2016年5月17日火曜日

年収100億円でも税率10% 日本もタックスヘイブン?

 『経済』が本来的に”水が高きから低きに流れる「弱肉強食性」”を持っているのに対して、それに棹を差して「弱者を救済」し、「民生の安定」を図るのが『政治』です。ピケティが登場して自由主義経済の不平等性がクローズアップされたとき、オバマ大統領は所得税の累進課税の強化を決めました。極めて当然のことでありそれ以外に国家財政を改善する道はありません。
 
 日本もかつては「所得税(累進課税制)」1本でした。そのころには国家財政の赤字問題などはありませんでした。それがあるときに突然『直間比率はどうあるべきか』という珍問・愚問が登場して、当然のように消費税が導入されると、所得税の累進課税制が緩和され、実質的な法人税は下げられました。
 その結果日本の財政は破綻しその対策として消費税の再々税率アップが叫ばれている中で、企業の内部留保は、20151012月の法人企業統計によると355兆円になり、12年同期の274兆円からアベノミクスの3年間で81兆円(3割)も増えました。 
 
 LITERAが、『年収100億円でも税率は10%、日本もタックスヘイブン』とする記事を掲げ、安倍首相は消費税の税率アップの取りやめを一向に明言しない中で、大企業や富裕層には優しいという実態を明らかにしました。
 
 企業の内部留保に関する日刊ゲンダイの記事も併せて紹介します。
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年収100億円でも税率10%、日本もタックスヘイブンだった? 
大企業と富裕層に優しい安倍政権の税制のカラクリ
LITERA 2016年5月16日
タックスヘイブン(租税回避地)のダミー会社やオフショア口座を通じて、所得や資産を隠し、税金を逃れる租税回避行為の存在が「パナマ文書」をきっかけにクローズアップされた。
 
 だが、富裕層や大企業のみが得をするという歪な構造は、タックスヘイブンの問題だけではない。いま日本では、安倍政権によって、まさに富裕層優遇、庶民無視の“格差助長税制”が推し進められており、その実態がまたひとつ公的な資料から明らかになったのだ。
 まず、一般的に富裕層ほど税負担率が上がる(累進性がある)と思われている所得税。だが驚くことに、年100億円超の富裕層の所得税負担率は、たったの「11.1%」だというのだ。
 この数値は、財務省から公表された「申告納税者の所得税負担率(平成25年分)」に記載されている事実である。民進党の玉木雄一郎衆議院議員の要求により、明らかにされたものだ。
 この資料からは所得税負担率が所得層別にわかるのだが、所得税は総所得として合算されたものに、5%から40%の6段階の超過累進税率が課税される仕組みになっている(2014年まで。2015年からは5%から45%の7段階。平成25年は2013年)。
 
 このため、本来ならば、お金持ちであればあるほど、負担率が高まるはず。たしかに公表された数字を見ると、合計所得金額1億円までは、ゆるやかに増加している(27.5%)。ところが、1億円を超えるとそれが減少し始め、100億円超となると、なんと11.1%まで所得税負担率が低下してしまうのだ。この所得税負担率は1000万円の階級とほぼ同水準(10.8%)だ。
 この背景には分離課税となっている金融所得が軽課されている現状があると、玉木議員は指摘する。
 
株式譲渡や配当、利子などの金融所得は総所得に合算されずに、分離課税なります。その税率は20%です。こうした金融所得が中心の所得階級の税率は20%に近づいていくことになります。株式を保有しているのは圧倒的に富裕層が多く、今回の数字では、1億円を超えると『合計所得金額のうち株式譲渡等の占める割合』が急増しています。こうした富裕層が金融所得分離課税の恩恵を受けているのです」
 2012年末から始まったアベノミクスでは、株高になり株式保有者はアベノミクスバブルの恩恵を受けたとされるが、実際の恩恵を受けたのは、合計所得金額が1億円を超える層で、株式を持つものと持たざるものとの間での格差がますます広がったということがわかるのだ。
 
 しかも、安倍政権による“格差助長税制”は、この所得税のウソだけではない。企業に対しても、安倍政権が大企業ばかりを優遇し、国の根幹を支えている中小・零細企業を冷遇している現実を同様に「資本金階級別の法人税(国税)の状況(平成25年度)」が明らかにしている。
 なんと、大企業の“本当の法人税”は、たったの「13.6%」だったのだ。
 もともと、日本の法人税は諸外国に比べて高いとされてきた。アジア諸国、なかでもシンガポール(17%)、香港(16.5%)並みの法人税率にすべきだという主張が、財界から大きく喧伝されている。
 これを受けて安倍政権は、企業の国際競争力を高めるために、成長戦略の一環として、32.11%の法人実効税率を、2016年度に29.97%に、2018年度に29.74%へと2段階で引き下げる。
 
 ところが、こうした法人税改革を進めずとも、実際には、国税だけをみればすでに「15.6%」と、シンガポール(17%)、香港(16.5%)並みの税率になっているというのだ。いったいどのようなカラクリがあるのか。玉木議員が解説する。
「たしかに、名目上の法人実効税率は、国税、地方税あわせて、32.11%で、国税に限れば名目上の法人税率は25.5%ですが、日本の税制には、他国にはない様々な特別な優遇措置、いわゆる『租税特別措置』などが存在します。これら各種の優遇措置を踏まえた『実際の』法人実効税率(国税)は、『15.6%』と低いものだったのです。それでも、シンガポール、香港以上に、下げようというのでしょうか」
 
