2022年6月22日水曜日

22- 停戦和平に流れる欧州の世論 - ~ (世に倦む日々)

 ウクライナ侵略問題について日本では、「悪であるロシアには一歩も妥協すべきでない」「侵略者が利益を得るような終わり方はあってはならない」という論調です。しかしながらそれでは1日に100~200人が亡くなっているというウクライナ戦争の和平は達成できません。
 「世に倦む日々」氏によれば、ローマ教皇は6月14日、
 「恐らくこの戦争は何らかの形で誘発されたか、あるいは阻止されなかったのだろう」
 「複雑な問題を善悪の区別に単純化しようとするのは断じて反対だ。根源的な要因や利害関係について考えることが不可欠」
と語ったということです。
 それこそは日本の言論空間でこれまで排斥されてきた考え方なのですが、率直に言って、日本の野党を含めた政治家などよりも教皇の方がよほど柔軟で、現実をよく見極めた考え方の持ち主のように思われます。
 いまや米国民の半分もバイデンとは異なり、ウクライナ戦争への関与に反対しています。バイデンと一心同体の英首相は別として、独、仏、伊などのNATOの主要メンバーもバイデンやゼレンスキーと同じ考えとは思われません。
 ウクライナ軍に傭兵として参加している外国兵もウクライナ兵士自身も、「督戦」一方のゼレンスキーに対する反感は大きく、彼の命令に従わなかったり戦線から離脱する兵士がいるため、それらを取り締まる(離脱者を銃撃する)憲兵部隊が前線に配備されているということです。

 日本で行われている主張は良く言えば「潔癖」なのですが、悪く言えば「偏狭」であって現実的ではありません。そもそもこのケースでは一致点で団結し、その他のことに言及するのは止めなければならないという考え方に無理があります。
 ただ日本でも和平を勧める人はいて、その一人である元外交官 孫崎享氏は、「和平への道はある。和平の実現のためには譲歩もやむを得ない。それはウクライナが飲めないものではない」との立場で、和平交渉に入るべきだと主張しています(下記動画の最後の部分で)。
   孫崎享×神保哲生ウクライナ戦争の戦況はアメリカ次第という現実に目を向けよ
    動画 URL: https://youtu.be/GiF9Ei6MSOs 53分 収録6/08) 
 ウクライナ戦争は全体として停戦和平に向かう流れになっていますが、バイデンとゼレンスキーが「徹底反撃」の主張を止めるかどうかがネックです。
 ブログ:「停戦和平に流れる欧州の世論 - ~ 」(世に倦む日々)を紹介します。
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停戦和平に流れる欧州の世論 - 士気低下はロ軍もウ軍もどっちもどっち
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6/19、フランスの総選挙でマクロンの与党が大敗し、過半数を割る結果となった。大物の閣僚が次々と落選、左派連合と極右が議席を伸ばしている。原因はウクライナ戦争による物価高で、庶民の不満がストレートに票に現れたと説明されている。実は欧州もインフレなのだ。アメリカのインフレと利上げばかり注目されているが、ユーロ圏の5月のインフレ率は過去最高の8.1%に達していて、食料品とエネルギーの高騰が国民生活を直撃している。そろそろ黄色いベストの登場かなと予想していたら、その前に議会選挙で与党が惨敗した。

マスコミ報道の論調では、マクロンのロシアに対する日和見的な態度が批判されている。日本のマスコミは西側大本営のタカ派の代表格だから、目を怒らせて独仏伊の対ロ和平派を叩く報道と解説に終始している。ゼレンスキーおよび英米側と一体になっている。が、マクロンがプーチンに宥和的な発言をしていたのは、目前に選挙が控えていたからで、国内の世論を意識した政治だったのだ。フランス国民は、NATOが戦争を長引かせることに反対で、停戦を進めて穀物とエネルギーの問題を解決しろと要求しているのである。

その要求と論理は、基本的にイタリアやドイツも同じで、物価高問題を優先する意識が国民の中で高く、政府も国民と同様の姿勢にある。ネットで情報収集していたら、ドラギ政権に影響力のあるイタリアのエコノミストの主張が出ていて、ECBの利上げに反対を唱えていた。その論拠として、欧州と米国のインフレは要因が異なっており、欧州はもっぱらガス価格が元凶だと説明している。景気を冷やすから利上げはするなと、日本に似た立場の政策論を言い、ガス価格の問題を解決するのが第一だと訴えている。ドラギのウクライナ問題への対応が宥和的なのは、この認識があるからだろう。

