2022年6月16日木曜日

バブル崩壊と複合インフレ アメリカのインフレを導いた三つの要因(世に倦む日々)

 アメリカの中央銀行にあたるFRB連邦準備制度理事会は15日事前に示していた利上げ幅0.5%を上回る0.75%の大幅な利上げを決めました(27年半ぶり)。先月、消費者物価の上昇率がおよそ40年半ぶりの8.6%に拡大するなど、インフレに収束の兆しが見られないことから、異例の対応に踏み切ったのですが、年内さらに1.75%分の利上げが必要になるということです。QT(量的引き締め)も継続するとしています(以上NHK)

 米国のインフレ率がここ40年で最高の8.6%に上昇したことをバイデンプーチン押しつけようとしていますが、それは無理な話しで、ロシア軍がウクライナに侵攻したのは2月24日なのに対して、米国のインフレ率は1月の時点で7.5%に達していまし(櫻井ジャーナル https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202206150000/ 15日)。 2月以降1.1ポイントが上乗せされた要因の一部にロシア侵攻があったとしても、主要な原因は別のところにあります。
 また「田中宇の国際ニュース解説」(15日)も、「世界的にインフレが悪化し、金利が上がって株や債券が下落している。米銀行界で金融機関が相互に信用しなくなる信用収縮が起きているとの指摘もある。米連銀はインフレ対策として利上げとQT策をやっているが、インフレの原因は通貨政策でなく流通網の詰まりや対露制裁なので、利上げとQTの緊縮策をやってもインフレはおさまらない。連銀はインフレがおさまるまで緊縮を続けると言っているが、これは金融崩壊を引き起こすだけの不必要な大失策だ。高金利による不況とインフレの同時進行が来年まで続く」と述べています。

 世に倦む日々氏が米国のインフレの原因はトランプとバイデンの政策にあることを明らかにしました。愚かな政治家たちと言えますが愚かなのは決して米国大統領に留まりません。
 以下に紹介します。
 世に倦む日々氏の記事にはカタカナや英語の略号(頭文字)が多用されているので、事務局で勝手に相当する日本語を(⇒○○○)の形で追記しました。
 ただ「MMT」については現代貨幣理論」と言い換えても分かりにくいので笠木渉太氏の「現代貨幣理論(MMT)ってなに? わかりやすく解説」の一部を以下に示します。
 ‟MMT英語表記「Modern Monetary Theory」現代貨幣理論)の頭文字をとったもので、その代表的な主張以下の3つにまとめられます
 ・自国通貨を発行できる政府は財政赤字を拡大しても債務不履行になることはない
 ・財政赤字でも国はインフレが起きない範囲で支出を行うべき
 ・税は財源ではなく通貨を流通させる仕組みである
 これがいわゆる放漫財政を許容する根拠になっています。”
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バブル崩壊と複合インフレ ー アメリカのインフレを導いた三つの要因
                          世に倦む日々 2022-06-14
注目のFOMC米金融政策決定会合を前にして、週明けの6/13、ダウ平均は876ドル下げて1年4か月ぶりの安値水準である3万516ドルをつけた。年初来最安値。FOMCで利上げが発表されれば、その上げ幅の何如にかかわらず、NY株価は下落の勢いに弾みがつくだろう。FRB⇒連邦準備制度理事会=米中央銀行のパウエルは「物価安定回復には若干痛みが伴う」と発言、株価下落と景気抑制はやむなしの姿勢を示している。チャートを確認すると、ダウは年初1/3に史上最高値の3万6585ドルを記録していて、そこから半年で6000ドルも大幅に下げている。

米金融市場の不調と弱気を端的に示しているのは、ダウよりもハイテク株中心のNASDAQ総合指数の下落であり、6/13は▲4.68%も下げて10,09ポイントとなった。最高値は昨年11/22の1万6212ポイントであり、約半年で3分の2の値にまで急降下している。ここからさらに下がる。インフレの克服は厄介で、金融当局の政策手段は利上げと通貨供給量の縮小(QT)だが、そうした金融引き締め策は景気抑制策でもあり、企業の投資や個人の消費にブレーキをかける効果となる。アメリカでは早くもリセッション(⇒景気後退)の声が上がっている。

インフレと不景気が同時進行するスタグフレーションが長く続くのではないかという悲観論が漂っており、本格的な冬の時代が到来した感がある。株価のチャートを一瞥すれば、ダウの水準は明らかにバブルであり、トランプバブルで1.5倍に膨れ上がり、バイデンバブルでそこから1.3倍も膨れ上がってしまった。オバマ政権の頃の水準が1万8000ドルだから、トランプが登場してからの5年間で株価は2倍に騰がっている。実体経済と乖離したマネーの操作と狂躁によるバブルであり、破裂すれば最高値の半分の値にまで下がっておかしくない

