2022年2月25日金曜日

田中宇氏の推理が的中 「ロシアがウクライナ東部2州を併合しそう」

 14日に国際情勢解説者の田中宇氏が、ブログ「田中宇の国際ニュース解説」に「ロシアがウクライナ東部2州を併合しそう」とする記事を載せていました。

 10日以上前の記事ですがその通りになりました。それは田中氏の推理の正確さを示すものですが、そこには「ウクライナ東部2州(ドンバス、ドネツクやルガンスク)」を巡るロシアの8年来の思いと、それを一貫して妨害してきた米国の動きが分かりやすく書かれています。遅まきですが以下に紹介します。
 原文には各節ごとに根拠となる元記事のタイトルが紹介されていますが、英文記事のため省略しました。
 なお記事の冒頭に書かれている通り、この記事はロシアは正義のためにウクライナに侵攻するかもの続きです(タイトルをクリックすればそこにジャンプします)。
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ロシアがウクライナ東部2州を併合しそう
                          田中  2022年2月14日
この記事は「ロシアは正義のためにウクライナに侵攻するかも」の続きです
ロシア軍がウクライナに侵攻しそうだという話で大騒ぎになっている。米政府は昨年末から繰り返し、露軍がもうすぐウクライナに侵攻しそうだと言い続けてきた。それらは、露軍がロシア国内で行った軍事演習を侵攻準備だと言い募ったり、ロシアとベラルーシの軍事交流を侵攻準備と喧伝したりする誇張策で、何日かたつと「はずれ」とわかるものだった。今回もその手のバイデン流ボケ話だと書いているメディアもある。だが、今回は様子が違う

異例さの一つは、米当局が「露軍のウクライナ侵攻は2月16日だ」と、日付まで指定して予測していることだ。2月11日に米安保担当大統領補佐官のサリバンが「北京五輪終了(2月20日)より前に露軍がウクライナ侵攻しそうだと述べた後、同日中にバイデン大統領がEUやNATO諸国の指導者とビデオ会議した時に、露軍が2月16日に侵攻すると述べた。米諜報界はあちこちで2月16日露軍侵攻説を言い回っている。開戦日が事前に指定されている戦争話は前代未聞だ。当初、米英だけがウクライナの首都キエフから外交官らを避難させていたが、その後は米国が喧伝する予測に押されるかたちでNATO諸国や日本の外交団などもキエフから避難し始めている。

戦争だ、戦争だとヒステリックに叫ぶ米政府と裏腹に、戦争当事者のウクライナのゼレンスキー大統領は1月末に「露軍が間もなく侵攻してくるという話は事実でなく、パニックを扇動するものでしかない」と米国側を非難した。ロシア政府も、露軍侵攻話は米国のでっち上げだと言っている。ウクライナとロシア側を和解させようとしている独仏など欧州諸国も、戦争パニックを扇動する米政府に迷惑しているようだ。この状況をどう分析したら良いのだろう。 

私が見るところ、米国が発する2月16日侵攻説は根拠がある。それは、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスクの2州が2014年のウクライナ内戦開始時からずっと宣言し、ロシアに承認を求めてきた「東部2州のウクライナからの分離独立とロシアへの併合」について、ロシア連邦議会下院(デューマ)が2月14日に審議し、プーチン大統領が東部2州のロシア併合を認めてくれるよう請願する決議を可決する可能性があることだ。ドネツクとルガンスクはロシア系住民が多く、ウクライナの政府と軍から敵視攻撃されてひどい目にあっている。1月の記事で書いたとおり、ロシアの世論は、2州のロシア併合を認めてやるべきだと強く思っている。ロシアのナショナリズムの流れに沿って、ロシア議会で1月中旬から2州のロシア併合を認めてやるべきだと話が出ている。

2月14日の審議は延期されそうだという話もある。だが半面、ロシアのプーチン大統領は、北京五輪に際して2月4日に訪中して習近平と会談した時に、中国側からウクライナ問題に関する明確な支持を得ている。中国がウクライナ問題でロシアを支持したのはこれが初めてだ(これまでの中共は米国に気兼ねして中立の立場だった)。ロシアが東部2州を併合したら、中国が支持してくれる状況になった。対照的に、ウクライナをテコ入れしてロシアを敵視してきた米国の覇権は低下する一方だ。ロシアがまだ弱かった2014年のウクライナ内戦開始時、プーチンは欧米からの猛烈な敵視・制裁を受けつつ、軍事的に重要なクリミアをロシアに併合するのがやっとで、東部2州も併合してロシア系住民を守ってやりたかったが、そこまでやれなかった。その後8年間、東部2州の住民はひどい目にあい続けている。早く併合して、楽にしてやらねばならない。 

