2022年2月27日日曜日

27- バイデンがプーチンをウクライナ侵攻に導いた(田中 宇氏)

 フリーの国際情勢解説者・田中宇氏の「国際ニュース解説」は、メディアの情報には拠らずに様々なニューソースからの国際情報を紹介しています。

 その田中氏が、24日に「ロシアを制裁できない欧米」、25日に「バイデンがプーチンをウクライナ侵攻に導いた」の記事を緊急に出していて、それを読むとメディアの報道にはないものを知ることができます。
 ここでは後者の記事を紹介します。
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バイデンがプーチンをウクライナ侵攻に導いた
                          田中  2022年2月25日
2月24日の現地時間の早朝、プーチンのロシア軍がウクライナの軍事施設をミサイルなどで攻撃し、短時間でウクライナの軍事力を壊滅させた。露軍の特殊部隊が首都キエフの国際空港や空軍施設などを急襲・占拠した。駐留していたウクライナ軍はほとんど交戦せず降伏した。ロシア軍は侵攻の直前にウクライナ上空を飛行禁止にして世界に通知しており、ウクライナ空軍は露軍が攻撃してくるのを知っていたが、手持ちの短距離ミサイルなどで反撃することもせず、空軍基地や空港の滑走路にトラクターなどの障害物を置いて露軍機が着陸しにくいようにしただけだった。ウクライナ空軍は、もともと貧弱ではあったが、まったく戦わずに露軍に施設や兵器を破壊されて消滅した。ロシア軍はウクライナの制空権を強奪し、5月18日までウクライナ上空の国際航空路を飛行禁止にした。これから最短でも3か月近く、露軍がウクライナを占領することになる。

ロシアは地上軍もウクライナに侵攻したが、こちらは今のところ限定的だ。わかっているのは3種類だ。(1)ロシア領のクリミアから露地上軍の隊列がウクライナ側に越境侵攻し、ウクライナ側からほとんど攻撃されないまま、数時間後に約100キロ北のドニエプル河畔に到達した。これは「ノボロシア」建国の布石な感じがする(後述予定)。(2)露軍の上陸部隊が黒海から海岸都市のマリウポリとオデッサに上陸し、2都市を警備していたウクライナ政府軍と交戦した。交戦の結果どうなったかまだ不明。これもノボロシア建国の布石っぽい。(3)北隣のロシア友好国ベラルーシから、露軍の特殊部隊がウクライナに越境侵攻し、国境近くのチェルノブイリ原発(廃炉群)を占領した。今後ロシアの占領によってウクライナ政府の機能が低下した場合、ウクライナのロシア敵視勢力が廃炉群を占領して「爆破して放射能を撒き散らすぞ」とロシアを脅しかねないので、それを防ぐ先制策として露軍が廃炉群を占領したようだ。3種類の侵攻で、ウクライナに入ったロシアの地上軍は全部で数百人から数千人でないか。10万人の露軍がウクライナ国境にいて侵攻しそうだと喧伝されてきたが、そんな大軍は来ていない

ドンバス2州の政府は、ウクライナ政府軍の一部がロシア系民兵団(独立した2州の政府軍)に投降したと言っている。その他のウクライナの地上軍がロシアと戦う気でいるのか、それとももう投降する気になっているのかは不明だ。しかしすでに制空権を奪われたゼレンスキー大統領が、戦闘意欲のない泣きそうな顔で国民に平静を呼びかけている現状から考えて、ウクライナ政府の地上軍はもうロシアと戦わず降伏していきそうだ(右派民兵団も、後ろ盾の米諜報界が逃げてしまったので弱体化していく)。最大の頼みの綱だったバイデンの米国は、ウクライナに米軍を派兵することはないと言い続けている。助けは来ない。制空権を奪われているウクライナ政府に、外国がこれから軍事支援することは不可能だ。 

ロシアは半日でウクライナを打ち負かした。その間の死者は200人以下だった。これは戦争だが、戦争にしてはほとんど人が死んでいない。プーチンのウクライナ侵攻は大成功している。ロシアがウクライナを打ち負かした2月24日、キエフなどウクライナ諸都市では、市民がおおむね平常な日常生活を続けられた。学校は休みになり、食糧の買い貯めやATMからの現金引き出しに行列ができ、避難する人もいたものの、交通機関など公共施設は動き続け、停電にならず、水道やガスや通信網も無事だった。お見事

ロシアは、米国の傀儡だったウクライナのゼレンスキー大統領に、まだウクライナ政府を保持させている。ロシアは制空権などウクライナの防衛力を剥奪した上で、ゼレンスキー政権を生かしたまま、降伏しろと加圧している。プーチンはゼレンスキーに、ウクライナの軍事力をロシアに壊されたままの状態にしておく「非武装化」と、ウクライナ政府を二度と米国(外国勢)の傀儡にしない「非ナチ化」を宣言しろと求めている。ウクライナ政府の「非ナチ化」とは「非米化」というか「ロシア傀儡化」であるが、ウクライナのネオナチ勢力が米傀儡になってウクライナの政権を乗っ取った経緯から露側はこう呼んでいる。日本が敗戦時に「非武装化」と「非軍国化=米傀儡化」を求められたのと似ている。プーチンはゼレンスキーに「米国の傀儡をやめてロシアの傀儡になって非武装を続けるなら許してやる」と言っている。

