日本のメディアはTPPについてほとんど批判をしません。批判する場合もほとんどが関税に関する部分についてです。ISD条項の恐ろしさについては、最近では堤未果氏が関西のTVなどでかなり具体的に説明していますが、それ以外では殆ど聞きません。
11日の「マスコミにのらない海外記事」に、ISD条項に触れた記事が載りましたので紹介します。
同記事は現在アメリカとEUとの間で進められている環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)におけるISD条項に関するものですが、いわばTPPの大西洋版なのでそのままTPPに当てはまる筈です。
同記事は現在アメリカとEUとの間で進められている環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)におけるISD条項に関するものですが、いわばTPPの大西洋版なのでそのままTPPに当てはまる筈です。
ISDに絞って記事の要点をまとめると次の通りです(ここではTTIPをTPPに置き換えました ^^) )。
・TPPは関税や割り当てを廃止することが主眼ではない
・TPPによって、有害な添加物などの入った食品や安全でない自動車が流入することから、国民は保護されなければならない。
・TPPの核心は、ISD条項によって国家主権が巨大多国籍企業に引き渡されることだ
・紛争は3人の裁定委員によって裁かれ、裁定には不服申し立てはできない
・3人の裁定委員にはどの国の法律を忠実に守ることも要求されておらず、彼らは投資家の利益を守ることにのみ専念し、巨大多国籍企業に対してだけ説明責任を負っている。
・巨大外国企業は、自分たちの投資を損なう政策を推進したかどで相手の政府を訴えることができるが、その逆はない
・裁定委員は被告の国に対して無制限の罰金を科することができる
・裁定委員会は訴訟ごとに被告の国から平均800万ドル(8億8千万円)の手数料を取る
・訴訟は大半が秘密裏に行われる
・裁定委員は普段は大企業のために働いている商事弁護士なので大企業に好意的だ
・ISDS裁定委員会が、イギリス裁判所と同じように公平な判定を出すのであればそんな機関は無用となる。従って常に巨大企業に有利な裁定が下される
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イギリス保守党議員が造反し、TTIPに反対
マスコミにのらない海外記事 2016年4月11日
Eric ZUESSE 2016年4月9日
(Strategic Culture Foundation)
まるで、ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ大統領の共和党政権時代に、前大統領、共和党のロナルド・レーガンのために国際貿易協定交渉をしていた人物が、同党の仲間ブッシュ大統領が、熱心に承認を得ようとしている巨大‘貿易’協定反対を公言したようなものだ。大変な造反行為だが、それがまさに、日曜日にイギリスで起きたのだ。
(1990-92、マーガレット・サッチャーと、ジョン・メージャーのもとで)元イギリス貿易産業大臣をつとめ、現在も保守党議員(国会議員)のピーター・リリーが、4月3日、保守党のウェブサイト“Conservative Home”にブログ記事を書いて、そうしたのだ。
“私は自由貿易を信じている。常にそうだったし、今後もそうだ。成功した自由貿易協定(ウルグアイ・ラウンド - 1990年代、貿易産業大臣として)を交渉した唯一の現役議員として、現在アメリカとEUの間で交渉されている環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)を、自由貿易協定だと思って、私は自動的に支持していた。
私がより子細に見ればみるほど、益々多くの部分が心配になってくる。自由貿易を信じている保守党議員は、TTIP支持には極めて慎重になるべきだ。EU残留派、離脱派双方の運動も、イギリスのEU加盟に対する、環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)の含意をじっくり吟味すべきだ。
なぜかを説明させて頂きたい。
TTIPは関税や割り当てを廃止することが主眼ではない。ヨーロッパからの商品に対してアメリカが課している平均関税は、わずか2.5パーセントだ。それを無くすのは価値があるだろうが - 大したものではない。
主な狙いは、製品の仕様を調和させ、投資用の特別な体制を作り出すことだ。こうしたことには原則として特に反対はない。製品の調和というものが、国内生産者をこっそり保護するために導入された規則を廃止することを意味する限りは、結構なことだ。だが、我々は、有害な添加物などから、国民を保護する議会の権限を放棄すべきではない”
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オバマのヨーロッパとの‘貿易’協定TTIPも、アジアとの‘貿易’協定、TPPも、その核心はまさにこれだ。有害な添加物や、毒の入った水や食品や空気、安全でない自動車から有権者を守り、自分たちと将来世代のために環境を保護するといった議員の権限を譲り渡すことなのだ(リリーは特に、イギリスの称賛されている公共医療サービスを廃止しかねないことを大いに懸念している。お考え願いたい。イギリス保守党議員が、イギリスにおいて大成功した社会主義者の制度を守ると断固決めているのだ! 突拍子もないことだが、事実だ。)
核心は、国家主権を国際企業による世界独裁に引き渡すことだ(大企業に対する説明責任を負った三人の‘裁定’評議員、裁定は不服申し立てできず、どの国の法律を忠実に守ることも要求されていない- 衝撃的なことだが、事実だ。)
しかも、あらゆる保守派にとって - イギリスであれ、どこの国であれ - これに反対するのは大変な事だ。特に、元貿易産業大臣が反対するに至っては。
彼は更にこう言っている。
“私の主な三つの懸念は、投資家-国家紛争調停制度(ISDS)に関するものだ。これは巨大外国企業が、彼らの投資を損なう政策を推進したかどで政府を訴えることができる(しかし、逆はない)裁定委員会制度 - 特別裁判所 - を作り出す。
民間企業がNHSや、教育、その他でサービスを提供しているものを、イギリス政府が、公営に戻そうとしたり - あるいは、私企業に対し、参入を許すサービスを減らしたりしようとすれば、アメリカ企業は、イギリス政府を訴えることができる。EUやイギリス政府は、そういうことはありえないと否定している。だが、説得力のあるCounsel’s Opinionは、こうした裁定委員会は、無制限の罰金を科することができるので、政府の意思決定に対する“萎縮効果”を行使できると主張している。左翼はこれについて特に激怒しているが、保守党議員も懸念すべきなのだ。私や他の国会議員 - 全て保守党議員だが - ロビー活動をして、悲惨な運営をされていた民営の(トニー・ブレア政権が作った)Surgicentreを無事NHSに再度併合し、国民のためになるようにした。TTIPの下で、外国企業は、NHSを犠牲にして、莫大な補償を求めて訴えることが可能だ。この保守党議員は、私企業が行う範囲、特に医療に関し、当然のことながら、慎重で、プラグマティックだ。もし我々が、裏口から民営化を持ち込むことがわかった制度を支持すれば、政治的に破滅的なことになる。
こうした裁定委員会は、小規模外国企業にとっては余りに高価で(平均経費は800万ドルだ)、そこからイギリス企業が除外されている、特権的法体制を、外国多国籍企業に与えるのだ。しかも‘裁判官’は、裁定委員会で、仕事をしていない時は、大企業のために働いている商事弁護士で、それゆえ大企業に好意的だ。訴訟は大半秘密裏に行われる...
