世に倦む日々氏が「オデッサの大量虐殺 - ウクライナのネオナチを隠蔽するマスコミ」とする記事を出しました。その中で「ウクライナにネオナチ(新ナチズム)の政治勢力が存在し、2014年のクーデターで重要な役割を演じ、アゾフ大隊という暴力的な軍事組織を編成して、東部2州で親ロ派を駆逐する主力になっていたこと、等々は、現在の日本のマスコミ界では禁句になっている」として、現実に「ネット上(Wikipediaなど)で、最近、ウクライナに都合が悪い情報は検索で表示されないように細工されていて、ツイッターやフェイスブックではリンクが不可になるよう処置されているらしい」と述べています。
ウクライナ南部オデッサでの大量虐殺は、映画「ウクライナ・オン・ファイヤー」の中でも後半で生々しく描かれています。そこではオデッサの広場に集まった市民に暴力集団が襲い掛かり、群衆はすぐ近くの労働組合会館に逃げ込むように案内されたのですが、それが罠で、暴力集団は同会館に多数の火炎瓶を投げ込んで大火災を起こし、市民約130人(直ぐに死体が処分されたため人数は未確認で、諸説あります)を焼殺したのでした。
世に倦む日々氏は、ウクライナにネオナチ勢力が存在しているのは事実であり、3月3日の「報道1930」やNHK-NW9で、プーチンが侵攻の目的として掲げている「ウクライナの『非ナチ化』」がプーチンの妄想であるかのように切り捨てるのは間違っていると述べています。
要するに日本のメディアや言論界で西側寄りの偏向が行われているとの指摘です。
併せて櫻井ジャーナルの記事「日本がロシアと敵対関係に入った背景」を紹介します。
この記事は、現状のウクライナ問題と共に2014年のクーデターにも触れていて、ヤヌコビッチ大統領派の議員で、2013年11月20日に議会でクーデター計画の存在を訴えていたオレグ・ツァロフが、今年の2月19日にも、「ウクライナで大虐殺が準備されている」という緊急アピールを出したことなども報じています。
今年の話と2014年の話が交互に出てくるので、事務局が茶色で年代を注記しました。
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オデッサの大量虐殺 - ウクライナのネオナチを隠蔽するマスコミ
世に倦む日々 2022-03-07
3月3日に放送された報道1930の中で、「ウクライナの『非ナチ化』」の問題が焦点になった。プーチンが今回の侵攻の目的として掲げている大義である。議論の中で松原耕二は、「われわれ西側からすれば、こういう物言いというのは、いつの時代のことで、どういう考えの持ち主なんだろうと思ってしまいます」と言い、時代錯誤で不当なイデオロギーだと切り捨てた。松原耕二だけでなく日本のマスコミの論調はすべて同じで、NHK-NW9の田中正良と和久田麻由子も「プーチンの偏った歴史観」と決めつけている。
果たして、ロシア側が槍玉に上げている「ウクライナのネオナチ」は、松原耕二や田中正良が言うように根拠と実体のない、無意味で問題外の雑音の類なのだろうか。まともに取り合う必要のないロシア側の誤った妄想で、言いがかりのプロパガンダなのだろうか。日本では、ウクライナのネオナチの問題は、不毛で無視すべきロシア側のナラティブ(⇒物語)だと処理されていて、客観的な認識の対象になっていない。報道からオミットされ、取材も検証もされておらず、視聴者に欠片ほどの事実も紹介されていない。
ウクライナに面妖なネオナチの政治勢力が存在すること、それが2014年のクーデターで重要な役割を演じたこと、アゾフ大隊という軍事組織を編成して東部2州で親ロ派を駆逐する主力になっていたこと、等々は、現在の日本のマスコミ界では禁句になっている。闇で覆われ、光が当てられず、都市伝説化されている。ネットでその事実を指摘する者には異端のレッテルが貼られ、陰謀論者呼ばわりされ、誹謗中傷と排除の対象になる。だが、実際にはウクライナにはネオナチの跳梁跋扈と大量虐殺があり、深刻で凄絶なテロルの悲劇があった。
