日刊ゲンダイに「最大ゆ党 維新躍進のカラクリ」と題する連載記事が載りました。
著者は冨田宏治・関西学院大法学部教授で、核兵器問題にも詳しく、原水禁止世界大会起草委員長も務めました。維新については3年程前に論考「維新政治の本質─その支持層についての -考察- 」(「住民と自治」667号=自治体問題研究所)を発表しにわかに注目を浴び、この3月3日には「維新政治の本質─組織化されたポピュリズムの虚像と実像」(あけび書房)を刊行する予定です。
日刊ゲンダイの連載記事は通常週1ペースなのですが、この連載は連日掲載されて維新についての本格的な分析が展開されています。
最初の3回分を紹介します。
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最大ゆ党 維新躍進のカラクリ(1)
「維新という妖怪の」正体は格差を分断に転化し、さらに組織化に成功したこと
日刊ゲンダイ 2022/03/01
昨年10月の衆院選で日本維新の会とその中核を担う大阪維新の会(以下、維新と略す)は、前回総選挙の11議席から41議席へと“躍進”し、一躍全国からの注目を集めている。10年以上にわたって大阪の地方政治を牛耳り、橋下徹氏というタレント政治家に率いられた、ある種キワモノ的な政治勢力というイメージの強い維新ではあるが、その“ひとり勝ち”とも言えそうな“躍進”に「維新って何者?」「なぜ、そんなに強かったの?」という疑問が湧き起こったのも不思議ではない。
維新の本拠地たる大阪ではいざ知らず、お隣の京都や神戸ですら、大方の人びとにとって維新は未知なる存在だ。それどころか、「貧困と格差に喘ぎ、現状打破を求める若年貧困層の支持を集めている」などという都市伝説めいた謬説がまことしやかに流布されている。マルクス・エンゲルスの「共産党宣言」ではないが、「一匹の妖怪が大阪を歩き回っている─維新という妖怪が」といったところだ。
3年ほど前に発表した「維新政治の本質─その支持層についての一考察─」(「住民と自治」667号=自治体問題研究所)という論考がにわかに注目を浴び、本紙の「注目の人直撃インタビュー」(2021年12月3日付)に取り上げていただくことともなったのだが、筆者はこの間、この「維新という妖怪」の正体を見極めようと努めてきた。その成果は、「維新政治の本質─組織化されたポピュリズムの虚像と実像」(あけび書房=3月3日刊行予定)という近刊にまとめたところでもある。
筆者の見極めた「維新の正体」とは、巷にはびこる都市伝説めいた「定説」とは真逆といっても良いものだ。維新とは、「新自由主義的『改革』により、自らが絶望的なまでに拡大してきた貧困と格差を深刻な分断へと転化し、その分断を繰り返される選挙を通じて固定化し、組織化することに成功したモンスター的集票マシンにほかならない」というものである。そして維新が組織化し、固定化することに成功した支持層とは、税や社会保険料などの高負担に不満を募らせ、自分たちの払ったお金を食い潰す「年寄り」「病人」「貧乏人」への敵意や憎悪をあおられた「勝ち組」意識を抱く中堅サラリーマン層や自営上層の人びとにほかならない。意外に思われる向きも多かろう。本連載を通じて、大方の疑問を解き明かしていきたい。(つづく)
冨田宏治 関西学院大学法学部教授
1959年、名古屋市生まれ。名古屋大法学部卒。名古屋大法学部助手、関西学院大法学部専任講師、助教授を経て99年から現職。専門は日本政治思想史。原水爆禁止世界大会起草委員長も務める。「核兵器禁止条約の意義と課題」など著書多数。共著「今よみがえる丸山眞男」を2021年12月に上梓。
最大ゆ党 維新躍進のカラクリ(2)
維新はコロナ禍で「唯一の新自由主義政党」の立ち位置を確保した
日刊ゲンダイ 2022/03/02
昨年10月の衆院選は、安倍-菅自公政権がコロナ失政の揚げ句、2代続けて政権を投げ出すという異常事態の中で行われた。
コロナ禍は、アベノマスクに象徴されるような愚策のオンパレードだった安倍-菅自公政権の政治的無能さを暴き出しただけではない。小泉「構造改革」以来、20年にわたる新自由主義的政治がもたらした貧困と格差の拡大や医療体制の絶望的な脆弱化といった問題を白日の下にさらしたのだった。
