別掲の記事で、最近自民党の高市政調会長が「消費税の使途というのは、年金・医療・介護・子育て、こういった社会保障に限定されている」と述べ、「法人税の引き下げに流用されているかのようにいうのはデタラメ」と反論したのこそが、全くのデタラメであることが明らかにされました。
安倍元首相も14年に消費税率を8%に引き上げるに際し、「世界に冠たる日本の社会保障を守るために、認めていただきたい」と繰り返しましたが、それもまた全くのデタラメであったことを唐鎌直義・佐久大学教授が明らかにしました。
同教授はOECDの社会支出(社会保障給付費に施設整備費等を加えた金額)に着目し、1人当たりの社会支出を、スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、日本の6カ国を比べた結果、日本が最下位で、トップのスウェーデンの真半分でしかないことを明らかにしました。
しんぶん赤旗日曜版の記事を紹介します。
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【経済 これって何?】
日本の社会保障 桁外れの貧弱さ 粉飾する政府
しんぶん赤旗日曜版 2022年6月26日号
2014年の消費税率の8%への引き上げに際し、安倍音三首相(当時)は「世界に冠たる日本の社会保障を守るために、認めていただきたい」と繰り返しました。
私は、ヨーーロッパの先進諸国に比べて日本の社会保障の最低保障機能が微弱であることを指摘し、その原因と理由を研究してきました。この発言を聞いた時、これが政府によるデマゴギー(事実の裏付けを欠いた虚偽情報)のプロパガンダ (政治的宣伝)であることに気づきました。
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OECD(経済協力開発機構)の社会支出(社会保障給付費に施設整備費等を加えた金額)に着目し、スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、日本の6カ国を比べてみました。
これらの国は総人口が大きく異なっているので、社会支出の総額での比較はほとんど意味を持ちません。人口の多い国の社会支出が大きくなるのは当たり前だからです。社会支出の総額を総人口で割って、「国民1人当たり社会支出」で比較することにしました。
その結果は、「国民1人当たり社会支出」では日本が115・8万円で最下位。それも、1位のスウェーデン(226・7万円)の2分の1、3位のフランス(177・1万円)の3分の2という、本当にお粗末なレベルでの最下位でした。
国民1人当たりの社会支出 圧倒的に低い日本 2015年、OECD
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| 国民1人当たりの社会支出 | 同左 スウェーデンを1とした比率 |
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| スウェーデン | 226・7万円 | 1・00 |
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| アメリカ | 187・4万円 | 0・82 |
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| フランス | 177・1万円 | 0・78 |
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| ドイツ | 159・7万円 | 0・70 |
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| イギリス | 139・9万円 | 0・62 |
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| 日 本 | 115・8万円 | 0・51 |
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当時の1ドル=105円で換算
政府は「日本の社会保障は高齢者優遇型だから全世代型を目指さなければならない」と宣言しています。
しかし、日本の高齢関連3分野(高齢・遺族・保健)の1人当たり社会支出は、99・1万円で6カ国中5位です。それ以外の貧困関連6分野(障害と労災、家族、失業、積極的労働政策、住宅、生活保護)は驚異的な低さの16・7万円で最下位。スウェーデン(93・8万円)の6分の1、フランス(49・5万円)の3分のIという惨たんたる状況です。
日本の貧困関連分野の極端な低位性が、高齢関連分野を高く見せかけているにすぎないのです。
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なぜ日本政府は「世界に冠たる日本の社会保障」と言ったのでしょうか。それは日本の総人口がイギリス、フランスのほぽ2倍もあり、スウェーデンの13倍もあるにもかかわらず、そのことを無視して社会支出の総額だけで6カ国中2位と判断したからです。厚労省の官僚がこの程度の誤りを見落とすはずはありません。意図的に民意を誘導しようと都合のいい数字を利用したのです。
うその情報による民意の誘導は、ウクライナに侵攻した時代錯誤の独裁国家ロシアに限られた話ではないのです。
1人当たり国民所得(経済力)が日本とほぼ同程度のフランス並みに日本の社会保障を引き上げるには、あと74兆7千億円必要です。政府のいう数百億円規模の全世代型社会保障では3桁違います。岸田内閣は軍事費を今の2倍(10兆円規模)に増やす案を掲げています。それを即刻取り下げて貧困解決型の社会保障に回すべきです。
唐鎌直義(からかま・なおよし 佐久大学特任教授)