ロシア議会が2州のロシア併合を要請し、プーチンがそれを受けて併合を正式に認めると、2州はロシアの法律上、国内の地域になる。2州の住民が外国から攻撃されて危険な目にあっていたら、ロシア軍が2州に行って住民を守り、外国勢力を追い払うことが「軍の任務」になる。2州はロシア国内になるのだから、ロシア軍が2州に行くことはロシアの法律上「外国への侵攻」でなく「国内移動」になる。ロシアが2州を併合しても、ウクライナはそれを認めない。たとえウクライナ政府軍が自重して2州から撤退しても、CIAなど米諜報界が軍事支援して傀儡化してきたウクライナ民兵団が2州のロシア系民兵団を攻撃して戦争を再燃させるので、ロシア軍の2州への国内移動(米欧ウクライナから見ると「侵攻」)は避けられない。2月14日にロシア議会が2州の併合をプーチンに要請し、2月15日にプーチンが2州の併合を決めて署名すると、2月16日にロシア軍が2州に入る(侵攻する)ことになる。これは確定でないが、妄想でもない。 

ロシア軍が2州に入ると、露軍より劣勢なウクライナの政府軍と民兵団は戦闘に負けて新しい国境線の向こう側まで退却し、2州のロシアへの併合過程が完了する。この過程で、もし米軍がウクライナ政府の求めに応じて東部2州に入ってロシア軍と戦闘開始すると、第三次世界大戦になる。しかし、多分それはない。バイデン大統領は「露軍がウクライナに侵攻したら、ロシアに対し、これまで見たことのないようなすごい経済制裁をしてやる」と何度も言っているが、彼が強調するのはいつも経済制裁に偏重しており、ウクライナに米軍を入れる話は全くしていない。国連のP5どうしは戦争しない。 

ウクライナがすでにNATOに入っているなら、2州をウクライナからもぎ取ろうとするロシアと戦争する法的義務が米国に生じるが、ウクライナはまだNATOに入っていない。ロシアが2州を併合する前にNATOがウクライナを加盟させると、ロシアは世界大戦を覚悟しない限り2州を併合できなくなる。だからプーチンは、昨年秋から「ウクライナをNATOに入れたら承知しないぞ」と米欧側を脅しつつ、先日の2年ぶりの中国訪問をこなして習近平をウクライナ問題で味方につけた上で、これからの2州併合へと向かおうとしている。 

2州をロシアに取られたら、ウクライナはもうNATOに加盟できない。NATO側はロシアの2州併合を認めず、今後も「ロシアは2州をウクライナに返すべきだ」と言い続けるが、この状態でウクライナをNATOに入れると、その瞬間にNATOがロシアと戦争せねばならなくなる。NATOへの新規加盟は、既存のすべての加盟国の賛成が必要だ。米英ポーランド、バルト三国など「ヒステリ反露(MI6傀儡)諸国」以外の多くの加盟国が、ウクライナの加盟に反対するようになる。NATOやEUは、内部で、ヒステリ反露諸国と対露現実主義諸国(ドイツ筆頭)との対立がひどくなり、内部分裂して弱くなる。

米欧など「国際社会(笑)」はロシアへの経済制裁を強める。ドルなどの銀行間国際決済のシステムであるSWIFTからロシア勢を除名し、ロシアがドルを使えないようにする制裁もたぶん行われる。だがロシアは、何年も前から中国やイランなど非米諸国と組み、ドルでなく相互の自国通貨で決済して国際取引を続ける新システムを導入し、拡大してきた。欧米のロシア制裁は以前なら、欧州に石油ガスを売れなくなってロシアが収入を失って困窮する流れだったが、近年はロシアの石油ガスの全量を中国が買ってくれる。そのためのパイプラインの送付先変更も準備ができている。ロシアは、米国から何年も敵視されている間に準備完了した。あとは、実際に欧米からの制裁が強化された後、これまで欧州に送っていた石油ガスを中国に送るよう、シベリアやウラルにあるいくつかのバルブを開閉するだけだ。困るのはロシアでなく欧州だ

昨夏に完成した、ロシアからドイツ(などEU全土)に天然ガスを送るパイプライン「ノルドストリーム2」は、米国がロシア敵視の一環としてドイツに加圧して稼働を止めているので、使われていない。ロシアが2州を併合したら、その後もずっと使われないままになる。欧州が、ロシアから買えなくなった天然ガスを米国から買う構想があったが、最近、米民主党がインフレ対策の一環として米国内の天然ガスを外国に売ることを制限し始めているので売ってもらえなくなる傾向だ。米国は欧州に対し、どこまでも意地悪だ。なのに対米従属を続ける間抜けな欧州凍死しても自業自得だ。

ウクライナが東部2州をロシアに取られたくなければ、ミンスク合意に沿って、東部2州に自治を再付与することを目標に、ウクライナ政府が東部2州の政府と交渉を開始すれば良い。ミンスク合意は、ウクライナ内戦の解決策として2014年からウクライナ政府と東部2州政府、ロシア、独仏などOSCEが集まって交渉してきた枠組みだ。合意が達成されれば、東部2州の人々は自治を再付与され、再び安心して暮らせるようになる。ロシアは、東部2州のロシア系住民を併合によって守ってやれない代わりに、罪滅ぼし的にミンスク合意を推進してきた。しかしウクライナ政府はこの8年間、東部2州との交渉を拒否し続け、全く進めていないウクライナの世論は米英のプロパガンダ策によって極度のロシア敵視に陥ったままで、ミンスク合意は「ロシアの悪だくみ」として毛嫌いされ、ウクライナ政府が東部2州と話し合いをすることは不可能になっている。ウクライナ政府が東部2州と話し合いをするには、東部2州の内戦が停戦していることが必要だが、話し合いの雰囲気が醸成されるそうになると米諜報界の傀儡であるウクライナ民兵団が東部2州で戦闘を激化させて潰してきた

