ウクライナ政府のリュドミラ・デニソバ人権監督官は、露軍兵士がウクライナで市民を強姦したり性的に残虐な殺し方をしているといった話を、4月の2週間に400件、米国側のマスコミに流し、米タイム誌などがさかんに喧伝しましたが、ウクライナのNGOが被害者たちの救援事業を進めようと、デニソバの強姦話を一つずつ検証するため被害者や家族などに会おうとしたところ、具体的に検証出来る話がなくデニソバが話をでっち上げていたことがわかりました。驚くべきことでしたが、元々彼女の情報には、生後6か月の女児が性的暴行を受けるなど、信じがたい内容が多く含まれていました。
それだけでなく「人道回廊の設置」や「露軍との捕虜交換」の対露交渉も彼女の役割だったのですが、本人は現場に行かず西欧に遊びに行っていたことが後に判明し、5月31日、ウクライナ議会によって彼女は解任されました。この件については櫻井ジャーナルが6月2日に取り上げています。
⇒(6月2日)マリウポリで人質になっていた住民が解放され ウ議会が人権担当を解任
田中宇氏も6月4日、ブログ「ロシアの優勢で一段落しているウクライナ」の中で触れています。
世に倦む日々氏が6日、ブログ記事「人権監察官リュドミラ・デニソワの捏造と解任 ~ 」を出し、詳細に論じました。
それによるとデニソワは、単に民間から選ばれた人権担当委員などではなく、マイダン革命(ウクライナのクーデター)前後の14年9月に反露右翼政党・人民戦線の創設メンバーとなるなど、この20年ほど、一貫してウクライナを反露親米の方向に牽引してきた大物の右翼政治家であることが分かります。
それにしても如何にプロパガンダと言ってもあまりにもデタラメが過ぎて、それに対してロシアも一応反論はしていましたが、対応の拙劣ぶりと淡白さにはレベルの違いを知らされます。
「人権監察官デニソワの捏造(詳報)」として紹介します。
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人権監察官リュドミラ・デニソワの捏造と解任-プロパガンダはどっちもどっち
世に倦む日々 2022-06-06
ウクライナの人権監察官リュドミラ・デニソワに、ロシア兵による女性暴行の戦争犯罪を根拠なく捏造した疑惑が浮かび、ウクライナ最高会議によって解任された。重要な事件の発生であり、俄に注目が集まっている。リュドミラ・デニソワの役職を英文で見ると、Ombudsman for Human Rights とか、Commissioner for Human Rights の表記で紹介されている。ウクライナは伝統的な統治機構の様式を継承していて、立法府たる議会を「最高会議」(ヴェルホーヴナ・ラーダ)と呼んでいる。そこから勝手に類推して
デニソワの役職の了解も Ombudsman よりも Commissioner を採った方が妥当だろう。この Commissioner はコミッサール(政治委員)の意味だ。議会によって任命された監察官であり、だから解任も議会によってなされた。現在62歳。経歴を調べると、白海に面したロシア北極圏の辺境アルハンゲリスクの出身で、幼稚園の先生からキャリアをスタートさせている。いわば田舎出の成り上がり者だが、新天地ウクライナに移ってから頭角を現し、トントン拍子で出世。クリミア自治共和国の政府閣僚を務め、オレンジ革命からマイダン革命にかけてのウクライナ政界で有力者になる。
2007年にティモシェンコ首相(同性同年代)の下で労働社会政策相に抜擢、2014年2月にヤツェニク政権でも労働社会政策相に就任、そしてマイダン革命(クーデター)に突入直前の2014年9月に反ロ右翼政党・人民戦線の創設メンバーとなっている。この20年ほど、一貫してウクライナを反ロ親米の方向に牽引してきた大物の右翼政治家であり、マイダン革命の中堅元勲の一人と言っていい。デニソワから見れば、コメディアン上がりの44歳のゼレンスキーなど素人の若僧もいいところで、現在のウクライナ国家への功績では自分の方が断然上という比較と自負になるはずだ。
そうした傲慢な気分があったからこそ、今回の杜撰な失態に繋がったのだろうと思われる。公式の発表では、デニソワ解任の理由は二つで、(1)ロシアとの捕虜交換の任務をサボって西側で遊興していた件がメイン、(2)ロシア兵による女性暴行の告発が根拠のない捏造だった件がサブに挙げられている。前者は国際社会の目からは大きな問題ではないが、議会としては国内的に看過できない罪過であり、解任決定の名目の上でも合理的であって、合わせ技一本の処分にしたのだろう。若者たちが国家を守るため戦場で命を落としているのに、国の高位の要職者が職務を怠業して西側で享楽三昧とは何事かということだ。
