国際情勢解説者の田中宇氏が「優勢なロシア、行き詰まる米欧、多極化する世界」とする記事を出しました。国際社会が科している経済制裁によってロシアは早晩挫折するだろうと見ている多くの人たちにとっては耳を(目を)疑うものですが、これは現行のロシアの「立地条件」を勘案して得られた結論であり説得力があります。
記事の中で田中氏は、「私は2014年以来のウクライナの事態に関してロシアより米国の方がはるかに悪く、米英が加害者で、ロシアとウクライナは被害者だと考えている」と述べています。同調圧力が強く作用する日本で、田中氏のような著名な言論人がこうした発言をするのは勇気のいることです。
記事は「国連事務局は職員に、ウクライナの事態を『戦争』とか『侵攻』と呼ぶことを禁止し、公平性を保つために『紛争』とか『軍事攻撃』と呼ぶよう求めている。国連はロシアを非難せず、中立の姿勢をとることにした」ことから書き起こされています(それはBRICS諸国や中露と親しい非米諸国の姿勢と一致する)。
田中氏は「米欧が決定的にロシアを排除したことで、中国はロシアを丸ごと受け取る以外に選択肢がなくなった。プーチン政権が転覆されロシアが米英傀儡に乗っ取られれば、中央アジア諸国も米国側に奪われるので、中国自身が弱体化させられてしまう。中国がプーチンを見捨てることはなく、中国の10分の1しか人口がいないロシアを中国が経済的に助けるのは簡単で、2~3年ぐらいなら余裕でロシアの戦争を支援できる。ロシアは見返りに石油ガス利権を中国に回す。そうすれば米欧は石油ガスを買う先がなくなり自滅していく」というものです。米国のシェールガスは運搬費が掛かるため、パイプで送られるロシア産ガスの代替にはなりません。
実際に、開戦直後はロシアに対して強硬だった独仏は、ここにきて急に対露和解的になっていて、ドイツは「ロシアからの石油ガス輸入がないとやっていけないのでわが国はロシアを制裁しない」と宣言し、仏のマクロン大統領も「ロシアの人々の尊厳は守られるべきだ」と対露和解の姿勢を強めているということです。
田中氏はいずれ中独仏が(米国抜きで)ロシアとウクライナの交渉を仲裁していく流れになると見ているようです。
英国と同様にひたすら「米国一辺倒」の日本には、降りかかる火の粉を払う作戦が全くないので先行きは真っ暗です。
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優勢なロシア、行き詰まる米欧、多極化する世界
田中 宇 2022年3月9日
国連事務局が職員あてのメールで、ウクライナの事態を「戦争」とか「侵攻」と呼ぶことを禁止し、公平性を保つために「紛争」とか「軍事攻撃」と呼ぶよう求めていることが3月8日に報じられた。メールは同時に、国連職員がインターネットでの書き込みで、ウクライナを支持する意味でウクライナ国旗の絵をつけるのをやめるよう要請している。国連はロシアを非難せず、中立の姿勢をとることにした。
今回のウクライナの事態をめぐっては、米欧日(米国側)が「戦争・侵攻」という言葉を多用してロシアを非難・敵視している半面、中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカといったBRICS諸国や、中露と親しい非米諸国は、戦争や侵攻という言葉を使うことを否定し、ロシアへの非難や敵視も拒否し、中立な姿勢をとっている。この図式に当てはめると、国連は、米国側でなくBRICS非米側の傘下に入ったことになる。今回、国連を主導する5大国(安保理常任理事国、P5)のうち米英仏は米国側で、中露は非米側であるが、国連自身は非米側に入った。国連では、米国より中露の方が強いことが示されている。3月1日に国連人権理事会でロシア外相のビデオ演説が始まると100人ほどの各国代表が抗議の退席をした事件もあったが、国連の流れはそちらの方向でない。
(私から見ると、露軍とウクライナ軍・民兵団の間で戦闘が起きているのでこれは「戦争」だと思うし、露軍がウクライナに越境して進軍したのだから「侵攻」だと思う。戦争や侵攻という言葉は中立的な意味で使える。私は2014年以来のウクライナの事態に関してロシアより米国の方がはるかに悪く、米英が加害者で、ロシアとウクライナは被害者だと考えているが、それと別の話として、今後もウクライナの事態に対して戦争、侵攻という言葉を使うのをやめない)
国連がウクライナの事態を戦争・侵攻と呼ぶのをやめたのとほぼ同時に、習近平の中国も、戦争・侵攻という言葉を使わないことにしたと発表し、ロシアを制裁・敵視することにも反対を表明した。国連がウクライナを戦争と呼ばなくなったのは中国の意向が大きい感じだ。ここ数年、中国は国連での影響力が飛躍的に増大し、コロナになってからは国連が中国の傀儡機関になった観すらある。中国はBRICSや非米諸国の盟主でもある。中国側が世界を席巻し、米国側が孤立していく感じが増している。
