警察による盗聴の拡大(対象罪種を現行の4から13に)や冤罪を誘発する危険の高い司法取引制度の導入、そして取調べ過程の部分的な録音・録画などを盛りこむ刑訴法等改悪案が、14日に参院法務委員会で実質審議入りしました。
信書の秘密は憲法で謳われていますが、それと同じい筈の個人的な会話を官憲が盗み聞きしていい筈がありません。
悪名高い司法取引は、犯罪の被疑者が他人の犯罪を供述することで、自らの訴追を免れたり刑の減免を受けられる制度であって無実の他人を罪に陥れる危険を大いにはらむものです。
取り調べの録音録画(可視化)も部分的なものでOKとなれば、例えば「官憲が被疑者に自白を強要する場面や、自白すれば死刑は免れるからなどと騙す場面」は隠して、「淡々と話しているところだけ」を録画して法廷に提出すれば、見た人に間違った印象を与えることになります。
かつて(2013年5月)日本の司法制度は、国連拷問禁止委員会で「制度の不透明性は『中世の名残り』である」と批判されましたが、一向に改めようとしないどころか更に改悪しようとしています。
法曹5団体による共同声明としんぶん赤旗の記事を紹介します。
(関係記事)
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盗聴法(通信傍受法)の大幅拡大および刑事訴訟法の改悪に反対し、
刑事訴訟法等改正案の廃案を求める法律家団体の共同声明
1 昨年、国会に提出された刑事訴訟法等改正法案(以下「本法案」という)は、盗聴の大幅拡大、冤罪を誘発する危険の高い司法取引(証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度)や刑事免責制度、恣意的運用を許す取り調べの録音録画制度、証人特定事項の秘措置などの導入、ビデオリンクの拡大といった、憲法・国際人権法や刑事手続の基本原則と相容れず、人権侵害の危険のある内容が一括して盛り込まれた法案である。
冤罪被害者、冤罪被害者支援の市民、弁護士、学者らの強い反対の声により成立が阻まれ,、参議院法務委員会で継続審議に付されたが、政府・与党は、今国会において、短時間の拙速な審議で本法案を成立させようとしている。
2 そもそも本法案は、2009年の厚労省事件における検察官の警標改竄という重大な不祥事に端を発し、法制審議会に設置された特別部会の審議を受けた答申に基づくものであるから、本来は、冤罪を生まない刑事司法改革の法案でなければならなかった。ところが、上記特別部会のとりまとめならびに本法案は、冤罪防止を骨抜きにし、立法の必要性を十分吟味しないまま、捜査権限の拡大強化のみを図っており、極めて遺憾である。
3 盗聴法は、プライバシー侵害及び令状主義違反の点でそれ自体違憲の疑いがある。ところが本法案は、対象犯罪を、現行法の薬物・銃器・集団密航・組織的殺人の4類型から、窃盗、詐欺などを含む一般犯罪に大幅に拡大するとともに、手続要件についても、現行法が要求する通信事業者の立会を不要としつつ、第三者機関による監視も規定しないなど大幅に緩和するものであり、冤罪防止とは全く無関係であるばかりか、特定秘密保護法などと結びつき、警察による人権侵害、国民監視がいうそう強く懸念される内容となっている。
4 司法取引は、公務執行妨害、文書偽造、汚職、詐欺、恐喝、横領、薬物、銃器、証拠隠滅など、きわめて広範囲の「特定犯罪」の被疑者について、他人の「特定犯罪」を供述すれば自らの訴追を免れたり刑の減免を受けられる制度であり、無実の他人を罪に引き込む危険を常にはらむ制度である。これに証人特定事項の秘匿措置などが加わると、証人の素性が知りえないということにもなりかねず、防御活動は著しく制約される,刑事免責についても、同様の問題が指摘できる。
5 取調べの録音録画は、本来、自白強要による冤罪を防止するため、全ての事件の取調べの全過程を「可視化」するものと期待されていた。しかし、本法案では、対象事件が、全公判事件の約3%に過ぎない裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件に限定された上、「記録をすると被疑者が十分に供述できないと認めるとき」などの大幅な例外が設けられ,、捜査機関による恣意的運用を許すものとなっている。そのため、本法案は、取調べを規制するどころか、訴追側に都合のよい取調べだけを録画し、これを検察官が裁判所に証拠提出することによって自白の「任意性」立証を有利にする運用をもたらし、かえって冤罪を助長する危険がある。
6 私たら法律家団体は、立場の違いを超え、基本的人権を守り、冤罪の根絶と真の刑事司法改革を願う立場から、冤罪被害者、冤罪被害者を支援する市況、長年にわたり盗聴法の廃止を求めてきた市民、本法案への反対を表明する単位弁護士会などと手を携え、本法案の人権侵害の危険性を訴え、国会での徹底した審議を要求するとともに、本法案の廃案を求めるものである。
2016年3月22日
社会文化法律センター 代表理事 宮里 邦雄
自由法曹団 団長 荒井 新二
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 原 和良
日本国際法律家協会 会長 大熊 政一
日本民主法律家協会 理事長 森 英樹
さらに冤罪生む危険 仁比氏 刑訴法改悪案審議入り 参院法務委
しんぶん赤旗 2016年4月16日
刑事訴訟法等改悪案が14日の参院法務委員会で審議入りしました。日本共産党の仁比聡平議員は、警察や検察が恣意(しい)的に録音・録画を行い得る重大問題を抱えている法案だと指摘。捜査機関が組織ぐるみで虚偽の自白を迫り、数々の冤罪(えんざい)を生み出してきた怖さを深く認識することが審議の前提だと強調しました。
法案について政府は「対象事件の全過程が録音・録画される」と説明してきましたが、仁比氏は、冤罪の温床となってきた任意同行や別件逮捕、起訴後の拘留のもとでの取り調べに録音・録画は義務づけられていないことを明らかにし、法務省の林眞琴刑事局長はいずれも対象にならないと認めました。
質疑を通して「一部可視化」にすぎない同法案は、恣意的な録音・録画で逆に冤罪を生み出しかねない危険が浮き彫りになりました。
仁比氏は、うその自白をしてしまう原因について、1967年に発生した強盗殺人事件(布川事件)の冤罪被害者・桜井昌司さんが「心が折れるまで圧力をかけられ、何があっても有罪と思い込まされる」と述べていると指摘。「取り調べの過程全体を事後的に検証できるものにすることが刑事司法改革の出発点だ。自白は怖いと思わないか」とただしました。
岩城光英法相は「自白は慎重な吟味が必要」と繰り返すだけで、まともに答えられませんでした。
仁比氏は、栃木県今市市(現日光市)の女児殺害事件(2005年)でも、被告人が自白するまでどんな取り調べがあったのかは明らかでなく、初めて自白したときの様子も録画されていないと指摘しました。