世に倦む日々氏が「なぜ左派は報道1930を批判しないのか-ハト派を作ろうとしなかった左翼」とする記事を出しました。
その趣旨は明快で、マスコミは「報道1930」などで代表される報道番組で、まず自ら意図する方向で毎日毎晩国民に主張を刷り込み、次に世論調査をとるという手法で、当初意図した方向に世論を誘導しているという指摘です。
そしてこのところ世論が急激に軍備拡張を容認・支持する方向に傾いているのはそのせいであり、それを防ぐには左派の論客をそうした番組に登場させて右派の主張に反駁し切り返さなくてはならないにもかかわらず、そうした人選が行われていないのは、左翼がこれまでハト派を作ろうとしなかったからだと述べています。
野党の論客が国会で見事な論陣を張るのは望ましいことですが、それが確実に報道される保証はないために世論に与える影響は小さいのに対して、いわゆる報道番組に日常的にハト派が出演できるならばその影響は大きくなると思われます。
野党共闘の中核となるべき立民党が大コケしてから既に久しいなかで、分厚いハト派を構築する必要性は論をまたないところです。
追記)世に倦む日々氏はまた「共産党と支持者がウクライナ戦争をめぐるれいわと山本太郎の態度に難癖をつけ、れいわ叩きに必死になっている」とも述べています。これについては全く知らなかったのですが、叩くべき相手を間違えているのではないでしょうか。
ウクライナ問題については「ロシアが悪い」以外のことを口にすべきではないという空気が支配していて、それでは自民党や米国の主張と全く変わるところがないので結局その中に埋没してしまい、結果として米国主導の「長期戦」の戦略が進められています。それに対して異論が出るのはむしろ当然でありやむを得ないことです。
仮にれいわの主張が間違っていたとしてもそれをとらえて徹底的に叩くというのはそもそも野党共闘の精神に反します。まさか純潔(純血)主義に戻ろうというのではないと思いますが。
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なぜ左派は報道1930を批判しないのか-ハト派を作ろうとしなかった左翼
世に倦む日々 2022-06-02
昨日(6/1)の報道1930を見ていたら、日本の防衛費増を具体的にどう実現するかという内容をやっていた。番組の結論は、公共事業費をカットしろというもので(堤伸輔)、松原耕二は、社会保障の抜本的改革をしないからいつまでも社会保障費が伸び続けるのだとも言っていた。堤伸輔も松原耕二も、国債増発による防衛費増には絶対反対で、それよりも公共事業を切るのが先決だと言う。今、来年度予算の作業が霞ヶ関で始まっていて、8月には概算要求が出るが、公共事業が切られるかもしれない。
地震や洪水から国民を守る防災対策とか、老朽化した地方のインフラ整備のための予算がカットされる可能性がある。先月下旬、日本の国民負担率46.5%がネットで注目され論議を呼んでいた。国民負担率が高いのに日本では国民へのリターンがない。社会保障はカットされまくり、自己責任での応益負担に切り換えられ、低所得層の生きづらさが増している。こんな中で防衛費増など狂気の沙汰であり、軍事費こそカットして社会保障や教育に回すべきなのに、テレビ報道が真逆の方向の論調で固め、防衛費増のための他予算カットを「正論」として唱えている。
松原耕二が番組の中で持ち出したのが、最近のマスコミの世論調査で、「GDP2%以上」の防衛費増に55%が賛成した日経の数字や、「反撃能力」に66%が賛成した毎日の数字や、「核共有」について議論するべきが79%となった日経の数字が紹介された。また、専守防衛を「見直すべき」が52%となったJNNの数字も示された。松原耕二は、自社TBSを含むこの世論調査の数字をバックに、それを根拠にして、防衛費増のための他予算カットの主張を番組で正論づけている。国民の多数意思であるとして軍事費増を正当化し、それを既定路線化した具体的方策を吐いている。
だが、よく考えなくてはいけないのは、この世論の現状と実態はテレビの報道番組の洗脳によって作られたものだということだ。世論調査の数字は確かにこのとおりなのかもしれない。だが、この現在の大衆意識は、ウクライナ戦争が始まってからの3か月で絶え間なくテレビに登場する論者とキャスターから吐き散らされた言説に影響を受けた産物であり、プロパガンダのシャワーに圧倒され教化された反応に他ならない。曰く、核武装してないと隣の強国から攻められる、ウクライナのようになる、専守防衛では対応できない、台湾有事は日本有事だ、日本の防衛費は少なすぎる、ドイツを見倣え、等々の好戦論に延々と漬け込まれた結果だ。