サウジアラビアが主導するアラブ連盟も2月28日に、ロシアを非難することを避けつつ「ウクライナ問題は話し合いで解決すべき」とする中立宣言の決議を出している。アラブ連盟は少し前まで、サウジやUAEやエジプトやヨルダンなど米傀儡諸国の集合体だったが、いまや対米従属をやめて非米諸国の側に転向している。サウジやUAEなどアラブ連盟には産油国がいくつもあるが、それらの石油利権は今や米国よりも中国に近い存在になっている。サウジのMbS皇太子は、バイデンからの電話に出ず、代わりにプーチンと電話している。
そんな状況なのにバイデン米大統領は、ロシアから石油ガスを輸入しない対露制裁をやる分の石油輸入の穴埋めとして、サウジからの輸入を増やしたいと考え、春にサウジを訪問することを検討し始めた。以前の米国は電話1本でサウジから石油をいくらでも買えたのに、今では米大統領がサウジを訪問して媚びないと売ってもらえない。これまで米国はさんざんサウジに意地悪してきたので、サウジは露中の側に転向した。今ごろ間抜けぶりをさらして何やってんだ、もっと戦略的に動けよ、という感じだ。米国は、かなり前から覇権国として失格だ。それなのに同盟諸国がぶら下がり続けたので、米国はますますダメになった。
米国はロシアだけでなく中国も猛烈に敵視しているが、中国から見ると、こうした米国(欧日)、の戦略は「腹立たしい」というよりも「間抜けだなあ。馬鹿じゃないか」という感じだ。習近平は、米欧が今のように強烈にロシアを経済制裁し続けると、ロシアでなく世界(主に米国側)の金融システムやエネルギー体制、経済そのものが破綻するぞと警告している。中国はロシアと経済関係を続けるので、欧米が買うはずだったロシアの石油は中国が買う。ロシアはこの日に備え、ウラルの石油を西(欧州)にも東(中国)にも送れるようになっており、バルブを開け閉めするだけだ。ロシアは開戦前の2月に、手持ちの中国国債を中国政府に売る形で戦費を得ている。ロシアは自国の石油ガス鉱物を担保に中国から軍資金を借りている。今後も、中国に売ったり借りたりするかたちでロシアは資金を得られる。工業製品なども中国から調達し続けられる。ロシアは、欧米から経済制裁されても大して困らず、欧米に石油ガスや鉱物資源を売らない報復的な逆制裁をやっている。
10年以上前から世界の石油ガス利権は、米欧側から中露側に移転する傾向が続いてきた。米欧側は、地球温暖化の妄想に取り憑かれ、米国のシェール革命(実はコスト高)もあり、石油ガス利権をどんどん放棄してきた。今やサウジもイランもイラクもカタール(ガス大国)も非米側だ。アフリカの石油利権も中国が買い占めた。米国側はイラクを占領したのに石油利権をとらず、中国に持っていかれた。全く馬鹿だ。米欧側は石油ガス利権を放棄して中露側に与えてしまった挙げ句、今回の対露制裁をやり出した。実は最初から米欧側が負けている。おそらく今後ずっと、米欧日が買える石油ガスの値段は下がらない。米欧日の生活水準は下がっていく。中国は経済大国であり続ける。すでに勝負はついている。
もし米欧が今回のような決定的なロシア外し・対露制裁をやらなかったら、中国はそれほどロシア寄りにならなかっただろう。しかし米欧は決定的にロシアを外した。中国は、外されたロシアを丸ごと受け取る以外に選択肢がない。中国がプーチンを助けなければ、プーチンは弱体化して政権転覆され、ロシアはプーチン以前のような米英傀儡に乗っ取られた国になる。中央アジア諸国も米国側に奪われ、地政学的に中国自身が弱体化させられてしまう。だから中国がプーチンを見捨てることはない。ロシアは中国の10分の1しか人口がいない。中国がロシアを経済的に助けるのは簡単だ。2-3年ぐらいなら、中国は余裕でロシアの戦争を支援できる。ロシアは見返りに石油ガス利権を中国にくれる。中国は、米欧に外されたロシアを喜んで丸ごと受け取る。そうすれば米欧は石油ガスを買う先がなくなり自滅していく。中国は好きなように多極型世界を運営していける(中国はコスト高な世界覇権など要らない。多極型を好む)。中国にとってこんなおいしい話はない。
中国に助けられて勝算があるので、プーチンは今回の戦争でとても強気だ。米欧から経済制裁されても態度を軟化せず、ウクライナが非武装の中立国(米英の傀儡に戻らないようロシアの監視下にある国)になるまで戦争(特殊作戦)を続けると言っている。プーチンは、仲裁役をかって出たイスラエルのベネット首相が驚くほどの不動の強気だ。マスコミは「プーチンの誤算」みたいな記事を出しているが、誤算したのは米欧の方だ。ロシア国内でのプーチンの人気は下がらず、むしろ上がっているようだ。ロシア政府が3月11日に自国と世界のインターネットの間に中国製のファイアーウォールを挟み込むという話もある。ビザやマスターカードが撤退し、ロシアのクレジットカードは中国の銀聯になった。ロシアは「中国化」して生き延びる。