要するに、政府は(さほど説得力はないが) TTIP裁定委員会は、多分、危害を与えないと主張している。裁定委員会が何らかの良いことをする - つまりイギリスに、さらなるアメリカの投資を引き寄せたり、その逆だったりと、主張する人などいない。イギリスの法体制を信じなかったり、収用を危惧したりするがゆえに、アメリカ企業がイギリスに投資するのを恐れているなどという考え方は到底信じがたい。まさにそれが最も信頼できるから、世界中の企業が、イギリス法に従って、契約することを選んでいるのだ。もし政府が主張するように、こうしたISDS裁定委員会が、イギリス裁判所と同じ結果をだすのであれば、彼等は全く不要だ…
EU内部でも外部でも、20年間、安定化条項を拒否し NHSを協定から除外するよう主張し(フランスが映画を除外したように)ISDS裁定委員会が必要なのかどうか問うべきなのだ。もしイギリスがEUを離脱して、並行協定を交渉すればより容易となろう - 残った関税を廃止することに限定した純粋な自由貿易協定を交渉するのが、一番単純だろうが”.
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何百万人ものヨーロッパ人が、反対デモや、無数の世論調査で、既に、TTIPがEUで成立できる唯一の方法は もしEUが既に独裁制なら - 決して本当に民主的な手段によるものではないことを、明らかにした後、遅ればせながらの彼の登場だ。だが、悔い改めるのに遅過ぎることはない。
ISDSを含む貿易協定を成立させようとして、常に影で仕組んでいて、オバマの‘貿易’協定反対を公に表明したナンシー・ペロシに続けと議会の民主党議員に言いながら、実際には、協定が法律として成立できるよう、大統領がファスト・トラックを勝ち取れるようにしろと、アメリカ下院を駆り立てたアメリカのヒラリー・クリントンとは違い、リリーには、公にはあることを言って、実際の政策決定の舞台裏では逆のことをしているという評判はない。
彼の発言は本物だ - 単なるスローガンや言葉ではない。そして、この発言は、政治家たちや、(保守党の予備選挙で勝利するため)彼自身の党に投票する支持者以外にも影響を与える。
もしオバマが彼の‘貿易’協定を成立させれば、彼は、社会保障や、他の多くの現存する制度(そして、FDRのお仲間ながら、エセ‘民主党員’の、ビル・クリントンが廃絶してしまったグラス・スティーガル法)を導入し、世界ファシズムを打ち破るため、チャーチルとスターリンと協力したFDR以来、遥かに巨大な影響を及ぼすアメリカ大統領となる。オバマの影響は、そうなれば、おそらく、FDRが良かった以上に大きな悪となるだろう。しかしながら、もし彼が‘貿易’協定を成立させるのに失敗すれば、たとえ彼が、来るべき巨大崩壊を(彼はそれに対して政策を構成している)次の人物が大統領になるまで、先のばしにできるくらい充分幸運だったことがわかったとしても、彼は単に、ジョージ・W・ブッシュと同じか、ほぼ同じ位ひどいだけで終わる。オバマは、ジェームズ・ブキャナン以来、最も保守的な民主党大統領で - それは実にまずいことだ。たとえオバマが、後継者が継ぐまで、先のばしにしている崩壊を押しとどめることができたとしても。
対照的に、保守党議員のピーター・リリーは、ISDSを終わらせるのか、それとも拡張するのかという、第二次世界大戦以来最も重要な公共政策問題を論じているのが確実なので、比較すれば、熱烈な進歩主義者だ。もしISDSが拡張されれば、例えば最近の地球温暖化対策のパリ協定は、事実上、おしまいになる。この協定は実に巨大なものなのだ。民主主義のみならず、我々にとって住みやすい地球の継続が、今や全て危険な状況にあるのだ。オバマは、あることを言っても、実行するのは、それと全く違う可能性がある。
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