2022年2月11日金曜日

緊急事態宣言を出せない日本 – それはウィズコロナからの撤退と落伍

 世に倦む日々氏が、ここにきて「『ウィズコロナという語は従来の産業界優先の共通な意味ではなく、アメリカの世界戦略の金看板のキーワードになっていて、自由民主主義陣営の結集軸を表すシンボルに変わり、『専制主義』『強権主義の中国と戦う上での、自陣営を差別化し優越づけるイデオロギー的な標語になっている。中国のゼロコロナと米英欧日のウィズコロナの競争が仕掛けられている」との考察に基づいた記事を出しました。
 いつもながらの豊富な語彙を駆使して彼の考察が明快に語られています。そして「日本はアメリカからウィズコロナを指導され半強制されているのではないか。~ 岸田文雄が頑なに宣言を出さないのは、日米間でこのウィズコロナの方針遵守が決まっていて拘束されているからではないか」と論を進めています
 そうした明確な指示・強制があったかどうかは兎も角として、岸田氏はそれを官僚に吹き込まれれば、「それが米国の意向に適うのであれば無為無策の言い訳にもなるし」と考えた可能性は大いにあります。後はどうぞ本文をお読みください。

 ここでは、新『ウィズコロナ』を標榜する米・英・仏・独のコロナの現況と、米国の標的になっている中国の現況を下表に示し、ロシアと韓国それに日本の状況を併せて示します。
 これを見ると、米国主導の『ウィズコロナ』が如何に悲惨なものかが分かります。いうまでもなく日本は目下、悪化への渦中にあるのでこの先はどこまで悲惨なことになるのか見当がつきません。「ゼロコロナ」の中国とは「天と地」の差です

  主要国の累計のコロナ感染者数と死亡者数(「人口当り」も含む)10日時点)

 

 

死 者

感染者

 

 

総 数

10万人当り

総 数

10万人当り

人 口

 

米 国

912,255

276

77,267,000

23,414

330,000,000

 

英 国

158,953

236

18,000,000

26,778

67,220,000

 

仏 国

130,779

194

20,505,000

30,427

67,390,000

 

独 国

119,457

144

11,832,000

14,214

83,240,000

 

 

 

 

 

 

 

 

ロシア

330,609

229

13,128,000

9,110

144,100,000

 

韓 国

6,963

134

1,185,000

2,289

51,780,000

 

 

 

 

 

 

 

 

日 本

19,775

157

3,576,000

2,843

125,800,000

 

 

 

 

 

 

 

 

中 国

4,636

03

107,000

7.6

1,402,000,000


     2月に入ってからのコロナ死亡者数の急増ぶり(日本)

 

 

2 月

 

 

月 日

1日

2日

3日

4日

5日

6日

7日

8日

9日

10日

 

 

死亡者数

79

78

90

92

126

67

122

141

155

162

 

      (註 東洋経済・NHK等に準拠。本文の数値と若干違っています)

 追記)横文字が多い文章なので「(⇒・・)」として事務局で「意訳」を挿入しました。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
緊急事態宣言を出せない日本 – それはウィズコロナからの撤退と落伍
                         世に倦む日々 2022-02-10
コロナの死者数が、8日は159人、9日は162人となった。今後もさらに増え続ける。7日、アメリカ国務省は日本への渡航警戒レベルを最も高い4(渡航中止勧告)に引き上げた。感染者が1日20万人出ているアメリカの視線からも、日本の感染爆発は世界でも最も危険な水準なのだ。アメリカから渡航中止対象国に指定される状況なのに、浜田敬子や玉川徹は水際対策を解除して外国からのビジネスマンや留学生を入れろと言い、経団連を援護射撃している。噴飯としか言いようがない。

