2022年3月12日土曜日

オリバー・ストーンの『ウクライナ・オン・ファイヤー』 - ネオナチと歴史修正(世に倦む日々)

 世に倦む日々氏が、「オリバー・ストーンの『ウクライナ・オン・ファイヤー』 - ネオナチと歴史修正」とする記事を出しました。同氏はこれまでもロシアのウクライナ侵攻問題について精密に論じるブログを多数発表して来ました。ウクライナには第二次大戦中からナチズムの勢力が存在しそれが戦後ネオナチとなって生き残り、特に2014年のクーデター以降は「アゾフ大隊」となって政府と軍の中枢に密着した存在になったことも論じてきました。

 同氏は、記録映画『ウクライナ・オン・ファイヤー』を見ることで、「『ウクライナのネオナチ』という問題は、実に根深く、実に重大な近現代史の問題だと実感した。ネオナチはドイツから消え去ったと安堵していたら、実はウクライナで増殖して強大化していた。ウクライナのネオナチは、ただの政治オタクの侠徒ではなく、ただの過激な極右民族主義者でもなく、CIAのロシア攻略の前衛部隊であり、NATOの前線の突撃隊なのだ」と述べています。
 そして、「ウクライナと日本の邪悪な反共ナショナリズムは瓜二つで、ネトウヨ化(親米反共化)した日本の敵が中国であるように、ネオナチ化したウクライナの敵はロシアだ。そのように構図化できる。どうやら、プーチンの懸念と指弾は当たらずとも遠くない」と述べています。
 因みに、2月24日のウクライナ侵攻に当たりプーチンが国民に訴えた演説の全文(NHKが翻訳)の中には、「ナチ」あるいは「ネオナチ」という言葉が7回も登場しています。
追記)なお、先に日本語字幕付きの映画『ウクライナ・オン・ファイヤー』が削除されましたが、その後また復活し12日朝現在 下記のURLからアクセスが可能です。
   ⇒ https://youtu.be/IC4nynI3uKQ?t=0 (上映時間92分)
 興味のあるかたはご覧になってください。
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オリバー・ストーンの『ウクライナ・オン・ファイヤー』 - ネオナチと歴史修正
                          世に倦む日々 2022-03-09
オリバー・ストーンが2016年に制作した『ウクライナ・オン・ファイヤー』をネットで見ることができる。現在、日本語字幕版は Youtube では制限がかけられていて、ニコ動で視聴が可能だが、いずれ削除されるかもしれない。ウクライナ問題で西側に都合の悪い情報はネットから周到に排除されているようで、SNS上でリンクが妨害されたり、アドミニによって注意書きが付されたりしている。私のブログ記事もいずれそうした処置の対象になるかもしれない。名匠の作品で、しかも時宜を得た最高の思考材料なのに、ネット上にそれを案内し参照する情報がほとんどない。

私はオリバー・ストーンを評価している。今の世界で信頼し依拠できる数少ない知識人の一人だと認める。『もうひとつのアメリカ史』は傑作で、現代人の必読書だ。今回の『ウクライナ・オン・ファイヤー』も、見る前の想定を超えて感動的な内容だった。ウクライナの戦争がなぜ起こったのか、その社会科学的な真実を知り、その概要と本質を学び取る上で、これ以上の教育素材はないだろう。率直な感想として、心に重いものが残り、プーチンの動機が理解できた

私はこれまで、今回の戦争の原因について、NATOの東方拡大策を問題視する見方をとってきた。主にその方向からプーチンの思考を整理し、ロシア国家防衛のパラノイアと化したプーチンの発想を理解してきた。それは故岡本行夫と同じ視点であり、キッシンジャーと同じ立場からの観察である。アメリカとEUがあまりに野放図に乱暴に軍事的な包囲と攻略を進め、ロシア封じ込めの圧力に過剰に狂奔したため、プーチンの強迫観念を鬱積させ、堪忍袋の緒が切れる最悪の事態になったのだと説明してきた。