後者の問題は重大で深刻である。重大であるがゆえに、ウクライナ議会はデニソワの責任を重く見たのだろうし、この問題が国際社会に悪影響を及ぼさないようにと腐心し、前者の問題を解任理由の第一に挙げて報道させ、カムフラージュと火消しに努めたのだろう。発端は、ウクライナの女性人権NGOが、デニソワが告発した何件かの「ロシア兵による女性暴行」を調べたところ、何の具体的証拠もなく事実無根の捏造だと判明、糾弾と抗議に動いたところから始まっている。ウクライナのNGOと議会議員に頭が下がる。放置すれば国家の恥で致命傷になると確信したのに違いない。
世界中から支持を集めている防衛戦争の正義すら危うくなると判断したのだろう。ウクライナに敬意を払える政治的美技だ。偶にアジア記者クラブのTwを覗くと、戦争に反対して国内で論陣を張っていた左派ジャーナリストが、極右ネオナチからリンチ拷問を受けて血まみれの半殺しになった写真を目撃する。極右ネオナチが見せしめでSNSに上げた凄惨な絵だ。「ロシアのスパイ」とされ、殺害された者も多いだろう。ウクライナの小林多喜二である。抵抗する反戦左派がいる。その勇気に感動し、だからウクライナを尊敬できるのだ。世界中どこにも居場所のない、暴力に身をさらされた孤独な知的勇者たち。
リュドミラ・デニソワで検索すると、NGOから追及を受けた「女性暴行」の件だけでなく、他にも幾つも「ロシア軍の残虐行為」と「戦争犯罪」を告発した案件が出てくる。ロシア軍が12万人以上の子どもを強制的に連行したとする4/12の発表も、デニソワによるSNS発信だ。ブチャで25人の女性が地下室に閉じ込められ、組織的に性暴力を受けていたとする告発も、発信者はデニソワでBBCが4/12に報道している。ロ軍に捕虜になっていたウ軍女性兵士15人が、拘束中に拷問や虐待を受けていたという情報を、4/6に西側マスコミに伝えたのもデニソワだ。
ホストメルで400人以上の住民が行方不明となっていると、4/6に(証拠を示さないまま)発表したのもデニソワだ。ブチャの集団墓地に300人の遺体が埋葬されている可能性があると、4/5にロイターに報道させたのもデニソワだ。キエフ州内キャンプ場で5人が虐殺されていたと、4/5に発表したのもデニソワだ。英語で検索すればもっと掘り出せるかもしれない。検索結果を見て直観するのは、4/5に出て世界を震撼させ、この戦争の趨勢と局面を大きく変えた「ブチャの虐殺」も、どうやら、ウクライナ側の広報担当で西側マスコミの窓口となった責任者が、人権監察官のデニソワだった可能性が高いということだ。
ウクライナ議会がフェイクと判定したデニソワの報告が、具体的にどの事件とどの事件なのか、現在はまだ詳報がない。だが、おそらく、半数以上の案件に十分な根拠がなく、噂話を手軽に煽り立てて捏造工作したものだろう。以下は私の推察だが、デニソワと西側マスコミ(BBC、CNN、ロイター、等々)は直接に、あるいは情報機関(MI6・CIA・SBU)を通して繋がっていて、デニソワがソースとなって発表するものなら何でも、証拠なし検証なしに西側マスコミが事実認定し、そのままプレスリリースしていたのに違いない。それをまた、日本のマスコミが復唱して報道していたのだ。ロシア軍の戦争犯罪と断定して。
西側マスコミ(BBC、CNN、ロイター、タイムズ等)は、デニソワと共にフェイクをばら撒いた共犯者だが、おそらく確信犯であり、デニソワ発の情報がフェイクだと了解していたと思われる。彼らの認識と意念においては、何より戦争でロシアを打ち負かすことが重要で、報道は情報戦たる軍事作戦の一部であり、ジャーナリズムを偽装して国際社会の世論を誘導するプロパガンダだと位置づけているのだ。そして、ここからが重要だが、仮にフェイクだと後でバレでも、情報ソースはウクライナ高官のデニソワであり、責任はデニソワに帰するのである。西側マスコミは「デニソワに瞞されて翻弄された被害者」の立場で保身できるのだ。
ウクライナ議会の人権委トップは国家の高官である。国連の人権高等弁務官のポジションと同じだ。閣僚級以上の、検事総長と並ぶ地位と権力だろう。こんな公的な重職にある者が、しかも世界が注目する重大な問題の渦中で、まさかこれほど粗雑なフェイクやを吐き散らすなど普通は考えられないことだ。西側マスコミは、ウクライナ高官から発信されるフェイクを、正規で信用ある情報として躊躇なく、事実として世界に配信することができた。ウクライナ人権監察官にオーソライズされた情報なのであり、ウクライナ国家が保証するのだから、裏づけも責任も万全だろうという予断と安心を持ち得る。
