2022年3月19日土曜日

プーチンだけが悪玉か プロパガンダに惑わされていないか(大原 浩氏)

 当ブログはこれまで「ロシアのウクライナ侵攻」問題に関して、「ウクライナにも非がある」と指摘する記事を中心に紹介して来ましたので、それに同意できない方や食傷されている方も多いと思われます(アクセス数は3月8日以降減少の一途を辿っています)。そうではあるのですが ・・・ 。

 現代ビジネスに大原浩氏の「プーチンだけが悪玉か ー 米国の『幅寄せ、煽り運転』がもたらしたもの プロパガンダに惑わされていないか」と題する記事が掲載されました。
 連日、ロシアやプーチンだけが一方的に悪者にされる報道が行われているわけですが、大原氏は、プーチンとウクライナを忠臣蔵浅野内匠頭(⇒プーチン)と彼を苛め抜いた吉良上野介(⇒ウクライナ・NATO(米))にたとえて見るとどうなるか、という秀逸な比喩を用いた展開を行って、プーチンだけを悪玉にするのは違っているのではないか、と述べています。説得力があります。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
プーチンだけが悪玉か ー 米国の「幅寄せ、煽り運転」がもたらしたもの
プロパガンダに惑わされていないか
                      大原 浩 現代ビジネス 2022.03.18
                     国際投資アナリスト 人間経済科学研究所
本当はだれの責任か?
3月7日公開、プーチンは米国を見透かしていた? ウクライナの悲劇はだれの責任か記事において、ロシアやプーチン氏だけが一方的に悪者にされる報道ばかりが流布することに疑問を呈した。そして、その状況が続いているようである。
もちろん「手を出した」国が悪いに決まっているが、「手を出さざるを得ない」状況に追い込まれていたのも事実である。
公平かつ冷静な「背景分析」なくして、「正しい対応」はできない。ウクライナ危機をめぐっては、人類滅亡につながりかねない「核戦争」の危険があるのはもちろん、ウクライナ侵攻経済制裁―ロシア危機から世界通貨危機へと向かうのかで述べたように「世界金融・経済の大混乱」につながりかねない要素も多分にある。
したがって、一時の感情に流されずに、冷静かつ公平な対応を行うことが日本の将来にとって重要だと考える。
例えば、「忠臣蔵」という日本人なら誰もが知っている物語がある。この物語は史実をかなり脚色している部分があるが、「(神聖な)殿中で手を出した」浅野内匠頭を一方的に非難する人々は少ないであろう。
むしろ、(史実と違うという意見もあるが)浅野内匠頭を苛め抜いた吉良上野介が悪いと考える人が多いのではないだろうか
そして、喧嘩両成敗のはずなのに、吉良上野介はお構いなしにもかかわらず、浅野内匠頭の言い分は全く聞かずに即日切腹を命じた五代将軍綱吉の采配に対しては、多くの人々が疑問を感じるだろう。
今回のウクライナ危機が誤解されやすいのは、「(強大な)ロシア対(ぜい弱な)ウクライナ」という構図でとらえられるからである。
だが、実際の対決は、「(強大な)NATO対(経済的には小国の)ロシア」である。「ウクライナをNATOに加盟させるぞ」と苛め抜かれたロシアが、吉良上野介の小姓(ゼレンスキー氏率いるウクライナ)に手を出してしまったというのが本当の構図であろう
もちろん、本来の仇は吉良上野介だが、ロシアがNATOに手を出したら「人類滅亡へとつながる核戦争」が起こる。したがって、だれもそれを望んでいない。

「煽り運転」「幅寄せ」は合法か?
もちろん、吉良上野介は違法なことは行っていない。ただ「親切に田舎の殿様を指導」しただけである。
だが、浅野内匠頭にすれば、頭ごなしに「お前が悪い」と叱責を受けることに我慢がならなかった。
ロシアという国家やプーチン氏が「正しい道」を歩んでいるかどうかはともかく、浅野内匠頭と同じことを感じたであろうことは容易に想像がつく。
しかも、ウクライナのNATO加盟は単なるメンツの問題ではなく「ロシアという国の安全保障=命」に関わる問題である。ロシアにすれば、NATOに煽り運転や幅寄せをされている感覚であったはずだ。
煽り運転や幅寄せをされた経験がある読者ならわかると思うが、そのような行為には「とてつもない恐怖」を感じる。しかし、「手を出された」わけではない。
しかも、国際法には軍隊の「煽り運転、幅寄せ」を罰する法律はない。「ウクライナがNATOに加盟したらロシアは終わりだ」とプーチン氏が考え、そのようなメッセージも明確に送っていたのに「危険運転」を行った米国やNATOにも大きな非があると思う
「手を出していない」から正義というわけではないということだ。

「反露無罪」「鬼畜ロシア」だけでいいのか?
例えば韓国の「反日無罪」という風潮に眉を顰める日本人は多いだろう。しかし、現在日本に蔓延しているように思える「反露無罪」はどうであろうか?
あるいは、戦時中「鬼畜米英」と叫ばれたが、「鬼畜ロシア」と叫ぶだけでよいのだろうか?
確かに、米国のルーズベルト大統領は「日本を苛め抜いて(真珠湾に)手を出させた」敵役である。だが、「鬼畜米英」と叫んだことがどれほど日本の役に立ったであろうか。むしろ、野球のストライクを「よし」とするような極端な英語排斥などは、敵を知るための研究の邪魔になったといえる。
孫子の「敵を知り、己を知れば、百戦してあやうからず」という言葉はあまりにも有名だが、「敵を知らないで攻撃」することはとても危険だ。
実際、日本で語られる「世界史」は明治以来、「西洋史観」一辺倒でかなり偏っているから、ロシアやウクライナさらにはスラブ民族の歴史に詳しい人々は限られている。
第1次冷戦に「資本主義vs共産主義」の構図があったのは事実だが、歴史的な「東方vs西方」という側面を見逃してはならない。
また、1812年にフランスのナポレオンが大軍でロシアを侵略した。結果は「冬将軍」にやられたナポレオン軍の完敗であったがロシアの被害も甚大であった。
さらに、1941年にアドルフ・ヒトラーによってはじめられた独ソ戦は、犠牲者がロシア側だけでも3000万人ともいわれる「史上最悪の戦争」である。
これらの歴史を振り返れば、「西洋史観」では「西側を侵略する悪の帝国」とされるロシア(ソ連)が必ずしもそうではないことが良くわかる。むしろ東側への侵略を続けてきたのは西側と言える

