アベノミクスは、第二次安倍政権発足以降9年がかりで展開されましたが、遂に物価2%上昇は達成されませんでした。元々「物価上昇2%」という目標設定?自体がおかしいものだったのですが。
それがここにきて円安による輸入品価格の上昇が抑えきれなくなり、悪性インフレに傾いた結果物価が上昇し2%に近づいてきました。安倍元首相と歩調を合わせてアベノミクスを推進してきた黒田東彦・日銀総裁は定めし満足のことと思いきや、それを必死に否定しているということです。
そもそも日銀の財政運用に基いて展開されたアベノミクスは投資家や輸出産業を大儲けさせましたが、正常の経済に軟着陸させるという出口戦略がないことは当初から言われていました。それが景気の活性化に基づく物価上昇ではなくて、悪性インフレによる物価上昇ということでは、なお更 手仕舞いなどは出来ないのでした。一体どうするのでしょうか。
浜矩子・同志社大教授による、「黒田日銀総裁の『絶対矛盾』がもたらす歯切れのよさに失笑を禁じえない」とする特別寄稿が、日刊ゲンダイに載りました。
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特別寄稿
黒田日銀総裁の「絶対矛盾」がもたらす歯切れのよさに失笑を禁じえない
浜矩子 日刊ゲンダイ 2022/02/11
日銀の黒田東彦総裁の話はいつも「このボタンを押すと、このセンテンスが出てくる」という感じで、同じ言葉が繰り返されることが多いのですが、1月17、18日の金融政策決定会合の直後に行われた記者会見は、いつにも増して「ボタン」が押され、“面白い”発見がありました。
輸入価格の上昇により、ガソリンや食料品などの値段が上がっています。会見では記者から「日銀の目標である物価上昇率2%にずいぶん近づいてきています」と、何度も質問されたのですが、黒田総裁は「決定会合の見通しは2023年度末でもまだ1%程度」「金融政策を変える必要は全くありません」と繰り返しました。
この発言は、ものすごくおかしい。2%という、自分たちが9年間達成できなかった目標に、ようやく近づいてきているのだから、まともな金融政策責任者なら喜ぶはずです。異常な金融政策を解除し、いよいよ正常な道に戻れるのですからね。自分たちの力ではなく、供給サイドのリスクが物価上昇をもたらしている、という予期せぬ力学が働いていることを踏まえつつ、ここを正常化への足がかりにする。そう考えるのが、まともな政策責任者の発想でしょう。
記者会見で露呈した苦し紛れの構図
ところが黒田総裁は、正常化や出口について「全く考えておりません」「全く変わっておりません」「利上げの議論など全くしておりません」の一辺倒。一体、何回「全く」という言葉を使ったことか。その底流にあるのは、2%になっては絶対に困る、2%になりそうだという雰囲気すら広がっては困るということ。
なぜそうなるかというと、2%を達成して異次元緩和の世界から帰還しなければならなくなると、国債の買い支えという政府の指令に従えなくなってしまうからです。それで「全く」という言葉を繰り返す。いかに金融と財政が一体運営になっているか、最初から「財政ファイナンス(⇒資金調達・運用)」が狙いだったのかが分かります。そうした事実が、総裁自らの口からどんどんこぼれ出てくる会見でした。
2%の目標をセットした人たちが、2%に絶対ならすまじと踏ん張る。だから、やたら大見えを切って「全く考えていない」と歯切れよく言ってしまう。この「絶対矛盾がもたらす歯切れよさ」という苦し紛れの構図には失笑を禁じえません。
さらに黒田総裁は、物価と賃金がスパイラル状に押し上げ合っていくことを期待する発言もしていましたが、一方で、物価上昇率は2%にならない、と断じた。アホダノミクスの目指す「物価と賃金の好循環」を狙うとしながら、その実、財政ファイナンスをやめなきゃいけなくなる物価上昇は困るわけです。全くつじつまが合っていませんよね。これも矛盾。まさに、ダブルの矛盾が露呈した黒田会見でした。
いまの日本の現状は、中央銀行が政策を柔軟に動かさないがゆえに、弱者がより弱い立場に追い込まれ、生活が行き詰まっている。金融政策が弱い者イジメなどというナンセンスは、世界広しといえど、そうあることではありません。決定的に矛盾した政策をやっているからであり、アホダノミクス男はそこをどう解決するのか。これは大問題です。
浜矩子 同志社大学教授
1952年、東京生まれ。一橋大経済学部卒業後、三菱総研に入社し英国駐在員事務所長、主席研究員を経て、2002年から現職。「2015年日本経済景気大失速の年になる!」(東洋経済新報社、共著)、「国民なき経済成長」(角川新書)など著書多数。