ドイツ・フランス・イタリアの3か国の中でも、一瞥して最も妥協的に見えるのがイタリアで、穀物とエネルギーの問題に関心が高く、イデオロギー的な強硬論から遠いのがイタリアだ。食料危機が他と違ってイタリアにとっての死活問題だからではないか。その意味は、イタリアがアフリカから欧州に押し寄せる食料難民の玄関口に位置しているからで、イタリア半島南部に難民が集中して漂着するからである。北欧や東欧内陸は地中海から遠い。フランスもリスクが高く、西アフリカにフランス語圏の貧困な途上国が多くある。難民が地中海を渡り、言葉の通じるフランスに押し寄せる。

6/9に、AU議長国であるセネガルの大統領のサルが、モスクワを訪問してプーチンと会談、「アフリカで飢饉が起きる」と警鐘を発し、ウクライナに対してオデッサ沖の機雷を除去するように要請した。このニュースは日本のテレビでは全く報道されなかったが、選挙前のフランスでは余波があっただろうと想像される。セネガルはフランスの旧植民地である。放置すれば、フランスに大量の食料難民が殺到する。また、サルの発言は、オデッサ港に機雷を敷設したのがウクライナ軍で、それをウクライナが除去すれば穀物輸出が可能になる事実を教えていた。

それまでは、フランス国民も日本国民と同じく、マスコミ報道(=西側プロパガンダ)によって、機雷敷設はロシア軍の仕業だと思い込まされていただろう。西側大本営は、食料危機がロシアの所為で起きると言い、NHK含めて機雷敷設はロシアの行為だと報道していた。このサルとプーチンの会談の前後から空気が変わり、反町理が慌てて「機雷敷設はどっちがやったんですか」と生放送で小泉悠に質問する場面が現出する(6/8)。われわれは、西側の戦争プロパガンダにすっかり騙されていた。ロシア側が抗弁しないものだから、機雷敷設の犯人はロシア軍だという濡れ衣が通っていた。

先週、FOMCが利上げを発表して株価が下落した頃から、穀物問題はほとんどマスコミで報道されなくなった。米国小麦先物のチャートを確認すると、5月下旬以降ずっと下降線となっている。需給改善の兆しが現れたのかは不明だが、小麦価格高騰については、明らかにウクライナ侵攻を口実にして投機マネーが大量に入った影響で、戦争を出汁にして相場が煽られた可能性が高い。そして、それがロシア叩きの情報戦に活用されたのが真相だ。利上げでマネー市場がタイトになり、投機のバイタリティが鈍り、先物価格が下がり、「穀物不足」はロシア叩きのプロパガンダに利用できなくなったのではないか。

もう一つ、欧州の世論を動かした要素として、ローマ教皇が6/14に発表した所見がある。この中で教皇は重大な発言をしていて、「おそらくこの戦争は何らかの形で誘発されたか、あるいは阻止されなかったのだろう」と言っている。この指摘は、開戦前の米英の謀略を示唆し、プーチンが挑発に乗った失態を暗示している。婉曲的なアメリカ批判だ。また、「複雑な問題を善悪の区別に単純化しようとするのは断じて反対だ。根源的な要因や利害関係について考えることが不可欠」だと言い、ロシアに内在的な意念を述べている。この中立的な立場と表現は、まさしく中国が開戦以来ずっと声明してきた内容と同じである。

ローマ教皇の姿勢がこうした和平論だから、マクロンも堂々と「ロシアに屈辱を与えてはいけない」という宥和論を発することができるのだろう。国民議会の選挙結果を受けて、このフランスの宥和姿勢はさらに顕著になるものと思われる。さて、本日(6/20)、非常に衝撃的な記事が読売から出た。英国防省が「ウクライナ軍がここ数週間、兵士の脱走に苦しんでいる可能性がある」と発表している。西側の報道では初めての出来事だ。ツイッターでは、こうしたウクライナ軍の士気低下を証言するウ兵の映像は、ずいぶん前から多く流れていた。