米国は決して正直者ではない
プーチン氏が独裁者であるのは間違いがないが、米国も正義の味方ではない。少なくとも、はなさかじいさんのような正直者ではないことは認識すべきだ。
例えば、ベトナム戦争が本格化するきっかけとなったトンキン湾事件は、1964年8月、北ベトナム沖のトンキン湾で北ベトナム軍の哨戒艇がアメリカ海軍の駆逐艦に2発の魚雷を発射したとされる事件である。これをきっかけに、アメリカ合衆国連邦政府は本格的にベトナム戦争に介入、北爆を開始した。
この際に、米国議会は、上院で88対2、下院で416対0で大統領支持を決議(トンキン湾決議)をした。もちろん、北ベトナムやその背後に存在する、ソ連や中国などの「共産圏許すまじ!」というムードに満ち溢れていたことは想像に難くない。
しかし、1971年6月に「ニューヨーク・タイムズ」が、いわゆる「ペンタゴン・ペーパーズ」を入手した。そして、事件の一部は米国が仕組んだものであったことが暴露された。なお、この事件を題材にしたメリル・ストリープ、トム・ハンクスなどが出演する「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」が映画化されているほど米国内ではよく知られた事件だ。
また、2003年にブッシュ(子)氏が、イラク侵攻の大義名分として主張した「大量破壊兵器」は結局存在しなかった
したがって、米国政府もこれまで数えきれないほどの「嘘」をついてきたと判断せざるを得ない。それにもかかわらず、無条件に政府発表を信じて記事を書くのは、まるで戦時中に「大本営発表」をそのまま記事にしていた日本の新聞社のような行為である。
ベトナム戦争当時と現在とを比べると、「米国のジャーナリズムは死んだ」と思える。もしかしたら、これから「勇気あるジャーナリスト」が登場するのかもしれないが、政府発表を無批判に垂れ流すメディアに「ジャーナリスト魂」があるのかどうか疑問である。
結局、一方的にバイデン民主党政権サイドに立つ報道機関は、民主党の御用メディアに成り下がっているのではないだろうか。

米国は反共のために人々を苦しめてきた
毛沢東、スターリン、ポルポトを見れば共産主義国家がどれほど人々を苦しめてきたかは明らかだから、米国の反共政策は基本的には容認できる。現在のロシアは共産主義ではないが、同じように扱われているようだ。
だが、そのために米国が世界中の独裁政権を支援し(その国の)国民を苦しめてきたことは否定できない。中南米には山ほど事例があるし、ベトナム戦争の際の(米国が支援した)南ベトナム政権の腐敗ぶりは有名だ。
ウクライナにおける2014年2月の親欧米政権樹立にも、米国(CIA)の影が見え隠れする。
また、ウクライナ大統領のゼレンスキー氏を英雄視する向きがあるが果たしてどうであろうか?
米国やNATOにうまく乗せられた可能性もあるが、同氏が「NATOに加盟する」という発言をしなければロシアの侵攻が無かったのはほぼ確実だと思われる。したがって、「自らの発言でウクライナ国民をリスクにさらした」という事実は否定できない。
また、「18~60歳の男性の出国禁止」は、国民のことを考えた行動だろうか?武器をとって最後まで戦えということに思えるが、米軍やNATOの支援が無い状況で、戦闘訓練も受けていない一般市民にそのようなことを強制するのは正しいことだろうか。「お国のために死になさい」と言っているのと同じに感じる。
結局、「戦乱」によって苦しむのはいつも一般市民である。ゼレンスキー大統領が「最初から(NATO加盟を口にせず)ロシアと話し合う姿勢」を見せていれば、ウクライナへの侵攻は無かったであろうし、市民の被害も無かった可能性が高かったことを忘れてはいけない。

地球温暖化論との類似性
(人類が排出する二酸化炭素による)「地球温暖化論」の欺瞞については、昨年12月6日公開脱炭素原理主義が今の『自業自得エネルギー危機』を招いているなど多数の記事で述べてきた。
その特徴は、「明確な証拠や事実が無いのにムードで多くの人々を巻き込む」ことである。そして「ムードで巻き込まれた結果」がどのようなものになるのかを我々は気づき始めている。
さらに、「地球温暖化論」は、(人類が排出する二酸化炭素の)短期的、極所的な影響ばかりに着目して、歴史的な気候変動や、太陽光や火山活動など重要な気候変動要因をまるで無いかのように扱ってきた。
今回のウクライナ侵攻でも、「ロシアが手を出した」局地的現象ばかりに議論が集中し、「歴史的な東西対立」などが全く無視されているように感じる。
現在「プーチン悪玉論」が「ムードで多くの人々を巻き込んでいる」が、その結果はどうなるであろうか?
我々はムードに流されるべきではないと思う。