米欧はロシアを経済制裁すると言っている。すでにG7諸国は、ロシアの政府系銀行との取引を停止する制裁を開始した。しかし、米欧からの経済制裁はロシアにとって苦痛でない。ロシアは、米欧から取引を停止された分を、中国との取引増加で補填できる。米欧が検討している最大の対露経済制裁は、ロシアの銀行界を国際決済機構SWIFTから締め出してロシアがドルやユーロ建てで資金決済できないようにすることと、プーチン個人を経済・外交的に制裁することだが、いずれも実施されない見通しになっている。米英はロシアのSWIFT除名を提案しているが、SWIFTの本拠地(ベルギー)があるEUの盟主であるドイツが反対しているので実現しない。ドイツなど欧州はエネルギーをロシアの天然ガスに依存しており、ロシアがSWIFTから除名されるとドイツへの天然ガス輸出が止まってしまい、ドイツなど欧州の方が破滅する。EUは今後もプーチンと交渉したいので、プーチン個人の制裁にも賛成できない。米欧はすでに実効性がある対露制裁をできない状況だ。

バイデン米大統領は「ロシアのウクライナ侵攻はおおむね米政府の予想通りだった」と言っている。バイデンは最初「2月16日に露軍がウクライナに侵攻する」と言って米国や同盟諸国の大使館員をウクライナから避難させた。2月16日に露軍はウクライナに侵攻しなかったが、バイデンはなおも「間もなく露軍がウクライナに侵攻する。侵攻が起きたらその日のうちに首都キエフが陥落する」と言い続けた。2月24日に実際の露軍のウクライナ侵攻が起こり、その日のうちにキエフなどの軍事施設が露軍に占領または破壊された。バイデンの予想は確かに当たった。しかし、この話はトンデモである。

バイデンは、露軍がウクライナを侵攻して半日で打ち負かすと知りながらウクライナを助けず、ゼレンスキーの懇願を振り切ってすべての大使館機能を国外(一部だけ辺境のリボフ)に避難させた。米軍は、世界のどこかの国の防衛力を72時間以内に強化し、他国の侵攻に対するある程度の防衛力をつけさせる技能を持っている。この技能が、米国を世界の警察官にしている。米政府が露軍のウクライナ侵攻を予測していたなら、空軍力が弱いウクライナを短期間で補強することもできたし、何らかの有効な対応策を米国がロシアにわかる形でそれとなくやることで、プーチンにウクライナ侵攻を思いとどまらせることもできた。 

しかし実際に米政府がやったことは、露軍が侵攻してくると大騒ぎしつつ米欧の大使館機能や軍の要員を全員ウクライナから避難させることだった。これは、ウクライナの防衛力を補強するどころか逆に弱体化してしまった。このバイデンの「未必の故意」的な超愚策なウクライナ弱体化策の展開を見て、もしかするとそれまでウクライナ侵攻する気などなかったプーチンが、これなら電撃的に侵攻できそうだと思ってしまった可能性が十分にある。米国がロシアの侵攻予定を察知したら、それを公表するのでなく機密扱いしつつ、対応策をとって侵攻を思いとどまらせるのが覇権国の採るべき道だった。バイデンは全く逆のことをした。バイデンの超愚策がプーチンをウクライナ侵攻に導いたことになる。バイデンの予想が当たったのでなく、バイデンの予測による大騒ぎの未必の故意的な超愚策がロシアのウクライナ侵攻を誘発したのでないかと私は勘ぐっている。

ノボロシア(新ロシア)のことをまだ書いていない。ロシアは、ウクライナ南東部のドンバスからモルドバ国境のトランスニストリアまでの、ロシア系が比較的多い黒海岸の帯状の地域を、昔の呼び名である「ノボロシア連邦」としてウクライナから分離独立するよう誘導していく可能性がある。今のウクライナは、北西部にウクライナ系住民が多く、南東部にロシア系住民が多い分裂気味の国家で、ウクライナ系とロシア系が4対3で、多数決に基づくといつもウクライナ系が与党になる。これはロシアにとって都合が悪い。ロシア敵視のウクライナ系が米英の傀儡になってロシアと戦う構図が常に潜在し、米英の思う壺だ。だからプーチンは、ウクライナ南東部の9州のロシア系を扇動し、親ロシアなノボロシア連邦として分離独立させようとしてきた。ウクライナを北西部と南東部に分割すれば、北西部はウクライナ系の国として、南東部はロシア系のノボロシアとして、それぞれ民主主義的に安定する。分割後のウクライナ(北西部)が米英の傀儡になっても、ロシアとの緩衝地帯としてノボロシアが存在するのでロシアにとって脅威が減る。ノボロシアの話は改めて書きたい。いろんな話が「はずれ」たり散らかったまま、整合性がとれていない部分もあるが、事態が急展開して追いつかないのでとりあえず配信する。