アメリカが渡航中止勧告をするということは、普通は、その当該国はロックダウンしないといけないほど感染レベルが危険で深刻だという意味だ。昨年までの日本政府なら、当然、躊躇なく緊急事態宣言を発出していただろう。今、1日の感染者数は昨夏第5波の5倍に達している。自宅療養者数は全国で44万人に上っている。保健所が機能麻痺し、検査もできず、医療逼迫が起きているのに、なぜ緊急事態宣言が出ないのだろう。なぜ岸田文雄は人流抑制策を選択せず、菅義偉以上に「経済を回す」方針に偏執するのか。

その理由と真相をずっと考えてきて、前の記事では、3Aが手先の官僚(首相秘書官)を使い、ネオリベ知事と結託し、分科会を切り崩し、さらに松原耕二などマスコミに世論工作させて、岸田官邸を羽交い締めしているのではないかと推論を述べた。政局(権力闘争)の観点からの整理であり、3Aがコロナ対策のネオリベ化の元凶だという分析である。だが、どうやらその認識は近視眼的で掘り下げが浅かった。もっと大きな、やんごとなき権力が動いている。世界的な政治と連動した政府決定であり、要するにウィズコロナの大義への恭順なのだ。

ウィズコロナという語は、昨年前半までとは意味が変わっている。最早、感染症対策プロパーのフラット⇒共通な意味ではなく、アメリカの世界戦略の金看板のキーワードになっていて、「自由民主主義」陣営の結集軸を表すシンボルになっている。「専制主義」「権威主義」「強権主義」の中国と戦う上での、自陣営を差別化し優越づけるイデオロギー的な標語になっている。中国のゼロコロナと米英欧日のウィズコロナの「競争」が仕掛けられていて、ウィズコロナが神聖化・絶対化される思想環境に固められている。

昨年までは、ゼロコロナは政策の市民権を持っていた。立憲民主党がゼロコロナを掲げていたし、NZや台湾もゼロコロナ政策を採っていて、ウィズコロナもゼロコロナも感染症対策としてイーブン⇒対等な、すなわち技術的な意味で収まる言葉だった。それが変容し、ゼロコロナは専制政治と人権軽視を象徴する言葉に塗り替えられ、マイナスシンボルとなり、価値や意義を認めてはいけない概念となった。ゼロコロナは中国政治の象徴とされ、中国だけに吸収される表象となり、「民主主義国」とは無縁の政策になった。そのように言葉が改鋳された。

1月3日、イアン・ブレマーのユーラシアグループが2022年の「世界の10大リスク」を発表し、その1位に、中国のゼロコロナ政策が失敗して世界経済を不安定化させる事態を挙げた。一見して予測として奇妙であり、異様な印象で脱力させられた。アカデミックなシンクタンクの予測ではない。きわめて意図的で政治的だ。イアン・ブレマーという男は、もう少しニュートラルな知性で、客観的な分析力を売り物にして論壇で商売している男かと思っていたが、今年の「10大リスク」は、ストレートにCIAの戦略に準拠した実相が露骨で、まともに評論する気になれない代物だ。

中国経済がバブル崩壊して未曾有の不況になるという予測ならまだ分かる。中国で新変異種の猛毒コロナが蔓延して膨大な死者が出るという予測ならまだ頷ける。何でわざわざ「ゼロコロナが失敗して世界経済を不安定化させる」などという、回りくどい、論理が複雑骨折したような「予測」が、しかも第1位に立つのだろう。あまりにも願望オリエンテッド⇒指向であり、定評のあるシンクタンクが世に問う分析と報告の域を超えている。社会科学的な客観性の要素がなく、剥き出しの悪意に染まった主観の投げつけだ。予測ではなく、呪詛であり、祈念であり、折伏である。

