厚労省が8日発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、2015年の働く人一人当たりの給与総額(名目賃金)は月平均31万3856円で前年より0・1%増えたものの、物価の影響を考慮した実質賃金は0・9%減で、四年連続のマイナスでした。
つまり「基本給の額面は少し上がったが、物価がそれ以上に上がり、生活は苦しいまま」というのが実態ということです。
経済学者の植草一秀氏は、「アベノミクスの第一の柱の金融緩和政策はインフレ誘導を目指すものであるが、インフレは借金を抱える企業、賃金を支払う企業にとっての利益になるが、賃金をもらう労働者、貯蓄に生活を依存する国民には損失を与えるもので、実質賃金は下落する」として、これでは経済は活性化せずにインフレ誘導という政策自体が間違っていると述べています。
東京新聞の記事と植草一秀氏のブログ:「知られざる真実」を紹介します。
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実質賃金4年連続下げ 生活苦しいまま
東京新聞 2016年2月8日
厚生労働省が八日発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、二〇一五年の働く人一人当たりの給与総額(名目賃金)は月平均三十一万三千八百五十六円で、前年より0・1%増えた。増加は二年連続。ただ物価上昇の方が大きかったため、物価の影響を考慮した実質賃金は0・9%減で、四年連続のマイナスだった。
多くの大企業は一五年春闘で、賃金を底上げするベースアップ(ベア)を二年連続で実施したが、賃上げは物価の伸びには追い付かず、働く人が景気回復を実感する状況にはなっていない。
給与総額を就業形態別にみると、正社員などフルタイムで働く一般労働者は0・4%増の四十万八千四百十六円、パート労働者は0・5%増の九万七千八百十八円だった。働く人のうちパートの占める割合は30・46%で、過去最高を更新した。
働く人全体の給与の内訳は、基本給などの所定内給与は0・3%増の二十三万九千七百十二円で、十年ぶりに増加。残業代などの所定外給与は0・4%増の一万九千五百八十六円、ボーナスなど特別に支払われた給与は0・8%減の五万四千五百五十八円だった。
同時に発表した一五年十二月の給与総額は前年同月と比べ0・1%増の五十四万四千九百九十三円だった。実質賃金は0・1%減だった。
◆増税、円安…ベア帳消し
毎月勤労統計調査(速報)の二〇一五年の実質賃金指数は前年比0・9%減となった。「基本給の額面は少し上がったが、物価がそれ以上に上がり、生活は苦しいまま」。これが調査が示す国民の実感だ。
しかも実質賃金のマイナスは四年連続。このうち三年間は安倍政権の経済政策、アベノミクスが推し進められてきた期間と一致する。統計は、アベノミクスは物価を押し上げることには成功したが、国民生活が向上する効果は十分に出ていないことを示している。
アベノミクスは「金融緩和や財政出動でまず企業収益を高める。それが労働者の賃金上昇につながり、消費が活発化して再び企業がもうかる」という循環を狙った経済政策。確かに政府が介入した「官製春闘」の効果もあり、一五年春は多くの大企業が二年連続のベースアップに応じた。
一方で一四年四月には消費税増税があり、金融緩和に伴う円安で輸入物価は上昇。食料品や生活必需品の価格は上がった。一四年夏に始まった原油価格の大幅下落がなければ物価はもっと上がっていたはず。政府主導のベアは、これらの物価の伸びには追いつかず、多くの国民は給与増を実感できていない。 (山口哲人)
アベノミクス失敗という不都合な真実
植草一秀の「知られざる真実」 2016年2月 7日
アベノミクスは全体として失敗している。
2012年12月に発足した第二次安倍政権が打ち出した経済政策を、安倍政権自身がアベノミクスと命名して宣伝した。
アベノミクスは三つの政策から成り立っている。
第一が金融緩和、
第二が財政出動
第三が成長戦略
である。
金融緩和はインフレ誘導、円安誘導を目的に掲げられたもの。
消費者物価上昇率を2%にまで引き上げることが公約として示された。
円安誘導は、当初の安倍晋三氏の発言で明示されていたが、米国などが、他国の自国通貨切下げ政策に対する批判を強めたため、「円安誘導のための金融緩和」という説明は使われなくなった。
しかし、当初、安倍晋三氏が円安誘導を目指すことを公言していたことは事実である。
第二の政策が財政出動であり、安倍政権は政権発足直後に13兆円規模の2012年度補正予算を編成した。
第三の政策は成長戦略であるが、これは、企業利益の拡大を目指すものである。
アベノミクスの核心がこの部分にあるが、賛否は分かれる。
私はこの成長戦略こそ、アベノミクスの誤りの核心であると確信する。
金融政策、財政政策、構造政策は経済政策の基本三政策であり、まったく目新しいものではない。
アベノミクスは 金融緩和、財政出動、規制改革 を内容とするものであって、普通の経済政策である。
安倍政権が軌道に乗ることができた最大の理由は、株高が進行したことにある。
この株高に貢献した第一人者は、野田佳彦氏である。野田佳彦政権が最低、最悪の経済政策を実行して、日本の株価が暴落水準で推移した。野田佳彦政権は財務省の傀儡(かいらい)政権で、超緊縮財政政策を強行した。その結果、日本経済が低迷、株価が暴落水準で推移したのである。
安倍政権は野田政権の超緊縮財政を修正した。
これが、2013年5月にかけての日本株価急騰の大きな背景になった。
この株高をもたらした影の主役は、実は野田佳彦氏だったのだ。
他方、米国長期金利が2012年7月を境に上昇に転じた。
これがドル高=円安進行の主因である。これに安倍政権の金融緩和政策が加わり、急激な円安が進行した。
日本株価は為替連動で変動しており、急激な円安進行が、急激な日本株価上昇をもたらした。これで安倍政権が浮上したのである。
しかしながら、アベノミクスの三つの政策内容を高く評価することはできない。
第一の金融緩和政策はインフレ誘導を目指すものであったが、実際にインフレ率が1%台半ばまで上昇した2014年に生じたことは何であったのか。
それは実質賃金の大幅下落だった。
インフレは借金を抱える企業、賃金を支払う企業にとっての利益になるが、賃金をもらう労働者、貯蓄に生活を依存する国民に損失を与える。インフレ誘導という政策自体が間違っていた。
第二の財政政策について、2013年は積極財政が日本経済の浮上に一定の役割を果たした。
しかし、2014年は消費税大増税が日本経済を撃墜した。
その後の2015年度も緊縮財政、2016年度の緊縮財政は極めて強度のものになる。
そして第三の成長戦略こそ最大の問題である。その狙いは大企業の利益増大である。
大企業の利益を増大させる最大の方策は労働者に支払う賃金の圧縮である。
成長戦略とは労働者への分配所得を減少させ、大企業利益を増大させる政策である。
さらに税制では、法人税減税を拡大する一方、所得ゼロの国民からも税をむしり取る消費税大増税が推進されている。
このアベノミクスで日本経済が浮上することはなく、庶民の生活は破壊されるばかりである。
(中 略)
(以下は有料ブログのため非公開)