日刊ゲンダイ連載記事:「最大ゆ党 維新躍進のカラクリ」の(4)と(5)です。
(4)では、大阪府が20年3月20日からの3連休に「コロナ自粛」を解除する方針を立てたことに慌てた厚労省が、西浦博教授らの作成した具体的な自粛要請の文書を手に大阪に飛び、「大阪府・兵庫県全域で今後3週間、不要不急な往来を自粛」する必要性を伝えたのですが、吉村府知事は「連休期間中(3日間)の大阪府・兵庫県間の往来を自粛」すると、独断で「大幅に縮小した」結果、2週間後の4月7日に大阪府下の第1波が始まったことを述べています。
(5)には、維新が「徹底的な改革」を行って、公立の病職員数を半減し保健所などの職員を4分の3に減らした結果、大阪が「医療崩壊」に陥ったことが記されています。
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最大ゆ党 維新躍進のカラクリ(4)
維新失政の数々…“8割おじさん”の提案を吉村知事の独断で値切るクオリティー
日刊ゲンダイ 2022/03/04
アベノマスクに象徴される安倍ー菅自公政権の愚策オンパレードも酷いものだったが、維新が大阪で繰り広げた失策の数々もそれらに勝るとも劣らぬものだった。夢と消えた“大阪ワクチン”の開発話、防護服の代わりに募集された「雨ガッパ」騒動、「うそみたいなホントの話」とドヤ顔でポビドンヨードの有効性を記者発表した「イソジン騒動」などなど、こちらも枚挙にいとまがない。
維新の創業者・橋下徹氏のテレビ復帰とその後の吉村人気の沸騰の陰に隠れて、こうした失政の数々はすっかりかき消されてしまったが、維新政治の実態を理解する上で、これらは避けては通れない事実だといえよう。しかし、それら全てに触れるいとまはない。コロナ禍の初動における重大な失策であり、維新の実態を雄弁に物語る一つのエピソードを紹介するにとどめよう。
一昨年、3月20日からの3連休を前にした12日、松井大阪市長は記者会見で「社会を動かしていくことが職務」だとして、「(大阪市は花見の)自粛要請をやめようと思う」と述べたのだった。これを受けて橋下徹氏もツイッターで〈大阪・松井市長、花見自粛要請せず。「社会を動かすのが職務」……危機管理の見本〉(3月15日)と褒めそやした。この時点で、維新がコロナ禍を極めて甘く見ていたことがうかがえる。これを見た厚労省は“8割おじさん”こと西浦博北大教授(当時)らの作成した「大阪府・兵庫県における緊急対策の提案(案)」という文書(3月16日付)を手に大阪に飛んでくる。維新の能天気ぶりに大慌てしたわけだ。
■「3週間」を「3日間」に
3連休直前の19日になって吉村府知事は記者会見を開き、この文書を手にしながら「連休期間中(3日間)の大阪府・兵庫県間の往来自粛」を要請した。メディアはこれを「3連休は阪神間の往来自粛を要請」と報じた。しかし西浦教授らの文書には、「大阪府・兵庫県全域で今後3週間の(中略)大阪府・兵庫県内外の不要不急な往来の自粛を呼びかける」と明記されていたのだ。「3週間」を「3日間」に、「大阪府・兵庫県内外の往来」を「大阪府・兵庫県間の往来」に吉村知事の独断で“値切って”いたというわけだ。文書を自分の手で示しながら、その中身とは全く異なることを平然と語る。これぞまさに維新クオリティーである。
往来自粛が解けた連休明け、どっと人出が繰り出すこととなり、それから2週間後の4月7日に大阪における第1波が始まったことは言うまでもない。 =つづく
冨田宏治 関西学院大学法学部教授
1959年、名古屋市生まれ。名古屋大法学部卒。名古屋大法学部助手、関西学院大法学部専任講師、助教授を経て99年から現職。専門は日本政治思想史。原水爆禁止世界大会起草委員長も務める。「核兵器禁止条約の意義と課題」など著書多数。共著「今よみがえる丸山眞男」を2021年12月に上梓。
最大ゆ党 維新躍進のカラクリ(5)
維新の「徹底的な改革」で病職員数は半減、保健所などの職員も4分の3に
日刊ゲンダイ 2022/03/05
吉村府知事、松井市長のコロナに対する初動対応のお粗末さを見るに見かねた橋下徹氏が、在阪テレビ局の情報番組への出演を再開し、頼りないツートップへの猛烈な援護射撃を始めたことはすでに触れた。この時、橋下氏はお得意のツイッターで自己批判とも開き直りともとれる発信(2020年4月3日)をすることからはじめたのだった。
■橋下徹氏の「自己批判」でウヤムヤ
〈僕が今更言うのもおかしいところですが、大阪府知事時代、大阪市長時代に徹底的な改革を断行し、有事の今、現場を疲弊させているところがあると思います。保健所、府立市立病院など。そこは、お手数をおかけしますが見直しをよろしくお願いします〉
〈平時のときの改革の方向性は間違っていたとは思っていません。ただし、有事の際の切り替えプランを用意していなかったことは考えが足りませんでした〉
すでに触れたように昨年11月の段階で、大阪府の100万人当たりのコロナ死者数は全国平均の2.4倍、大阪市にいたっては3.3倍という異常な事態となっている。この原因が橋下氏も認めざるを得ないように、彼らの「徹底的な改革」の断行による医療体制の脆弱化と医療崩壊にあったことは火を見るよりも明らかだ。「考えが足りませんでした」ですむ話ではない。人の命にかかわる問題なのである。
維新府政、維新市政のもとでの10年余り、大阪府下の医療機関では徹底的なリストラの嵐が吹き荒れた。「官から民へ」のスローガンのもと、赤字の施設は廃止され、黒字の施設は民間へと移管。住吉市民病院の廃止、府立健康科学センターの廃止、府立公衆衛生研究所と市立環境科学研究所の統合縮小、府立病院の予算の大幅削減、千里救命救急センターや大阪赤十字病院への補助金の廃止等々。まさに枚挙にいとまなしだ。
その結果、コロナ患者の受け入れの先頭に立つべき公務員の医師・看護師などの病院職員数は、2007年の8785人から2019年の4360人へと50.4%も削減(全国平均は6.2%減)され、保健所などの衛生行政職員も2007年の1万2232人から2019年の9278人へと4分の3に減らされた(以上、国公労連・井上伸氏の調査)。そこにコロナ禍が襲ってきたのである。
維新の新自由主義的「改革」なるものが、大阪の街に何をもたらしたのか。維新によって、人の命がいかにないがしろにされてきたのか。これらは決して忘れてはならない厳然たる事実である。(つづく)
冨田宏治 関西学院大学法学部教授
1959年、名古屋市生まれ。名古屋大法学部卒。名古屋大法学部助手、関西学院大法学部専任講師、助教授を経て99年から現職。専門は日本政治思想史。原水爆禁止世界大会起草委員長も務める。「核兵器禁止条約の意義と課題」など著書多数。共著「今よみがえる丸山眞男」を2021年12月に上梓。