2014年2月に米国が起こしたウクライナでのクーデター後、新体制の大統領に親米派のペトロ・ポロシェンコが就きました(同年6月)。しかしウクライナではクーデター実行部隊のネオ・ナチが跋扈していたため結局、破綻国家になりました。そうした状況への不満から2019年5月、ウクライナの国民はボロディミル・ゼレンスキーを大統領に選びました。ゼレンスキーも米国の権力には従っていましたが今年1月28日、「侵略が差し迫っているという間違った警告はウクライナの経済を危険な状態にする」と発言し、パニックを作り出そうとしないよう西側の記者に求めました。その2日前にロシア、ウクライナ、フランス、ドイツの代表がパリでウクライナ情勢について討議し、事態を平和的に解決することで合意していました。ゼレンスキー大統領の発言は、いわば米国専制からの離脱宣言でした。
米政府が圧力をかける中、フランス、ドイツ(それにイタリアなど)は事態の平和的な解決を模索しています。これは2014年の2月のクーデター前夜と同じ状況ですが、勿論米国には最早クーデターを起こす力はないし、そんな状況でもありません。
米国のNATO内での力関係もその頃とは変わりつつあるし、米国とロシア・中国との力関係も明確に変わりました。
櫻井ジャーナルが「今、ウクライナの大統領を交代させたがっているのはアメリカ政府」とする記事を出しました。2014年のクーデター以降の米国を巡る状況が述べられています。
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今、ウクライナの大統領を交代させたがっているのはアメリカ政府
櫻井ジャーナル 2022.02.02
ウクライナ内務省のデニス・モノステルスキー大臣と警察を統括しているイゴール・クリメンコは1月31日、社会の不安定化を狙って抗議活動を計画していた人物を逮捕したと発表した。5000名以上が平和的なデモに紛れ込み、暴力行為に出ようとしていたされている。
このシナリオは2013年11月から14年2月にかけてバラク・オバマ政権がネオ・ナチを使って実行したクーデターを思い出させる。その時はまずキエフのユーロマイダン(ユーロ広場、元の独立広場)で「カーニバル」的な集会を開くところから始まった。
その抗議活動を話し合いで解決しようとしたEUに怒ったのがアメリカのビクトリア・ヌランド国務次官補。ジェオフリー・パイアット米国大使とヌランドが電話で「次期政権」の閣僚人事について話している音声が2014年2月上旬にインターネットへアップロードされたのだが、その中でヌランドは「EUなんかくそくらえ」と口にしたのだ。彼女は暴力的にビクトル・ヤヌコビッチ政権を転覆させるつもりだった。話し合いではヤヌコビッチの影響力が残ってしまう。政権が続く可能性も小さくない。
2月18日頃になるとネオ・ナチの集団は棍棒、ナイフ、チェーンなどを手にしながら石や火炎瓶を投げ、ピストルやライフルで銃撃を始め、広場では無差別の狙撃があった。狙撃を指揮していたのは西側が支援していたグループの幹部でネオ・ナチのアンドレイ・パルビーだということは後に判明する。
ヤヌコビッチが排除されて3日後の2月25日に現地入りしたエストニアのウルマス・パエト外相は現地を調査、狙撃したのはクーデター派だとEUのキャサリン・アシュトン外務安全保障政策上級代表(外交部門の責任者)へ電話で報告しているが、これはもみ消されそうになった。表面化したのは、その会話を何者かがインターネット上に流したからだ。その音声は本物だとパエトは語っている。
その後、ウクライナはネオ・ナチが跋扈する破綻国家になる。そこをアメリカ/NATOは軍事的な支配地にしてロシアへ攻撃できる態勢を整えようとした。自分たちで訓練したネオ・ナチだけでなく、周辺国から兵士を入れ、アメリカの傭兵会社からも戦闘員を雇い入れている。
ロシアにとってウクライナは侵略する価値のない国になったが、アメリカ/NATOの軍事的な拠点になることは認められない。1941年6月にドイツが「バルバロッサ作戦」を始めた時よりも状況は悪くなってしまうからだ。
オバマ政権がネオ・ナチを使ったという事実を「親米派」は封印しておきたかっただろうが、ウクライナにもインターネットはあり、携帯電話で状況は世界に発信された。当初はBBCでさえ、クーデターの主体がネオ・ナチだということを報道していた。
オバマ政権で副大統領を務めた現大統領のジョー・バイデンは「脅せば屈する」という政策をロシアや中国に対しても使っている。ロシア政府がアメリカ/NATOの軍事的な支配地拡大はロシアの安全を脅かすと主張し、NATOをこれ以上東へ拡大させないこと、モスクワをターゲットにできる攻撃システムをロシアの隣国に配備しないこと、ロシアとの国境近くで軍事演習を行わないこと、NATOの艦船や航空機をロシアへ近づけないこと、定期的に軍同士の話し合いを実施すること、ヨーロッパへ中距離核ミサイルを配備しないことなどを保証する文書を作成するように求めた。
そうした求めをアメリカのアントニー・ブリンケン国務長官やNATOのイェンス・ストルテンベルグ事務局長は拒否、それから3日後の1月10日にアメリカのウェンディ・シャーマン国務副長官はロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官とジュネーブで会談したが、予想された通り進展はない。
リャブコフ次官は交渉が袋小路に入り込んだと表現、双方の問題への取り組み方が違い、交渉を再開する理由が見つからないとも語ったという。ウラジミル・プーチン露大統領は「戦争を望まないが、戦争したいなら受けて立つ」という姿勢で、「戦争が不可避なら先手を打つ」と考えているとも言われている。核戦争で脅せばロシアは怖気付いくとバイデン政権は考えたのかもしれないが、そうした展開にはならなかった。
1月18日にドイツのアンナレーナ・ベアボック外相はモスクワでロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と会談、今後のことはアメリカ政府次第だと言われたという。21日にはドイツ海軍の海軍総監だったケイ-アヒム・シェーンバッハ中将がニューデリーのシンクタンクで、ロシア軍がウクライナへ軍事侵攻しようとしているとする話は「ナンセンス」であり、ウクライナがクリミアを取り戻すことな不可能だと語る。それが問題になり、中将は1月22日に辞任を申し出ている。
1月21日にはアメリカのアントニー・ブリンケン国務長官とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相がジュネーブで会談している。ロシアがなぜ会談に応じたのか訝る声も聞かれたが、ともかく会談は行われた。ラブロフ外相はルーマニアやブルガリアを含む国から外国の軍隊を引き上げさせることも求め、ブリンケン長官は次の週に回答するとした。その後、文書は渡されたものの、回答はしていない。
1月26日にロシア、ウクライナ、フランス、ドイツの代表がパリでウクライナ情勢について討議、事態を平和的に解決することで合意。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキーは西側の記者に対し、侵略が差し迫っているという間違った警告はウクライナの経済を危険な状態にすると発言、パニックを作り出そうとしないように求めた。ロシア軍の軍事侵攻が迫っているという話をウクライナの国防省は否定、ドミトロ・クレバ外相も軍事侵攻するために十分な兵力は集結していないと語っているが、いずれもアメリカ政府のシナリオに反している。
それでもジョー・バイデン米大統領は1月27日、ロシア軍が来月にもウクライナへ軍事侵攻する可能性があると主張した。それをロシア政府は否定しているが、私的権力が支配する有力メディアを使い、アメリカ政府はプロパガンダを続けている。
そして今回の逮捕劇。実際にウクライナの内務大臣が言うようなことが行われていたなら、手口にしても、動機にしても、実行者はひとつの国に絞られる。勿論、ロシアではない。