極右論客の櫻井よしこ氏や菅官房長官が、熊本大地震を良い機会だとばかりに緊急事態条項の導入を叫びましたが、TVで政府の対応の拙さを見せつけられた国民に対しては何ほどの説得力もありませんでした。逆に、大震災の場合に的確に対処するために同条項が必要という政府の言い分の欺瞞が明らかにされただけでした。
実際、熊本大地震における政府の対応はお粗末で、東日本大震災における不手際の経験が全く生かされていませんでした。また阪神淡路大震災での成功体験の部分も生かされませんでした。
被災者になかなか食事や支援物質がスムーズに届かないことがTV映像から読み取られる一方で、政府のTPPの審議強行、北海道衆院補選への注力、そして災害の政治利用に腐心する姿勢ばかりが目立ちました。
この度もそうした政府の対応をマスメディアが殆ど批判しない中で、これまで安倍政権の応援団メディアとして知られていた『週刊新潮』が、ナント、ゴールデンウイーク合併号に「『安倍内閣』熊本支援の失態・失策・大失敗」なる記事を掲載したということです。
そこでは「安倍総理が過大評価している松本文明内閣副大臣を現地対策本部長にした人選ミス」の詳細をはじめ、激甚災害指定の遅れによる弊害など様々な失態が詳細に報じられています。
LITERAの記事を紹介します。
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安倍政権の震災対応のヒドさに“応援団”の「週刊新潮」までが
告発記事掲載! 安倍首相と閣僚の失態が次々と…
LITERA 2016年5月7日
熊本大地震発生から3週間。今も震度4クラスの余震が頻発しているが、安倍首相といえばゴールデンウイークに被災者そっちのけで欧州を歴訪、相変わらず震災に対する冷淡な姿勢を見せつけている。
本サイトでは震災発生以降、安倍政権のあまりにお粗末な対応を一貫して指摘、批判してきた。だが、安倍政権の圧力と懐柔に飼いならされた大新聞・テレビはこの事実をほとんど追及していない。
たとえば、現地対策本部長を務めていた松本文明副大臣が自分への差し入れを要求し更迭された問題についても、新聞が報じたのは第一報だけ。更迭は松本副大臣が被災地でしでかしたさまざまな横暴が原因であったにもかかわらず、「体力的な問題による交代」という政府発表をそのまま垂れ流して、官邸と総理の任命責任を不問にしてしまった。
救援物資輸送の遅れ、震災最中の国会TPP審議強行、安倍首相の現地視察と激甚災害指定を選挙利用のために遅らせた問題なども同様だ。マスコミはこうした政府の対応を直接的に批判することはせず、せいぜい国会での民主党の質問を取り上げる程度、テレビにいたっては、報道することさえほとんどなかった。
そして、ネットでは政権の対応を批判する意見に対して、「災害に乗じて流言蜚語を流してる」「安倍さんのあら探しをしているだけ」「激甚災害指定の意味がわかっていない」などといった攻撃が浴びせられる状況になっている。
ところが、そんな中、意外なメディアが安倍官邸の震災対応を告発した。それは、このゴールデンウイーク合併号(5月5・12日号)に「『安倍内閣』熊本支援の失態失策大失敗」なる記事を掲載した「週刊新潮」(新潮社)だ。
「週刊新潮」といえば、安倍政権発足以来、頻繁に官邸のリークに乗っかって、野党や政権批判の動きをけん制する報道を繰り返している典型的な“安倍応援団”メディア。ところが、この記事には、タイトル通り安倍政権の失策がこれでもかとばかりに書かれている。
たとえば、松本文明内閣副大臣については、報じられた発言だけでなく、更迭された際のぶらさがり会見でこんな呆れた弁明をしていたことを暴露している。
「現地での食事はみなコンビニで弁当を買っているというので、自分の分を1万円渡したが、本震で1軒も開かなくなった。だからテレビ会議で大臣にコンビニを開けてくださいと頼んだ」
「私の部下がカップラーメンを持ってきたが、お湯が出ないので食べられないとも(大臣には)言った」
また、対策本部に自衛隊が到着した際、松本副大臣が作業中の自治体職員に作業を中断させて拍手を強いたという疑惑を指摘。「現地本部長にしたのは人選ミス」「安倍総理が過大評価した面は否めません」と安倍首相の任命責任にも言及している。
さらに、「新潮」は、支援物資がなかなか被災者に届かなかった問題についても、「政府の不作為」が原因であるとはっきり書いている。福岡、大分、宮崎、鹿児島の隣県に拠点を作り、仕分けボランティアや医療機関への被災者受け入れ態勢をつくっていれば、もっとスムーズに救援、支援ができたという分析したうえ、専門家に以下のような批判をさせるのだ。
