3日、衆院予算委で安倍首相が、稲田自民党政調会長の質疑に便乗する形で9条改憲に言及しました。
稲田氏の質疑は、「日本の現実は9条2項から乖離しているので、それを放置しておくことこそが立憲主義の空洞化だ」(要旨)として、首相に9条改憲の発言を促したものでした。戦後の日本を主導してきた自民党の首脳部からこうした発言が行われるのは意外です。
個別自衛権(=自衛隊)が憲法9条と整合していることはほかならぬ内閣法制局が認めて来たことで、例えば阪田雅裕・元内閣法制局長官は次のように述べています。
「9条だけでなく全体をよく見れば、憲法は前文に国民の平和的生存権、13条に国民の幸福追求権を規定している。国民が平和的に暮らせるような環境を整備し、人間として幸福を精いっぱい追求できる状況を保つことが、国の責務として書かれている。
外国から武力攻撃があれば直ちに国民の生命、財産が危機にひんする。これを主権国家が指をくわえて見ていろというのは憲法の要請かということだ。国民を守るために外国の攻撃を排除するだけの実力組織が必要」※
警察予備隊~保安隊を経て、自衛隊が新たに創設されたときには確かに「9条違反」という批判が澎湃として興りましたが、今日では軍事力レベルが適切かの議論はあっても、自衛隊自体を否定する理論は極めて少数派となっています。
稲田氏の主張を呼び水として、首相が「憲法学者の7割が自衛隊の存在自体に違憲の恐れがあると判断している以上、当然、集団的自衛権も違憲と批判するのだろう」などと述べるのは、意味不明の暴論というしかありません。
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首相が9条改憲を訴え 衆院予算委で条項に直接言及
東京新聞 2016年2月3日 夕刊
衆院予算委員会は三日午前、安倍晋三首相と全閣僚が出席し、二〇一六年度予算案に関する基本的質疑を始め、実質審議に入った。首相は、戦力の不保持を規定した憲法九条二項について「七割の憲法学者が、自衛隊に対し憲法違反の疑いを持っている状況をなくすべきだという考え方もある」と述べ、改憲の必要性を訴えた。
首相は、集団的自衛権の行使容認を柱とした安全保障関連法について「違憲」と判断する憲法学者が多いことに関連し、「憲法学者の七割が自衛隊の存在自体に違憲の恐れがあると判断している。自衛権の行使そのものが違憲だと解釈している以上、当然、集団的自衛権も違憲になるんだろう」と指摘した。
首相は、自衛隊は違憲ではないとした現行の政府解釈を説明。その上で、九条改憲で自衛権や国防軍創設を明記した自民党の改憲草案について、「党として将来あるべき憲法の姿を示している。私たちの手で憲法を変えていくべきだという考えで草案を発表している」と強調した。
国会での改憲発議については「国会は国民に(改憲の)判断を委ねるための発議をするだけだ。国民に決めてもらうことすら国会議員がしなくていいのか。責任放棄ではないかと自民党の国会議員が考え抜いて、われわれの考え方を(草案で)示した」と説明した。
自民党の稲田朋美政調会長が「現実に合わなくなっている九条二項をこのままにしておくことこそが立憲主義の空洞化だ」と、九条改憲をただした質問に、首相が答弁した。
首相は改憲について、先月四日の年頭記者会見で、夏の参院選の争点にする考えを表明。先月二十二日の施政方針演説では「正々堂々と議論し、逃げることなく答えを出していく。その責任を果たしていこう」と各党に呼び掛けるなど、たびたび前向きな姿勢を示してきた。
ただ、どの項目の改憲に優先して取り組むかは明示していない。この日も「具体的な改正内容は、国会や国民的議論と理解の深まりの中でおのずと定まってくる」と答弁。同時に「国民主権、基本的人権の尊重、平和主義など現行憲法の基本原理を維持することは当然だ」とも強調した。
<憲法9条> 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。