2016年5月8日日曜日

「再批判 自民党改憲案」(1)~(3) (しんぶん赤旗)

 しんぶん赤旗は3日から「再批判 自民党改憲案」の連載をスタートさせました。
 「再批判」としているのは、第2次安倍政権発足(201212月)の直後、いち早く自民党改憲案の全面批判を連載しているからです。
 
 自民党改憲案は、立憲主義の認識を持たない人たちによって2009年にまとめられたもので、識者からは「憲法の体をなしていない」とか封建時代の「お触書」並みのものだと酷評されています。
 しかし衆院で既に2/3の勢力を確保している安倍政権は、もしも参院でも野党の改憲勢力を合わせて2/3を得ることが出来れば発議の条件を満たすので、成立を目指すと公言しています。
 万一、お触書並みの『憲法』が成立した場合の不幸は計り知れません。そんなことにならないためにも、ここで改めて自民改憲案の内容を見直しておきたいと思います。
 今回は、再批判 自民党改憲案」の(1)~(3)を紹介します。
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再批判 自民党改憲案(1) 「個人」が消え国家優先 
しんぶん赤旗 2016年5月3日
 安保法制=戦争法を強行し乱暴に憲法秩序を破壊した安倍晋三首相は、夏の参院選に向け明文改憲に踏み込む攻撃的姿勢を強めています。戦争法廃止か安倍改憲か―。憲法施行69年の記念日はまさに歴史的岐路のなかで迎えます。
 改憲・右翼団体「日本会議」が中心母体となってつくる「美しい日本の憲法をつくる会」は、いま「憲法改正を実現する1000万人ネットワーク」運動を展開しています。
 同会は、賛同者向けのメール(4月27日付)で、「本年7月に予定されている参議院選挙を前に、いま、憲法改正問題は、改正発議の対象を検討する段階」と強調。「参議院選挙において改憲勢力が国会の3分の2を占めるか、護憲派がそれを阻止するかが戦後史を画する重大な政治選択として浮上」と呼びかけ、「緊急事態条項」創設を優先課題として取り組みの強化を訴えています。
 
在任中にと執念
 同会が昨年11月に開いた1万人集会(東京・武道館)にメッセージを寄せていた安倍首相は、年初から、夏の参院選挙で改憲を争点化する姿勢を示し、9条2項の改定にも繰り返し言及。「在任中に成し遂げたい」(3月2日、参院予算委員会)とまで述べています。
 安倍首相は、改憲内容について「自民党の憲法改正草案がある」と強調。「既にわれわれは、衆議院2回、そして参議院1回、このこと(改憲案)についても掲げ選挙をたたかい、大勝させていただいている」(2月4日、衆院予算委)などと発言しているように、自民党改憲案の中身が、重大争点となっています。
 自民党改憲案は、2009年に惨敗して下野した自民党が、「保守政党」としてどんな日本を目指すのかを、新たに全面的に示したもの。いわば自民党の「世界観」「総合綱領」です。
 その内容は、近代立憲主義の成果を受け継ぎ発展させた日本国憲法の核心を全面否定し、歴史を逆戻りさせる恐るべき内容です。
 近代憲法の根本原理である「個人の尊厳」について、「個人」(憲法13条)という根本概念を消し去り、個人の尊厳を守るために認められた基本的人権の「永久不可侵」規定(97条)を全面削除しています。
 それらの規定の根本にある、人は生まれながらにして自由、平等であるという「天賦人権思想」そのものを否定しています。まさに個人の人権を守るための「憲法」が「憲法でなくなる」世界です。
 
問題改めて検証
 本紙では第2次安倍政権発足(2012年12月)の直後、自民党改憲案の全面批判をいち早く連載し、パンフレット(『全批判 自民党改憲案』)にもなっています。戦争法の強行と新たな明文改憲の動きの強まりのもと、改めてその問題点を検証します。(つづく)
 
 
再批判 自民党改憲案(2) 無制限の武力行使可能 
しんぶん赤旗 2016年5月5日
 安倍晋三首相は、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」などが3日に開いた改憲集会に自民党総裁としてビデオメッセージを寄せ、「憲法に自衛隊という言葉はなく、憲法学者の7割が違憲の可能性があるといっている。本当に自衛隊は違憲と思われているままでいいのか。国民的な議論に値する」と述べました。自民党の稲田朋美政調会長も「(自衛隊違憲論のもとで)9条2項をそのままにしておくことこそ立憲主義の空洞化だ」と繰り返しています。
 9割以上の憲法学者が戦争法は「違憲」だと批判したことは無視して強行しながら、改憲の口実に“自衛隊違憲論”を持ち出す、自民党のご都合主義は通用しません。
 