その点を重視してきた。したがって、プーチンの言う「ウクライナの非ナチ化」の方にはあまり注意と関心を向けなかった。正直、その主張はやや大袈裟な演出的フレーズに聞こえたし、それを戦争の目的や理由にするのは説得力に欠けるのではと感じていた。だが、オリバー・ストーンの作品を見て、その認識を変えさせられた。自分自身の知識の不足を反省させられた。「ウクライナのネオナチ」という問題は、実に根深く、実に重大な近現代史の問題だと気づく。軽くない。それが原因で第三次世界大戦が起きてもおかしくないと実感した。

前回、ウクライナがヨーロッパのネオナチの巣窟になっている点を指摘し、その脅威への危機感が、今回の侵攻が始まる前までは、欧米の左派リベラルの中で一般的だった状況を確認した。欧州の過激なネオナチがウクライナを拠点として不気味に結集跋扈し、極右民兵となって親ロ派を駆逐する暴力行動に勤しんでいるのである。しかも、そこにはCIAの関与と差配があり、ソロス財団の潤沢な資金が流れ込んでいる。ウクライナのネオナチは、ただの政治オタクの侠徒ではなく、ただの過激な極右民族主義者でもなく、CIAのロシア攻略の前衛部隊であり、NATOの前線の突撃隊なのだ。

ウクライナにネオナチなど存在しない、それは左翼のデマで都市伝説でプーチンの妄想だと、報道1930の松原耕二と堤伸輔は言い、東野篤子や廣瀬陽子は吐き捨てている。だが、ウクライナにネオナチが存在し、存在するどころかきわめて巨大な勢力であり、マイダン革命と呼ばれる2014年のクーデターで破壊工作と謀略暴動を演じ、14年以降はウクライナの政権と軍部の中枢に密着していることは確実な政治的事実だ。ウクライナにネオナチは存在しないと言い張る者は、アゾフ大隊の実在と戦闘についてどう説明するのか。アゾフ大隊の紋章は鉤十字ハーケンクロイツである。

公安調査庁のHPに「国際テロリズム要覧2021」のサイトがあり、そこに「極右過激主義者の脅威の高まりと国際的なつながり」とタイトルされた情報が公示されている。公安調査庁は、アゾフ大隊をネオナチとして位置づけ、テロリストとして正式認定している。オデッサの虐殺等を鑑みれば当然の判断と対応だろう。

2014年、ウクライナの親ロシア派武装勢力が,東部・ドンバスの占領を開始したことを受け、「ウクライナの愛国者」を自称するネオナチ組織が「アゾフ大隊」なる部隊を結成した。同部隊は,欧米出身者を中心に白人至上主義やネオナチ思想を有する外国人戦闘員を勧誘したとされ,同部隊を含めウクライナ紛争に参加した欧米出身者は約2000人とされる。

日本政府がウクライナのネオナチの存在を認め、その危険性を国民に知らしめて警告を発している。TBSの松原耕二は、こうした事実の所与があるのに、なぜ「ウクライナのネオナチ」の実態を否定するのだろう。プーチンの唱える「ウクライナの非ナチ化」の大義に対して、それを根拠のない時代錯誤の幻覚だと決めつける放送をするのだろう。明らかな隠蔽と歪曲であり、悪質なプロパガンダであり、公正を欠いた放送法違反の報道ではないか。

ウクライナの極右民族主義と反共ナチズムの宿痾は歴史的に根が深い。それは1929年に設立されたOUN(ウクライナ民族主義者組織)から始まっている。1941年にステパン・パンデラが指導者となりナチスの侵攻に全面的に協力、ウクライナ西部でユダヤ人、ポーランド人、ロシア人に対する大規模で残虐なテロリズムを敢行、数十万人を虐殺した。ウクライナのネオナチが集会で掲げる旗が、赤と黒のOUNのシンボル旗で、すなわちステパン・バンデラを支持し信奉する者たちだ。日本に置き換えれば、右翼の旭日旗とか菊の皇国旗だろうか。

