2022年3月24日木曜日

24- プーチンの策に沿って米欧でロシア敵視を煽るゼレンスキー(田中 宇氏)

田中宇の国際ニュース解説」に無料版の記事「プーチンの策に沿って米欧でロシア敵視を煽るゼレンスキー」が載りました。

 ロシア軍のウクライナ侵攻についての田中氏の見解は、当初からロシアの勝利に終わるということで一貫しています。ややひねった書き方に思われるところもありますが・・・
 原文には各節ごとに関連記事のタイトル(クリックすると原文にジャンプ)が紹介されていますが、殆どが英文なので省略してあります。
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プーチンの策に沿って米欧でロシア敵視を煽るゼレンスキー
                           田中  2022年3月22日
ウクライナのゼレンスキー大統領が2週間ほど前から、米英独伊カナダイスラエルなど、ロシア敵視の欧米諸国の議会でビデオ演説し「ロシアとの戦争に参加し、対露経済制裁を強化してほしい。プーチンを許すな」と求めている。日本の国会でも3月23日に演説する。この展開に関して私が抱いている疑問は、ゼレンスキーが世界に対してロシアと戦争してくれ、経済制裁してくれと扇動しているのに、それによって脅威を受けているはずのロシアが、ゼレンスキーの通信手段を切断して封じ込めることもせず、世界にロシア敵視がばらまかれるのを黙認していることだ。ロシアはゼレンスキーのビデオ演説を妨害しようとしたが失敗したのか。そんなことはない。ロシアはウクライナの制空権を奪り、ゼレンスキーの居場所も知っており、ゼレンスキーと世界との通信手段を破壊できる。それをしないロシアは、ゼレンスキーがロシア敵視を世界にばらまくことを意図的に容認している。 

前回の記事に書いたように、すでにロシアは軍事的にウクライナの敵(主に極右民兵団)に対して勝利している。ゼレンスキーが世界に呼びかけても、ロシアの制空権を破って対露戦争を辞さずにウクライナに戦闘機を送り込んでくれる国はない。ゼレンスキーの演説を聞いた各国の議員たちは、国内の人気取りのため熱狂的に賛同する演技をするが、それだけだ。各国とも、やれる対露経済制裁はすでにやっているが、ロシアは持ちこたえ、むしろ欧米を逆制裁して困らせている。米欧はこれ以上ウクライナを助けられず、ゼレンスキーはすでに敗北が確定している

ゼレンスキー自身、すでにNATO加盟をあきらめると表明するなど、ロシアとある程度の合意ができる状態になっている。ロシアは、ウクライナの非武装中立化と、米英傀儡の極右勢力(ネオナチ)の排除を侵攻の目標にしているが、前者はゼレンスキーのNATO非加盟宣言で達成され始め、後者は露軍が極右民兵団を大体退治したことでメドがついている。 

ゼレンスキーは、クリミアとドンバスをウクライナに戻さない限りロシアと和解しないと言っており、これが今の対立点になっているが、これはいずれどちらかが折れることで解決できる。ウクライナがロシアの傀儡国として安定すれば、重要なセバストポリ露軍港があるクリミアをウクライナに戻すことも安保的に可能だ。ドンバスも戻せる。ドンバスがウクライナに戻る代わりにクリミアはロシア領のままにするという折衷案もありうる。領土問題は解決できる。 

ゼレンスキーは、ロシアと和解することで今後もウクライナの大統領でいられる。5月までに露軍による極右掃討が完了し、仕方がないので降参しますと言ってゼレンスキーはロシア傀儡の大統領として続投する。露軍は撤兵する。米国は2014年にウクライナを政権転覆したが、ロシアは政権転覆をやっておらず民主主義を尊重しました、と言える。ゼレンスキーが大統領として続投したければ、ロシアを敵視せず黙っていた方が得策だ。

しかし実際のゼレンスキーは、ロシアとの和解の道が見え出した直後から、欧米諸国の議会の巨大モニターに出て、ロシア敵視と対露参戦と経済制裁を扇動する演説を開始した。演説しても戦況を好転できないと最初からわかっているのに、である。ゼレンスキーは間抜けなのか。しかも、ロシアもゼレンスキーの大胆不敵な行為を黙認している。プーチンも間抜けなのか。いやいや、ゼレンスキーもプーチンも狡猾な策士だろう。むしろ、何か裏があると考えた方が良い