ロシア政府は「欧州がロシアを制裁し続けるなら、ロシアはドイツやフランスに天然ガスを送っているノルドストリーム1のパイプラインを止めるぞ」と言い出している(2は不稼働になったが、1は10年ぐらい稼働している)。ドイツのエネルギー源の半分近くがロシアのガスだ。ノルドストリーム1を止められたら、ドイツは経済的に殺されてしまう。フランスも同様だ。開戦直後はロシアに対して強硬だった独仏が、ここにきて急に対露和解的になっている。死にたくないから融和的になるしかない。ドイツは「ロシアからの石油ガス輸入がないとやっていけないので、わが国はロシアを制裁しません」と宣言した。ドイツ首相はウクライナ側に「貴国はNATOに入れません」と宣告した。フランスのマクロン大統領は「ロシアの人々の尊厳は守られるべきだ」と言って対露和解の姿勢を強めている。習近平は、独仏に対して一緒に和解交渉を仲介しようと誘ったと言っており、中独仏が(米国抜きで)ロシアとウクライナの交渉を仲裁しているようだ。
中独仏は、ウクライナのゼレンスキー大統領に譲歩しろと加圧しているようでもある。ゼレンスキーは3月8日、NATO加盟をあきらめ、クリミアのロシア帰属を認め、ドンバスの分離独立を認める方向でロシアと話し合っても良いと言い出している感じだ。ロシア側はそれらの3点だけでなく、ウクライナの権力構造を、大統領が権力を握っていた従来の構図から、大統領はお飾りで首相が権力を握る構図に転換し、ゼレンスキーはお飾りの大統領として残り、新たに強権を持つ首相にロシアと親しい政治家を就ける案を飲めとゼレンスキーに要求しているらしい。ゼレンスキーは、失権するが最低限の延命はできる。
ゼレンスキーがロシアの要求を飲めばウクライナ戦争は終わっていき、米欧とロシアとの制裁合戦は終わり、石油ガスの価格が下がる。だが、本当にそうなるかどうか怪しい。米大統領府は、対露制裁が引き起こすガソリンなどの高騰は長期化しそうだと言っている。間もなくゼレンスキーがロシアと和解しそうなら、米国がこんな予測を言わないはずだ。今後、中独仏が和解を成功させそうになると、米国が邪魔して潰すのでないか。米国は諜報界の隠れ多極主義者に動かされている観が強く、米欧とくに欧州がロシアとの制裁合戦に負けて潰れていく展開をこっそり好んでいる。中露も、欧米が自滅して自分たちが強くなる多極化を好んでいる。ゼレンスキーが譲歩してロシアとウクライナが和解したとしても、米国による過激な露中敵視が続くとか、他のシナリオもあり得るが、ウクライナをめぐる対立自体はたぶん長引く。
バイデンの米国はロシアから石油ガスなどを買わないことにしたが、それを穴埋めするため、これまで敵視・制裁してきた南米の産油国ベネズエラと和解することを模索している。米国がユーラシア大陸のロシアと縁を切り、代わりに南米ベネズエラから石油を買うことは、米国の「西半球化」「孤立主義」を意味している。きたるべき多極型世界において米国は、西半球つまり南北米州の地域覇権国になる。米国でバイデン政権を操っている勢力(諜報界=深奥国家)は、米国の西半球化、世界の多極化を誘導しているように見える。
これを田中宇の妄想と切って捨てられない現実が、少し考えると見えてくる。米国はロシアからの石油を輸入しなくても、ベネズエラやカナダや米国内シェール油田の石油があるので何とかなる。米国は、世界が多極型になっても米州内で自活できる。しかし欧州は対照的に、ロシアから石油ガスを輸入し続けないとやっていけない。すでに述べたように、イランやサウジなど中東の産油国は、以前よりはるかに非米側であり、欧州に石油ガスを売ってくれるとしても以前よりかなり高い値段になる。これまでのように中露イランを敵視したままだと、誰も欧州に石油ガスを売ってくれない。欧州が行き詰まって米国に相談しても、米国は何もしてくれず、「うちは西半球の国だからね」と言われる。
欧州だけでなく日本も同様だ。中露と敵対し続けていると石油ガスを得られなくなっていく。サハリン油田は大事にすべきだ。ロシアや中国で服を売り続けるユニクロが、これからのビジネスモデルとして正しい。逆に、軍産傀儡の道を行く楽天の経営者は、今後の世界が見えていない(軽信者ばかりの日本国内向けだけの演技なら、こっちの方が良いのかな?。一億総自滅。哀しいね)。多極化を妄想と言って軽視していると、日本はしだいに貧しくて行き詰まった状態になっていく。今ならまだ間に合う。それとも一億総自滅の方が楽か?