2016年2月7日日曜日

自民党の改憲草案は日本を旧憲法状態に戻そうとするもの

 5日のブログ:「明日の自由を守る若手弁護士の会」が、現行の憲法が「基本的人権」を「公共の福祉に反しない限り」認めるとしているものを、自民党の改憲草案はそれらを、ことごとく「公益及び公の秩序に反しない限り」に変えようとしていることを取り上げました。
 
 現行の憲法では、「基本的人権」は基本的に法律によっては制限されることはなく、各人の基本的人権が「干渉」しあうときに「公共の福祉」という概念を導入してその範囲内に限定されるという考え方で、具体的には裁判で判断されることになります。(「公共の福祉」は各人の自由や権利が折り合うところということになります)
 
 それに対して「公益及び公の秩序に反しない限り」となると、政府の見解や法律による規制によって「公益や公の秩序」が規定されるので、結局政府や国会によって「基本的人権」が自由に制限を受けることになります。
 
 これは戦前の旧憲法(大日本帝国憲法)の世界に戻ることを意味します。
 戦前(あるいは戦時下)には基本的人権=居住の自由、転居の自由、通信の秘密、信教の自由、言論・出版の自由、集会・結社の自由など=がことごとく制限されましたが、その憲法上の根拠となったものは下記の条文でした。
 
  大日本帝国憲法
  第2章 臣民権利義務
第22条 日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ居住及移転ノ自由ヲ有ス
第26条 日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外信書ノ秘密ヲ侵サルヽコトナシ
第28条 日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス
第29条 日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及結社ノ自由ヲ有ス
 
 自民党の改憲草案の「公益及び公の秩序に反しない限り」は、大日本帝国憲法の「法律ノ範囲内ニ於テ」を言い換えたものに過ぎません。たまたま「公共の福祉に反しない限り」とゴロが似ているのでそれを用いたものと思われます。
 
 以下に5日のブログ:「明日の自由を守る若手弁護士の会」を紹介します。
 文中の赤字強調部分は原文に従っています。
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安倍首相の執念はホンモノ。
でも憲法のことも改憲草案のことも分かってなさげ。 
 明日の自由を守る若手弁護士の会 2016年2月5日
 昨日の国会で、安倍首相は稲田朋美議員から憲法改正について問われ、改めて意欲満々であることを述べました。

 すごく不誠実… というか、自分に都合の良いときだけ「たくさんの憲法学者がそう言ってるんだから」と持ち出してくる(でもほとんどの憲法学者が違憲だと言って大反対した安保関連法については、都合悪いから無視という)姿勢は、とても一国のリーダーとは思えないたたずまいです。

 9条改憲に首相踏み込む 「学者7割が自衛隊違憲。その状況なくすべき」(東京新聞)
 この答弁の中で安倍首相は何度か自民党の改憲草案について言及しました。
 首相は「自由民主党として、将来のあるべき憲法の姿をお示ししています。」と胸を張るその改憲草案について「国民主権、基本的人権の尊重、平和主義など、現行憲法の基本原理を維持することは当然のことであり、私たちの憲法草案においてもそれは貫かれている」と述べたのです。 …(-_-)?
 自民党の改憲草案を見てみましょう。
●12条後段
 国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。 
●13条 
 全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。
●21条2項
 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。

 この世に生まれたかけがえのない1人ひとりが尊厳ある個人として生きる上で必要不可欠な利益、それが基本的人権です。
その基本的人権よりも、「公益」や「公の秩序」の方が大事だと考え、それを優先させて人権の制約を可能にしてしまうのが、自民党の改憲草案。
近代民主主義国家が必ず土台にしている価値観を根底から覆している草案なのに、「基本的人権の尊重が自民党の改憲草案においても貫かれている」って…なにそれ??

 首相は自民党の改憲草案をお読みになっていないのか。読んでも理解できてらっしゃらないのか?

 平和主義についてもまたしかり。
 戦争放棄、そして一切の武力を持たないと宣言した憲法9条は、自民党の改憲草案によればズタズタに壊されています。
 国防軍の設置、集団的自衛権の行使、軍法会議(軍事裁判所)の設置、軍隊の国内における治安維持活動…しっかりと、国民を総動員させて戦争する国に作り替えられています。
 なのに、「平和主義が自民党の改憲草案においても貫かれている」って …なにs(略)

 自民党の改憲草案は、「近代国家をやめる」宣言です。
 文明国家をやめる宣言といってもいい。そのおそるべき内容を、何一つ理解しないで堂々と、日本国憲法と同じ価値観で書かれているかのようにおっしゃる安倍首相の不勉強っぷりは、まことに罪深いものです。

 あすわかはかつてバレンタインデーに、首相に憲法の教科書を贈りました。
 この国に生きる国民として、法律家として、リーダーに憲法への理解・造詣を深めてもらわないと安心して暮らしていけないという不安から、どうか頼れる民主主義国家のリーダーになってもらえないものかという切実な思いでした。
あれから2年経ちましたが、首相の憲法への無理解は、残念ながら相変わらずです。

 …絶望していても仕方ありませんね!
 私たちは私たちで、今日もせっせと主権者アンテナを磨くべく、
 政治を見つめ、憲法を学びましょう。