2022年2月13日日曜日

13- 差別発言・問題発言を「石原節」で容認したメディア

 1日に亡くなった元東京都知事・作家の石原慎太郎氏について、生前の彼の差別発言・問題発言を「石原節」として容認したメディアを批判する記事:山口正紀氏の「『言いたいことは山ほどある』第19回(2022/2/12 不定期コラム)」が、「レイバーネット日本」に載りました。

 山口氏は、1日夜NHKニュースが流した訃報で紹介された計21人の「悼む声」では、どれもひたすら石原氏の「功績」を称え、最大級の褒め言葉で彼の死を惜しむものばかりで、生前、石原氏がまき散らした差別発言や問題発言に言及する談話は一つも放送されなかったことと、2各紙朝刊1面準トップ、社会面トップで大きく報じた訃報も、「作家で、政治家で、歯に衣着せぬ発言で物議に集約されるとして、「歯に衣着せぬ」とは普通肯定的に使われるが、彼の数多の差別発言は「正直本音」で済まされるレベルの生易しいものではないことを指摘しました。
 そのうえで改めて「記憶に刻むべき差別発言、問題発言」を詳述しました。
 労作です。
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差別発言・問題発言を「石原節」で容認したメディア――ヘイトクライムを助長した記憶に刻むべき石原慎太郎暴言録
                  山口正紀 レイバーネット日本 2022-02-12
数々の暴言、差別発言をまき散らし、ヘイトクライムを助長・許容する暴力的風潮を広げた元東京都知事・作家の石原慎太郎氏が2月1日、死去した。韓国のメディアが「妄言製造機が死去」と報じた石原氏。その差別発言、問題発言は、どの一件を取り上げても、国会議員や都知事などの公職から追放されるべき悪質極まりないものだった。しかし、新聞・テレビなど大手メディアはそれを批判的に報道しないだけでなく、「歯に衣着せぬ発言」などと評価し、ネトウヨなど差別主義者たちを喜ばせてきた。そして、それを批判的に検証すべき訃報の報道でも、数多の暴言を「石原節」で片づけたばかりか、《やはりまぶしい太陽だった。夕日が沈む》(『東京新聞』「筆洗」)などと賛美した。いま一度、「石原暴言録」を思い起こし、彼が日本社会に遺した傷痕を記憶に刻みつけておきたい。

●賛美一色、「天皇崩御」報道を想起させたNHKの訃報
「石原慎太郎氏が死去 各界から悼む声」――2月1日夜のNHKニュースが流した訃報は、1989年の「天皇崩御」報道を思い出させる賛美一色の気持ち悪いものだった。
訃報は「重責を担い、大きな足跡を残された。さびしい限り」という岸田文雄首相の談話に始まって、安倍晋三、野田佳彦氏ら元首相、亀井静香、二階俊博氏ら元自民党幹部、松井一郎氏ら維新の会幹部、猪瀬直樹、小池百合子ら元・現都知事、その他、JOCの山下泰裕会長や映画監督の篠田正浩氏、俳優の舘ひろし氏らの「悼む声」を延々と流した。
「太陽が沈んだ。彼は現代の最高の知性だった」(亀井静香・自民党元幹事長)、「カリスマ性があり、時代を代表する政治家で言論人だった」(茂木敏充・自民党幹事長)、「さまざまな既成概念に挑戦し続けた政治家。批判を恐れず、言うべきことは言う姿勢で一貫していた」(安倍元首相)、「国士のように、この国の将来を考えていらっしゃった方なので、本当に残念だ」(野田元首相)、「東京から国を変えるとの強い信念のもと、都政を力強く牽引してこられました。強い思いを受け継ぎ、尽力していく決意です」(小池都知事)……
NHKニュース(WEB版)には計21人の「悼む声」が再録されているが、どれもひたすら石原氏の「功績」を称え、最大級の褒め言葉で彼の死を惜しむものばかり。生前、彼がまき散らした差別発言や問題発言に言及する談話は一つも放送されなかった。