2014年5月にオデッサで起きた虐殺事件について、マスコミは一切触れることなく沈黙している。日本語 Wiki にも情報がない。最近、ウクライナに都合が悪い情報は検索で表示されないように細工されていて、Twitter や Facebook ではリンクが不可になるよう処置されているらしい。48人(57人)の親ロシア派住民がウクライナのネオナチによって殺された事件は、プーチンが侵攻の大義として掲げる「ネオナチ排除」を説明し理解する上では、きわめて重要な事実であり、したがってその主張の合理的な根拠となる材料の一つだろう。
馬渕睦夫がネットに上げている情報がある。駐ウクライナ大使を3年間務めた保守論客で、現在はチャンネル桜などで活躍する異色の右翼論者らしい。リテラなど左翼メディアからは「ユダヤ陰謀論者」のレッテルを貼られて罵倒されている。とはいえ、駐ウクライナ大使の元外交官の経歴と実績は否めない。馬渕睦夫は事件について、「ウクライナの右派セクターが武装させたネオナチメンバーによって、残虐な、しかも意図的に計画し」行われたと書いている。この事件が発生した直後は、日本でも取り上げられていた記憶があるが、最近は誰も口にしない。
「ウクライナの右派セクター」とは「ユーロマイダン」と呼ばれている組織らしい。これが「ネオナチ」である。市内の広場で座り込みをしていた親ロシア派住民を武装したネオナチが襲撃し、親ロシア派が労働会館に逃げ込んだところをネオナチが建物に放火して焼き殺し、また建物内に突入して惨殺したとある。当時、キエフは「マイダン革命」のクーデターが進行中で、クーデターで実権を握った(現在に繋がる)右派(欧米派)はこの事件を隠蔽し、まともに捜査も報道もしなかった疑いがある。そのためか、オデッサ虐殺事件は客観的な情報整理がされておらず、うやむやに放置されたままだ。
ウクライナにおけるネオナチの存在を無視したり、その影響力を相対化したりして、プーチンの言説を日本のマスコミは否定し排斥している。その事情について六辻彰二は、嘗てはウクライナの極右ネオナチに警戒的であった欧米が、今回のロシアによる侵攻で態度を一変させ、敵の敵は味方の論理で肯定する立場に立ったのだと説明している。ウクライナがネオナチの巣窟になっていて、彼らがロシアと敵対する前衛になっているのだという認識と懸念は、早くから欧米のリベラル論壇にはあったようだ。残念ながら日本にはネオナチへの注意や関心の度が低く、ウクライナのネオナチ問題は看過され続けてきた。
私は一つの仮説を持っている。ウクライナは決して反共反ソ反ロで一つに纏まっているわけではない。全員がゼレンスキーやポロシェンコと同じ思想ではない。91年の分離独立以来、国民の大半が親米右翼の民族主義に染まり、ナチス協力者のステパン・パンデラに共感してきたとは考えない。NATO加盟に反対してきた国民も多くいて、南部や東部のロシア語を話す人たちは特にそうだっただろう。ウクライナとロシアは民族的に同じだと観念する国民は多くいたはずだ。実際、2010年の大統領選挙では親ロ派のヤヌコビッチが当選している。ヤヌコビッチに投票した人たちは、きっと2014年以来、口を塞がれた状態なのだ。
ロシアによるクリミア併合があり、政府と国論が反ロ一本に先鋭に纏まり、反ロ派の主導権で「革命」が進行する状況になったため、彼らは従来のように中立的で宥和的な発言ができなくなったのだろう。また、オデッサ虐殺事件のようなネオナチの暴力を恐れて、口を閉ざすようになったのに違いない。そうした、ウクライナ民族主義からは一歩引いた、昔からの穏健で素朴な立場を代表するものとして、オデッサ在住の日本人日記に描かれた著者周辺のウクライナ人市井の感性がある。「ウクライナとロシアとは兄弟国です」と今も言っているウクライナ人はその範疇だ。
日本のマスコミに登場するウクライナ人は、ロシアへの憎悪に燃えるナショナリストばかりで、西側の反ロ宣伝に都合のいい者ばかりがピックアップされている。CIAが周到にアソートメント(⇒取り揃える)していると私は睨んでいる。TBSやNHKは、総動員令に応じて軍に志願する男たちの映像ばかりを流している。これも意図的なプロパガンダだ。全員がそうじゃないと思う。与謝野晶子みたいな母親と息子も中にはいるだろう。プーチンとゼレンスキーとバイデンが始めた戦争に、どうして我が子の命を差し出しさないといけないのかと、そう憤って悩んでいる親は少なくないはずだ。
