2022年3月10日木曜日

とまらない殺戮 戦争の狂気 何とか止められないのか

 ロシアとウクライナとの3回目の停戦協議が終わり、近く4回目の協議も行われるようですが歩み寄りはまったく見られません。
 プーチンが世界中を敵に回す覚悟で始めた以上、彼の主張が全く認められないままで停戦に至ることはありません。ある程度双方のメンツが立たないことには停戦は実現しません。
 ロシア軍は、昨年からウクライナの国境沿いに集結していたので、米国(EUも)はいくらでも仲介できたはずなのに、動こうとしなかっただけでなく侵攻を煽ったのでした。
 これ以上の被害拡大を止めるには、ロシアが総攻撃をかけてくる前に停戦するしかありませんが、深刻なのは、それぞれの立場を理解し双方のメンツが立つようにする“仲介者”が見当たらないことです。
 プーチンに非があるのは間違いないし国際法違反なのも明らかですが、どうしてプーチンがウクライナに攻め込んだのかを理解せずに批判しているだけでは、事態は収まりません。
 プーチンにすれば、1990年にベルリンの壁が崩壊した時、米国は『NATOの東方拡大はしない』と旧ソ連に約束したのに、約束は守られず、ポーランドやハンガリーなどが次々にロシアを敵国とするNATOに加盟し、ロシアに敵対していることに強い危機感を持ったはずで、国境を接するウクライナのNATO加盟だけは絶対に認められないのでした。
 外務省の広報文書には、あたかもEUもNATOも似たような組織であるかのように書かれていますが、NATOは「ロシアを敵国としてあらゆる攻撃兵器を配備することも辞さない軍事同盟」であって、EUのような組織とは全く異なります。
 ウクライナはソビエト連邦時代にはNO2の国家でした。ソ連が崩壊してウクライナが独立してからも、歴代の大統領は国内のウクライナ人とロシア人の融和に配慮して来ましたが、2014年にクーデターが起きると事態は一変しました(米国はこのクーデターに50億ドルを投じたと明言しています。⇒ ウクライナ・オン・ファイアー)。
 新しいキエフ政府はロシア語を公用語として認めず、ウクライナ語を話せない人を公的職場から排除しました。そして暴力組織が ロシア人が多数を占める東部2州での虐殺や攻撃を頻発させたことで、親ロシア派の独立運動が起きついには武力衝突に発展しました。
 その混乱を収拾させたのが、ウクライナ、ロシア、フランス、ドイツによる「ミンスク合意」で14年9月に「その1」が、そして15年2月には「ミンスク合意2」が締結されました。その内容は、要するに東部ドネツク、ルガンスク州の親ロシア勢力支配地域の自治を広範に認めるというものです。
 ゼレンスキーは19年の大統領選で「ミンスク合意」の順守を謳って当選したのですが、大統領就任後は東部2州に対する自治権付与の行動を一切示さず、逆にNATO加盟を強行に推し進める姿勢を示してきました。
 それに加えて昨年10月、「ミンスク合意」を破ってウクライナ東部地域にドローンで攻撃を加えたことがプーチンの堪忍袋の緒を切らせました。
 そもそもゼレンスキー(ユダヤ系)は俳優の出身で政治の経験は全くありませんでしたが、テレビドラマ『国民のしもべ』の高校教師役として出演すると、その教師が国民の人気を得て最終的に大統領に選出されるというストーリで、一躍国民の人気者になりました。そしてその勢いをかって2019年の大統領選では、そのドラマにちなんで命名した政党を結成し、勝利を収めたのでした。まさに小説じみた現実なのですが、その背後に豊富な資金を有する組織があって彼の大統領当選を戦略的に実現させたという見方があります。
 日刊ゲンダイの記事を紹介します。
  お知らせ
 都合により11日は記事の更新が出来ません。ご了承ください。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
何もかも狂ってきた とまらない殺戮 戦争の狂気、まざまざと
                          日刊ゲンダイ 2022/3/9
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 予想されたことだが、ロシアとウクライナとの3回目の停戦協議も“不発”に終わってしまった。近く4回目の協議を行う予定だが、まったく歩み寄りが見られない状況だ。
 米国防総省の高官によると、ロシア軍はウクライナの国境付近に集結させていた15万人の戦力の“100%”をウクライナに投入したという。これから総攻撃をかけてくる恐れがある。
 すべての人から理性を奪うのが戦争だ。一度、始めたらお互い憎悪がエスカレートしていく。とくにロシアとウクライナは、もともと一つの国だっただけに、余計に憎悪を強めても不思議はない。
 2月24日に侵攻を開始したロシア軍は、すでにウクライナの5つの主要都市を包囲し、無差別な砲撃をしている。現地は時間の経過とともに戦況が激しくなっている。病院や幼稚園にまでミサイルが撃ち込まれ、2000人の民間人が犠牲になり、200万人が国外に脱出したという。戦況が膠着状態になったら、ロシア軍はさらに容赦ない攻撃を加えてくる可能性が高い。
 これ以上の被害拡大を止めるには、ロシアが総攻撃をかけてくる前に停戦するしかない。ところが、ロシアもウクライナも、一歩も引かず、戦力を拡大させているありさまだ。ロシア軍はシリアから傭兵を動員し、ウクライナも義勇兵を募っている。
 いったい、この戦争はどうなってしまうのか。深刻なのは“仲介者”が見当たらないことだ。2014年、ロシアがクリミア半島を併合した時は、ドイツのメルケル首相(当時)が間に入って“ミンスク合意”を実現させたが、今回はメルケルのような仲介者がいない
仲介役に必要なのは、それぞれの立場を理解し、双方のメンツが立つようにすることです。メルケル首相には、その手腕があったということです。ところが、いまどこにも適任者がいない。ロシア軍は、昨年からウクライナの国境沿いに集結していた。アメリカもEUも、いくらでも仲介できたはずなのに、動こうともしませんでした」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
 もう、この戦争は止められないのか。出口が見えてこない。

