「正義派」という志賀直哉の短編小説があります。それは女児が電車に轢かれるところを目撃した3人の線路工夫が「運転士がもっと早くブレーキを掛けていれば助かった」として、警察に名乗り出たのですが、直ぐにその熱は冷めてしまい・・・というストーリーで、日本人の熱しやすく冷めやすいという性格を、ほろ苦く揶揄したものでもありました。良かれ悪しかれ欧米人の粘着質とは対照的に、日本人は潔癖で淡白な気質と言えます。
ウクライナ戦争はことの始まりからバイデンが誘導した(14年のクーデターを含め背景にはバイデンの強烈なロシア嫌いがあります)もので、彼は戦争が長びけばそれだけロシアが疲弊するし軍需産業は儲かるからと、当初から長期戦を目指していました。しかしその政策は米国民の3割にしか支持されず、5割は明確に不支持でウクライナなど放っておけと思っているということです(田中宇氏)。
それに対して日本人は一刻も早く終わらせるべきであるという考えの筈ですが、肝心の終わり方は、「開戦前の状態に戻す、侵略者に利益を与えるのは飛んでもない」というもので現実的とは言えません。
ストルテンベルグNATO事務局長は12日、「欧米はウクライナ軍を強くするため『代償を払う』のを厭わないが、現在の紛争を終わらせるため、キエフはモスクワに多少領土の譲歩をしなければならないだろう」と述べました。「和平は可能だが」「唯一の疑問は、和平に対し、どれだけ代償を払うことを厭わないかだ。平和のため、どれだけの領土、どれだけの独立、どれだけの主権を犠牲にするのを厭わないかだ」「それは最も高い代償を支払う人々(ウクライナ人)が判断すべきだ」と(19日付マスコミにのらない海外記事)。他ならぬNATOのトップの発言なのでそれなりの重みがあります。
それに比べると日本人は、いわば「ゼレンスキー完全支持」「潔癖性と正義感の塊り」状態で、少しでもロシアの肩を持つことは許されないという考えなので、それでは和平は実現しません。
「田中宇の国際ニュース解説」:「すでに負けているウクライナを永久に軍事支援したがる米国」を紹介します。(原文には多くの出典記事が付されていますが、日本語タイトルのみを表示し英文のものは省略しました)
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すでに負けているウクライナを永久に軍事支援したがる米国
田中宇の国際ニュース解説 2022年6月19日
2月下旬に露軍の侵攻で開戦したウクライナ戦争は、4か月近くがたった今、ロシアの勝利とウクライナの敗北が不可逆的に確定している。これまで自分たちは勝っていると(妄想的に)豪語していたゼレンスキー大統領らウクライナ政府も最近、自分たちの軍勢に大勢の戦死者が出ていて負けそうであることをようやく認め出した。ゼレンスキーの側近(Mykhaylo Podolyak)は6月9日、開戦以来1日平均100-200人のウクライナ軍兵士が露軍との戦闘で死んでいると英国BBC放送に対して語った。開戦から百日ほど経っているので合計1万-2万人のウクライナ兵が戦士したことになる。その前にゼレンスキーが、1日平均60-100人のウクライナ兵が死んでいると述べたが、側近が言う実数はそれより多かった。別の側近(Alexey Arestovich)も、開戦以来1万人の兵士が死んだと言っている。
国連が発表したウクライナ市民の死者数は5月3日の時点で3千人強だ(実数はもっと多いと報じられているが根拠がない)。その後は死者数が発表されていないが、戦闘が下火になりつつあるので現時点での市民の延べ死者数は5千人ぐらいか。ウクライナでは兵士が市民の2倍以上死んでいることになる。ロシア政府は、ウクライナでなるべく市民を殺さず、攻撃してくる兵士だけピンポイントで殺していると発表してきたが、その発表は本当だったことになる。ロシアの軍事作戦は成功している。露軍は最近戦死者数を発表しておらず、米国側のマスコミ権威筋が「露軍の作戦は失敗しているので2万人以上が死んだはずだ」とか概算しているが、この概算は妄想が大量に入った大間違いだ。露軍の作戦は成功しているので戦死者数は数千人でないか。露政府は、米国側に「ロシアは大量に戦死して負けている」という大間違いの判断をさせ続けて自滅させる目的で、意図的に自軍の戦死者数を発表していない。
