内田樹氏は23日付のAERAに寄稿し、「『ウクライナ政府はネオナチに支配されている』というプロパガンダを信じるのは ~ ロシア国民だけ」と書いているということで、世に倦む日々氏は、ウクライナがネオナチの巣窟になっていること、~ 彼らがウクライナの政権と軍部を壟断していること、そのバックにCIAがいて資金と謀略工作で支援していることなどは、侵攻前までは世界のリベラルの中で一般常識であり共通認識だったとして、「内田樹は、本気でそれを虚妄な政治宣伝だと信じて切り捨てているのだろうか」と述べました。
世に倦む日々氏は26日、次のツイッターを投稿しています。
侵攻後、3月12日に動画が上がったオリバー・ストーンの発言。 |
14年のクーデター以降、ウクライナ政権にネオナチ勢力が大勢参画したことは紛れもない事実で、オリバーは、19年に新大統領になったゼレンスキーはネオナチの言いなりになるしかなかったと見ています。ゼレンスキーを大統領に仕立てたパトロンは当初から傀儡にすることが目的だったのでしょうが、そのことが国のトップの責任を免罪する理由にはなりません。
またゼレンスキーがユダヤ人であるからウクライナ政権がネオナチ支配である筈がないというのも浅薄な見方です。
世に倦む日々氏は国内で見るべき主張をしているのは浅井基文氏*くらいのもの(ブロガーを別にして)なのに、海外(米英)では 少数派ではあるものの著名な論者がメディアに登場し、正論を述べて議論を巻き起こしているとして、その具体的な主張を紹介しています。
*(3月28日)バイデン政権の対ロ包囲網「戦略」の本質(浅井基文のページ)
そして彼らの立論の根拠として、ジョージ・ケナンが1997年、ニューヨークタイムズに寄稿し、NATOの東方拡大を「冷戦終結後の米国の政策の中で最も致命的な誤り」だと警告を発して撤回を勧めたことを挙げています(ケナンは、第二次大戦終了後早々に「ソ連封じ込め策」を提唱し冷戦の戦略を指導するなど、米国右翼の重鎮として数々の提言をしてきた人です)。93歳の渾身の諫言だったとして。
世に倦む日々氏は、結局ケナンの懸念どおり、「米国の政策の中で最も致命的な誤り」が25年後に形となって表れ、大きな戦争が勃発したと結んでいます。
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アメリカでは少数意見が生きている -保守派の賢者で功臣のG.ケナンの警告
世に倦む日々 2022-03-28
前回、内田樹と平野啓一郞を批判した。大勢順応と付和雷同と阿世保身としか言いようがなく、残念であり、日本の知的レベルの低さの証左だ。内田樹の23日のAERA寄稿でも、「『ウクライナ政府はネオナチに支配されている』というプロパガンダを信じるのは情報統制下にあるロシア国民だけだろう」と書いていて、ウクライナの政権がネオナチに支配されている事実を否定している。マスコミのCIA御用論者や松原耕二と同じ発言をしていて、それを「陰謀論」として排斥する立場に立っている。
ウクライナがネオナチの巣窟になっていること、極右民族主義が復古して跳梁跋扈していること、彼らがウクライナの政権と軍部を壟断していること、そのバックにCIAがいて資金と謀略工作で支援していること、これらのことは、侵攻前までは世界のリベラルの中で一般常識であり共通認識だった。決して「プロパガンダ」などという範疇で括られる事柄ではなく、ロシア国民だけが認識している事実でもなかった。内田樹は、本気でそれを虚妄な政治宣伝だと信じて切り捨てているのだろうか。
日本の言論はまともなものが何一つない。知性のレベルを証するものがない。商売の動機から阿世の言辞と思考停止で済ましているものばかりだ。今回の危機と侵攻が始まって以来、私の目に止まって膝を打ったのは、元外交官の浅井基文の議論だけだ。3月6日のコラムでは、侵攻に至った経緯と構図を客観的に整理し考察した上で次のように結論している。これぞ知識人の言葉だろうし、われわれに求められている正しい態度だろう。
私たちとしては、西側論調に振り回されることなく、ロシアがウクライナ軍事侵攻を余儀なくされた原因をしっかり見て取ることが求められる。(ロシアの安全保障環境を際限なく損なおうとする西側、特にアメリカの「東方拡大」戦略にあることを見極めなければならない。(略)ロシア糾弾に終始するのは本末転倒であり、私たちは何よりもまず、ウクライナをNATOに加盟させてロシアの息の根を止めようとするアメリカの戦略的貪欲さを徹底的に批判することが求められている。 |