「現状では物資が役所に届くだけで、そこから各避難所への配達態勢が整っていません。阪神淡路大震災の時、長田区にある真野地区では、(中略)適切な優先順位のもとで物資が行き渡った。そういう大切な教訓が、今回は生かされていません」(防災科学技術研究所・佐藤隆夫氏)
「政府は『プッシュ型支援』と銘打ってトップダウンで被災地に物資を届けていますが、一方的に送りつけているだけで、先立つべき仕組み作りができていません」(危機管理コンサルタント・田中辰巳氏)
「政府はこれまでその仕組み作りを怠ってきました。東日本大震災時に野党だった自民党は、民主党政権の対応を厳しく批判しましたが、それに学んで次に備えてこなかった」(同)
しかも、「新潮」のいう「政府の不作為」は支援の遅れだけではない。50代女性がエコノミークラス症候群によって亡くなったが、これも車中泊が多いことがわかっていながら、注意呼びかけを怠り、飲み水の供給が遅れた政府の責任であると断じている。
もちろん、震災を無視した国会TPP特別委員会の開催も厳しく批判している。
この問題を国会で追及した民進党の緒方林太郎議員を登場させ、震災発生から4日後のTPP特別委員会の開催強行について、与党側が「総理の強い意向」と説明したことを暴露。その結果、震災対応の責任者が7時間も審議で拘束され、震災対応の遅れを生んだことを指摘した。
また、安倍首相やその応援団が「予算措置なんだから急ぐ必要はない」と弁明していた「激甚災害指定」についても、阪神淡路大震災では7日後、東日本大震災では翌日に、時の政府が指摘を決めていたことを紹介し、「遅い」とばっさり。専門家のこんなコメントを掲載している。
「河野(防災担当)大臣が地方税収入との関係を説明していましたが、映像ニュースなどで被害状況はつぶさにわかっているわけで、そんなものは後講釈です。指定を早く行えば、(略)方向性を打ち出すことができ、被災者に希望を与えられる。それが安倍さんは全く出せていません。一連の震災対応からは、やはり政権の緩み、弛みがちらつくのです」(政治アナリスト・伊藤惇夫氏)
「災害時の対応はます『総論』から始めるべきです。激甚災害指定として扱うか否か、(中略)食料は何食分を何日間で配布するのか、といったことです。これがないまま、各大臣や担当者がそれぞれ『各論』を喋ってしまっているので、行き違いや国と被災者の要望にミスマッチが生じてしまうのです」(危機管理コンサルタント・田中辰巳氏)
さらに、「新潮」が問題にしたのは、閣僚たちのいい加減な情報の扱い方だ。たとえば、森山裕農水相は18日、90万食を確保できるとした上で、その後の3日間で180万食を追加すると言ったにも関わらず、これが伝達ミスであることが発覚。90万食に訂正した。また、中谷元防衛相は菅官房長官が発表すべき死亡者数を勝手に口にし、それがでたらめな数字だったため、マスコミが統合幕僚監部に確認に走り、防衛省が大混乱に陥ったという。
そして、「新潮」はこうした混乱、失態の原因は、安倍首相が震災対応よりも北海道補選を優先しようとしたことにあると断じ、こんな官邸担当記者のコメントを掲載している。
「そもそも安倍総理はこの間、ずっと補選に心を砕いており、前震が襲ってもなお、応援で北海道入りしようとしていたほど。そんな浮き足立ったムードが伝播した」
まさに本質をつく批判だが、それにしても、安倍応援団の「週刊新潮」がなぜ、ここまで厳しく安倍政権の責任を追及したのか。
「今回の地震の特集記事は政界ものをやる班とは別の、事件もの中心の班が取材に動いたようなんです。当初は、普通に、地震時の混乱ぶりを紹介しようと取材していた。そうしたら、安倍政権の失態、お粗末な対応の事実が次から次に出てきた。『新潮』は今、部数も話題性も『(週刊)文春』に大きく水をあけられ、赤字転落ぎりぎりのところにきていますから、政治的イデオロギーばかりで記事をやるわけにはいかない、という空気が強くなっている。今回も、新事実が幾つも出てきて、書くしかない、という判断になったんでしょう」(週刊誌関係者)
ようするに、応援団さえも批判せざるをえないほど、安倍政権の今回の震災対応はひどかったということだろう。
多くの被災者が今なお困難な状況にいるにもかかわらず、そのことに何の配慮もせず、自らの政治的野望のために、震災を政治利用する。この国民不在の自己中心的姿勢こそが安倍首相と今の政権の本質だということは、もはや疑いようがない。 (伊勢崎馨)