2016年4月2日土曜日

安倍政権の場当たり的な奇策 間違った戦略では財政は健全化しない

 こんなアベノミクスが何の効果も上げずにガタガタになっているいまの経済情勢下で、消費税の税率アップなどあり得ないということは殆どの経済評論家が述べているところです。安倍首相もそう思うからこそ、外国の著名な経済学者などを招いて「国際金融経済分析会合」を行い、そこで諸費税の増税は行うべきでないという結論が得られればそれを口実に再延期しようとした筈ですが・・・
 
 1日の日刊ゲンダイによると、何と首相の周辺では「消費増税の還元計画」が練られているということです。それは予定通り来年4月の増税を決行した上で、来年度に限って税の増収分を何らかの形で国民に全額還元するというもので、そうすることでアベノミクスの失敗を自ら認めることが避けられるし、当面している課題に対処するための資金(税収増4~5兆円)も得られる、それに増税を実行することで財務省にも言い訳が立つという虫のいいものです。
 そんな風に奇妙奇天烈な手段で自らの失政を糊塗することができたとしても、もともと消費増税が出来る状況でないのに無理に増税することに変わりはないので、経済がガタガタになって「失われた20年」なりがさらに無期限に延長されるのは間違いありません。
 
 エコノミストの高橋乗宣は、現状は「本予算が成立した途端、補正案の編成も念頭に政権内で新たな経済対策の検討に追い込まれるほど、あらゆる経済指標は悪化の一途をたどっている。経済の惨状を目の当たりにして、安倍首相はなぜ、自身の経済政策を見直そうとしないのか。本当に不思議でならない」と、場当たり的な対応を酷評しています。
 
 日刊ゲンダイの二つの記事を紹介します。
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場当たり安倍政権 消費増税決行で“バラマキ還元”計画も
日刊ゲンダイ 2016年4月1日
 マーケットの8割強が増税延期を織り込み済みのようだ。国際ニュース配信社ロイターがエコノミストやアナリストを対象に行った緊急調査によると、回答した21人のうち18人が来年4月の消費税率引き上げについて、「安倍首相は延期する」と予想した。
 
  ここまでマーケットに先送りが浸透してしまうと、いざ予定通り増税を強行すれば、猛烈な失望売りを招くに違いない。“株価連動”内閣にとっては大ダメージだが、かといって、やすやすと再び増税を見送れば、今度こそはアベノミクスの失敗を自ら認めたも同然になる。国政選挙を控え、その政治的デメリットも考えざるを得ない。
 
  ただでさえ、安倍政権は昨年暮れにスッタモンダの末、軽減税率の導入を決定。今月16日には、レジを改修する小売業者を支える補助金の内容を発表したばかりだ。
 「具体的には一業者あたり200万円を上限に、レジの買い替えや改修費用の3分の2を肩代わりします。対象は中小業者のみで、補助額は経産省所管の独立行政法人『中小企業基盤整備機構』を通じて、国が全額負担する。その財源として15年度予算の予備費から約1000億円を充てます。仮に増税を見送れば、レジ改修に動いた業者だけではなく、巨額の予算を子育て支援策など優先課題に回せたはずだと、国民の反感を招きかねません」(自民党関係者)
 ジレンマにさいなまれた安倍首相の周辺で、密かに検討されているのが、消費増税の還元計画だという。予定通り来年4月の増税を決行した上で、来年度に限って税の増収分を何らかの形で国民に全額還元する“ウルトラC”だ。財政出動による新たな経済対策の検討ムードをしきりに漂わせているのも、還元計画の一環とみる向きもある。
 
 「税率を10%に引き上げると、軽減税率導入による減収額1兆円を差し引いても、4兆~5兆円の税収増が見込めます。この財源を使って保育士給与の月額1万2000円アップなど待機児童問題を一気に片付け、消費喚起策にも打って出る。額面を上回る買い物ができるプレミアム商品券や旅行券を発行し、子育てサービスに使うクーポン券を配布する。国民に一律数万円の現金支給や、政府主導の大規模セールの実施まで検討しているそうです」(官邸事情通)
 