森永卓郎は、昨年からずっとNY市場のバブル崩壊を予言し続けていた。森永卓郎のバブル崩壊説で注意を惹いたのは、今回のバブル崩壊(=株価暴落)は短期で回復することなく、長期にわたって続き、10年以上元の水準には戻らないという仮説を立てていた点である。1929年の大恐慌を引き合いに出し、ダウが元の水準に戻ったのは戦後の1950年代だったという歴史を紹介していた。つまり、今度のアメリカの景気後退は単なる一時的な不況のレベルに止まらず、大恐慌の規模と災禍にまで発展するという予測である。類似の説を唱えているのが田中宇と副島隆彦だ。

二人は、ドルが崩壊して基軸通貨の地位を失うと託宣を述べている。私も10年以上前から基軸通貨はドルから人民元に替わると論じていたので、二人と同じ範疇に入るかもしれないが、今回はなるべく大風呂敷の極論は避け、慎重な分析視角でのアプローチを心がけたい。今回、大恐慌という破局にまで到達するかは見通せないけれど、少なくとも、アメリカ経済の現状と今後に言葉を与えるなら、バブル崩壊と構造不況の煉獄という表現は見当違いではないだろう。物価高と不況が同時併存して進行するスタグフレーションの回路に入り込み、脱出は容易ではない。リスクの伴う外科手術はできない。

アメリカは、6/10、40年ぶりの高い消費者物価指数(CPI)を記録した。歴史的なインフレ水準にある。40年前というと1982年で、アメリカ経済が相対的に弱く、日本や西ドイツが鼻息荒く世界経済の成長の機関車の役割を果たしていた頃だ。当時のアメリカは世界経済の足を引っ張る劣等生の位置にあり、現在とは日米の経済の優劣が逆だった。経済が主要議題となるG7サミットでは、いつもその構図に焦点が当たり、日本の首相は鼻高々でテーブルに座ることができていた。アメリカは産業(製造業)がふるわず、企業が海外に工場を移し、空洞化と慢性的失業が深刻になっていた

今とは全く違う弱いアメリカ経済の姿があった。思い出していただきたい。通常、インフレは経済の体力や体質の弱い国で発生し、猛威をふるって国民生活を苦しめる現象で、アフリカや南米など途上国で顕著な経済の病気だ。感染症と似ている。先進国ではあまり見られず、例外的に起きるものと理解されている。それがなぜ、現在の世界経済における突出したリーダーであり、他を寄せ付けないパワーを持ち、唯一絶対の最強システム(ドルと金融市場機構とインターネット)を持ったアメリカで発生したのだろう。順風満帆で投資も消費も絶好調のアメリカ経済で起きたのか。私はそれが謎だった。今度のアメリカのインフレの原因は何なのか。

その問題に注目したい。原因は幾つかある。ベースとして、オバマ政権・トランプ政権・バイデン政権にかけてジャブジャブにした金融緩和のナイアガラ瀑布があり、マネーサプライの過剰がある。そして、トランプ政権からバイデン政権にかけての途方もない財政出動がある。トランプもバイデンもアベノミクスを真似した経済政策をとっていた。事実上、MMTのセオリーで政策を決定していた。良識のあるエコノミストであれば不安と懸念を覚え、ハイパーインフレの最悪の危機を想像していただろう。ジャブジャブのマネーは穀物市場と原油市場の投機に回っていた。ひとまず、ベースとしてこの与件⇒前提条件がある。だが、これが真因だとは思わない。

どれだけFRBがドルを刷って溢れさせ、ホワイトハウスが財政のバラマキをしても、健全堅調で揺らぎなしなのがアメリカ経済だった。経済学の常識を超えた異次元の強さを持った経済を誇っていた。コロナ襲来の落ち込みもすぐにリカバリーした。今回のインフレは、経済過程そのものの論理と要因から発生したものではない。経済とは別の次元の政治が媒介したものだ。二つあると私は考えている。一つは、トランプが始めたところの、中国との貿易戦争による制裁関税が惹き起こした輸入品物価高である。もう一つは、これまたトランプが始めた国境の壁による移民流入阻止、すなわち低賃金労働力の抑制であり、それに加えてのバイデンの賃上げ政策である。

つまり、コストプッシュの二つの要因を政治が作っている。第一の問題から説明しよう。5月19日の報道を見ると、財務長官のイエレンが中国に対する制裁輸入関税の引き下げをバイデンに要請したとある。中国に対する戦略的効果はあまりなく、逆に米国の消費者や企業に対して多大な損害を与えているという見方からの献策だ。イエレンは米国のトップエコノミストであり、パウエルと並ぶ経済政策の実務責任者である。そして優秀で有能な人だ。アメリカ国民に信頼されている。オバマ政権のときFRB長官を務めた彼女の口癖は「雇用、雇用、雇用」で、常に雇用の均衡を第一に政策を舵取っていた。