ウクライナ政府が最近、負けそうだと言い出した意図は、米国側に対して「もっと兵器や軍資金を出してくれないと負けてしまう」と加圧するためだ。またゼレンスキーらウクライナ政府は、自分たちが負けているのに、それを無視して「これから軍事的に盛り返してクリミアや東部をロシアから奪還する。決して領土で譲歩しない。必ず勝つから、米欧は兵器や資金をくれ」と言い続けている。ゼレンスキーらは、本当に露軍に勝ってクリミアや東部を奪還できると思っているのでなく、(ブラックマーケットに転売して現金化できる)兵器や軍資金を米欧からもらうために絶対勝つと言っているだけだ。ウクライナ政府の上層部は腐敗していることで開戦前から有名だった。
ドイツの諜報機関は、このままだとウクライナ軍は1か月後ぐらいに戦闘力低下の崩壊状態になると予測している。ウクライナ軍はもともと訓練が不十分で弱いが、優勢な露軍に負け続けているのでさらに士気が下がり、戦闘能力が落ちている。前線の兵士に対する食料や水の配給も足りていない。不十分な量のジャガイモと水しか支給されないという話が報じられたが、それをワシントンポストに話した兵士はウクライナ当局に逮捕された。ウクライナ政府は腐敗している。米国などが送った兵器の多くは、ウクライナの上層部によって転売されて実戦に使われていない可能性が高い(米国の上層部も軍資金を横領している)。 (米政治家らに横領されるウクライナ支援金)
最近の私の記事で、ウクライナ政府のデニソバ人権監督官が「露軍がウクライナ市民を強姦・惨殺している」という話を米国側のマスコミに流して喧伝させていたが、彼女の話が無根拠であることがバレてウクライナ議会に罷免されたことを書いた。デニソバは罷免後、ウクライナのメディアの取材に答え「イタリアなど欧米各国の政界には、ウクライナ支援に消極的な勢力もおり、そうした消極派の人々にウクライナ支援の必要性を納得してもらうために、凄惨な話を(捏造して)流布する必要があった。ウクライナの人々は支援を必要としているのだから、やむを得なかった」と話している。彼女は、支援をもらうためにロシアに濡れ衣をかけて凄惨な話を捏造し、欧米(や日本)を騙していたことを認めた。「ロシアはひどい。ウクライナを支援しよう」と熱弁している欧米日の政治家や活動家やジャーナリストらは、デニソバのような人に騙されてコロリと信じてしまった大間抜けというわけだ。 (ロシアの優勢で一段落しているウクライナ)
「ウクライナの現場に行った欧米日のジャーナリストたちが、ウクライナ市民に話を聞いたら、みんなロシアを許さないと怒っていた。露軍による虐殺の証言もたくさん聞いた。ロシアが極悪であることは間違いない」という意見がある。しかし、ウクライナの現場にいるジャーナリストたちは、ウクライナの当局者やその系統の人々に案内・誘導されて取材している。ウクライナ当局はジャーナリストたちに表向き自由に報道させると言いつつ、実際は当局が言ってほしいことを言う人にしか会わせない。ウクライナには反露派のウクライナ系、親露派のウクライナ系、親露派のロシア系の3種類の人々が3-4割ずついるが、ウクライナ当局がジャーナリストに接触を許しているのは主に反露派のウクライナ系だ。だから「ウクライナの人々はみんなロシアの残虐さを知っており、絶対に許さないと思っている」という歪曲された報道ができあがる。コロナでもウクライナでも、欧米日のジャーナリズム・マスコミは歪曲話ばかり流すので人々の信用を失っている。