●差別、侮辱発言まで「歯に衣着せぬ発言」と容認した新聞
翌2日、各紙朝刊はいずれも1面準トップ、社会面トップで大きく報じ、政治面、文化面などにも関連記事を多数掲載した。各紙社会面は次のような見出しを掲げた。
『朝日新聞』――《石原都政 直言も放言も/「太陽族」流行語に/ディーゼル車規制 五輪招致活動/尖閣国有化を推進 反日感情招く/改憲 こだわり続けた末》
『読売新聞』――《都政13年 東京変えた/石原慎太郎さん/ディーゼル規制、マラソン、新銀行/強引な手法 功罪/「太陽の季節」嵐呼ぶ/創作意欲 晩年まで》
『毎日新聞』――《「石原節」物議醸す/尖閣、新銀行、混乱も/下積みなし文壇デビュー/「太陽の季節」「弟」「天才」/言葉に魅力/人生演じきった/大変残念》
『東京』――《硬軟巧み 慎太郎流/演じ続けた「ポピュリスト」/戦争取材が原点→総裁選落選→都政で存在感/「東京の都市構造変えた」/石原都政 大学統合では反発も》
各紙の報道トーンは、社会面トップ記事の次のようなリードに象徴される。
『朝日』――《大スターの兄で、作家で、政治家だった。(中略)数々の政策を実行した剛腕ぶりや歯に衣着せぬ発言は、時に物議を醸した》
『読売』――《「作家」と「政治家」の間を気ままに行き来し、(中略)歯に衣着せぬ物言いで斬新なアイデアを具現化する一方、禍根を残す施策や失言も多かった》
『毎日』――《「作家知事」としての抜群の知名度を生かして、国と対峙した(中略)一方で、歯に衣着せぬ発言は、しばしば波紋を広げた》
『東京』――《作家や政治家として、一時代を築いた(中略)独自施策を次々と打ち出す一方、タカ派の歯に衣着せぬ「石原節」は何度も物議を醸した》
各紙共通のキーワードは、〈作家で、政治家で、歯に衣着せぬ発言で物議〉に集約される。問題なのは、暴言に対する「歯に衣着せぬ発言」というとらえ方だ。「歯に衣着せぬ」とは、普通「正直に本音を言う」といった意味で肯定的に使われる。だが、石原氏の数多の差別発言は、「正直に本音」で済まされるレベルの生易しいものではなかった

