2016年4月28日木曜日

大震災に緊急事態条項が必要? 誰も納得しない

 ジャーナリストの櫻井よしこ氏早期の憲法改正を求めるグループが26日、記者会見を開いて熊本地震挙げながら緊急事態条項の制定を主張しました。
 特に櫻井氏は、仮に緊急事態条項があれば、熊本地震は「最初から国が前面に出て」「事態に対処することができたであろうと思われる」と主張しました。しかし熊本地震への対応をTVで見ている国民にとって、それは余りにも観念的であって、妄想に近いもので何の説得力もありませんでした。
 
 現実に記者から「具体的に緊急事態条項があった場合、熊本地震で、どんな新たな対応が可能だったのか」と問われると、単に国の対応の方が早い「筈」だという「思い込み」を語るだけで、県より国の方が迅速に対応できる根拠などは示すことはできませんでした。
 また別の記者が、「緊急事態条項の何によってどんな混乱が防げたのか」と問うとそれには答えることが出来ずに、同席した百地章・日大教授からも、熊本地震はすべて現行の法律内で対応できたと、否定される始末でした。
 そうした記者たちの思いは当然国民の思いでもあります。
 
 今回の熊本地震は極めて激甚な地震ですが、地域的には東日本大震災に比べれば限定されているのに、政府の対応を見ているとあの時からほとんど進歩の跡が見られません。5日間で更迭された松本現地対策本部長の体たらくを見ても、明敏な頭脳を持ち周到な知的訓練を経て来た人でないと、仮に大きな権限を持っていたにしても何の役にも立たず、むしろ有害であって一利もないということになります。
 
 大災害時に緊急事態条項が有効という説明は、櫻井グループの思いがけない暴走で逆に説得力を失いました。尤も彼らの言い分は識者によって最初から否定されていたことなので、今回、はしなくもそのことが証明されたということです。 (^^)
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櫻井よしこ氏、憲法改正して「緊急事態条項」を
熊本地震」に触れつつ「国がパッと対処できる」
J-CASTニュース 2016年4月26日
 櫻井よしこ氏は熊本地震の例も挙げながら緊急事態条項の制定を主張した 
 ジャーナリストの櫻井よしこ氏ら早期の憲法改正を求めるグループが2016年4月26日、都内で記者会見し、「緊急事態条項」の制定に向けた憲法論議を改めて求めた。特に櫻井氏は、仮に緊急事態条項があれば、熊本地震は「最初から国が前面に出て」「事態に対処することができたであろうと思われる」と主張。現行憲法が災害対応の妨げになっているとの持論を改めて主張した。
 だが、会見に同席していた百地章・日大教授は、熊本地震は現行の法律内で対応できたとの立場を表明。登壇者間の温度差も浮き彫りになった。
 
■自民党が野党時代にまとめた憲法草案で明記
 「緊急事態条項」は、自民党が野党時代の12年にまとめた憲法草案で新設を明記。首相が大災害や武力攻撃時に閣議で緊急事態を宣言すれば、法律と同じ効果を持つ政令を定められることをうたっている。政府の対応が迅速化する可能性がある一方で、行政がフリーハンド化することで基本的人権が制限されるという懸念も根強い。
 櫻井氏は冒頭、
 「熊本の地震を例に見るまでもなく、様々な自然災害に対応するために、どうしても憲法を改正して、そこに緊急事態条項という、これが正式な名称になるかは分からないが、起こりうる緊急事態に対処するための条項を新たに設ける必要があるだろうということで、私たちは意見を一致させている」
などとして緊急事態条項の制定を訴えた。当然、記者からは
 「具体的に緊急事態条項があった場合、熊本地震で、どんな新たな対応が可能だったのか
などと具体的な効果を問う声があがった。
 櫻井氏は、
 「注意をして私も話すが、(記者の側も)注意をして書いていただきたい。決して地方自治体を責めるということではない、という大前提に立っていただきたい」
と前置きしながら、緊急事態条項があれば災害発生直後から政府が関与して迅速な対応が可能だったはずだと主張した。
 櫻井氏によると、4月14日夜の地震の段階では、「県で何とか対応できると思ったと思う」が、16日未明の「本震」で、
 「すさまじい破壊が起きてしまって、『これはとてもできない』ということで、そこから家屋の倒壊も増えたし、避難する方も桁違いに増えた」
として、県だけでは対応が困難になった可能性を指摘した。
 
百地氏「東日本大震災では憲法上の根拠なく運用上問題になった」
 その上で、
「この時に、もし緊急事態条項があったと仮定するならば、最初から国が前面に出て、必要な自衛隊、警察、消防隊を含めて、事態に対処することができたであろうと思われる。物資も、物資が届いても現場で色々なところに滞っていて、本当に必要なところに届けられないという状況があって、かなり混乱した。それが今、じょじょに解消されつつある。熊本県は本当に一生懸命やったが、やっぱり全体の状況が把握できなかったのが事実。そういうことも含めて、緊急事態条項というものがあれば、最初から国がそこにパッと行って対処できるということが、おそらく大きな違いなんだろうと思う」
と話したが、県より国の方が迅速に対応できる根拠などは示されなかった。別の記者は
 緊急事態条項の何によってどんな混乱が防げたのか
と質問し、百地氏が回答。百地氏によると、緊急事態条項をめぐる問題には(1)憲法で定めなければ動けない問題(2)法律は現在あるが、憲法上の根拠が明確でないために、色々と運用上支障があった問題(3)法律で対応出来るケース、の3つがあるとした上で、
 「今回は法制度の問題として言えば、(熊本地震は)非常災害で(東日本大震災のような)緊急災害ではない。いずれも法律の範囲内で対応する事柄。ただ、対応の仕方に色々問題があったか、そういった問題は別として、(熊本地震は)一応法律の範囲内で行動できるものと位置づけられた」
などとして、熊本地震は(3)にあたると指摘。東日本大震災は(2)にあたると説明し、緊急事態条項を新設することで憲法上の根拠を整備しておくべきだとの考えを示した。
 「それに対して東日本(大震災)の時は、例えば災害対策基本法に基づいて、がれきを処理することは、一応条文上は可能だった。可能だったが、憲法上の財産権の不可侵との関係で、なかなか自治体としても判断がつきかねる。政府自体も、官房長官あたりも、財産権の問題として緊急立法が必要だと言っている。現在、緊急事態法制はあるが、やはり憲法上の根拠が明確でないために、なかなか動かない場合がある」
 
百地氏は「私は今回は法律で対応できると思っていますし...」
 この回答に記者が「櫻井さんの話とは若干違うような気がする」と突っ込むと、百地氏は
 「例えば緊急事態を発動、宣言するような事態であれば、そういうことをすることによって国民の意識を喚起する、といった効果はあると思う。正直、私は今回は法律で対応できることだと思っていますし、櫻井先生、ご専門ではありませんので...」
と答えに窮しながらも、考え方の違いを否定しなかった。
 
 会見は、憲法記念日の5月3日に予定されている「憲法フォーラム」のPRを目的に開かれた。
 自民党以外にも、日本青年会議所(JC)が12年度に独自の憲法草案を作成しており、憲法改正の前提となる国民投票を念頭に置いた「国民投票シミュレーション」を7月10日まで行っている。「憲法フォーラム」前日の5月2日には投票結果の中間発表も行われる。会見に同席していたJCの松原輝和・憲法意思確立委員会委員長は、
 「賛成・反対の立場を乗り越えて、この国の未来について国民の皆さんが真剣に考え、憲法をもっと身近なものとしてとらえていただければ」
と話していた。