西側のテレビは、ポーランド国境に逃げて来るのは女性と子どもばかりのように撮っているけれど、偶に映像の中に壮年の男性の姿が入るときがある。おかしいな、国家総動員令で出国禁止じゃなかったのかと思うが、確かに男も疎らにいる。想像するに、ロシア軍制圧後の傀儡政権によって指名手配され、粛清の憂き目を見る極右ネオナチの活動家なのではいか。早く逃げないと捕まったら大変な運命になる。開戦から10日で150万人が脱出したが、早めに動いたのは、特に反ロ感情が強烈で、またオレンジ革命からマイダン革命にかけての「前科」があり、資産も持っている者たちのように見受けられる。
19日のTBS報道特集で、ルーマニア国境の町のホテルに滞在していた若い男女が登場し、ロシアへの敵意を爆発させる絵が出たが、彼らもその集合に属するのかもしれない。国連は500万人が難民になって国外に出ると試算していたが、もっと多くなりそうだ。プーチンはそれを計算している気配が窺え、反ロ強硬派が国外に多く出れば、制圧後に抵抗するゲリラが減るという結果になる。1日15万人という早いペースで流出が続いていて、1か月で450万人も人口が減る。2か月でウクライナの人口の20%が失われる。ゲリラとなって戦う反ロ強硬派・極右民族主義者が国内から消えるという意味だ。
23日のNHKだったか、開戦直前のキエフ市民の声を拾うインタビューがあって印象深く覚えている。一人の男が、「あいつら金目当てでやってるんだ。全部知っている」と言っていた。「あいつら」とはゼレンスキーのことで、西側から金をもらってやっているのだと批判していた。そういう意見を持っているウクライナ国民も侵攻前はいた。一日も早い停戦と平和を願う。
日本がロシアと敵対関係に入った背景
櫻井ジャーナル 2022.03.09
日本政府は3月8日、ロシアやベラルーシに対して敵対的な「措置」を実施すると発表した。アメリカの属国である日本としては当然のこのなのだろうが、そうした事情はともかく、ロシアにとって日本は敵性国家のひとつになった。近日中に日本も「制裁」の対象になると見られている。
ロシア制圧はアメリカやイギリスの支配層にとって19世紀以来、世界制覇の中心だが、短期的に考えても現在の戦いは2014年2月に始まっている。ネオ・ナチを使ったクーデターでウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒し、ロシア語を話すウクライナ国民を殺害し、国外へ追い出してきた。それに対し、クリミアで市民がロシアへ保護を求め、ドンバス(ドネツクやルガンスク)の市民が戦ってきたのである。
(2022年)2月19日に「大虐殺が準備されている」という緊急アピールを出したオレグ・ツァロフはクーデター当時、ヤヌコビッチ大統領派の議員だったが、2013年11月20日に議会でクーデター計画の存在を訴えていた。
実際、その直後からアメリカ政府の支援を受けた反ヤヌコビッチ派がユーロマイダン(ユーロ広場、元の独立広場)で反政府集会を開き、年明け後にはネオ・ナチが前面に出てくる。そして暴力的なクーデターにつながるわけだ。
ツァロフによると、ボロディミル・ゼレンスキー大統領はドンバスで軍事作戦を開始、かつてクロアチアで行われたように、この地域を制圧してからキエフ体制に従わない住民を「浄化」する計画で、これと並行してSBU(ウクライナ保安庁)はネオ・ナチと共同で「親ロシア派」の粛清を実行することにもなっていたという。
先住民を殺し、追放し、自分たちにとって都合の良い人々を移住させるという手法をアングロ・サクソンの支配者は使ってきた。アメリカやイスラエルの「建国」はそのようにして達成されている。ズブグネフ・ブレジンスキーがアフガニスタンへサラフィー主義者(ワッハーブ主義者やタクフィール主義者と渾然一体)やムスリム同胞団を中心とする戦闘員を送り込んだ時も、戦闘員に対し、そうしたことを言っていた。