このバンデラの極右民族主義の妄動が、戦後のウクライナ(ソ連)でも続き、冷戦下でCIAの援助を受けて蠢動と暗躍を続けるのである。CIA(アメリカ)は彼らの戦争犯罪を特赦して保護し、反ソ扇動の核とし「草」として温存し利用し支援する。このあたり、日本の戦後政治の事情と酷似している。そしてソ連崩壊後、彼らは公然と政治の表舞台に復活し、現在のウクライナ共和国の主流になるのである。よく凝視して省察すれば、何もかも日本と同じだ。赤と黒のウクライナ・ネオナチは、まさに日本会議であり、靖国神社と安倍晋三である。ウクライナと日本の邪悪な反共ナショナリズムは瓜二つだ。

作品の中で紹介されているように、オレンジ革命の過程で大統領に当選したユシチェンコが、2004年にステパン・バンデラを顕彰し、国家勲章を授け、「ウクライナの英雄」の称号を与える大統領令に署名する場面がある。この映像には驚くが、Wiki 等、現在のネット空間の言説と情報では、ステパン・バンデラは正当なウクライナ民族主義の指導者であり、これまでの汚名はソ連共産主義の歴史教育の刷り込みだったという歴史修正が為されている。すっかり「名誉回復」されていて、その歴史修正の「納得」が左翼リベラルにまで浸透している。何もかもこの25年間の日本と同じで溜息が出る。背筋が寒くなる。

考えてみれば、日本も、石原慎太郎や櫻井よしこや安倍晋三が今は正規で標準なのである。25年前に遡り、当時の政治環境を再現して身を置けば、そんな恐ろしい図はあり得なかった。その時代の常識から正視すれば、現在の日本は軍国主義者・ファシストが支配し、国民の大半がその病的思想に染まった狂気の世界だ。ウクライナがそうなのである。ここで礑(はた)と気がつくことある。この25年間、右傾化に次ぐ右傾化を重ね、戦前のイデオロギーと法制度に戻っていく日本に絶望する一方、真面目に過去の戦争を反省して平和主義に即き、憲法9条を持った国のように振る舞うドイツを見て羨ましく感じていた。

だが、実は、ドイツではなくウクライナが欧州における日本の役割を受け持ってきたのだ。その真相を発見した。日本と同じ反動の進行を重ね、CIAの猛毒の砦となり、歴史修正の王国となり、アメリカの敵に突撃する尖兵として育っていたのだ。ネオナチは、ドイツから消えたかと思って安堵していたら、実はウクライナで増殖して強大化していた。ネトウヨ化(親米反共化)した日本の敵が中国であるように、ネオナチ化したウクライナの敵はロシアだ。そのように構図化できる。意味を総括できる。どうやら、プーチンの懸念と指弾は当たらずとも遠くない。

無論、私はプーチンを信用しないし支持しない。プーチンが勝利して成功するとは思わない。社会科学の立場からプーチンの動機を解剖し理解するけれど、侵略戦争には反対であり容認することはない国連憲章は神聖なものだ。しかし、オリバー・ストーンは支持する。この作品での分析と考察は正確で、特に不具合な点はなく、すべてが腑に落ちてパズルのピースが埋まる思いがする。真実の全体像が浮かび上がって蒙が啓かれる。流石だと脱帽する。皆さんの感想を聞きたい。問題の本質と病根は、やはり反共思想の「正義」とアメリカの覇権主義なのだ。いつもと同じく。

反共イデオロギーの跳梁とアメリカの覇権戦略によって、日本人はどれほど劣化と自滅に迷い込み、貧困と不幸と隷従を背負い込まされ、破滅と地獄への道を歩かされていることか。