わざわざ自分で真偽確認して(裏取りして)配信する必要はない。世界の読者に信じてもらえる。われわれ日本人は、ウクライナ人権監察官のハンコと、BBC・ロイターというブランドのハンコと、二重の検印が押されて品質保証された「情報」を、そのまま受け取り、NHKや朝日新聞に真実として報道させ、西側の読者視聴者と同じ反応を演じて喜んでいたのだ。ロシア憎悪に燃えてウクライナ支援に熱中する西側先進国市民になって満足していたのだ。プロパガンダを真に受けて。テレビを軍部にオキュパイ(⇒占拠)させ、防衛費増をアメリカに約束して嬉々としていたのだ。「ロシア軍の戦争犯罪」のフェイクを信じ込んだまま。マスコミもアカデミーも永田町も。
デニソワがかくも粗雑な失敗をやらかした原因は、西側マスコミが全く証拠や検証を要求しなかったからであり、口から出任せが次々と世界の真実になったからである。西側マスコミは、フェイクをプライムバリューの情報の扱いで受け取って配信し、他にもないか、次は何だとデニソワに催促する関係になっていたのだろう。扇情的な内容ほどマスコミは喜ぶ。デニソワが何を告発してもロシア側は反論・抗弁しないし、個別の「戦争犯罪」で無実潔白を言い立てない。ロシア側は「ブチャ虐殺」で完全に悪者になり、プロパガンダ戦線で敗者の立場に固まった。国際社会に何を言っても相手にされず、ゆえに「戦争犯罪」の個別の事件で争う姿勢をやめてしまった。
つまり、デニソワが発信する「ロシアの戦争犯罪」は無条件に真実となり、プライムバリューの情報としてメディアビジネス世界で金になり、逆に、ロシアの主張や反論はすべてデマでプロパガンダとなり、嘲られてゴミ箱に棄てられるのである。リアルにデフォルトでそうなるのだ。デニソワからすれば面白くて堪らず、快感この上なく、脳にドーパミンが噴出していただろう。だから暴走してしまった。大人の意地悪な視線を射せば、売れる新情報(センセーショナルなロシアの戦争犯罪)を欲しがる西側マスコミから、デニソワの袖の下に金銭が流れていたのではないか。「西側で遊んでいた」という容疑に、自然にその種の腐臭を感じ取る。汚職天国の環境でもある。
いずれにせよ、NGOが指弾し、議会の調査で発覚したデニソワの虚偽と捏造工作が、仮に1件2件であったとしても、嫌疑はその他のデニソワの告発全体に及ぶ影響となる。彼女が発信したロシア軍の強姦や虐殺や拷問や誘拐の一つ一つが、本当に確証のある事実なのかという疑惑は当然避けられないし、ウクライナ側は証明する必要に迫られるだろう。政治的に、ウクライナと西側が甚大なダメージを負うのは確実だ。なぜなら、ロシアの戦争犯罪は、人権検察官リュドミラ・デニソワの統括で情報が整理され、第一報が発せられていたからである。国家の公式情報であり、彼女がオーソライズし、彼女が仕切るチャネルから全世界に公表されていたのだ。
これまで発信された「ロシアの戦争犯罪」が、すべてウソではないかという疑念が生じるのを止められない。ウクライナの正義が揺らぐ事態に直面するかもしれない。思えば、デニソワが告発した「ロシア兵の戦争犯罪」は、特に性的な事案は、アブノーマルで荒唐無稽な印象のものが多く、いくら何でもそこまでするかと信憑性を疑うものが多かった。こうなってみれば、ひょっとして、デニソワ本人の深層心理が投影したのではと邪推が浮かぶ猟奇性すら感じる。ロシアの僻地を故郷とする生粋のロシア人のデニソワが、なぜこれほどロシア(の男)を憎悪するのか、精神の奥襞に何か歪んだ秘密が隠されているのではないかと勘ぐってしまう。心理学的な関心に導かれる。
飛躍の誹りを恐れず憶測を漏らせば、デニソワにとって、男性は同志でも仲間でもなく敵性的存在で、プーチンは絶対悪の家父長の象徴なのではないか。さらに、想像をたくましくして言えば、デニソワから情報を受け取っていた西側マスコミ(BBC、CNN、タイムス、ロイター)の記者や編集幹部たちは、男性ではなく女性だったのではないか。とまれ、この衝撃的な醜聞を前に、検事総長のベネディクトワはどういうコメントを発するのだろう。彼女はデニソワと二人三脚のコンビだったはずだ。また、ICC主任検察官のカーンはどのような対応を示すのだろう。「ブチャの虐殺」事件は、果たして障害なく予定どおりの捜査と訴追のプロセスを運ぶだろうか。
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