2022年6月6日月曜日

06- ロシアとの核戦争に前向きなのは米軍ではなくNATO (櫻井ジャーナル)

 櫻井ジャーナルが「ロシアとの核戦争に前向きなのは米軍ではなくNATO」という記事を出しました。 

 記事には、2013年11月から14年2月の間に米国が関与して準備・実行されたウクライナのクーデターや14年5月のオデッサ虐殺を起点にして、ロシア軍のウクライナ侵攻に至る経過が簡単に記されています。
 現状に関する報道でも、米国の情報機関は意外と冷静に報じているという部分があるようです。「戦争に前向きなのは米軍ではなくNATO」というタイトルには、そうしたニュアンスが含まれている様に感じます。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ロシアとの核戦争に前向きなのは米軍ではなくNATO 
                         櫻井ジャーナル 2022.06.05
 ウクライナ全土を支配するために戦うと宣言する権利がウクライナ政府にはあるとNATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は主張​している。ドンバスやクリミアからロシア軍を追い出すことを目的にウクライナ政府が戦うことに彼は反対していない。
 しかし、アメリカ政府の高官を含め、ウクライナ軍がロシア軍に勝てないと考える人は少なくない。それが常識的な見方だが、アメリカやイギリスの支配層にはロシア軍を壊滅させたいと願っている一派が存在している。
 例えば、​4月7日にフィリップ・ブリードラブ元NATO欧州連合軍最高司令官(SACEUR)は核戦争への恐怖がプーチンに対する適切な対応を西側はとれないのだと発言​。ロシアとの核戦争を恐れずに強硬策をとれということだろう。その2日後に​イギリスのボリス・ジョンソン首相はキエフを訪問​、それを境にしてロシア政府とウクライナ政府の停戦交渉は止まった。
 西側ではウォロディミル・ゼレンスキー政権をウクライナの正当な政府だとして扱っているが、ドンバスやクリミアの人びとはキエフを拠点とする現在の体制を正当だとみなしていないだろう。
 ウクライナを舞台にした戦争は2013年11月から14年2月にかけてキエフで行われた暴力的なクーデターで幕が上がった。その中心はネオ・ナチのグループだが、その後ろ盾はアメリカのバラク・オバマ政権。現地の司令部は例によってアメリカ大使館で、指揮していたのは国務次官補を務めていたビクトリア・ヌランドだ。
 2010年の大統領選挙で勝利したビクトル・ヤヌコビッチ大統領はキエフのクーデターで排除され、ナチスのシンボルが街にあふれた。ロシア語系住民に支持されていたヤヌコビッチはアメリカやイギリスの支配層にとって好ましい人物ではなかったのだ。ヤヌコビッチの支持基盤である東部や南部の住民がクーデター体制を拒否したのは当然のことであろう。
 反クーデター派の中で最も早く動いたのはクリミアだった。3月16日の住民投票を経てロシアと統合する道を選んだ。ロシア海軍の重要な基地があるクリミアの制圧にオバマ政権は失敗したということでもある。
 2013年)4月12日にCIA長官だったジョン・ブレナンがキエフを極秘訪問、22日には副大統領のジョー・バイデンもキエフを訪れた。そして5月2日、重要な港があるオデッサでは反クーデター派の住民がネオ・ナチの中核だった「右派セクター」のメンバーに虐殺される
 5月9日にはクーデター軍がドネツクのマリウポリへ戦車部隊を突入させて住民を殺し始め、6月2日にキエフ政権はルガンスクの住宅街を空爆している。空爆の日、デレク・チョレット米国防次官補がキエフ入りしていた。OSCE(欧州安保協力機構)も空爆があったことを認めている。この時からドネツクとルガンスク、つまりドンバスの住民はキエフのクーデター軍と戦い始めた
 ドンバス軍にはネオ・ナチから命を狙われていたベルクト(警官隊)の隊員のほか、ウクライナ軍の兵士やSBU(ウクライナ保安庁)の隊員が合流したと言われている。当初、ドンバス軍が優勢だった理由のひとつはここにある。
 その後、アメリカ政府はCIAやFBIの専門家数十名を顧問として送り込んで兵士を訓練​、「アカデミ(旧社名はブラックウォーター)」の戦闘員約400名をウクライナ東部の作戦に参加させた​と伝えられている。また​2015年からCIAはウクライナ軍の特殊部隊をアメリカの南部で訓練し始めた​ともいう。兵器も供給、戦力を増強させてきた。

 ロシア軍は2022年)2月24日からウクライナへの軍事作戦を始めるが、その直前、ウクライナ軍がドンバスを攻撃して住民を虐殺するという情報が流れていた。2月19日にはウクライナの政治家であるオレグ・ツァロフは緊急アピール「大虐殺が準備されている」を出し、ごく近い将来、ゼレンスキー政権がドンバスで軍事作戦を開始すると警鐘を鳴らしていた。
 そのアピールによると、この地域を制圧してからキエフ体制に従わない住民を「浄化」するという作戦で、ドンバスを制圧し、キエフ体制に従わない住民(ロシア語系住民)を「浄化」、つまり皆殺しにするというものだったという。西側から承認を得ているともしていた。
 この作戦と並行してSBU(ウクライナ保安庁)はネオ・ナチと共同で「親ロシア派」の粛清を実行することにもなっていたという。住民虐殺の責任を西側の政府や有力メディアはロシアに押し付けるつもりだったのだろう。
 戦闘が始まった後、ロシア軍はウクライナ軍が残した文書を回収​しているが、それによると、親衛隊のニコライ・バラン上級大将が2022年)1月22日に攻撃の指令書へ署名、ドンバスを攻撃する準備が始まり、2月中に準備を終えて3月に作戦を実行することになっていたという。
 その前、ロシア政府はウクライナを軍事的な支配地にしようとしているアメリカやNATOに対し、NATOの東への拡大を止めるように求めていたが、今年1月7日、ストルテンベルグNATO事務総長はロシアの要求を拒絶していた。
 ウクライナでの戦闘についてアメリカ軍の内部からは事実に基づく情報も流れてくる。例えば、アメリカ軍の情報機関 DIAは長距離ミサイルが攻撃しているターゲットは軍事施設だと説明、住民が狙われているとする話を否定 していた。
 アメリカをロシアとの核戦争へ向かわせているのはNATOだ。