2016年2月10日水曜日

[政治考] 9条改憲にふみこむ首相 戦争法とつじつま合わせ

しんぶん赤旗 2016年2月9日  
 安倍晋三首相が国会答弁で、戦力不保持を規定した憲法9条2項の改定=削除に連日言及しています。自ら、昨年9月の戦争法=安保法制の強行で、憲法で権力を縛るという立憲主義を破壊しながら、9条の条文そのものを変えようというのです。
 
メディアも批判
 3日の衆院予算委員会で安倍首相が、7割の憲法学者が自衛隊に違憲の疑いを持っている状況を引き合いに出し、「憲法違反の疑いを持っている状況をなくすべきだ」と9条改憲を発言したことに、全国紙・地方紙が批判の社説を掲げました。
 「首相の改憲論 あまりの倒錯に驚く」(「朝日」6日付)、「ご都合主義の改憲論だ」(東京・中日新聞4日付)。
 9条改憲を迫った自民党議員への答弁とはいえ、なぜ今9条2項改憲なのか。
 
 「甘利経済再生相の辞任で内閣支持率低下は避けられないと思っていたが、逆に上昇した。(衆参)ダブル選へ意欲を強めている」「年末の日韓『慰安婦』合意では、右派から突き上げも受けており、それへの対応という面もある」
 自民党関係者からは、安倍首相が9条改憲を打ち出す危険な状況についてのさまざまな「解説」も聞かれます。「安保法制に『違憲』の批判があるのに対し改憲で対抗する。首相の性分だ」と述べる関係者もいます。
 
 護憲か改憲かの違いを超え戦争法反対・立憲主義回復を求める国民的共同が広がるなか、改憲を打ち出すことで野党や世論の分断を狙う意図も透けて見えます。
 明文改憲について前のめり姿勢を強める安倍首相が核心である9条改憲へ踏み込む根底には何があるのか、右崎正博独協大学教授(憲法学)は次のように指摘します。
「2014年の『閣議決定』と昨年の戦争法で、従来の政府見解を覆し、集団的自衛権の行使をはじめ海外での武力行使を認めるさらなる解釈改憲・立法改憲を強行しました。ますます憲法9条とつじつまが合わなくなったのを一挙に打開するため、改憲案では『国防軍』を創設するとまでいっています」
 
世論とも隔たり
 年明けの世論調査では戦争法「反対」は多数で、国民世論との矛盾も深刻です。戦争法廃止・立憲主義回復へ、参院選挙で政策の違いを横において野党共闘を求める市民の声も拡大しています。
 自民党の稲田朋美政調会長は3日の衆院予算委員会で、「(改憲は)やりやすいところからやるという議論もあるが、9条2項などのように本質的な議論をする」と述べています。本質的な議論に向かわざるを得ないという「本音」です。
 
立憲主義の破壊者が「改憲」論
 安倍首相や自民党の稲田政調会長は、自衛隊を憲法に位置づける角度で9条改憲を強調します。
「憲法学者の7割が自衛隊の存在自体が憲法(9条2項)違反であると解釈している以上、当然、集団的自衛権も憲法違反になっていく」「しかしながら…いまや自衛隊に対する国民の支持はゆるぎない」(安倍首相、3日)
 
「合憲」論の根拠
 しかし、安倍首相が同じ答弁の中で、自衛隊について「自衛権の行使を裏付ける必要最小限度の実力組織」と述べたように、自衛隊は9条2項が禁じた「戦力」にはあたらないとして「合憲」とされてきました。
 自衛隊が「戦力」ではないとされる最大の根拠が、集団的自衛権の行使をはじめ海外での武力行使はできないというルールでした。国民の多くも、それを前提に自衛隊を受け入れてきました。
 こうした政府解釈や国民意識の前提を、戦争法で乱暴に破壊し、自衛隊「合憲」論の“根拠”を自ら壊したのが安倍政権です。だからこそ、保守派も含む広範な国民が立憲主義破壊に対する空前のたたかいに立ちあがっているのです。
 
世論は9条支持
 もともと安倍首相が「憲法解釈の変更」によって海外派兵に突き進んだのは、9条改憲反対の世論の壁があるからです。昨年、NHKが行った「憲法改正」についての世論調査では、憲法9条が「戦後果たした役割」を「評価する」とした人は79%に上りました。その他マスメディアの調査でも「9条改正」に「反対」が6割を超えています(「朝日」15年5月2日)。国民は、9条を支持しています。
 
 解釈改憲による戦争法が国民から「違憲」と批判されて、明文改憲を持ち出しても通りません。
 しかも9条2項を削除し、戦争法を「追認」するかのように自衛隊を世界標準の軍隊=「国防軍」とするのが自民党改憲案です。同改憲案では集団的自衛権の行使も、海外での武力行使も無制限に可能とされます。
 そもそも立憲主義の破壊者に、「憲法改正」を語る資格はありません。自衛隊「合憲」論を利用した、海外派兵体制の完成に向けた改憲論も成り立ちません。(中祖寅一)
 
衆院予算委員会での安倍晋三首相の発言
 
3日 「(自民党改憲草案で)第9条第2項を改正して、自衛権を明記し、また新たに自衛のための組織(国防軍)の設置を規定するなど、将来のあるべき憲法の姿を示している」
 
    「先の総選挙においても憲法改正を目指すことは明確に示している」「(国会発議を)国会議員がしなくていいのか。それは責任の放棄ではないか」
 
4日 「(9条2項は)変えていくということでお示ししている」「思考停止になってはならない」
 
5日 「(9条2項を)変えるという憲法改正草案を出している。自民党総裁としては同じ考え方だ」「実力組織である自衛隊の存在をしっかり明記する」