 自分たちが禁じた「消費税還元セール」を政権を挙げて実施するなんてムチャクチャだが、何はともあれ選挙目当ての人気取り策が最優先の場当たり首相なら、やりかねない。
 
 
戦略なき浪費内閣が閉ざす財政健全化の道日本経済一歩先の真相
高橋乗宣 日刊ゲンダイ 2016年4月1日
(エコノミスト)                    
 2016年度予算案が成立した。96兆7000億円余りとなる一般会計の総額は過去最大となり、安倍政権の誕生後、実に4年連続で歳出額は過去最大を更新した。その中身たるや、アレもやる、コレもやるというテンコ盛り予算だ。事業を目いっぱい詰め込むことで、安倍政権は国民の要求に応えたつもりでいるのだろう。あまりにも短絡的すぎる発想であり、「戦略なき浪費内閣」と言わざるを得ない。
 
 新たな借金となる新規国債の発行額は34兆4000億円。歳入に占める国債依存度は35%強と、かなりの部分を借金に頼っている状況だ。しかも、異次元緩和に踏み切って以降、日銀が世に出回る国債の大半を買い占めている。緩和策がマイナス金利に行き着き、国債利回りまでマイナス圏に突入。国債を保有することで損失が発生する事態に陥っても、日銀の旺盛な購入ペースは変わらない。
 
 日銀が損失覚悟で国債を大量に購入する姿勢は、先の大戦の遂行のため、無軌道に発行された戦時国債を彷彿させる。敗戦後、巨額の戦時国債の処理に政府が困り、日銀に支払いを引き受けさせると、ハイパーインフレを招いてしまった。この国の負の歴史のひとつである。
 かように異常な調達状況で、予算の財源が成り立っていることを、現政権のメンバーはどれだけ認識しているのか。15年度補正予算に盛り込んだ低所得の年金受給者への3万円バラマキを見る限り、いびつな財政状況への危機感は皆無だ。
 
 ここ数年、異常な資金調達により、膨れ上がったテンコ盛り予算のバラマキ策で、実体経済が良くなったならともかく、結果は逆だ。安倍首相が矢を何本放っても、景気は冷え込むばかり。本予算が成立した途端、補正案の編成も念頭に政権内で新たな経済対策の検討に追い込まれるほど、あらゆる経済指標は悪化の一途をたどっている。
 
 経済の惨状を目の当たりにして、安倍首相はなぜ、自身の経済政策を見直そうとしないのか。本当に不思議でならない。自らが放った「矢」は正しい方向に飛んだのか。そもそも狙った「的」も正しかったのか。今こそ総点検が必要だ。
 消費税増税の「先送り検討」報道が相次いでおり、これにも危機感を覚える。財政のバランスを改善するための増税を再び延期すれば、戦時国債を思わせる歪んだ財政状況から抜け出す道を閉ざすことになる。有権者のご機嫌取りを優先させ、票に結びつけたいだけの発想なら、安倍首相の政治家としての良心を疑う。
 
 その場当たり主義は、それこそ戦略なき戦争に突き進んだ軍事政権を想起せざるを得ない。ましてや安保関連法が施行された今、この国の先行き不安はますます募っていく。 
 
  高橋乗宣 エコノミスト
1940年広島生まれ。崇徳学園高から東京教育大(現・筑波大)に進学。1970年、同大大学院博士課程を修了。大学講師を経て、73年に三菱総合研究所に入社。主席研究員、参与、研究理事など景気予測チームの主査を長く務める。バブル崩壊後の長期デフレを的確に言い当てるなど、景気予測の実績は多数。三菱総研顧問となった2000年より明海大学大学院教授。01年から崇徳学園理事長。05年から10年まで相愛大学学長を務めた。