2016年5月18日水曜日

18- 「再批判 自民党改憲案」(9)~(10)

 しんぶん赤旗の「再批判 自民党改憲案」シリーズ、今回は
     個人に規制 企業に寛大 
    10 国の宗教活動 大幅容認 
 です。
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再批判 自民党改憲案(9)個人に規制 企業に寛大
しんぶん赤旗 2016年5月16日
 内閣法制局発行の『新憲法の解説』(1946年11月3日)は、婚姻は両性の合意のみに基づいて成立することや、夫婦は同等の権利を有すること、家族関係における個人の尊厳と両性の本質的平等を規定した憲法24条について「封建的家族制度に一大革新を要請するもの」としています。
 
古い価値観復活
 戦前の「家」制度のもと、結婚は家長(戸主)の同意なしに認められず、家と家との関係でした。妻には財産の管理権も相続権も認められず、契約締結の能力も否定されていました。家長によって統率される「家」を単位に、全ての臣民を天皇中心の国家体制に動員する仕組みでした。こうした古い「家」制度と男尊女卑を否定し、家族関係を革新する規定が24条でした。
 
 ところが自民党改憲案は24条に新たに1項を新設。「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」と規定しました。
 「個人」とその尊厳を否定する一方で、「家族」を「社会の基礎的単位」とあえて位置づけ直す―。ここには古い価値観の復活の危険があります。自民党改憲案が、戦前との歴史・文化の継続性を基調としていることからも軽視できません。
 
 安倍政権は「女性活躍」を掲げますが、自民党は選択的夫婦別姓について「わが国を根底から覆そうとする意識が働いているとしか考えられない」として頑強に反対。改憲右翼団体「日本会議」も反対運動を続けています。
 自民党は改憲案24条に、「家族は、互いに助け合わなければならない」という言葉を入れ、前文で「家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する」と規定しています。
 これらは、国民がまず自ら助け(自助)、次に家族や社会関係で互いに助け(共助)、国の社会保障に対する責任はその不足を補うものへと大きく変質させるものです。
 
 財政の章では「財政の健全性の確保」規定を新設(83条2項)しています。消費税増税や社会保障切り捨ての根拠となるものです。
 
新自由主義導入
 他方、日本国憲法で経済活動の自由(22条)や財産権(29条)について明記された「公共の福祉」による制約が、自民党改憲案では削除されています。生存権保障のため、資本の横暴に制約をかける必要性を明らかにする規定ですが、自民党改憲案は巨大企業への制約を「否定」する態度です。個人の自由に対しては「公の秩序」による規制を強めながら、巨大企業には寛大。巨大企業の利益最優先の新自由主義「構造改革」を進める「憲法」にする狙いです。
 地方自治の章では、経団連が「究極の構造改革」と位置づける「道州制」の導入を可能としています。
 古い価値観と企業利益優先の新自由主義が混在し、一見、支離滅裂な改憲案ですが、「個人の尊厳」を否定する点では一貫しています。(つづく)
 
 
再批判 自民党改憲案(10)国の宗教活動 大幅容認
しんぶん赤旗 2016年5月17日
 自民党改憲案は、日本国憲法の信教の自由(20条1項)と一体の政教分離原則(同3項)を緩和しています。
 
靖国参拝正当化
 国や自治体が「特定の宗教のための教育その他の宗教的活動をしてはならない」としつつ、「ただし、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものについては、この限りでない」と規定。改憲案Q&Aでは「これにより、地鎮祭に当たって公費から玉串料を支出するなどの問題が現実に解決されます」としています。「社会的儀礼」「習俗的行為」という名目で、国の宗教活動を大幅に容認することになります。
 
 自民党は毎年の運動方針で「靖国神社参拝を受け継(ぐ)」という方針を掲げ続け、春秋の例大祭や8月15日の終戦記念日には政治家の集団参拝も繰り返されています。改憲案は、日本の侵略戦争を正当化する宣伝センターである靖国神社への政治家の参拝を既成事実化し、「社会的儀礼」として「憲法の範囲内」とするのが狙いです。
 日本国憲法が信教の自由を保護するために厳格な政教分離を定めた背景には、戦前、国家神道の強制で国民の信仰の自由が破壊され、国民の戦争動員に利用されたことへの痛切な反省があります。自民党改憲案は、その反省を踏みにじるものです。
 
「戦死」と「合祀」
 安保法制=戦争法の中で、過去の戦死者の問題でなく、自衛隊員の「戦死」が現実的危険として浮上しています。「戦争する国づくり」の課題として戦死者の国家的追悼が不可避となります。その中で、靖国神社の位置づけが新たに浮上する可能性があります。
 
 自衛隊制服トップの統合幕僚長を務めて2009年に退官した齋藤隆氏は戦争法案審議開始直後の昨年5月26日、日本記者クラブで講演し、「国家国民に、戦死者にどう向き合うか考えてもらう必要がある」とし「国家に殉じた人たちの合祀(ごうし)を考える」必要性に言及しました。他方、靖国神社への「合祀」については、「まさに各国どこでもナショナルセメタリー(国家墓苑)を持っている。基本的には、中立で国民誰もが尊敬の意を示せるようなメモリアル(記念施設)を考える必要がある。私自身は『靖国』というイメージではない」と述べました。
 
 地方の護国神社では、自衛隊の隊友会の申請により殉職自衛官が合祀されたケースがあり、今後、戦死者が出た場合、合祀が問題となりえます。
 過去の戦死者については、国立追悼施設の建設が検討されてきましたが、「靖国」派の反対などで進んでいません。13年秋には、米国のケリー国務長官とヘーゲル国防長官(当時)が訪日に際して千鳥ケ淵戦没者墓苑に献花し、日本の政治家の靖国参拝へのけん制として注目されました。しかし、安倍首相は同年12月26日に靖国参拝を強行し、内外の厳しい批判を浴びました。(つづく)