だが、マスコミはそれを「ロシアのプロパガンダ」だと一蹴、虚偽宣伝だと決めつけて全く取り合わなかった。今回、英国防省が初めて認め、西側のマスコミで流す事態となった。前線で武器弾薬がなく、補給線を絶たれて糧秣等も不足しているのだろう。ロシア軍が3月に北部戦線で陥った状況と同じである。まともな訓練もなしに志願兵が前線に送られ、ロシア軍の火砲に屠られているという情報もある。これまで、軍の士気低劣はロシア軍の専売特許のように解説され続けてきた。小泉悠、高橋杉雄、兵頭慎治、山添博史、防衛研の陣笠連中だけでなくテレビ出演する全員が異口同音に言っていた。

常套句であり定説だった。だが、私はその話を疑っていて、特にマリウポリ攻防戦の頃から眉唾で聞いていた。5月のセベロドネツクを中心としたドンバス攻防戦もそうだが、本当に士気の差があったら火力の砲門だけではロシア軍は勝てないと思う。ウクライナが言っている「火力で10倍の差」という説は、誇張であり、NATOへの武器要求の吹っ掛けのための脚色であり、軍の士気低下の事実を覆い隠す作り話ではないか。実際は両軍の士気にさほどの差はなく、だから戦線が膠着するのだろう。侵略側のロシア兵の士気の低さは理の当然だが、ウクライナ兵の士気も落ちているのだ。戦争が長引き、厭戦気分が漂い始めたのに違いない

つまり、士気の低下もどっちもどっちなのである。もともと、ドンバス地方はロシア語を話すロシア系の住民が多い。親ロシアの住民が多いという事情は、マリウポリ同様、ロシア軍側の作戦遂行を容易にし、ウクライナ軍側の反撃を困難にする条件になるだろう。そのことは、現在の西側報道では語られることはないし、戦争が終わってから真相が明らかになるに違いない。マスコミのプロパガンダに漬け込まれたわれわれの常識では、東部も南部も、全住民がロシアの侵略に憤怒し抵抗するウクライナ国民である、という話になっている。だが、実際はそうではないだろう。

4月に北部から撤退したロシア軍が東部に戦略をフォーカスしたとき、ゼレンスキーは全住民に避難を呼びかけた。あのとき、未占領のドンバスの全住民が西に避難する時間は十分あった。だが、避難せずにそのまま居残った住民が多く、5月に激戦のルガンスク州でロシア軍が包囲前進しても、市街地になお滞留している住民が多くいる。砲弾が雹のように降り落ちる中、敢えて西に逃げようとしない。これは何を意味しているのだろう。私は、このこととウクライナ軍の士気低下は因果関係があるのではないかと推察している。軍に志願した者は、西部とかキエフ周辺とか、マイダン革命のイデオロギーにコミットした、反ロシア感情の強い土地からの者が多いのではないか。

彼ら若い志願兵の妻子は、3月に西の国境を出て逃れていたが、ロシア軍が北部から撤退後の4月半ばからは、続々と国内に還流している。マイホームに愛する妻子が戻れば、一緒に家族生活を再建したいと兵士が考えるのは当然の人情だろう。そのことも軍の士気低下の一因ではないかと想像する。今後、大量の武器がNATOから前線に供給されたとして、果たして、ウクライナ軍の士気を高く維持することができるだろうか。私は、欧州の一般市民だけでなく、ウクライナ国民の多くが、内心では早期停戦の方向に傾いているはずだと推測する。もしそれが事実なら、米英べったりで戦争を長引かせたい思惑のゼレンスキーは、徐々に国民から孤立する構図になるだろう。

3月時点を振り返ると、ロシアは6月には継戦不可能になると、木村太郎などの論者が予測を立てていた。戦費が賄えない、兵員が不足する、ミサイルと戦車が枯渇する、SWIFTから排除されて金融経済が崩壊する、ルーブルが紙切れになって財政が破綻する、輸入品が止まって生産も消費も壊滅する、才能ある若者が国外に逃げ出して収拾がつかなくなる、等々。しかし、サンクトペテルブルクの国際経済フォーラムの風景を見るかぎり、展示会は盛況で殷賑(⇒賑わい)に変化はなく、国民生活が窮迫した様子は感じられない。ロシアの継戦能力は、西側の情報機関とマスコミがプロパガンダするほど貧弱ではないようだ。むしろ、長期継戦の意思と能力に不安があるのは西側とウクライナの方ではないか