2項削除の狙い
 そもそも自衛隊違憲論の「克服」は、便宜的な口実。自民党改憲案の「国防軍」創設=9条2項削除の狙いは「自衛隊の追認」にとどまりません。
 自民党改憲案は、これまで海外での武力行使の歯止めとなってきた9条2項を削除したうえに、新2項で「前項(戦争放棄)の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」との規定を盛り込みました。
 
 この「新2項」について自民党改憲案Q&Aは、政府が集団的自衛権の行使を禁ずる理由を「9条1項・2項の全体」の解釈によるとしていることから、戦力不保持規定を削除したうえ「新2項」を設け「自衛権の行使に何らの制約もないように規定しました」と説明しています。
 現行憲法9条2項の戦力不保持規定を削除しても、1項の「戦争放棄」の解釈次第で、なお集団的自衛権の行使が禁止されるおそれがある―。その可能性を念入りに排除したということです。
 「専守防衛」の自衛隊“追認”どころか、無制限の海外での武力行使を可能とする―。ここに自民党改憲案の最大の狙いがあります。
 
明文改憲を狙う
 安倍首相は「自衛隊が違憲なら、集団的自衛権も違憲になる」とも述べます。
 これまで政府は“自衛隊合憲”論を主張し、それと一体で「集団的自衛権の行使は許されない」と海外での武力行使を禁じてきました
 安倍政権が憲法解釈変更で集団的自衛権行使を容認すると、自衛隊を「合憲」とする保守派憲法学者からも「安保法制は違憲」と指摘され、それが国民的批判の爆発の発火点となりました。今度は“自衛隊違憲”論を持ち出し、「新2項」を含む明文改憲を狙う―。安倍首相のごまかしはご都合主義で、稚拙です。
 安倍自公政権は、虚構の多数で戦争法を強行したものの、憲法9条2項がある限り、「違憲」「立憲主義破壊」の批判がやむことはありません。集団的自衛権行使のための「存立危機事態」の認定、承認をめぐっても、その都度、国会で激しい憲法論争となることも避けられません。(つづく)
 
 
再批判 自民党改憲案(3) 軍機保護・軍刑法の危険 
しんぶん赤旗 2016年5月7日
 自民党改憲案では、国際の平和と安全のため「国際的に協調して行われる活動」への国防軍の参加を可能としています。あえて「国連」という言葉を外しています。
 イラク戦争のような、国連憲章の平和秩序を踏み破る、米国の単独行動への参加を可能としているのです。
 
秘密法に“根拠”
 戦争法の中の、派兵恒久法=国際平和支援法では、何らかの国連決議の存在が、米軍等の武力行使への後方支援の要件ですが、そうした決議は不要となり、「後方支援」にとどまらず共同の武力行使が可能となります。
 何が秘密かも秘密、秘密を探ろうと相談(共謀)しただけで処罰される異常な弾圧法規に、憲法上の“根拠”を与えます。
 改憲案21条は、表現の自由に関し、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」は認めないと規定。「軍事機密」を侵す報道や調査は、人権として保障しないことになりかねません。
 
殺害命令の貫徹
 改憲案は、軍人の「職務の実施に伴う罪」などを裁判するため、「国防軍に審判所を置く」としています。
 軍人の「職務の実施に関する罪」を定めるのは「軍刑法」です。軍刑法は軍人を規律するため特別の罰則を規定したもの。例えば、旧陸軍刑法57条では、敵前で上官の命令に服従しなかったものは最高で「死刑」でした。「人を殺すな」という人間の最低の基本倫理に対し、「人を殺せ」という命令が優越します。
 戦場で「殺し殺される」状況のもと、上官の命令は絶対です。それを強制する軍刑法なしに戦争はできません。
 戦争法では自衛隊法にある「上官の職務上の命令に対し多数共同して反抗した者」などを処罰(最高懲役7年)する規定を「国外犯」に拡大。「日本国外においてこれらの罪を犯した者にも適用する」としました。(122条の2)
 自衛隊はこれまで「専守防衛」のもと、外国領土での戦闘を基本的に予定していませんでした。ところが、集団的自衛権の行使が可能となり、他国領土での戦闘で敵兵の殺害をはじめとした命令の貫徹を求めたのです。
 自民党改憲案が実現すれば、さらに軍人処罰の範囲も、処罰の上限も無制限に拡大します。(つづく)