2016年4月12日火曜日

ISD条項の受入れは国家の主権を失うもの

 4月10日のTPP問題がテーマNHK「日曜討論」において、自民党の代表がISD条項について、「他国に投資を行う際に、先方の政府が投資者に多大な損失を与える一方的な措置を取ることに対して、ISD条項は、その損失を回避させる重要なツールになるISD条項は日本にとってプラスになる」と主張したことに対して、野党側が明確な反論をしなかったということです。
 植草一秀氏は、それでは視聴者ISD条項は日本の投資者にとって利益をもたらすものであると勘違いしてしまうとして、ISD条項によって如何にして日本の主権が侵されることになるのかを、ブログで簡潔に説明しました。
 
 投資家の利益が不法に奪われるケースがあるとすれば、それを仲裁する機関そのものはあった方がいいのでしょう。しかしその仲裁決定に対して国が全く対抗する手段がなく、仲裁の名のもとに命じ得る賠償金額も何千億円、数兆円、・・・・と無制限である以上、その仲裁機関は真に公正なものでなければなりません。当然控訴もでき、二審、三審制を持った制度であるべきでしょう。
 
 しかし、事実はその仲裁機関は投資家の利益(巨大多国籍企業の利益)を守るために設けられたものであって、アメリカ支配下の世界銀行内に置かれ、アメリカ弁護士資格を持った3人によって独断的に裁定されるというのが実態です(仲裁機関というとなにか公的な機関をイメージし勝ちですが大間違いです。控訴の制度もなく即決します)。
 
 因みに、北米貿易協定(NAFTA=アメリカ・カナダ・メキシコ間)におけるこれまでの訴訟の実績はアメリカの全勝(66勝0敗)であると言われています。アメリカの勝率は3割だというような珍説もあるようですが、アメリカがわざわざ構築した不公平なシステムで、そんな公平な結論が下されるなどということはあり得ません。
 カナダが、人体に有害な添加物の含まれるアメリカ企業のガソリンの使用を禁止する法律を作ったところ、仲裁機関は、それによって米国石油会社が不利益をこうむったとしてカナダに賠償金の支払いを命じました。カナダ国民の健康よりも石油会社の利益の方が優先されるということの好例です。
 日本の医療制度、薬価基準などがそうした攻撃を受けることはないと一体誰が保証できるのでしょうか。
 
 ISD条項を論じる際には、仲裁機関の中立性が保たれているのかが何よりも第一の視点になるべきです。
 その改革が出来ないものであるならばISD条項は多国籍企業にとっては打ち出の小づちですが、米国以外の国にとってはただただ有害にして無益です。
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ISDS条項受入れ=未成熟国家であるとの宣言
植草一秀の「知られざる真実」 2016年4月11日
4月10日のNHK「日曜討論」ではTPP問題がテーマにされた。
国会では、安倍政権がTPPの交渉過程について、全面黒塗りの資料を提出した。
他方、衆議院TPP特別委員会委員長と務める西川公也氏が出版予定であった『TPPの真実-壮大な協定をまとめあげた男たち』(中央公論新社)には、交渉の内幕が記述されていた。
守秘義務があると言いながら、交渉に関与した公務員が、西川氏の著書政策のために交渉内容を記述あるいは、情報提供した疑いがあり、これを民進党議員が国会審議で問い質した。ところが、石原伸晃TPP担当相は質問に対して真摯に答弁をせず、西川公也氏ものらりくらりの対応を繰り返した。
民進党と共産党の議員は委員会から退席し、委員会審議は長時間中断した。
 
その後、民進党および共産党議員が出席しないまま、西川公也委員長は職権で委員会を再開し、大阪維新の議員が質問を行った。
TPPは日本の根幹に関わる極めて重大な条約である。野党議員がこの重大な条約の交渉過程について質問するのは当然のことだ。
TPP参加を拙速に推進する安倍政権は、この問題について真摯な姿勢で審議に応じるべきである。
石原伸晃氏や西川公也氏の誠実さに欠ける審議姿勢で国会審議が滞るなら、安倍政権は今国会での条約批准を断念するべきである。
また、4月24日には、衆議院補欠選挙が北海道5区と京都3区で実施されるが、主権者は、安倍政権の姿勢をこの選挙で断罪するべきである。
 
TPPの何が問題なのか。
自由貿易を推進する条約なのだから、日本は賛成するべきだとの意見があるが、問題の本質をまるで理解しない見解だ。
日本がTPPに参加するべきでない重大な理由が三つある。
第一は、TPPによって、日本が主権を失うことだ。
第二は、TPPの問題は短期ではなく、中長期で考察するべきであるからだ。
第三は、農業=食料、医療、食の安全・安心という、三つの面で、国民生活の根幹を破壊するからである。
「自由貿易の枠組みだから賛成するべきだ」などという、軽薄で乱暴な議論でこの問題を論じるべきでない。
 
日曜討論で、主権を損なうISDS条項についての論議があった。
野党議員からISDS条項により、主権が侵害される点の指摘があった。
これに対して自民党の小野寺五典政調会長代理が、ISDSのメリットを強調した。他国に投資を行う際に、その投資先の政府が、投資者に多大な損失を与える一方的な措置を取ることに対して、ISDS条項は、その損失を回避させる重要なツールになるから、ISDS条項は日本にとってプラスなのだという主張を示した。
この主張に対して、野党議員から目立った反論が示されなかった。TPPの問題の最重要部分の誤解が、そのまま放置されたまま流される結果が生じた。
野党議員は、ISDS条項の問題点を、小野寺氏の発言を否定するかたちで、分かりやすく示すべき局面だった。
 
ある国に投資を行う際、その投資先国家の法体系が不安定である場合、ISDS条項のような取り決めが、投資者のリスクを減免する。
投資した財産を、投資先の国家が一方的に没収してしまうような理不尽な対応を示したときに、ISDS条項があれば、投資者は裁定機関に訴え、裁定機関がその投資先の国家に対して命令を下すことができる。投資家は蒙った損害を賠償してもらうこともできる。
小野寺氏は、ISDS条項はこのような意味で投資者の利益を守るものだと強調したのである。
 
この発言に対して、明確な反論を示しておかないと、視聴者は、ISDS条項は日本の投資者にとって利益をもたらすものであると勘違いしてしまう
TPPの問題のなかで、これが最重要であるから、私たちはこの点を正確に理解しておかねばならない。
それは、法体系が不安定で、制度が、いつ、どのように改変されてしまうか分からないような国に投資を行う際には、このような条項を用意することも必要な場合があるかも知れない。
問題は、この取り扱いが日本にも適用されるという点だ。
日本が日本の法体系でさまざまな措置を講じたときに、日本に投資をした海外の投資者が、その体系によって損失を受けたと、日本の外の裁定機関に提訴するのである。そして、その裁定機関が決定を示すと、日本はこの決定に逆らえなくなる。これは日本の主権の喪失そのものなのだ。
ISDS条項を受け入れるということは、日本の諸制度が未熟であることを日本自身が認めるということなのだ。だから、日本のことを日本が決められなくなる。
 
外資が日本の制度によって損失を受けたと裁定機関に提訴し、日本の外にある裁定機関が、日本の制度が悪いと決定すると、日本が制度を強制的に変えさせられる。そして、日本政府が賠償金を支払わされる。
 
日本が先進国であると自負するなら、このような主権を投げ出すような条項を受け入れるべきではないのである。この、もっとも重要な論点についての野党側の反論が十分にはなされなかった。
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