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再批判 自民党改憲案(11)首相に権力を集中
しんぶん赤旗 2016年5月19日
国会、内閣、裁判所などの「統治機構」は本来、人権保障に奉仕するためのものです。
日本国憲法は立法、司法、行政の三権分立を定めています。国民主権を基礎に代表民主制をとり、国会を「国権の最高機関」(41条)とする国会中心の政治システムです。行政権は内閣に属しますが、法律に基づく行政の原則(法治主義)に加え、内閣は国会の信任に基づいて成立し、行政権の行使について国会に対し連帯責任(66条3項)を負います。権力の行使を民主的にコントロールすることで人権保障をまっとうする趣旨です。
国会の関与弱め
ところが自民党改憲案では、「行政権は、この憲法に特別の定めのある場合を除き、内閣に属する」(65条)とし、「特別の定め」として(1)行政各部の指揮監督権・総合調整権(2)国防軍の最高指揮権(3)衆議院の解散の決定権の三つの重要な権限を設け、「内閣総理大臣の『専権事項』」(改憲案Q&A)としています。改憲案Q&Aでは、「行政権が合議体としての内閣に属することの例外となる」としています。
「内閣総理大臣の専権」とされたこれらの権限行使は、閣議に諮られず、内閣は国会に対し連帯責任を負わないことになります。国会は内閣の権限行使に対しては「内閣不信任」を問えますが、「内閣総理大臣の専権」については特別の責任も規定されません。
特に「国防軍の指揮」という最も重大な権力の発動について、だれも責任を問われない構造は、立憲主義の観点から極めて異常です。
自民党改憲案は、63条2項で内閣総理大臣その他の大臣の国会への出席義務について「職務の遂行上特に必要がある場合は、この限りでない」として、出席義務を免除しました。「国会に拘束されることで国益が損なわれないように」(改憲案Q&A)配慮したなどとしています。国権の最高機関である国会に対する説明義務を緩和するもので、ここでも行政に対する国会のコントロールを弱めています。
一院制の検討も
自民党改憲案には、「二院制の見直し」は明記されていませんが、改憲案Q&Aでは「一院制を採用すべきか否かは、今回の草案の作成過程で最も大きな議論のあったテーマ」だったとし、今後「一院制についても検討する」としています。
また、「ねじれ現象ができるだけ起きないようにすべき」(同前)という観点から、参院で否決された法案を衆院で再議決する場合に、出席議員の3分の2以上の賛成を必要とする要件(59条2項)の緩和の主張をはじめ、衆院優越の強化が主張されたとしています。
首相権限の強化、衆院優越の強化で「効率的」決定を優先する発想です。しかしこれは、権限を分割し、権限相互に均衡をもたせることで判断を慎重にし、個人の尊厳を維持するという日本国憲法の立憲主義の構想とは逆です。 (つづく)