ウクライナ軍はもう勝てないし崩壊しそうなのに、米国政府は今後もずっとウクライナを軍事支援すると言っている。ヒックス米国防副長官は6月13日、ウクライナの政府や軍は今後もずっと崩壊せず、米国は10年でも20年でも(ロシアを打ち負かすまで)ウクライナを軍事支援し続けると表明した。オバマ元大統領も「ウクライナ戦争はまだまだ続く。戦争の費用もどんどん増える」と言っている。だが同時にオバマは「戦争の結果がどうなっていくかは予測が難しい」とも言っている。オバマはウクライナが負ける可能性が高いことを知っている。
米国の政府(諜報界)は、最終的にロシアの勝利になることをこっそり覚悟しつつ、いずれウクライナがロシアを打ち負かすのだという表向きの論調をマスコミ権威筋に採らせ、崩壊寸前のウクライナにこれから何年も兵器と資金をつぎ込んで延命させていくつもりのようだ。米国の政府や諜報界には、もうロシアの勝利とウクライナの敗北が確定的なので、ウクライナを無限に軍事支援してロシアと戦争させるのでなく、ある程度のところで戦争をやめてウクライナをロシアと交渉させて外交で解決するしかないと考えている勢力もいる(キッシンジャーとか)。そういった勢力はマスコミ権威筋を通じて「もう勝てないよ。戦争やめて交渉した方が良い」という論調を流し始めている。
だが、ブリンケン国務長官やオースチン国防長官、サリバン安保補佐官らバイデンの側近たちは、ロシアに勝つまでウクライナを支援して戦争を続行させると主張し、早期和解派を退けている。バイデン政権が続く限り、米国はゼレンスキーに強硬なことを言わせ続け、ウクライナへの軍事支援とロシア敵視、戦争状態を延々と続ける。 (複合大戦で露中非米側が米国側に勝つ)
とはいえ、バイデン政権がずっと続くわけではない。バイデンのウクライナ政策は米国民の3割にしか支持されず、5割は明確に不支持だ。米国民は、ウクライナなど放っておけと思っている(遠い国だし腐敗しているのだから当然だ)。バイデンの民主党は、インフレ対策や治安維持、違法移民問題などでも国民に不人気で、今年11月の中間選挙で議会上下院の多数派を失いそうだ(再び選挙不正をしない限り)。来年から米議会は共和党が多数派になり、バイデンのウクライナ政策を妨害し始める。米国は表向きロシア敵視・ウクライナ支援の好戦的な姿勢をとり続けるが、実質的に決定不能になってウクライナを放棄する姿勢を強める。2024年の大統領選ではトランプが出てきて勝つ(民主党が再び不正を成功させない限り)。欧州も、自滅的な対露制裁に疲弊し、傲慢で強欲なゼレンスキーにも辟易しており、対米従属のためのおざなりのロシア敵視を続けるだけになっている。すでにEUはウクライナを加盟させない姿勢に戻っている。
ロシアのプーチン大統領は最近の演説で、米国覇権体制がすでに終わっており、米欧が覇権を取り戻そうとしても無理だと宣言した。米欧など米国側がウクライナ戦争でロシア敵視の経済制裁を続けるほど、エネルギーや資源類を握るロシアなど非米諸国が米国側に資源類を高値でしか流さなくなり、米国側のインフレや物不足がひどくなり、米連銀QE終了による金融危機・ドル崩壊の進行と相まって、米国覇権の瓦解が進む。ロシア敵視は米覇権を自滅させ、ロシアなど非米側が台頭して世界の覇権構造を多極化する。ウクライナ戦争を続行するバイデンの側近たちは、米覇権自滅と多極化を誘発する隠れ多極主義者である。ウクライナに侵攻したプーチンは、米国の隠れ多極主義に協力しただけだ(両者は隠然とぐるだ)。プーチンの指摘どおり、米覇権体制はすでに不可逆的に終わっている。ウソや誇張ばかり流すマスコミやジャーナリズムを軽信する米国側の大半の人々は、この現状を知らないまま全体的に貧しくなっていく。 (米露の国際経済システム間の長い対決になる)