任務で、停戦が破れ、戦闘状態になっても撤退せず、住民保護のために武力行使する。自衛隊員が任務遂行中に誤って、現地の人々を傷つければ『過失』だが、自衛隊には軍法がなく、刑法の国外犯規定では過失による犯罪を裁けないので、自衛隊員個人が犯罪として責任を負う。最終的に国家が全責任を取るという法整備なしに自衛隊を海外に送ってはならない。
鳥越俊太郎氏ージャーナリスト(野党推薦)
中東地域で自衛隊が米軍を後方支援すれば、日本がイスラム教の敵と認識され、標的になる可能性がある。自民党本部で行われた懇話会での『マスコミを懲らしめるには、広告収入を減らせ』といった発言は、表現の自由を保障する憲法21条に真っ向から反する。新聞報道などで安倍応援団と書かれている人たちの議論に非常に危機感を覚える。安全保障関連法案に、世論調査では国民が反対している状況をマスコミのせいにした発言だ。安倍政権ほどマスコミに過敏に反応した政権はない。一定の萎縮効果を生んでいることは間違いない。
柳澤協二 元内閣官房副長官補(野党推薦)
憲法の下でも、わが国が攻撃を受ければ、自衛隊が戦わなければいけないというところで、自衛隊、国民、政治の3者の合意点があった。それを今度は変えて、他国に対する武力攻撃の発生によって、わが国の存立が脅かされるかどうかが武力行使の要件となる。集団的自衛権の行使事例とされている具体例は、どれをとっても、わが国の存立が脅かされるとは思えない。存立危機事態の概念に無理がある。説明できない概念をつくったとの印象だ。隊員に犠牲者が出ることは当然覚悟しなければいけない。
小川和久氏ー軍事アナリスト(公明党推薦)
集団的自衛権を使いたくなければ、日米の同盟関係を解消し、独自に防衛力を整備すればいいが、今のレベルの安全を独力で実現しようとすれば、大変な負担に耐える覚悟が必要だ。昨年7月の憲法解釈変更の閣議決定を支持する。憲法に反する部分はない。同盟関係は相互防衛が前提であり、集団的自衛権行使が前提条件だ。
折木良一 元統合幕僚長(自民党推薦)
今回の法整備は、憲法の範囲内で主体的に活動範囲、権限を法制化するという極めて意義のあるものだ。自衛隊がさまざまな脅威に切れ目なく活動することをねらって、基盤となる制度を整えることによって、最終的には抑止力の向上が図られる。日本が一国で行えることは極めて限定されている。これまでは多国の部隊との信頼関係がつくれなかったが、今回の法整備で「駆け付け警護」が可能になれば大きな前進だ。今の時代は紛争対応だけでなく、国際的な平和維持活動や災害対応など幅広い分野で、多国間の取り組みが求められている。
しんぶん赤旗が柳澤協二氏の発言をもう少し詳しく報じていますので紹介します。
しんぶん赤旗が柳澤協二氏の発言をもう少し詳しく報じていますので紹介します。
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存立危機「概念に無理」戦争法案で参考人
衆院安保特 柳沢元副長官補が批判
しんぶん赤旗2015年7月2日
戦争法案を審議している衆院安保法制特別委員会は1日、柳沢協二・元内閣官房副長官補ら自衛隊の実務や現場の実態に詳しい識者5氏を招き、2回目の参考人質疑を行いました。日本共産党からは宮本徹議員が質問に立ちました。2004~09年に官邸でイラク、インド洋派兵などの実務を担った柳沢氏は、集団的自衛権行使の要件となる「存立危機事態」について「概念自体に無理がある」と指摘し、憲法解釈変更の根幹をなす概念が成り立たないと批判しました。
宮本徹議員が質問
6月4日の衆院憲法審査会での憲法学者3氏による「違憲」判定、22日の同特別委員会での元内閣法制局長官からの「違憲」批判に続き、第1次安倍政権で自衛隊の実務を取り仕切っていた元高官からも法案の欠陥が指摘された形です。
柳沢氏は、他国に対する武力攻撃の発生で日本の存立が脅かされる「存立危機事態」の認定について、「事実」ではなく「一種の価値判断」であり、「因果関係を通じて一義的な定義ができない概念だ」と指摘。「もともと説明できない概念をつくった印象だ」と述べ、自衛権行使の要件にならないと批判しました。
世界各地で紛争処理にあたった経験をもつ伊勢崎賢治・東京外国語大大学院教授は、国連平和維持活動(PKO)の現場で参加部隊が住民保護任務で武装勢力と交戦を繰り返している実態を紹介。「住民と戦闘員の区別がつかない。(自衛隊が)誤射する場合がある」と警告しました。
伊勢崎氏は、法案のPKO任務拡大により「(これまで犠牲者がなかったという)奇跡で済む可能性は非常に薄くなる」と指摘しました。柳沢氏も「常識的に犠牲者が出ることは覚悟しなければならない」と述べ、戦死者は不可避との考えを示しました。
ジャーナリストの鳥越俊太郎氏は、自民党議員の言論弾圧発言について、「憲法21条の表現の自由の保障に真っ向から反する」と厳しく非難。安倍政権について「これほどマスコミに過敏反応する政権はない。萎縮効果を生んでいる」と危機感をあらわにしました。