CIA(アメリカ国家権力)の作為だろう。考えてみれば、イアン・ブレマーが年に一度登場して軽薄に喋くる「10大リスク」は、新年のテレビの娯楽情報の定番ネタであり、自由国民社の「流行語大賞」の陳腐な見せ物と変わりない。お正月気分を演出する添え物であり、新味のないおせち料理の具材と同じだ。空気のように通り過ぎて何も残らない。予測としての意味や説得力はほとんどない。ただ、風物詩的な発信ポジションを持っているだけだ。CIAはそこに狙いをつけ、これをプロパガンダ⇒宣伝・扇動に利用したのだろう。ユーラシアグループの正体をアンベイル⇒暴露させたのである。「10大リスク」の発表を完全なプロパガンダモードにした。

目的は刷り込みである。読者・視聴者をイアン・ブレマー(CIA)と同じ認識にすることであり、同じ呪詛と祈念と折伏をする信徒にすることだ。「中国はゼロコロナ政策を失敗させて世界経済を混乱させる」と確信させることであり、その信念と心構えを持って2022年を生きる人間に仕立てることだ。ちょうど、年末から年始にかけて、中国ではオミクロン株退治の防疫が行われていて、北京五輪前の徹底的な対策が強行され、封鎖された西安の厳しい状況が報道されているときだった。CIAはタイミングを合わせたのであり、中国への否定的感情を信念化する教宣工作を仕掛けたのだろう。

プロパガンダとしてシンプルだが有効だ。アメリカらしい戦略の手法と実践だ。北京五輪は2月に開催される。その予告や準備と並行して中国式のゼロコロナの現場映像が流れる。西側メディアはそれを全体主義の恐怖支配と人権抑圧として報道する。ネガティブキャンペーンする。その時間が延々と続き、軽蔑と排撃の意識が刷り込まれる。正体を顕現させたイアン・ブレマーは、もう2位以下のリスクやランキングなどどうでもいいのだ。こうしてプロパガンダが遂行され流布され、ゼロコロナは人権蹂躙と強権独裁の代名詞となった。それとコントラストの配置で、ウィズコロナは自由のシンボルとなり、普遍的正義の政策方針になった。「民主主義陣営」の幟旗となった。

ウィズコロナは「民主主義体制国」の戦略を表す範疇になった。英国やEUやアメリカは、コロナ対策として今後はロックダウンせず、ワクチンで対処する路線に移行する。ウィズコロナとは、ワクチンでコロナを克服する政策方針であり、人流規制をかけず、自由に経済を回すことを優先するものだ。属国である日本は、このグランドポリシー⇒基本政策に従わざるを得ないのであり、抵抗はできず選択肢はない。ロックダウンを意味する緊急事態宣言は発出できない。人流抑制はウィズコロナと合致しないからであり、それはウィズコロナからの撤退と落伍を意味するからだ。

日本はアメリカからウィズコロナを指導され半強制されているのではないか。日本が緊急事態宣言を対策として出せば、それはウィズコロナの大義からの逸脱になる。ウィズコロナ軍団の一員として裏切り行為になる。岸田文雄が頑なに宣言を出さないのは、日米間でこのウィズコロナの方針遵守が決まっていて拘束されているからではないか。少しでもゼロコロナの要素のある対策を打つことは、敵中国に靡く利敵行為とされ、厳しく禁止されているのではないか。アメリカはコロナ対策も「戦略」として考え、プレーン⇒簡明な公衆衛生行政だと考えていない。感染者数や死者数よりも、ウィズコロナで中国に勝ったという物語の方が重要なのだ。

ウィズコロナが正しいというドグマ⇒教条があり、ウィズコロナの「民主主義陣営」がゼロコロナの中国に勝つという戦略と命題があり、そのグローバルで神聖なグランド・ストラテジー⇒基本戦略に合わせて、岸田官邸のコロナ対策の実務が決定されているのである。政府・自治体の実務だけでなく、マスコミ報道の論調もすべて足並みを揃えて。だから、医療崩壊寸前になっているのに医師会長が緊急事態宣言は不要だと明言するのであり、知事会含めてどこからも人流抑制を要請する声が出ないのだ。今がアメリカと一緒に中国と戦っている「戦時」だから。