昨年8月には12万人に迫る自宅療養者(という名の自宅放置者)を出した医療崩壊の現実とともに、一昨年には女性の自殺者が劇的に増加したこともまた、コロナ禍が暴き出した日本社会の大きなひずみのひとつだった。コロナウイルスは決して平等主義者ではない。この社会の最も弱い人々を襲うのだ。
さすがの自民党でも、総選挙に先立って行われた総裁選で、岸田文雄現首相が新自由主義との「決別」をほのめかさざるを得なくなる。「新しい資本主義」とやらの内実はいまだに見えてこないが、新自由主義からの脱却を旗印に打ち立てた立憲民主党や共産党だけでなく、自民党までもが新自由主義を否定しようとしたことは大きい。コロナ禍がもたらした重要な変化だ。
こうした状況のもと維新は、「唯一の新自由主義政党」という立ち位置を確保した。松井一郎代表は岸田首相の所信表明演説を受けて、「新自由主義からの脱却とか、そこが全然よく分からんかった」とコメントした。「松井はそもそも新自由主義という言葉を知らんのだろう」などと笑いのネタにし、揶揄する向きもあった。しかし、維新に対するこうした過小評価は禁物だ。維新は自民から共産までの日本の政党配置の中で、自分たちが唯一の新自由主義政党となったことを十分に自覚しつつ、そのことを固い支持層にはっきりとアピールしようとしたのである。
信奉者にオルタナティブ刷り込み
こうしたアピールによって、維新は「勝ち組」意識を持つ中堅サラリーマン層らのコアな支持層に安心感を与えるとともに、自民支持層の中に確実に存在する新自由主義を堅く信奉する人々との間にオルタナティブ(⇒代案・対置者)としての自らの姿を刻み込むことに成功したのだ。「維新さるもの」である。
こうして総選挙投開票日翌日の米誌ニューズウィーク(電子版)が「それでも日本人は新自由主義を選んだ」と評したような結果がもたらされたのだ。とはいうものの、これは事柄の一面でしかない。(つづく)
最大ゆ党 維新躍進のカラクリ(3)
吉村知事を「イケメンやし、頭もええわ!」とアイドル扱い コロナ失政の実態はかき消された
日刊ゲンダイ 2022/03/03
コロナ禍のもと自民党から共産党までが新自由主義否定の旗を掲げようとする中で、唯一の新自由主義政党という立ち位置を手にした維新だったのだが、その本拠地・大阪は惨憺たる状況になっていた。詳しくは次回で触れるが、新自由主義の権化・維新が10年以上もの間牛耳ってきた大阪におけるコロナ禍の深刻さは尋常ではなかった。差し当たり1つだけエビデンスを挙げれば、昨年11月21日現在の100万人当たりのコロナ死者数は、全国平均147人に対して、大阪府は348人で平均の2.4倍。大阪市に至っては484人で、その3.3倍にも上ったのだ。「#大阪維新に殺される」という発信がSNS上を飛び交っていたのである。
そもそも初動においてコロナウイルスを甘く見て、2020年3月の3連休前に、松井市長が「花見解禁」をぶち上げて大ひんしゅくを買った維新である。その後も安倍ー菅自公政権に勝るとも劣らぬコロナ失政のオンパレードとなっていた。
■橋本徹氏のモーレツ擁護で「やってる感」を醸し出す
見るに見かねた創業者の橋下徹氏が、おもむろにテレビに復帰して以来、吉村府知事と入れ代わり立ち代わり、連日のテレビジャックを繰り広げることとなった。
当初こそは〈大阪府知事時代、大阪市長時代に徹底的な改革を断行し、有事の今、現場を疲弊させているところがあると思います。保健所、府立病院など〉(20年4月3日)とツイートするなど殊勝に振る舞っていたものの、在阪テレビ局の情報番組に出ずっぱりになるや、橋下、吉村両氏は自分たちの失敗は棚に上げ、安倍ー菅自公政権のコロナ失政を手厳しく批判しつづけた。そして、「やってる感」を最大限に醸し出すことに成功したのである。
口下手の極みともいうべき菅義偉首相(当時)と口から先に生まれたとしか思えない橋下氏や吉村知事との対比はあまりにも鮮やかだ。にわかに吉村人気が沸騰する。吉村氏の目に隈ができていれば「#吉村寝ろ」の書き込みがSNS上に躍り、「吉村さんはイケメンやし、頭もええわ!」などと黄色い声が飛び交う。もはやアイドル並みの扱いだ。こうして維新の大阪におけるコロナ失政の実態はかき消され、自公に対するオルタナティブとして、にわかに維新への注目が集まることとなったのだ。
維新の失地回復に加担した在阪メディアの責任は極めて大きい。同時に大阪におけるコロナ禍の実態を徹底的に暴露し、有権者に伝え切れなかった反維新の側の力不足も否定できないところである。 (つづく)