2016年2月17日水曜日

高市総務相の「停波命令 是認発言」に抗議 東京弁護士会長が声明

 東京弁護士会会長)は、高市総務相が2月8日の衆議院予算委員会で、「放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返し、行政指導しても全く改善されない場合」として、放送法4条違反を理由に電波法76条に基づいて政府が電波停止を命じる可能性に言及したことに対して、「それは誤った法律の解釈に基づき放送・報道機関の報道・表現の自由を牽制し委縮させるもので、民主主義を危うくする」と抗議するとともに、その認識の誤りを指摘する声明を出しました。
 
 高市氏は、昨年11月6日にも、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会がまとめた報告書で、同相が4月末にNHKを厳重注意したことを厳しく批判されました。
 それにもかかわらず彼女は同日直ちに、「放送法の番組基準は倫理規範ではなく、拘束力を伴う法規範性がある」と反論するなど、放送法を熟知する識者たちの指摘を受け入れる誠実さもまたそれを理解する知性も持たないままで今日に至っています。総務相に相応しくないお粗末な人間というしかありません。
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高市早苗総務大臣の「放送法違反による電波停止命令を是認する発言」に抗議し、その撤回を求めると共に、政府に対し報道・表現の自由への干渉・介入を行わないよう求める会長声明
2016年02月16日
東京弁護士会 会長 伊藤 茂昭
 高市早苗総務大臣は、2月8日の衆議院予算委員会で、野党議員の「憲法9条改正に反対する内容を相当の時間にわたって放送した場合、電波停止になる可能性があるか」との質問に対し、「放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返し、行政指導しても全く改善されない場合、それに対して何の対応もしないと約束するわけにいかない」と述べ、政府が放送局に対し放送法4条違反を理由に電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性に言及した。そして、「政治的に公平」の意味として、「国論を二分する政治課題で一方の政治的見解を取り上げず、ことさらに他の見解のみを取り上げてそれを支持する内容を相当時間にわたり繰り返す番組を放送した場合」などと列挙した。また、菅官房長官や安倍総理も、この発言を「当然のこと」「問題ない」として是認している。
 
  しかし、このような発言や政府の姿勢は、誤った法律の解釈に基づき放送・報道機関の報道・表現の自由を牽制し委縮させるもので、我が国の民主主義を危うくするものである。
 民主主義は、情報の流通があってはじめてその機能が十分に発揮されるものであり、そのために憲法21条1項は「表現の自由」を規定し、国民の「知る権利」及び報道機関の「報道の自由」も表現の自由の具体的権利として認められるものである。放送局や新聞社、出版社などは、情報を国民に提供し、国民の知る権利を豊かなものとするために表現の自由を保障され、その任務を全うしているのである(最高裁大法廷昭和44年11月26日決定「博多駅フィルム提出命令事件」)。そして、憲法21条2項は検閲の禁止を定めているが、これは政府機関によるいわゆる表現物の発表前の「検閲」を絶対的に禁じるのみならず、その趣旨から、表現内容に対する規制を行わないことを定めるものである。
 
 放送法は、4条において放送事業者の番組編集基準の一つとして「政治的に公平であること」を挙げているが、その目的として第1条二号に於いて「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」と定めており、1950年の放送法の制定時にも、当時の政府は国会で「放送番組については、放送法1条に放送による表現の自由を根本原則として掲げており、政府は放送番組に対する検閲、監督等は一切行わない」と説明している。
 
  このように憲法において定められた表現の自由および放送法第1条に定められた放送法の目的及び放送法全体の趣旨からすれば、放送法4条が放送内容への規制・制限法規範になるものではなく、放送事業者の自律性における倫理規定に過ぎないことは明らかである。然るに、政府が、放送法4条の「政治的に公平」という言葉に部分的に依拠しそれが放送事業者に対する規制・制限法規範であると解釈して、行政指導の根拠とすることは許されず、さらに違反の場合の罰則として電波法76条1項による電波停止にまで言及することは、憲法および放送法の誤った解釈であり許されない。放送法は、6条以下で放送事業者に放送番組審議機関(いわゆるBPO)を設置させているが、この趣旨は、行政権とは相対的に独立した機関による強制力のない指導勧告を行わせるに留めるものである。また放送法4条の公平性については、一つの番組だけで判断するのではなく、その局の番組全体で判断するものとし、恣意的な規制が行われないような判断基準が定立されている。
 
 以上のような表現の自由は民主主義社会の成立にとって根源的な権利として保持されなければならないものである。しかるに今般の高市総務大臣の発言や政府の姿勢は、放送内容に対する具体的な法規制を実際には行うに至ったものではないが、誤った解釈により行政権の介入の可能性に言及することによって放送局に対して重大な萎縮効果を及ぼす可能性がある。放送法4条についての今般の解釈を許すならば「政治的に公平である」ということの判断が、時の政府の解釈により、政府を支持する内容の放送は規制対象とはならず、政府を批判する内容の放送のみが規制対象とされることが十分起こり得る。さらに、電波停止を命じられる可能性まで示唆されれば、放送事業者が萎縮し、公平中立のお題目の下に政府に迎合する放送しか行えなくなり、民主主義における報道機関の任務を果たすことができなくなる危険性が極めて高くなるものである。
 
  よって、報道・表現の自由を萎縮させ、国民の知る権利を侵害し立憲民主主義を損なう高市早苗総務大臣の発言に強く抗議し撤回を求めると共に、政府に対し報道・表現の自由への干渉・介入となり得るような行政指導や発言を行わないよう求める。