番組をそのように企画編成しているのはキャスターとスタッフである。3か間、ずっと軍人が出ずっぱりでテレビ番組をオキュパイし、ミリタリアンの論理で安全保障の議論を仕切り、政策論を誘導し、それに反対する論者は全く出演の機会がなかった。例えば、本当なら、西谷修や浅井基文や鳥越俊太郎が出て、ミリタリアンたちに反撃し論破する左サイドの対抗言論が発せられなくてはいけなかったはずだ。ウクライナ戦争に対する分析や評論や政策提起も、アメリカのように、ミアシャイマーやオリバー・ストーン的な別角度からの論陣が張られ、それがマスコミに提供される必要があった。
だが、日本のマスコミはそれをせず、ウクライナ戦争を出汁にして、専守防衛や憲法9条をスポイルする議論で空間を埋め、軍部主導のイデオロギー方向に引っ張った。プーチンとロシアを悪魔化し、その対極としてアメリカを神聖化し、日米同盟の絶対化と日本武装論の正当化を押し固めた。反論はテレビに出ず、論争の場面もなかった。政党(野党)も全く論戦を試みなかった。マスコミが、軍部の論客を使い、日本の国論を核武装と戦時体制容認に持って行こうとしているのに、左派野党はマスコミの反動攻勢に介入せず、座視したままだった。専守防衛さえ切り崩されてるのに、ロシア擁護派とレッテル貼りされるのを恐れ、ウクライナ支援の立場で局外に身を置いた。保身に徹した。
通常、テレビのキャスターがこれが正しいと言えば、世論調査はその意見や主張が多数となる。報道1930の松原耕二の論調が多数派として数字になる。マスコミは、最初に自ら意図する方向で毎日毎晩主張を刷り込み、次に世論調査をとり、それが国民の多数意見だと証明するのである。それがマスコミの政治だ。だから、世論調査の結果というものは二次的なもので、最初にマスコミ側の目的と方針ありきなのだ。つまり、大事なのは毎日毎晩垂れ流されているテレビ番組の内容なのである。そのスタジオに、小手川大助がいて、田岡俊二がいて、森広泰平がいて、主流派のミリタリアンに反駁し切り返す図があれば、番組内容も、世論調査結果も、全く違うものになっていただろう。
本来、左派はテレビ番組こそを正面から批判しないといけなかった。専守防衛まで否定され、核武装が当然というような状況に押し流される前に、TBSと松原耕二の意図を掴み、抗議の「待った」をかけないといけなかった。ウクライナ戦争を9条改憲や防衛費増の政局に繋げる策動を食い止めないといけなかった。ウクライナ戦争の議論に介入し、ミアシャイマーやベンアミ的な主張を盛り興し、ハト派の柱を立てないといけなかった。右翼軍部論客(佐藤正久・森本敏・河野克俊・防衛研・笹川財団..)に対抗するハト派の陣地を築き、その支持を広げ、マスコミの中に勢力を確立させないといけなかった。その言論戦略を設計して応戦しないといけなかった。
左翼が、ウクライナ戦争の言論でハト派として結集し、和田春樹や羽場久美子を押し立てる動きで一致していれば、テレビ局も、出演論者を(レギュラー化した)ミリタリアン一色に染めるのではなく、伊勢崎賢治や佐藤優や遠藤誉や塩川伸明などの中立派を出し、対抗軸を見せる構図にしただろう。日本の言論に幅ができ、バランスの契機が生じ、ハト派の地平を出現させられた。鈴木宗男や山本太郎の存在感もヨリ浮上しただろう。その影響は世論調査に反映されたに違いない。だが、左翼はそれをしなかった。ハト派を作ろうとしなかった。この3か月間、左翼が血眼で熱中したことは、左派の中にいる「親ロシア派分子」を見つけて叩き、締め上げることだった。
少しでも中立的傾向の者を見つけ出して、「陰謀論者」あるいは「反米陰謀左翼」のレッテルを貼り、ツイッター等で誹謗中傷してリンチ攻撃を浴びせることだった。私も、しばき隊とそのシンパの左翼から「ロシア派」だの「反米陰謀論者」だのと侮辱を受け、罵倒と監視を受けている一人である。その周辺を観察して気づくのは、今、日本共産党と支持者がれいわ叩きに必死になっていて、ウクライナ戦争をめぐるれいわと山本太郎の態度に難癖をつけ、そこを切り口にれいわ追い落としに躍起になっていることである。重信房子が「れいわ新選組」を口に出したことも、その作戦に好都合の材料提供だったようだ。ウクライナ問題をれいわとの差別化ポイントに演出する左翼政局に利用している。
参院選を前に左派の諸野党は不人気だ。それゆえ、少なくなったパイを奪い合うように、日本共産党はれいわ新選組に流れる票を阻止し、れいわから一票でも奪い取りたいのだろう。その動機を前面に出して、私に粘着しているしばき隊左翼のシンパもいる。下劣というか、くだらない左翼政局のネタにされて不愉快千万だ。私がウクライナ戦争の議論で企図したことは、論壇にハト派を作ることだった。「戦争プロパガンダ10の法則」の観点に即く市民の輪を広げ、マイケル・ムーアのスタンスに一列に立つ形勢を作ることだった。そうすることで、専守防衛と憲法9条へのコミットを活性化し、ショックドクトリンを狙う主流派に対する対抗軸を作ることが主眼だった。