今回のリベラルな提言を聞いて、あらためてイエレンを高く評価する気分になったが、要するに優秀なイエレンの分析と診断によれば、米国を襲っている悪性インフレの元凶の一つが、トランプが無意味に乱暴に施行した対中制裁関税にあると指摘するのである。これを除去すれば、かなり改善になると処方している。イエレンが言うのだから間違いあるまい。なるほどと膝を打った。こんな愚を犯さなければ、アメリカでインフレが起きるなどという事故はなかったのだ。市場経済の循環を無用に阻害し、不当に民生品の値段を吊り上げて物価高を招くだけの効果しかない。誰の得にもならない経済政策だ。

中国からの輸入はアメリカ全体の21%を占めて第1位である。アメリカ人の消費生活は中国からの輸入品に頼っている。その中国製品に対して割り増しの高関税をかけたら、コストプッシュの物価上昇を招くのは当然の帰結で、制裁を受けて苦しんでいるのは国内のアメリカ人だ。マスコミは大きく報道しないが、これが今回のインフレ発生の第一要因だろう。もともとアメリカ経済は健康で順調で、世界一強靱な体力であり、このような経済外的な政治のミスが介入しなければ、インフレなど起きる理由はないのだ。明らかな失敗である。責任はトランプにあり、中国封じ込めに血眼になって愚策を引き継いでいるバイデンにある。イデオロギーがインフレを起こしている

もう一つ、トランプが行った国境の壁建設、すなわち中南米移民流入阻止の強引な施策も、コストプッシュインフレの一つの要因になったのではないか。彼ら不法移民の安価な労働力は、アメリカ経済を支える重要な柱だったはずで、最低賃金以下で働く若年労働力のボリュームとフローは、アメリカ経済が順調に回る上での必須条件になっていたに違いない。日本の外国人技能実習生や外国人留学生と同じである。トランプがそれを犯罪者扱いして摘発し、流入を物理的強制で排除した結果、国内に滞在する不法移民の働き場所がなくなり、アメリカ経済は一気に人手不足になった。そこにコロナが来て、労働者が仕事から離れるトレンドが定着、労働力不足が慢性化する。

それを機会と捉えた労働側と民主党政権は賃上げに動き、アメリカの最低賃金はドカンと高くなる。労働者にとってはよいことだが、コストプッシュインフレに作用した点は否めない。すべての商品は労働の生産物であり、商品の価値はC(不変資本)とV(可変資本)とM(剰余価値)によって構成される。原価の一つであるV部分が大きくなれば、必然的に商品価格(G)は大きくならざるを得ない。すべての商品にV部分があり、一国の賃金上昇は全商品価値の上昇に繋がる。通常は、当局の調節でそれは悪性インフレにはならないが、今回のアメリカ経済の場合、制裁関税や資源高などの複合要因が絡み、コストプッシュの圧力が倍化した。金融ジャブジャブの環境の中、悪性インフレとなった。

資源価格高騰の問題も、要因の三つ目として加えて検討すべきかもしれない。資源価格高騰は、基本的に資本家による投機の問題である。いわゆる商品(穀物や金属やエネルギー)の市場価格決定において、実は需給バランスは二の次の要素であって、資本家が利潤を追求する投機で価格が乱高下する。資源国とアメリカとの駆け引きが価格調整の主要契機になっている。例えば、アメリカが中東で戦争を起こせば原油価格は高騰する。アメリカがイランとベネズエラの原油を制裁によって市場から締め出せば、原油価格はアメリカのシェールオイルビジネスに儲けが出る「適正」水準に高止まりする。早い話が、食糧やエネルギーの価格を抑制しようとすれば、アメリカ政府が投機市場に介入して法的規制をかければよいのだ。

現在の穀物価格の上昇も、西側マスコミはロシアの侵攻にスポットを当て、それを第一の要因として報道しているけれど、実際はそうではない。ウクライナ戦争はサブの要因であり、指標を見ても分かるとおり小麦価格は20年、21年とうなぎ上りに騰がっていた。アメリカのカネ余りが真因であり、過剰金融マネーの投機が第一の要因である。森永卓郎は、NY株価が暴落すれば原油価格も下落すると予想を言っている。私も同様の観測の立場にあり、金融引き締めでマネーが収縮すれば、原油等の商品市況も連動して下がって行くと見る。原油も穀物も投機商品なのであり、需要と供給のバランスで価格が決まっているわけではないのだ。ロシアの侵攻は口実に利用されているだけであり、資本家のグリード⇒強欲な投機の真相を隠す盾にされている。

以上、アメリカのインフレをもたらした要因として、①対中輸入品への制裁関税による原価高、②中南米移民の強制排除による労働力不足、③カネ余りによる商品市場への過剰投機、の三つのメカニズムを検出し考察した。今回のインフレは複合要因による構造インフレであり、そのうち二つは経済外的な政策による過失で導かれたものだ。先進国の成熟した資本主義経済では珍しい現象である。原因がこのとおりである以上、FRBによる金利高とQT⇒ドルの量的引き締めの金融引き締め策だけではこのインフレは止められない。①対中貿易制裁の撤廃、②中南米移民労働者の保護と流入数のマイルドな管理・調節、③商品市場の投機の規制、をプラスして組み合わせないといけない