ロシアによるウクライナ戦争を好機として政府は軍備拡張の必要性を強調し、国民の多くもそれに同調しています。しかしそんな必要があるのか、あるいは、何がしかの軍備拡張をすれば日本の安全が守れるのかといえば、そんなことはありません。
そもそも軍備拡張路線にはどこまで拡張すれば安全かという限度はないので、その後は国力の限界まで、あるいは国が破綻するまで続けるしかなくなります。
軍事費を、岸田首相がいうように「相当増額する」ための財源は国債以外にはなく、その返済は結局増税によるしかありません。しかも軍事費の支出はずっと続くものなのでその「大増税」は果てしなく続きます。当然社会保障費や教育費は削られることになるので、庶民の生活は一層苦しくなっていきます。
日本の軍事費倍増で大いに潤うのは米国と軍需産業です。安易に米国の路線に載せられるべきではなく、日本の安全のためには何よりも近隣諸国との友好関係を築くことが大事です。
日刊ゲンダイが、「庶民はよくよく考えたほうがいい 亡国の自民党政権で大増税の軍事大国を目指すのか」という記事を出しました。
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庶民はよくよく考えたほうがいい 亡国の自民党政権で大増税の軍事大国を目指すのか
日刊ゲンダイ 2022/ 5/ 30
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
あれよ、あれよ、という間に既成事実化が進んでいる。
29日のNHK「日曜討論」は、岸田首相がバイデン米大統領に防衛費の「相当な増額」を口約束したことについて、与野党の安全保障政策責任者が議論。「NATOの目標(GDP比2%への増額)と同じスタンスだ」(自民党)、「増額は避けて通れない」(公明党)、「質の向上を追求した結果、予算額が増えることはあり得る」(立憲民主党)、「抑止力、対処力を高める予算を付けていくことは重要」(日本維新の会)、「コストを抑えたうえで必要な増額はやむを得ない」(国民民主党)……とまあ、共産党とれいわ新選組以外は、すっかり増額が既定路線という発言を繰り出したのだった。
国会での議論は緒に就いたばかりなのに、与党の“歯止め役”を自称する公明党は、やはり下駄の雪。野党第1党も「やむなし」の姿勢だ。立憲民主の泉代表は24日、「(規模は別として)増額の是非は参院選の争点にならない」と言い切った。
自民が主張する「GDP比2%」は現在の防衛費の倍額の11兆~12兆円規模となる。しかし、そんなカネがどこにあるのか。一体、どこから、どうやって捻出するつもりなのか。
27日の衆院予算委員会で岸田は「相当な増額」の財源について、「数字がはっきりしない段階から申し上げることはできない」とごまかした。予定される参院選の公示日まで1カ月を切っている。参院選が終わるまで曖昧にして、“白紙委任”を取り付けようという姑息な魂胆だ。
安倍元首相の失政隠し
一議員となって無責任発言乱発の安倍元首相はイイ気なもので、「増額は国債で対応していけばいい」と言ってのけた。建設国債は将来世代にインフラを残すために発行すると指摘し、「防衛費は次の世代に祖国を残していくための予算だ」と持論を展開。国債発行による借金で賄っても問題ないと強調した。将来世代に残される借金のことは眼中にないようだ。
今年度5・4兆円となっている防衛費の当初予算額についても、「来年度は6兆円後半から7兆円が見えるぐらいが相当な額ではないか」と大幅アップを主張。29日は富山県での講演で、「(防衛費の増額を)約束した以上、私たちは責任を果たしていかなければならない」とまるで“現職首相”気取りだった。
安倍は、無為に防衛費を膨らませた自らの責任には頬かむりだ。高額兵器の購入代金は複数年度に分割して支払う。その「兵器ローン」残高はいまや5・8兆円。実に、年間の防衛費に匹敵する額だ。急激に増えたのは第2次安倍政権時で、安倍がトランプ前大統領のご機嫌取りのため爆買いした兵器のローンが重くのし掛かっているのである。
防衛ジャーナリストの半田滋氏は言う。
