2022年3月27日日曜日

27- ロシアが負けそうだと勘違いして自滅する米欧(田中 宇氏)

 「田中宇の国際ニュース解説」に無料版の記事「ロシアが負けそうだと勘違いして自滅する米欧」が載りました。西側メディアの報道とは大違いですが。

 以下に紹介します。
 原文には各節ごとに関連記事のタイトル(クリックすると原文にジャンプ)が紹介されていますが、殆どが英文なので省略してあります。
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ロシアが負けそうだと勘違いして自滅する米欧
                          田中  2022年3月26日
ロシアがウクライナ侵攻に関して米国が「ロシア軍はウクライナでの戦争で膨大な被害を受けて敗退寸前だ」「ウクライナの占領に失敗して露軍が撤退し、戦争に失敗したプーチンの人気が大幅に低下して政権崩壊し、ロシアが大混乱に陥って冷戦直後のような弱い状態に戻る」「プーチンが辞めた後のロシア政府は、外貨を得るために大幅譲歩し、冷戦直後のような米英の傀儡国に戻る。ロシアは再び安値で石油ガスや鉱物穀物を米欧に輸出するようになる」「だから米欧は、ロシアからの石油ガス鉱物の全面輸入停止など、長くやったら米欧自身が自滅するほどの厳しい対露経済制裁をやっても、短期間でロシアが潰れるので大丈夫だ。欧州は超厳しい対露制裁をやるべきだ」と言い出している。

米国は、NATOやG7の中でこうした予測を展開し、欧州などの同盟諸国に対し、ロシアとの経済関係を完全に断絶することを求めているドイツなど西欧諸国はエネルギーをロシアからの天然ガスに依存しており、これ以上の対露制裁をやりたくない。それに対して米国は「米欧が厳しい経済制裁をやるほど、ロシアは早く潰れる。ロシアは間もなく敗退して潰れるので厳しい経済制裁をしても大丈夫だ。欧州は早くロシアと完全に縁を切れ」と加圧している。

西欧は対露制裁に参加しているが、今後もロシアから天然ガスなどを輸入し続けるため、抜け穴を多く作ってある。米欧はロシアの銀行を、貿易代金の決済に使うSWIFTのシステムから除名する制裁をやったが、それには例外があり、欧州などに天然ガスを輸出しているロシアのガスプロムの銀行部門など、欧州との貿易に必要なロシアの3つの大手銀行は例外扱いされ、SWIFTから除名されていない。ロシアからドイツに天然ガスを送るノルドストリームの第2パイプラインは完成したのに止められたままだが、第1パイプラインは止められずにガスを送り続けている。欧州は今もロシアから天然ガスを輸入している。だから欧州経済は大不況だけど何とか回っている。そんな中で米国はドイツに「短期間で終わるはずだから、ロシアと完全に縁を切る経済制裁をやろう。そうしないとプーチンを潰せないよ」と強要している。

EU内では、東欧のポーランドやバルト三国が、米国の意を受けて「今こそ強烈な経済制裁をしてロシアを潰そう」と大騒ぎしている。ポーランドは、ロシアと完全に経済関係を断絶する政策案をEUに提出した。ドイツと、親露的なハンガリーが拒否権を発動してポーランド案をなんとか否決した。そこに米国からバイデン大統領が訪欧してきてポーランドの肩を持ち、ドイツなどに「もっとロシアを制裁しなきゃダメじゃないか」と言って回っている。 

米国が言っている「露軍はウクライナで苦戦して敗退寸前だ」という話は、日本のマスコミや権威筋も、米国発の話を鵜呑みにして喧伝している。この話が本当なら、ドイツなどがロシアと完全に縁を切ってガスを止められても、2-3か月以内にプーチン政権が崩壊して次のロシアの弱い政権が米英の傀儡になり、欧州へのガス輸出を戦争前より安値で再開してくれるかもしれない。しかし私が見るところ、露軍が苦戦して敗退寸前という話は、現実と正反対の大間違いである。現実のロシア軍は、ウクライナで大した被害も出さず、おおむね当初の予定通りにウクライナで極右勢力を排除しつつある。これまで何本かの記事で書いたとおりだ

ゼレンスキー大統領はロシアの意向に従いつつある。彼は先日まで「ドンバスとクリミアの分離独立は絶対に許さない」と言っていたが、その後「領土問題は柔軟に交渉できる(2地域の分離独立について交渉しても良い)」と態度を変えている。ロシア政府は「ウクライナで露軍が占領している地域の行政機構を改変する予定はない(戦争前のウクライナ政府側の行政機構をそのまま残す)」と言っている。ウクライナ政府は従来、政府機関のあちこちにロシア敵視の極右が入り込んでいた。ロシアの目標の一つは、極右をウクライナから排除することだ。今後、こっそり親露に転向したゼレンスキー傘下のウクライナ政府に任せても、ロシアが望んだ極右の排除をやってくれるとロシアが考えている。ロシアのウクライナ支配が間もなく大失敗するようには見えない

米国とNATOでは「20万人のロシア軍のうち4万人の兵力が、今回の1か月のウクライナ戦争で戦死・負傷・捕虜になって失われた。露軍は1か月で装備の1割を失った。ウクライナ軍の防衛力はロシアの予測よりはるかに強かった」という分析が出回っている。1か月間の露軍の戦死者数について、米国防総省は7000人、ウクライナ政府は14000人との概算を発表している。4万人の戦力喪失は、ウクライナ政府が出した概算数を元にしているのだろう。ソ連末期の10年間のアフガニスタン占領で死んだソ連軍兵士数が15000人だったのに比べ、今回露軍は1か月で7000-14000人の死者を出しているのだから大失敗だ、と言われている。しかし、国防総省が出した露軍戦死者7000人という数字ですら、実際よりもかなり誇張されている