今、左派野党は、議論の焦点を「暮らし」の問題に向け、物価高や負担増への批判を選挙の票にしようと藻掻いている。何とか「暮らし」が争点にならないかと焦っている。だが、毎日のテレビ番組は、相変わらずウクライナ情勢と中国問題を放送し、安全保障の問題を撒き散らし、ミリタリアンの説教で埋めている。自民党は「安保」を争点に立てる構えで、実際、選挙戦がそうなれば票は自民党や維新に流れるだろう。左派野党は逃げ腰になり、立憲民主党と日本共産党との違いが明らかになり、「野党共闘」に逆風になるのは確実だ。本当は、「安保」を争点にして、堂々と左派野党が自民・維新に勝つ構図を作らないといけないのだ。専守防衛が軍拡路線に勝つ選挙にしないといけないのだ。
そのためにこそ、ウクライナ戦争が始まって以降の言論で、ハト派の一定勢力を作ることが肝要だった。塩川伸明や羽場久美子や伊勢崎賢治がテレビで存在感を示す流れにしないといけなかった。今、日本共産党支持の左翼は、ウクライナ問題では極右と完全に意見が一致していて、NATOの武器支援を支持し、ロシアを屈服させるまで停戦するなと声を上げている。日本共産党の支持者がそれだから、羽場久美子や伊勢崎賢治の出る幕はない。放送出演の需要がない。結局、右も左もオール軍国主義になり、NATO批判派や日米同盟批判派は異端の存在となった。中国と軍事的に対抗する軍拡路線が国民の民意となった。
先週から国会の動きが報道され、与野党の議論に少し関心が寄っている。ツイッターの右横の「トレンド」に「#国会中継」と言うキーワードが出るようになった。クリックすると、野党支持者が政府や与党の政策を批判している。だが、話題は内政だけで、安保は避けられている。こうしてツイッターの横に政府批判・政権批判のキーワードが登場するときというのは、大概、日本共産党の支持者が大挙して言論攻勢をかけているときで、偶然ではなく組織的な動きだと推察される。それを見ながら思うのは、なぜこうした言論攻勢を報道1930の放送に対してかけないかということだ。右翼は、サンデーモーニングに対して必ずツイッターデモをかけている。
一般の人々の政治意識というのは、国会中継を見て影響を受けているのではないのである。報道1930やプライムニュースが影響を与えている。「中立」を偽装したこれらの放送の中身が、人々の政治的座標軸の「値頃感」や「相場観」を決めている。だから、左派が介入するなら、報道1930に対して批判し、偏りすぎているぞと言わないといけない。現状の報道1930を「中立」だと認めてしまったら、佐藤正久と森本敏が中立で標準だということになる。核武装も当然という認識と判断に導かれる。ウクライナ戦争の論議で、本来は右派と左派に分かれて立場が広がらないといけなかったのに、左派がマスコミ言論に介入せず、右翼と歩調を合わせてプーチン叩きに狂奔したため、佐藤正久・森本敏・東野篤子が標準となった。
日本共産党がれいわ新選組を叩くのは、外から見れば、すなわち自民党や右翼から見れば、まさに愉快で歓迎の内ゲバである。本当なら、この2党は平和主義で協調共闘し、9条を守り、軍拡を防ぐべく与党と戦わないといけない身内同士のはずだ。安全保障の政策論議でハト派の陣営を築き、国民から支持を得て選挙で勝利しないといけない勢力のはずである。なぜ、日本共産党は内ゲバに固執し、仲間を攻撃するのだろう。外の世界を広く展望すれば、例えば、アラブの人々はこの戦争の原因と責任をロシアではなくNATOの方に認めている。なぜ、日米同盟の廃棄を謳う日本共産党がNATOに同調し、大政翼賛会の優等生となり、ゼレンスキーの国会演説に直立不動と拍手喝采で応じなければいけないのか。
10年前、15年前は、NHKの報道が偏向しているということで、よく左翼の市民がNHK前でデモをしようなどという声が上がっていた。FAXや電話で抗議を入れようという呼びかけはしょっちゅうで、実際にそれを実行して市民の論理で圧力をかけていた。今はそれが全くない。今それをやっているのは右翼の方だ。左翼からマスコミ批判が上がらなくなった。日本の左翼が、西側の戦争プロパガンダの主体性と同一化してしまっていて、マスコミの論調と政治的に一体化し、反プーチン統一戦線の一翼となっている。日本の世論の傾斜に歯止めがなくなった。
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