 この「資本金階級別の法人税(国税)の状況(平成25年度)」は、玉木議員が財務省に度重なる要求をしてきた末、やっと出てきたもの。これは、法人が実際に負担した法人税率を資本金階級別にしたものだ。
 全企業(課税可能な利益計上法人)平均は、「15.6%」で、「租税特別措置」などの様々な特別な優遇措置が差し引かれていることがわかる。
 
 たとえば、資本金1億円以下の法人(中小企業)には軽減税率があり、「資本金1000万円以下の単体法人」では「13.6%」、「資本金1000万円超1億円以下の単体法人」では「17.6%」と法人税が軽減されている。軽減税率の効果がなくなる「資本金1億円超10億円以下の単体法人」では「22.3%」と名目上の法人税率にかなり近い数字になっている。ならば、「資本金10億円超の単体法人及び連結法人」では、さらに数字が高くなるはずだ。
 ところが、である。なんと、資本金10億円超の単体法人及び連結法人」は「14.6%」と、全企業(課税可能な利益計上法人)平均の「15.6%」さえも下回ってしまうのだ。
 
 この理由を玉木議員はこう分析する。
「租税特別措置のうち、研究開発減税の恩恵を受けられるのは大企業。さらに、子会社段階で法人税が課税されることを踏まえ、二重課税を避ける観点から設けられている『外国子会社配当等益金不算入』の恩恵も子会社を外国に有する大企業ほど恩恵を受けやすくなるのです。当初は財務省も出し渋りましたが、さらに、『資本金10億円超の単体法人及び連結法人』のうち資本金100億円超の単体法人及び連結法人』の税率を要求したところ、出てきた数字は『13.6%だったのです。これは『資本金1000万円以下』の中小企業と同じなのです」
 
 さらに、玉木議員はより詳細な区分の階級別の「実際の」法人実効税率(国税)を要望しているが、今年度の予算が通過したとたん、財務省から資料が出てこなくなったという。
 安倍政権は、法人税を下げろという財界の要望に応え、法人税減税を打ち出すが、消費税は増税の一方だ。まずは、消費増税の前に、法人税や所得税をとるべきところからしっかりとることを優先するべきではないか。
 
 事実、ノーベル経済学賞受賞者であるジョセフ・スティグリッツ氏(米コロンビア大教授)も、安倍政権の税制について疑義を呈している。スティグリッツ氏は今年3月16日、政府の「国際金融経済分析会合」に出席したのだが、そこで、消費増税の先送りだけでなく、法人税減税へも反対を表明。さらに、所得税の累進性の強化も安倍政権に提言した安倍政権が一向に省みない格差是正が、経済の成長にとって重要であることを指摘したのである。
 
 それでも、財界にべったりの安倍政権は、今後も格差助長の税制を推進し続けるだろう。しかし、大企業だけが富を増やしても、実質賃金や消費を増加させるどころかむしろ停滞させてしまっていることは、すでに現実が証明している。
「これからも経済最優先だ」と嘯き続ける安倍首相だが、その本質は、公的資料が示すように“富裕層最優先”=“庶民見殺し”。この政権を一刻でも早く退場させなければ、国民の生活はますます困窮を極めることになるだろう。(小石川シンイチ)
 
 
どこに消える? 大企業がため込む巨額「内部留保」の行方
日刊ゲンダイ 2016年3月21日
 予想通り、今年の春闘は、さっぱり振るわなかった。史上空前の利益をあげているトヨタでさえ、ベアは月額1500円と、昨年の4割以下。中小企業の春闘はこれからだが、主要企業のベアは、ほとんど昨年の半額程度に終わってしまった。
 しかし、大手企業は、社員に大盤振る舞いできたはずだ。いくらでも“原資”があるからである。
 
 なにしろ、大企業の内部留保の額はベラボーである。財務省の2015年10~12月の法人企業統計によると、企業の利益剰余金は355兆円。12年同期の274兆円から81兆円増と、アベノミクスの3年間で3割も増えている。なのに、労組側の要求額まで、昨年から激減している。
 なぜ、巨額の内部留保は社員に還元されないのか。いったい、内部留保はどこに消えているのか。経済評論家の斎藤満氏はこう言う。
「春闘がパッとしなかったのは、労使ともに“空前の利益”が一過性に過ぎないと見越しているからです。この3年の企業利益は、異次元緩和の円安政策頼み。売り上げ自体はさほど増えていません。法人減税など安倍政権の大企業優遇策によって利益を押し上げただけで、その利益は労働者の犠牲の上に成り立っている。そうした“刹那の経済政策”に、労使とも気づいているということです。設備投資が振るわないのも同じ理由です」
 
 内部留保は膨れ上がっているのに、実質賃金は4年連続で減少。従業員給与は12年10~12月期の28兆円から、15年同期には27兆円へと1兆円もダウン。その結果、日本経済は個人消費が冷え込み、経済のパイがシュリンクする悪循環に陥っている。
「剰余金の使い道といえば、最近は、どの企業も配当に回すか、大量の自社株買いによる株価維持策ばかり。口うるさい株主利益の貢献策のみです。この経営者の後ろ向きな姿勢が、アベノミクスの失敗を雄弁に物語っています」(斎藤満氏=前出)
 この調子では、どんなに大企業が儲けようが、内部留保が積み上がろうが、サラリーマンの給与は永遠に上がらない。