一方、海外に目を向けると、少数派から少なからず真摯な言論が行われている状況が見える。日本とは様相が異なる。米ジャーナリストのララ・ローガンは、テレビ番組に出演して以下のように論じていた。当を得た論陣であり、勇気がある態度だ。テレビでこの発言を真正面からできるところが日本とは違う。
私たち西側のメディアは、起こっていることの現実を認めていない。西ウクライナは、そもそも第2次世界大戦においてナチスを支援したのであり、ナチスの本部だったのです。実際CIAとアレン・ダラスはウクライナのナチスに対し、ニュルンベルク裁判において起訴に関する免責を与えました。 |
シカゴ大学のミアシャイマーも、少数派の立場から活発に議論している一人で、エコノミスト誌に3月17日に寄稿した『なぜ西側がウクライナの危機に責任があるのか』が話題になっている。講演した動画は2350万回再生されている。その発言で重要なのは、今回の戦争の責任が欧米にあると堂々と指摘している点だ。
欧米では、プーチンは旧ソ連のような大ロシアを作ろうとする非合理的で常識はずれの侵略者だという見方が主流である。したがって、ウクライナ危機の全責任は彼一人にあるとされている。しかし、それは間違いである。2014年2月に始まったこの危機の主な責任は、欧米、とりわけアメリカにある。 |
英国の学者のマーティン・ジャックも、ミアシャイマーと同じ意見を述べている。米欧がロシアを冷戦の「敗戦国」として卑しめ、不当に扱ったことが、今回の戦争の原因となったと喝破している。海外では、こうして著名な論者が少数派としてマスコミに登場し、正論を述べて公共空間の議論を起こしている。日本にはそれがない。逆に、ほんの6年前、辺野古に来て基地反対派を支援したオリバー・ストーンを喝采し、感謝感激していた左翼リベラルが、掌を返して憎悪の唾を吐き、「陰謀論者」だと糾弾して袋叩きしている。
ミアシャイマー的な認識と主張が、潜勢的にせよ、アメリカ国内で多少の支持があるのは、その立論の根拠として、ジョージ・ケナンの存在があり、ケナンが晩年に発していた古典的言説の伝承と余韻があるからだろうと私は推察する。ケナンの意義と影響は大きい。現代アメリカの安保外交の神殿主神として鎮座する偶像そのもの。ケナンへの畏敬はアメリカ人なら誰もが共通するところに違いない。ソ連封じ込め策を提唱し、冷戦の戦略を指導したケナン。アメリカに勝利と繁栄をもたらした帝国の恩人。
そのケナンが、1997年、ニューヨークタイムズに寄稿し、NATOの東方拡大を「冷戦終結後の米国の政策の中で最も致命的な誤り」だと批判、警告を発して撤回を進言していた。ロシアの反発を招き、米欧の平和と安全のリスクになると予言していた。クリントン時代のことで、当時はまだ米ロは蜜月下にあり、99年にポーランド・チェコ・ハンガリーの3か国が旧共産圏国として最初に加盟する前の提言である。実に慧眼としか言いようがない。さすがインテリ。93歳の老体で渾身の諫言を発していた。
25年前のケナンの予言が的中した世界となった。ケナンの言に従えば、戦争の原因がアメリカにあることは否定できない。直接の責任者はプーチンだが、戦争の遠因と構図を作り、戦争に追い込んだ責任者はアメリカである。アメリカの外交の失敗の結果だ。アメリカに唯一の超大国の地位をもたらした賢者で老臣のケナンの忠告に従い、NATO東方拡大は断念すべきだった。私見を言えば、ポーランド、チェコ、ハンガリー、そして、スロバキア、スロベニア、クロアチアまでは目を瞑れる。が、そこで東方拡大は中止すべきだった。
キッシンジャーがウクライナを緩衝地帯にすべきと唱えたのも、故岡本行夫がバルト3国へのNATO基地設置に反対していたのも、下敷きとして、保守で現実主義者の先哲ケナンの警告があったからだろう。高齢で老練の元外交官ほどその立ち位置に準拠する慎重派が多く、ケナンの影響力の大きさに感じ入る。ケナンは保守派国際政治学の教科書だった。私は、フィンランド、バルト3国、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバ、ルーマニア、ブルガリアと、縦に長く緩衝ベルトを置くべきだという持論である。ケナンに従えば、これが現実主義の対ロシア外交策に他ならない。
ロシアを敵とする神聖軍事同盟のNATOを存続させるなら、この南北緩衝ベルトを永久固定させるべきで、それができないなら、NATOを解散するか、NATOにロシアを入れるべきである。ケナンはこの案に賛成してくれるだろう。結局、ケナンの懸念どおり、欧州の平和は破れて大きな戦争が勃発した。「米国の政策の中で最も致命的な誤り」が、25年後に形となって表れた。冷戦の頃というのは、東西・米ソは厳しく対立していたけれど、戦争の危機に対して当事者に緊張感があり、為政者に責任感があった。今はそれが消えてない。