ミンスク合意は履行不能だ。ロシアと欧州の首脳や外交官たちは、こういう状況を知りつつ、ずっとミンスク合意に拘泥してきた。欧州は、対米従属が国是である以上、米国傀儡なウクライナに味方せざるを得ないが、ロシアとの決定的な敵対もエネルギーや安保上の理由から避けねばならない。そのため欧州は、時間稼ぎとしてミンスク合意への拘泥を続けてきた。ゼレンスキー政権などウクライナ政府は、この時間稼ぎの構図のもとで、欧米から経済軍事の支援を受けて延命してきた。国際的な力量が足りなくて2州を併合してやれなかったロシアは、この時間稼ぎの体制下で、国際的な力量を増加させようと努力してきた。その一方でロシアはこの間、2州の住民がロシア旅券をとれるようにしてやり(人口200万人の2州で60万冊の露旅券を発給)、2州の身分証明書や自動車のナンバープレートなどをロシアの公文書として認めてやり、ルーブルを2州の通貨にし、ロシアと隣接する2州の製品が自由にロシアで売れるようにして、経済的な2州の併合を「ミンスク合意が達成されるまでの暫定措置」の建前で進めてきた。 

こうして、あとはいつロシア(プーチン)が、自国が国際的に十分な力量をつけたと判断して公式な2州の併合に踏み切るか、という段階になっていた。ここでプーチンは昨年末から、ウクライナのゼレンスキー大統領に、ミンスク合意を履行する最後のチャンスを与えることにした。ウクライナ政府が、これまでずっと拒否してきた東部2州との話し合いに入るなら、ロシアはその間、2州を併合しない、という話だ。そもそもウクライナ政界のロシア敵視・2州敵視の状況からして、ゼレンスキーが東部2州と話し合うのは無理だったが、ロシアは最後通牒としてこの話を出した。これはゼレンスキーにとって最後の時間稼ぎの好機だった。 

しかし、その時間稼ぎを破壊する感じで、バイデンの米国が昨年末から「もうすぐロシアがウクライナに侵攻する」と繰り返し騒ぎ出した。米国が騒ぐほど、ウクライナの民兵団など米傀儡勢力がロシア敵視を扇動され、好戦的に動いて東部2州の戦闘を激化し、ゼレンスキーは2州と交渉を開始するふりすらできなくなった。ゼレンスキーがバイデンに「(時間稼ぎができなくなるので)露軍の侵攻を煽るのはやめてくれ」と苦情を発したのはこの流れの中だった。 

欧州の首脳や外交官たちも、バイデンの露軍侵攻扇動に迷惑していた。欧州(OSCE)の外交官や安保要員たちは、ミンスク合意体制の一環として、ウクライナ東部の停戦を監督し、内戦を止める働きをしていた。米国が露軍侵攻を扇動し、東部の内戦が再燃すると、当初は米英の要員が退避しても、欧州の要員は停戦監視のためにウクライナに残ろうとしていたのが困難になり、2月11日に米政府の侵攻扇動が強まるとともに、欧州の要員も停戦監視をやめて退避せざるを得なくなった。停戦監視団がいなくなると、東部2州での内戦を止める勢力がいなくなり、内戦がさらに激化して和平不能になり、ロシアが2州併合に踏み切らざるを得なくなる。米諜報界の隠れ多極主義者たちが、バイデンを動かし、ロシアが2州を併合して中露と欧米の分裂を加速して多極化が早く進むように策謀している。

ロシア議会で2州併合案が最初に出されたのは1月19日だった。プーチンの与党「統一ロシア」でなく、共産党と公正ロシアという2つの野党が併合案を提出した。プーチンは野党に併合案を出させ、ロシアナショナリズムの勃興に沿って併合策が遠くからしだいにやってくる感じを演出している。プーチンの電話一本で議会は動く。ウクライナ政府が2州と交渉開始するなら併合案を進めないけど、いつまでも時間稼ぎできるものではないよ、というウクライナ側への警告だ。

この話を書いている間に、ウクライナ政府がミンスク合意の枠組みで急いでロシア政府と話し合いたいと言い出したという報道が流れてきた。ドイツの首相も、ロシアとウクライナを歴訪するらしい(これは以前からの予定みたいだが)。新たな外交の盛り上がりによって、ロシアが2州併合を延期するのかどうか。これまでの時間稼ぎ型とは違う、進展する話し合いをやれるのか。この事態が続くほど世界のエネルギー価格が上がり、インフレが欧米経済を潰していく。どうなるのか。まだ分析したいことはあるが、いったんここで配信する。