「FMS(対外有償軍事援助)による米国製兵器の調達額は、第2次安倍政権で大きく膨らみました。それまでは、民主党政権でもその前の自民党政権でも500億~600億円で推移していたのが、安倍政権の2013年度に1000億円になり、15年度には4000億円、19年度には7000億円を超えたのです。安倍政権8年のローンの支払いが今、本格化している。今年度の米国への“ツケ払い”は対前年比で10%以上も増えています。防衛費の内訳は4割が人件費、4割がローンなどの歳出化経費、2割が一般物件費で、ローンの額が膨らめば防衛費が足りなくなるのは当然です。兵器が本当に必要なのかどうかとは関係なく、安倍政権の8年で米国に巨額を支払う流れができてしまい、逃れられなくなっている。弾薬不足などという防衛費増額理由の解説は口実。安倍元首相の失政を見えなくする隠蔽工作です」
ウクライナ戦争での対応を見れば、安倍以上に対米追従の岸田が「兵器ローン」をさらに膨らませかねない。
防衛費の増額分を、政府は「つなぎ国債」で賄う検討に入ったという。赤字国債の一種ではあるが、将来の償還財源を明示した上で発行する「国債」で、その財源には「増税」を充てる案が有力らしい。
やっぱりだ。
役立たず兵器のため、国民はどんどん貧乏に
詰まるところ、「防衛費の相当な増額」は大増税と引き換えなのである。
29日、フジテレビの報道番組に出演した立憲民主の小川政調会長は、「増税の覚悟はあるのか」と、岸田に説明を求めた。
財政や経済の専門家でつくる財政制度等審議会も25日に発表した建議(意見書)で、防衛費増額について「税収配分や国民負担のあり方など、実現方法を正面から議論する必要がある」と訴えた。歳入と歳出が均衡するプライマリーバランス(基礎的財政収支)しか頭にない財務大臣の諮問機関ゆえの見解に聞こえなくもないが、いずれにしても、亡国首相は参院選の前に、防衛費増額の財源が増税だとハッキリさせるべきだろう。
日本は世界的にもまれにみるゼロ成長が続いている。大企業はアベノミクスの円安誘導策で最高益を上げているだけで、イノベーションは進んでいない。「3本目の矢」だった成長戦略はいまだ形にならず、超のつく少子高齢化の衰退国家では、税収増も見込めない。
日本の国債残高は22年度末で1026兆円。GDP比で256%はG7で最悪だ。財政審の意見書は、「経済・金融・財政の強いマクロ構造がなければ、防衛力を継続的にかつ十分に発揮することはできず、結果的に『戦わずして負ける』ことにもなりかねない」と苦言を呈した。
「兵器に回す財源を増やすことで、社会保障費が削られたり、さらなる増税が行われたりするわけで、国民はどんどん貧乏になるのです。それも、無人偵察機『グローバルホーク』など役に立たない兵器の代金として支払われる。ロシアによるウクライナ侵攻で日本国内に漠然とした不安感が漂っているのを利用して防衛費を増額しようなんて本当に卑劣です。政府は本来、『今まで通りの十分な予算があるから、みなさん安心して下さい』と言うべきでしょう」(半田滋氏=前出)
必要なのは大砲か、バターか
増税ありきの防衛費増額もそうだが、大事な情報は国民には知らされない。朝日新聞デジタルの解説記事(28日)によれば、「敵基地攻撃能力」の保有については、すでに安倍政権下の13年の防衛計画大綱で布石が打たれていた。「敵基地攻撃」という言葉は使われなくとも <我が国自身の抑止・対処能力の強化を図るよう、弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力のあり方についても検討の上、必要な措置を講ずる> と明記。
実際に長射程巡航ミサイルの開発・導入の関連予算が既に計上されているというのだから、巧妙かつ狡猾だ。
日本製兵器の輸出緩和も着々。岸田政権は、戦闘機やミサイルなど大型の攻撃型兵器でも、個別に協定を結んだ国なら提供できるよう検討を進めているという。来月まとめる「骨太の方針」に盛り込む方向だ。
だが、敵基地攻撃は専守防衛を逸脱した先制攻撃になりかねない。日本が輸出した兵器が戦場で殺戮に使われる恐れがある。憲法9条が脅かされる。
軍事大国化のための大増税。社会保障費や教育費が削られることにもなり、庶民生活はますます苦しくなる。世論調査では防衛費増額に「容認」が多数だが、そこまで分かったうえで、増額を是としているのかどうか。庶民はよくよく考えた方がいい。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。
「食料品や燃料費など値上げラッシュが続いている。国民生活のサポートこそが最優先されるべきで、そのために税金を使うべきでしょう。今、本当に必要なものは大砲なのか、バターなのか。野党は自民党がつくり出す好戦的な空気に巻き込まれることなく、冷静に問題提起して、国民に示すべきです」
ウクライナ戦争を奇貨として、なし崩しの亡国政治が大政翼賛会で加速化してしまったら、参院選を前にして絶望しか残らない。