アメリカの「約束違反」が元凶か
 ロシア軍のウクライナ侵攻は、世界の景色を一変させてしまった。
 戦争を起こしたプーチンが正気を失っているのは間違いない。しかし、プーチンを非難する側も異様な興奮状態になっている。日本ではロシア料理店への嫌がらせが相次ぎ、アメリカでは、プーチンを批判しないという理由でロシア出身のオペラ歌手が劇場から強制的に降板させられている。どう考えても異様だ。
 もちろん、一方的にウクライナに武力侵攻したプーチンに非があるのは間違いない。国際法違反なのは明らかである。
 しかし、どうしてプーチンがウクライナに攻め込んだのかを理解せず、感情的に批判しているだけでは、停戦などとても無理なのではないか。
 プーチンの主張は、「我々はだまされた」というものだ。
 元外務省国際情報局長の孫崎享氏がこう言う。
「プーチン大統領は、米国が約束を破ったと思っているはずです。1990年にベルリンの壁が崩壊した時、当時のベーカー米国務長官は、『NATOの東方拡大はしない』と旧ソ連に約束している。ところが、約束は守られず、ポーランドやハンガリーなどが次々にNATOに加盟した。いわば“敵陣営”であるNATOへの加盟国が増え続け、ロシアに迫っていることに対してプーチンは強い危機感を持ったはずです。さすがに、国境を接するウクライナのNATO加盟だけは、絶対に認められなかったのでしょう」
 ウクライナがNATO加盟を諦め、中立化を宣言しない限り、プーチンは戦争をやめない可能性が高い

プーチンを怒らせたドローン攻撃
 国際世論は「ロシアが悪、ウクライナが善」という単純な構図になっているが、ウクライナに全く非がないわけではない。
 そもそも、プーチンの怒りに火をつけたのは、昨年10月、“ミンスク合意”を破って、ウクライナ側が親ロシア派が事実上支配するウクライナ東部地域にドローンで攻撃を加えたことだ。
 ミンスク合意を受けて20年7月に強化された協定では、ロシアとウクライナ双方にドローンなど航空戦力の使用を禁じている。ところが、ウクライナは協定を破って攻撃に打って出たのだ。さすがにこれには、協定締結に汗をかいたドイツからも批判が上がったほどだ。
 しかも、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州では、もともとウクライナ語を母国語とする市民が全体の3割で、ロシア語を母国語とする市民が7割を占めていたのに、ウクライナ政府はロシア語を公用語として認めず、ウクライナ語を話せない人を公的職場から排除してしまったこれが原因となり、親ロシア派の独立運動が起こり、武力衝突にまで発展したとみられているのだ。
「ウクライナは、ロシアに侵攻の口実を与えてしまったのも同然です。ロシア語も母国語とすることを認めれば、親ロシア派が武装化することはなかった可能性がある」(孫崎享氏=前出)
 しかも、ウクライナは、NATOに加盟する方針を憲法に入れてしまった
 外交交渉は両者が譲歩しなければ成立しない。このままでは、プーチンが国際世論に包囲されて白旗を揚げるか、ウクライナが焦土化するまで戦争が続いてしまうのではないか。
 国際社会は、それぞれのメンツが立つ妥協点を大急ぎで用意すべきだ。さもないと、第3次世界大戦に突入する恐れだって捨てきれない。

戦争に便乗する自民党議員
 戦争に興奮し、冷静さを失っているのは、日本も同じだ。
 安倍元首相などは、「ウクライナは核兵器を放棄したからロシアに侵略された」という理屈を持ち出し、公然と“核シェアリング”を訴える始末だ。自民党や維新からも、次々に“核シェアリング”論が噴き出している。突然、日本の国是である“非核三原則”を捨て去るべきだという主張が横行している。
 さらに、原油の高騰を受けて「原発再稼働論」まで高まっている状態だ。ウクライナの原発が、ロシア軍の攻撃のターゲットになり、原発を保有するリスクが明らかになったのに、目の前の原油高騰に慌てふためいている。
 ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、日本国内も狂いはじめている。
「政治家の本質は、非常時にこそ分かる。極端なことを主張して国民をあおる者、迎合する者、あるいは非常事態に便乗する者。“核シェアリング論”や“原発再稼働論”は、典型的な便乗です。世の中が浮足立ち、落ち着いた議論をやれそうにない時に一気に野望を実現させてしまおうということでしょう。でも、火事場ドロボーのようなやり方は、ロクな結果にならない。この状態は非常に危険です」(五十嵐仁氏=前出)
 プーチン大統領の狂気が、世界を一変させている。原油も食料も急騰し、世界中の株価が暴落。どの国も軍備拡大に動こうとしている。
 一刻も早く、この戦争の出口を見つけないと、世界は破滅に向かってしまう。