プーチンのロシアは、ゼレンスキーが米欧日のロシア敵視を扇動することを嫌がっていると思いきや、むしろ逆に好ましいと思っているかのような動きをしている。たとえばロシア政府は、ゼレンスキーの日本演説の前日である3月22日に、北方領土に関する日本との和平交渉を中断し、日露間のビザなし交流や共同経済活動も停止すると発表した。ロシアは、わざわざゼレンスキー演説の前日を選んで日本との関係断絶を発表した。ロシアが日本との関係を悪化させたくないなら、ゼレンスキー演説の前日にロシアがやるべきことは、日本に対する融和姿勢を見せることだ。それなのにロシアは正反対に日露関係を断絶し、ゼレンスキーと一緒になって日露関係を悪化させている。ロシアは、日本がロシア敵視を強めることを望んでいるかのようだ

ここで、さらに根本的な問いが生まれる。そもそも米欧日がロシアを強烈かつ長期に経済制裁し続けることは、ロシアにとって不利、米欧日にとって有利なのか??。これまでの私の記事を読んできた人々はすでに答えを知っているはずだ。米欧日がロシアを強烈に経済制裁し続けると、米欧日は石油ガスや鉱物資源が足りなくって経済が破綻していき、中国インド中東諸国などは米欧から距離を置いてロシア側に流れていって米欧抜きの多極型・非米型の新世界秩序を形成していく。米欧側(米国覇権)とロシア非米側が分離した状態が長引き、米欧側が金融崩壊を引き起こして破綻していく。ロシアの立場は、この多極化で強化される。 

プーチンは、こうした多極化の急伸を引き起こすため、米欧に強烈な対露経済制裁をやらせることを一つの目的として、今回の劇的なウクライナ戦争を起こした観すらあるプーチンが2月24日に、ウクライナの東部2州だけでなく全土を占領(制空権奪取)する衝撃の策をあえて挙行した目的は、米国や中国などを巻き込んで世界をロシア側と米欧側に分裂させ、石油ガス資源を持っているロシア側が勝つ地政学的な巨大紛争と大転換を引き起こすためだったと考えられる

案の定、米国は逆上し、ロシアだけでなく親露的な態度をやめない中国まで経済制裁してやると米国が息巻いている。米国が中国への経済制裁を強めたら、中国はロシア寄りになる傾向を強め、プーチンが望む多極化の急伸が現実になる。こうしたプーチンの逆転発想の大戦略をロシア市民が理解しているのか不明だが、露国民の70%が露軍のウクライナ作戦を成功と思っている。プーチンの策は露国民に十分支持されている。

プーチンは、ゼレンスキーが米欧日の議会で演説してロシア敵視を扇動するのを、自分の大戦略に沿った好ましいことと考えているだろう。ロシア側が直接もしくは間接的にゼレンスキーを動かして米欧日で演説させている可能性すらある。この場合、ゼレンスキーはロシアに言われたとおりに米欧でロシア敵視を煽るほど、戦争後もウクライナ大統領でいられる可能性が高くなる。ゼレンスキーは対露制裁に参加している諸国でのみ演説し、中立諸国を説得して反露に転じさせようとはしていない(演説を断られている)。ゼレンスキーは、対露制裁の参加諸国にもっと過激な対露制裁をやらせて自滅させようとしている。 

米欧日の上層部には、ロシアとの石油ガス資源の関係が切れてしまうと自国経済が破綻するので避けたいと思っている勢力がかなりいる。ゼレンスキーの演説は、そうした米欧日の上層部の思惑を破壊し、米欧日が好戦的なロシア敵視のポピュリズムに流されてロシアとの関係を完全に切って経済的に自滅していく方に事態を押しやる。これまで米国のロシア敵視に表向き同調しつつ、日本の国益を重視してロシアとの関係を何とか親密に保ってきた安倍晋三らの自民党は窮地に立たされている。

日本は今後、国内へのガス供給元として必要不可欠なサハリン2の天然ガス事業を放棄しかねない(今のところ放棄しないことになっているが)。日本がサハリン2を放棄したら、その分の利権は中国に取られてしまい、二度と日本に戻らない。日本人はこの先ずっとガス不足に苦しむことになる。世界の石油ガス鉱物の利権の多くは、すでに中露側に取られている。米欧日は、中露を敵視する限り、石油ガス鉱物が大幅に足りない状態が続く。ゼレンスキーは、米欧日を自滅させるためにロシア敵視の演説をして回っている。欧州人たちは、欧州人自身の暮らしを自滅に導き、核戦争も辞さずにロシアと戦争してほしいと欧米に求めているゼレンスキーに、ノーベル平和賞を与えようとしている。まさに1984的。すばらしい。