2022年2月1日火曜日

岸田政権下 戦中の「暗黒日記」時代に類似してきた(孫崎享氏)

 日経新聞とテレビ東京28~30日に行った世論調査で、岸田内閣の支持率は初めて前月より6ポイント低下し59%になりました(「支持しない」4ポイント上昇し30%に)。
 外交評論家・孫崎享氏による日刊ゲンダイの週1連載コーナー日本外交と政治の正体」に、「岸田政権に対する世論の高い支持 戦中の『暗黒日記』時代に類似してきた」とする記事が載りました。
 同記事は1月28日付で岸田内閣の支持率がまだ上昇し続けていたため、そういうタイトルになっています。
 孫崎氏は鋭敏な嗅覚で「暗黒日記」時代に類似していること嗅ぎ分けて危惧しているわけです。
 この重大な時期に無能で有害な内閣は退場すべきです。
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日本外交と政治の正体
に対する世論の高い支持 戦中の「暗黒日記」時代に類似してきた
                      孫崎享 日刊ゲンダイ 2022/01/28
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 東洋経済新報社から「現代語訳 暗黒日記」が出版された。
 この本はもともと、ジャーナリストの清沢洌氏が1942年から45年にかけて書いた日記であり、戦後、高い評価を受けた。それを今、あらためて元伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎氏が「編集・解説」する形で出版されたのである。
 先の無謀な戦争に突入した最大の責任者は東条英機首相である。
 1942年6月、日本海軍はミッドウェー海戦で敗れ、空母4隻とその艦載機約290機の全てを喪失した。冷静に考えれば、日本が敗戦に向け、ひたすら進んでいることは当然、分かったことである。
 しかし、清沢洌は42年12月9日の日記で、「東條英機首相は朝から晩まで演説、訪問、街頭慰問をして、5、6人分の仕事をしている。その結果、非常に評判がいい」と書いていた。
 日本が奈落の底に向かって進み、その責任者である東条について「非常に評判がいい」と記していたのである。
 なぜ、こうした状況が起きていたのか。少し後になるが、43年1月8日の日記では、「『戦争は2つの場合に敗ける。第一は陸海軍が割れるとき。第二は民心が割れるとき。しかし、いずれも考えられず』と東條は説き、結束を破る者はいかなる者といえども容赦せずと言明した」と記し、2月20日には「佐藤賢了軍務局長、反戦、反軍の言説に対しては、いかなる政府高官の者といえども断固処分するといった」と書いている。
 つまり、東条であれ、軍部であれ、反対者を威喝してきたのだ。
 自分たちの政策に分が悪い時、為政者は異を唱える者の弾圧を始める。それは現代の日本社会でも、安倍・菅政権で実施されてきたことである。異を唱える学者を日本学術会議の会員に任命せず、政権に厳しいジャーナリストの排除を求めてきた。菅前首相は自民党総裁選の際、「政治的に決定した後、官僚が反対してきた場合」の対応について、「官僚が政権の決めた方向性に反対した場合、異動させる」と断言していた。
 高位の官僚には異動先はない。菅前首相の言う「異動させる」とは「退職させる」と同意語である。安倍・菅政権の日本社会では、あるべきことを言えば「異動」が待っていた。官僚、国会議員だけでなく、ジャーナリストもおじけづいた。
 今の岸田政権に対する世論の支持は高いが、それは政策への積極的支持ではないだろう。安倍・菅政権から続く「政権に盾突かない」という戦中と同様の「空気」がもたらす結果である。

孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。