●記憶に刻むべき差別発言、問題発言
私たちが記憶に刻むべき差別発言、問題発言は、それこそ「山ほど」ある。以下、ネット上に残された発言記録の中から主なものを拾い挙げてみる。
 ①レイシズム、外国人差別、歴史修正主義
▼「三国人、外国人が凶悪な犯罪を繰り返しており、大きな災害では騒擾事件すら想定される。警察の力に限りがあるので、皆さんに出動していただき、治安の維持も大きな目的として遂行してほしい」(2000年、陸上自衛隊観閲式で)
▼「(中国人の)民族的DNAを表示するような犯罪が蔓延することでやがて日本全体の資質が変えられていく恐れがなしとはしまい」(01年)
▼「(朝鮮植民地支配について)私たちは決して武力で侵犯したんじゃない。むしろ朝鮮半島の国々が分裂してまとまらないから、彼らの総意で(中略)近代化著しい同じ顔色をした日本人に手助けを得ようということで、世界中が合意した中で行なわれた」(03年)
▼「(日本軍「従軍慰安婦」について)強制したことはない。ああいう貧しい時代には日本人だろうと韓国人だろうと売春は非常に利益のある商売で、貧しい人は決していやいやでなしに、あの商売を選んだ」(12年)
 ②性差別、性的マイノリティ差別
▼「文明がもたらした最も悪しき有害なものはババアなんだそうだ。女性が生殖能力を失っても生きてるってのは、無駄で罪ですって。男は80、90歳でも生殖能力があるけれど、女は閉経してしまったら子供を生む能力はない。そんな人間が、きんさん、ぎんさんの年まで生きてるってのは、地球にとって非常に悪しき弊害だって」(01年)
▼「テレビなんかにも同性愛者が平気で出るでしょ。日本は野放図になり過ぎている。どこかやっぱり足りない感じがする。遺伝とかのせいでしょう。マイノリティで気の毒ですよ」(10年)
 ③水俣病患者侮辱、障害者差別
▼「(水俣病患者の抗議文について)これを書いたのはIQが低い人たちでしょう。補償金が目当ての偽患者もいる」(1977年)
▼「(重度障害者の療育施設を視察して)ああいう人ってのは、人格あるのかね。ショックを受けた。絶対よくならない。自分がだれだかわからない、人間として生まれてきたけれど、ああいう障害で、ああいう状態になって。ああいう問題って安楽死につながるんじゃないかという気がする」(99年)
▼「(やまゆり園事件について)この間の障害者を19人殺した相模原の事件、あれは僕、ある意味でわかるんですよ」(16年)
▼「業病のALSに侵され自殺のための身動きも出来ぬ女性が尊厳死を願って相談した二人の医師が、薬を与え手助けしたことで、殺害容疑で起訴された」(20年)
 ④核武装その他の問題発言
▼「私は半分以上本気で、北朝鮮のミサイルが1発落ちてくれたらいいと思う」(00年)、「北朝鮮のミサイルが日本に当たれば、長い目で見て良いことだろうと思った。日本は外界から刺激を受けない限り目覚めない国だからだ」(01年)
▼「(東日本大震災を受けて)日本人のアイデンティティは我欲。この津波をうまく利用して我欲を一回洗い落とす必要がある。やっぱり天罰だと思う」(11年)
▼「日本は核をもたなきゃだめですよ。持たない限り一人前には絶対扱われない。日本が生きていく道は軍事政権を作ること。そうでなければ、日本はどこかの属国になる。徴兵制もやったらよい」(11年)
▼「(尖閣について)中国は日本の実効支配を崩すと言い始めたが、とんでもない話だ。このままでは危ない。国が買い上げればいいが買い上げない。東京が尖閣を守る」(12年)

●差別発言・暴言の山を「石原節」で済ませてよいのか
すさまじいレイシズム、女性蔑視、水俣病患者・重度障害者に対する無知丸出しの侮辱発言、朝鮮・中国を露骨に敵視した戦争挑発と核武装論……。彼の発言記録をネット検索し、書き写しているうちに、胸がむかむかしてきた。
メディアは彼が公人として行なったこのような問題発言をきちんと取り上げ、検証すべきだった。しかし、各紙とも問題発言のごく一部をピックアップして掲載しただけで、「日本を騒がせる暴走老人です」(12年)といった、どうでもよい軽口と一緒くたに「石原節」でまとめ、「物議」「波紋」で済ませてしまった
《慎太郎節 時に物議》(『読売』)、《石原節 物議醸す》(『毎日』)、《石原節 波紋》(東京)、《直言も放言も》(『朝日』)……。
『朝日』は、石原発言として5つの発言を取り上げたが、「三国人」発言、「津波は天罰」発言以外は東京五輪や芥川賞に関するどうということのない発言。『読売』は「慎太郎節」として8つの発言を掲載したが、これも「三国人」発言、「津波は天罰」発言を除くと、「裕次郎の兄でございます」といった選挙宣伝の類が中心だった。
こうしたメディアの報道姿勢を象徴するのが、2日付『東京』のコラム「筆洗」だ。
《首相を目指していたが、作家としての強烈な個性が邪魔をし、調和を重んじる自民党では浮いた存在にもなっていた。▼それでも丸くもならず、言いたいことを言い、書きたいことを書いた。人目と批判をおそれすぎる現在の日本を思えば、その人はやはりまぶしい太陽だった。夕日が沈む》――我が愛読する『東京新聞』よ、おまえもか。(了)