クーデター後、正規軍や治安部隊から兵士や隊員が反クーデター軍へ流れ、残された軍隊は弱体化する。そうしたこともあり、3月に「右派セクター」などネオ・ナチを中心とする親衛隊が編成された。5月になると右派セクターを中心に「アゾフ大隊」が正式に発足する。現在、親衛隊の中核はこのアゾフ大隊(またはアゾフ連隊)だ。
そうした中、(2014年)4月12日にジョン・ブレナンCIA長官がキエフを極秘訪問、22日にはジョー・バイデン米副大統領がキエフを訪問する。アレクサンドル・トゥルチノフ大統領代行が東部や南部の制圧作戦を承認するのはその間の14日だ。
こうした動きの前、(2014年)3月16日にクリミアの市民はロシアとの一体化の是非を問う住民投票を実施している。ヤヌコビッチの支持基盤だった東部や南部ではクーデターを受け入れない人が多かったが、クリミアもそのひとつだった。投票率は80%を超え、そのうち95%以上が(ロシア)加盟に賛成したと発表されている。
アメリカやその従属国では、アメリカの支配層にとって都合の悪い選挙結果は不正だとされる。クリミアでもそうした宣伝がなされたが、この住民投票では国外からの監視団が入り、日本やアメリカに比べれば遥かに公正なものだったと考えられている。
対応が遅れた地域では地獄が待っていた。例えば、(2014年)5月2日にはオデッサで右派セクターが反クーデター派の住民を虐殺している。広場にいた市民に暴徒が襲いかかり、労働組合会館の中へ誘導され、そこで虐殺されたのだ。その際、建物は放火された。
50名弱が殺されたと伝えられているが、これは地上階で発見された死体の数で、地下ではさらに多くの人が殺されたと言われている。120名から130名とも言われているが、その大半は運び去られたという。
その1週間後、マリウポリ市に戦車などを入れて市内を破壊、非武装の住民を殺害している。5月9日はソ連がナチスに勝ったことを記念する戦勝記念日で、住民は外で祝っていた。そこへキエフのクーデター軍が突入したのだ。その様子を携帯電話で撮影した映像が世界に発信されたが、それを見ると、住民が丸腰で戦車に向かい、殺されていく様子が映されている。5月11日に予定されていた住民投票を止めさせることも目的だっただろうが、予定通りに投票は行われ、独立の意思が示されている。
この制圧作戦はロシア語を話すウクライナ国民を虐殺する民族浄化作戦でもあったが、これを作成したのはアメリカ国防総省系のシンクタンク、RANDコーポレーションだと推測されている。
ヤヌコビッチ支持者が多かったロシア語系の住民に対する弾圧が続く中、2014年6月にペトロ・ポロシェンコが大統領に就任した。ポロシェンコがアメリカ政府へ情報を提供していたことはウィキリークスの公表した2006年4月28日付けの公電で明らかになっている。
この新大統領は(2014年)6月2日にウクライナ東部にあるルガンスクの住宅街を空爆、住民を殺している。当初、ポロシェンコ政権は航空機による爆撃を否定、住民側の自衛軍によると主張していたが、インターネット上にアップロードされた映像を見れば空爆が行われた可能性は高いと言わざるをえず、欧州安保協力機構(OSCE)も空爆があったとしている。この攻撃があった6月2日、アメリカのデレク・チョレット国防次官補がキエフ入りし、作戦の調整作業を行ったとも言われている。
その後、ウクライナではネオ・ナチが跋扈、政治経済は破綻した。そうした状況の中、2019年に実施された大統領選挙ではロシアとの関係修復を訴えていたボロディミル・ゼレンスキーがポロシェンコに勝つ。そこに国民の意思が現れているが、その意志をアメリカなど西側の支配層は許さない。
2020年のアメリカ大統領選挙で勝利したジョー・バイデンがロシアに対する挑発を繰り返し、軍事的な圧力を加えてきた。軍事作戦を実施する動きも見せていた。そこまで追い詰められていたとも言える。