ロシアが露軍の戦死者数を発表したのは、私が知る限り、2月24日の開戦から1週間後の3月2日までの戦死者が498人だったというのが最後だ。同時期に国連が発表した1週間のウクライナ市民の死者数は、露軍死者の半分の249人。露軍が概算したウクライナ側の政府軍と民兵の死者数は2870人だった。そして今、国連は3月24日までの1か月間にウクライナ市民の死者が1035人だったと発表した。実数はそれ以上だとされているが、2倍とかでなく1割増ぐらいだろう。

最初の1週間と1か月間で、市民の死者数と露軍の死者数が同比率の1:2であるとするなら、1か月間の露軍の死者数は約2000人になる。このあたりが現実だろう。米国防総省は3.5倍の誇張、ウクライナ政府は7倍の誇張をしている。ウクライナ政府は開戦1週間後の時点で、自国市民の死者数を国連概算の8倍の2000人以上と発表していた。ウクライナ政府の誇張度が7-8倍で安定している点からみても、1か月間の露軍死者数は2000人ぐらいだろう。負傷者を含めた損失は数千人だろう。ウクライナ市民より露軍の死者の方が2倍も多いことは、市民の犠牲者を出すなとプーチンが命じたとされる露軍の作戦が成功裏に進んでいることを示している。

・・・と、ここまで書いたところで最新情報を見ると、露軍が3月2日以来初めて自軍のウクライナでの犠牲者数を3月25日に発表していた。それによると、1351人の戦死と3835人の負傷、合計5千人強だという。露軍の死者数が、ウクライナ市民の死者数をやや上回る水準だ。上記の私の推測よりさらに少ない。米国防総省やNATOによる概算は、実数を5-8倍誇張していたことになる。露軍の犠牲者はとても少ない。市民の犠牲を少なくする露軍の策が、露軍自身の犠牲者数も少なくしていると考えると、露軍の発表数は現実的だ。ウクライナでの軍事作戦はほぼ予定通りに進んでいるという露政府の発表が正しいと感じられる。

米欧では、専門家が「露軍の車両はポンコツで、キエフにたどり着く前にエンジンやタイヤが壊れる車両が相次いでいるので露軍の進行がのろいのだ」といった「解説」を発しているが、これも失笑ものの妄想だ。コロナ以来、専門家やマスコミ権威筋が大間違いばかり言うようになったが、これもその典型だ。ウクライナにおける露軍の進行がのろいのは、米欧がロシアを思い切り敵視してロシアからの石油ガス鉱物の輸出を止める状態が長引くほど米欧経済が自滅してロシア側(露中非米諸国)が地政学的に優勢になるので、プーチンが露軍にゆっくり進めと命じているからだ。

米欧の権威筋が「ロシアはウクライナから敗退してもうすぐ崩壊する」と、事実と反対のことを誇張して妄想するほど、現実の米欧は経済的に自滅する傾向になる。そのためロシア政府は、米欧側が妄想する「ロシアは間もなく崩壊する」「露軍はウクライナで苦戦している」という大間違いな話を、あえて否定せず野放しにし、むしろ自ら間違った情報を流すことまでやっている。たとえばロシア国防省は3月23日、開戦以来のウクライナでの戦死者が9861人、負傷者が16153人であるとロシアのマスコミに発表したが、その直後にこの発表を取り消している。米欧の権威筋は、露当局が取り消したこの情報を「露軍当局がうっかり流してしまった正しい犠牲者数」とみなし、やはり露軍がウクライナで苦戦しているのだとあらためて騒ぎたてた。しかし、米国防総省の概算を上回るこの数字は、露政府が、米欧側の妄想を補強する目的で流したウソ情報だった可能性が高い。

同じ3月23日にはプーチンの副官であるメドベージェフ安保副議長が「米国はずっと前からロシアを潰そうとしている。それが成功してロシアの政治経済が崩壊・分裂すると、その前に米欧に核兵器が撃ち込まれるかもしれない。ロシアは、相互に対立する5-6個の小国家に分裂させられるかもしれない」といった感じの悲観的な示唆に富んだ「米国の戦略者たち(Об американских стратегах)」と題する文章を発表した。米欧の専門家たちは、こうした悲観的な表明も「ロシアが間もなく敗退して崩壊する」という自分たちの予測・妄想を補強するものだと喧伝している。

現実のロシアは今回の開戦とともに、米国の覇権や、米英中心の債券金融システムやグローバリゼーションの体制をすべて拒否して、米国覇権に全く依拠しない非米型・多極型の国内・国際的な経済システムを作り始めている。中国やインドや中東諸国の多く、アフリカと中南米の大多数など、意外に多くの国々が、ロシアがやりだした非米型の国際システムに、既存の米国側とのつながりを保持したまま乗ってきている。特に中国は、ロシアの試みの隠然とした後ろ盾になっている。サウジやUAEは、ロシアに配慮し、米英から石油の増産を頼まれても断っている。サウジは米国よりロシアを重視するようになっている。 

このロシア(露中)主導の新世界秩序作りは、成功すると決まったわけでないが、石油ガス鉱物の多くをロシア・非米側が握っていること、米国の最大の優位点だった債券金融システムがQEによって崩壊寸前になっていることから考えて、米国側が潰れ、ロシア側が優勢になっていく可能性が高い。これは、今後数十年の世界の流れを支配するのだが、米欧日のマスコミ権威筋はほとんどそれを理解しておらず、むしろ逆の「ロシアは間もなく敗退・崩壊する」という妄想が席巻している。メドベー